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アオイとディアリンド
「おいディア、暇ならこれ片付けとけよ」
アオイに指示され、ディアリンドが「はい」と答える。
アオイは「ディアリンドって名前いちいち長すぎんだよ。オレもお前らみたいにディアって呼ぶからな。いいな?」と宣言して以降、ディアリンドを短く呼んでいた。
ディアリンドにはこの3か月ほどで分かってきたことがある。
アオイの言葉は最初の頃こそ強引に聞こえていたが、そこには相手の都合を考慮する言葉が必ず入っているのである。
『暇なら』というのが、暇でないならしなくても良い。という意味で『いいな?』というのが嫌なら断れ、という意味だと気づいたのは本当に最近だった。
ディアリンドが忙しく動いていた際に、アオイが同じように指示した時だ。
ディアリンドは無理をしてもその雑用をこなすつもりで「はい」と答えた。
だがアオイはディアリンドが多忙な事に気づいたらしく「暇ならっつったろ。忙しいなら断れよ」と言った。
それでようやくディアリンドにもアオイの言葉の真意が分かった。
「まったくお前は真面目すぎんだろ」
というアオイに、ディアリンドは真面目なのは貴方もだろうと思った。
アオイは努力を人に見せない。
なのに休む姿は人に見せるのだ。
結果、アオイの教会内での評価は微妙だった。
口こそ悪いが悪さをするわけではないし、ケイト様の弟君である事も一部の者は把握しているからか、表立って悪く言う者はなかった。
けれど、ケイト様の弟君というだけで誰もが期待をしてしまうのか、アオイは十分に聖力を扱う優秀な聖女様であるにもかかわらず、微妙な評価におさまってしまうのである。
ディアリンドはそれを勿体なく感じていた。
「アオイ様は……損な性格をなさっているとは言われませんか?」
思わず尋ねてしまったディアリンドを、アオイは一瞥してから答える。
「好きでやってっからいーんだよ」
これにはディアリンドも目を丸くした。
まさか彼のこの態度が意図的なものだとは、思っていなかったのだ。
「兄ちゃんは優しすぎるからな。オレがよく見張ってないとすぐ変な奴に目を付けられる」
つまり、そんな不埒な輩を追い払うために、アオイはわざとトゲのある態度を取り続けているのか。
ケイト様の世界には、ケイト様を守る騎士のような者は居ないとおっしゃっていた。
それではどうしてあんなに優しく人を疑わない方がこれまで無事でいられたのかと不思議に思ったものだが、何のことはない、ケイト様の側にはずっといたのだ。
彼を守る為に、その性格さえも捻じ曲げて見せる彼だけの騎士が。
「……ケイト様をお守りくださり、本当にありがとうございます……」
心からの感謝を込めて頭を下げたディアリンドを、アオイは力一杯顰めた顔で睨む。
「なんでディアが礼を言うんだよ、オレの兄貴だぞ」
「はい、存じております」
「くそっムカつくな……」
言ってアオイは柱を蹴った。
そんな態度が周囲の評価を下げるのだと思いながらも、ディアリンドはそれを窘めない事にした。
この聖女があの方の為にそう振る舞っているのなら、それを止めるのは間違っている気がしたからだ。
「兄貴はこっちで変な奴に目をつけられたりしてなかっただろうな?」
言われて、ディアリンドには大怪我をしたケイト様の胸に縋り付いたセリクの歪んだ笑みが浮かんだ。
「……」
「あっ、なんだその顔、心当たりがあるんだな!? どいつだ!」
問われて、ディアリンドは正直に知っている限りのことを話す。
「はぁ? マジかよ、そんなのぜってーあぶねーに決まってんじゃん。そいつ今何してんの?」
「彼は確か魔法研究所に勤めているはずです」
「何それあやしーな……ちゃんとしたとこなのか?」
「はい、公立の研究所ですので違法なことは行われていないはずですが」
「ふーん……」
アオイは顎に手を当てて紫色の瞳を伏せる。
濃い紫の髪は長く艶やかで、それだけで絵になる仕草だった。
「オレ、ちょっと引っかかってんだよな。だって兄ちゃんが帰ったの早朝だって話だろ? そんならオレがあの紫の光に躊躇ってるうちに兄ちゃんが出てきたっておかしくないはずなんだよ。まあ、あの移動が実際の体感ほど短くないってだけかも知んねーけどさ……」
パッとアオイが顔を上げて、ディアリンドの青い瞳をじっと覗いた。
「ディアは兄貴が帰るところをちゃんと見たのか?」
言われてディアリンドは驚いた。
そんな事は全く疑っていなかった。
彼がまさか、まだこちらにいる可能性があるなんて。
「いえ、私は見ておりません」
答えてディアリンドは目を伏せる。
「なんだよ、見送りにも行かなかったのか?」
「申し訳ありません……」
「別に責めてんじゃねーよ、ディアのことだ、事情があったんだろ。兄貴を見送った奴は誰だか分かるか?」
「はい、ロイスとエミーとセリクがケイト様を見送っているはずです」
「んじゃセリクって奴だけは省いて、その2人に話を聞いてこい。いいな?」
「はい。すぐに行ってまいります」
ディアリンドは頷き下ろした頭を上げると同時に駆け出した。
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