27 / 29

第27話 君に守られ、君に愛される

その夜。 父さんがいきなり「重大な報告がある」なんて言うから、嫌な予感しかしなかった。 「城崎の会社が、不正会計で摘発された」 「……は?」 「私が調査を依頼していたんだ」 頭が追いつかないまま固まる俺に、父さんは淡々と続ける。 「あの男、事業でも不正をしていた。今頃、警察に事情聴取されているだろう」 「……そうなんだ」 「翔太も、今日の襲撃未遂で警察に通報した。もう、お前に近づけない」 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥にずっと張りついてた重さが、すっと消えた。 「よかったな、律」 冬馬が俺の顔を覗き込むみたいにして笑う。 「……うん」 頷くと、父さんが今度は急に真面目な顔をして俺を見る。 「律。お前と冬馬くんの関係、改めて祝福する。幸せになれ」 「……ありがとう」 真正面から言われると、なんか泣きそうになる。 泣かないけど。 * それからの日々は、嘘みたいに穏やかだった。 「律、起きろ」 毎朝、冬馬が当たり前みたいに部屋に入ってくる。 「……やだ」 とりあえず布団に潜り込むのが俺の朝のルーティン。 「また逃げてる……今日は大学の資料が届く日だろ」 「めんどくさい」 「めんどくさくない」 ばさっと布団が剥がされる。 「さむ……っ!」 「ほら。寒いなら起きろ」 理不尽すぎる。でも毎朝これだ。 「……もう……」 渋々起き上がったら、冬馬の手が俺の頭をぽんぽん撫でる。 「よし、いい子」 「……子供扱いすんな」 「可愛いから」 ……もう勝てる気がしない。 そのあと朝食を一緒に食べて、勉強して、気づけば夜で。 冬馬と過ごす時間が、いつのまにか“日常”になっていた。 「律」 布団に入ると、冬馬が背中から抱き寄せてきて、低く耳元で囁く。 「……何」 「愛してる」 ほんと、この人はずるい。 「……俺も」 顔が熱くなると、冬馬は必ず気づく。 そして嬉しそうに、もっと抱き寄せてくれる。 ――俺はこの人と生きていくんだ。 初めて、その未来が当たり前に思えた。 * 春。 俺は大学に入学した。 経営学部。将来、父さんの会社を継ぐかもしれないから。 桜の舞う門の前で立ちすくむ俺の横に、冬馬が立つ。 「律、緊張してるだろ」 冬馬の声が横から落ちてくる。 「……してない」 「嘘。手が冷たいな」 冬馬は俺の指を絡めてきた。 触れた瞬間、胸まで熱がのぼった。 「大丈夫。お前はちゃんと前に進める」 冬馬の声は、いつだって俺の背中を押してくれる。 「……うん」 小さく答えて門をくぐると、少しだけ世界が変わった気がした。 「大学は広いし、色んなαがいる。お前を狙うやつも絶対いるから」 「……わかってる」 「できる限り送り迎えする。無理でも、すぐ連絡しろ」 「……ありがと」 振り返った俺に向けて、冬馬が柔らかく笑う。 その笑顔が胸の奥に落ちて、緊張がすっと溶けていく。 「行ってこい、律」 まるで軽く背中を押されたみたいだった。 ――ここから、また、新しい日々が始まる。

ともだちにシェアしよう!