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紅葉 (3巻 時の流れの違う者達)
出発式の日はやたらと空が高くて澄み切った秋晴れだった。
兄ちゃんはオレの式典衣装をスマホでせっせと撮っていた。
「俺の知ってる聖女の中では、蒼が1番可愛いよ」
なんて嬉しそうに言うもんだから、こんな女装が可愛くたってしょーがねーだろ。とは言えなかった
着替えて教会の外まで出てきたら、オレの乗る予定の馬車の前ではセリクが困った顔で立っていた。
「なんだよその顔は。話は聞いてんだろ?」
「は、はいっ。頑張ります!」
オレがじろりと睨んで言えば、セリクは答えて背筋を伸ばす。
けれどその黄緑色の瞳がじっと見つめているのは、向こうに見えてるデカい馬車だ。
「あっちは元々3人乗りなんだよ。兄貴にディアとエミーが乗ったらいっぱいだろ」
「ぁ、いえ……」
「最初からお前は置いてかれる予定だったんだよ」
オレの言葉に、黄緑色の瞳が揺れる。
ぎゅっと唇を噛み締めて俯いたそのアッシュブロンドの頭を、オレはペシンと叩いた。
「こっちに拾われただけ幸運に思え」
セリクはハッと頭を上げて、それから下げる。
「あ、ありがとうございます!」
馬車に乗ろうとするオレに手を差し伸べてくるのは、ヴィルドだ。
栗色の髪と瞳をした16歳の少年で、毎年その年の最年少騎士が馬車に同乗するらしい。
最年少とはいえそれなりに鍛えられた身体はしっかりしており、その手がぐらつくことはない。
ま、今のオレがかなり小柄な体格をしてるってのもあるけどな。
オレに続いて馬車に乗り込んだのは榛色の髪にオリーブ色の瞳をしたララだ。長い髪は後ろで一つに編まれている。
こっちは確か22歳だったか。
ロイスから聞いた話によると、教会専属のメイドの中でも聖女専用メイドってのは憧れのポジションらしく、毎年熾烈なオーディションを勝ち抜いた猛者中の猛者がつくらしい。
つまり、いつも大人しくオレの後ろに控えているララはこう見えて猛者中の猛者ということになる。
ララは「失礼致します」と告げてから、オレの座面にクッションを足している。
ああ、長旅だからな。
ディアの屋敷と教会を往復するだけでも結構腰にきたんだ、一日揺られてちゃヤバい事になるか。
兄ちゃんは大丈夫か? 一瞬心配してから、兄にとってはこの旅ももう3度目なのか。と気づいてオレは大人しく席に着いた。
3番目に乗ってきたセリクが、オレの前に座っていいものかと悩んでいる。
オレの隣はララだし、あとはオレの正面か斜め前しかない。
「そこに座れ」
オレが自分の向かいを指すと、セリクは「は、はいっ」と緊張した様子で腰かけた。
セリクは今回、倒れたオレに魔力を注いで助けた所を、オレが気に入って強引に巡礼に同行させた……ということになっている。
セリクの職場である魔法研究所に話をつけてきてくれたのはララだ。
ちなみに、魔力がないと魔法が使えないらしい兄は、セリクの代わりにセリクの魔力が込められた小さな石を連ねたブレスレットを装備していた。
ちゃんとディアが鑑定して変なものじゃないことは確認済みだが、それでもオレとしてはちょっと嫌な気分になる。
「はぁ……」と思わず大きなため息をつけば、オレの前でセリクが黄緑色の瞳を心配そうに瞬かせた。
「アオイ様……お疲れですか?」
――誰のせいだと思ってんだよ。
オレは目の前のセリクをうんざりと眺める。
お前のせいで馬車ん中で足も伸ばせねーじゃねーかよ。
いや、別にこんな奴に遠慮するこたねーんだよな。
足が伸ばしたくなったらこいつの脚の上にでも乗せてやりゃいいのか。
「あの、僕でお役に立てそうな事があれば、なんでもおっしゃってくださいね」
ムカつくことに、セリクは本当にオレを気遣ってくる。
なんかさ。調子狂うんだよな。
あんなギャンギャン噛み付いてきた憎ったらしい奴が、こんな大人しいとさ。
「セリク、お前はオレに敬語禁止な」
「えっ……」
「この先オレに敬語使ったら、罰としてデコピンすっから」
「で、デコピン……? って、なんですか……」
「お、今の敬語な。顔出せ」
セリクは戸惑いながらもオレの前に顔を差し出す。
オレはセリクの額にかかったふわふわのアッシュブロンドを避けると、思いっきりデコピンしてやった。
「っ!」
セリクは弾かれた額に驚いた様子で目を見開いて、それから顔を顰めて額を両手で覆う。
「……ぅぅ、痛いです……」
「ん? 今のも敬語だな?」
「ちっ、違いま……あっ、違っっ」
セリクが慌てる様子にオレは思わずふきだした。
こいつガタイは兄貴よりでかい癖に、どうにも仕草が子どもっぽいんだよな。
「ヴィルドとララも、こいつがオレに敬語使ってたら報告しろよ」
オレの言葉にヴィルドは不思議そうに、ララは表情を変えずに「はい」と答えた。
***
「うわあ、紅葉がすごいなぁ」
俺は馬車の窓から見える景色に思わず目を細めた。
見渡す限りの山々は、色とりどりに美しく色づいている。
「本当ですね」とエミーも窓の外を眺めている。
西回りの旅は、山あいの大きな渓谷を通るところから始まった。
東回りだとここら辺を通る頃は緑が眩しい季節だけど、こちらから来ると丁度紅葉が見頃の時期なんだね。
「綺麗だね」
同意を求めて車内を振り返ると、リンとバッチリ目が合ってしまう。
……えっと、リンは窓の外……ちょっとくらい見てた……?
リンは、さも美しい物を見たと言わんばかりにうっとりと目を細めて口を開く。
あっ、まって、その先はちょっと、予想できちゃうから……っ。
「ケイト様の方がずっと……お綺麗です……」
うぁぁぁぁぁ。
俺は、幸せそうに微笑むリンの笑顔をストレートに喰らってしまって、両手で顔を覆った。
待って待って、おかしいでしょ!?
だから俺は聖女の時みたいに可愛くもなければ、リンみたいに美形でもないんだよ!?
リンの方が……リンの方がずっと綺麗じゃないか……っっ!
俺は顔を覆ったままで、なんとか反論する。
「リ……リンの方が、俺よりずっとずっと綺麗だよ……」
「いいえ、ケイト様の方がずっとずっとずっとお綺麗です」
リンは俺をまっすぐ見つめて、まるでそれが世界の真実だとばかりに言う。
いや、いやいや、そんなことないからね!?
「そっ、そんなことないよっ、リンの方がずっとずっとずっとずっと綺麗だよっ」
「いいえ、ケイト様の方がずっとずっとずっとずっとずっとお綺麗です」
「なんで!? リンの方がずっとずっとずっとずっとずっとずっと綺麗じゃないかっ」
「いいえ、ケイト様の方がずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとお綺麗です」
次第にエミーの視線が冷たくなってくる。
俺達の不毛な言い合いは、次の休憩地で馬車が止まるまで延々と続いた。
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