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第25話 守られた瞬間
翔太が俺を引っ張ろうとした、そのとき――
「律から離れろ」
低い声が背後から響いた。
――冬馬だ。
振り返った瞬間、胸の奥が一気に熱くなる。
冬馬は、明らかに怒ってる目で翔太を睨みつけていた。
「……早く律を離せ」
「使用人のくせに邪魔するな。こいつは俺のものだ」
「違う。律は、俺のつがいだ」
その言葉と同時に一歩踏み出す冬馬。
空気がギュッと締まったみたいになって、冬馬のフェロモンが一気に広がった。
鋭いのに、不思議と怖くなくて、むしろ心臓が勝手に落ち着いていく。
「っ……!」
翔太がわずかに後ずさる。
その隙に、冬馬が俺の腕を取り、強く引き寄せた。
「律、大丈夫か?」
「……うん」
小さくうなずくのが精一杯だった。
指先がまだ震えてるの、きっと冬馬にはバレている。
「もう二度と、律には近づくな」
冬馬の声は低くて、冷たかった。
翔太は苦々しそうに顔をゆがめる。
「……覚えてろ」
そう吐き捨てて逃げていく背中を見届けた途端、全身の力が抜けた。
膝が折れそうになったところを、冬馬がすぐ支えてくれた。
「怖かったな」
あたたかい腕に包まれる。
「……怖くない」
否定したのに、冬馬の服を無意識に掴んでいた。
「嘘つくな。震えてる」
冬馬は苦笑しながら、ぎゅっと抱き締めてくれた。
その温かさに息が落ち着いていく。
「でも、もう大丈夫だ。俺がいるからな」
「……うん」
その一言で、ようやく呼吸が楽になった。
――ああ、やっぱりこの人がいてくれないと無理だ。
そう思った瞬間、涙が出そうになって慌ててこらえた。
部屋に戻ると、冬馬は迷いもなく俺をベッドに寝かせた。
額に手を当てられただけで、心臓がまた暴れ出す。
「律、休め」
「……平気だから」
「平気に見えない。顔、真っ青だ。ちゃんと休めって」
その言い方が優しくて、強くて。
俺の全部、見透かされてる気がして落ち着かないのに――嫌じゃない。
「律」
冬馬がそっと俺の手を握る。
「ごめん。俺がそばにいなかったから」
「……冬馬のせいじゃない」
小さく返す。
「ちゃんと……助けてくれただろ。だから、いい」
そう言った途端、冬馬の表情がほんの少し柔らかくなった。
「当たり前だ。お前は俺のつがいなんだから」
「……っ」
胸の奥がじんわり温かくなる。
「律、もう一度言うぞ」
冬馬がまっすぐ俺を見る。
「お前を絶対に守る。誰にも渡さない」
「……うん」
その言葉に、自然とうなずいていた。
「冬馬……」
名前を呼ぶと、軽く眉が動く。
「ん?」
「……ありがとう」
「礼なんていらない。お前を守るのは俺の役目だからな」
優しく笑う冬馬がまぶしくて、視界が滲みそうになる。
「泣きそうだな」
「……泣かないし」
「嘘だな。ほら、目が赤い」
そんなふうに言われると、もう隠せなくなる。
「……可愛い」
冬馬が言うたび、胸の奥が柔らかくなる。
「可愛くない」
「素直じゃないな。でも、そういうところも可愛い」
「……可愛くない」
「可愛い」
即答されて、言い返せずに顔をそむけた。
「……もう」
それでも胸の奥は、あたたかいままだった。
冬馬に守られてる――その事実が、どうしようもなく嬉しかった。
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