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告白と悲しみ

「どうしてお二方は、いつもそうなのですか……」 エミーは、呆れているというよりもむしろ憤りを浮かべた表情で俺達を見ていた。 な、なんだろう、エミーの前であんまりイチャイチャするなって事かな……? いやイチャイチャするつもりも、してるつもりもなかったんだけど、結果的にそうだったのかなぁとは……思う……。 「この際ハッキリ言わせていただきます。良いですか、ケイト様?」 「は、はい」 俺が慌てて背筋を伸ばすと、リンもさっと俺から腕を離して隣に座り直した。 「お二方が想い合っていらっしゃる事は、私達には周知の事実なのですから。今更お二方がどこで抱き合っていても誰も驚きませんのに、お二方はこのような人目も無い狭い車内において、どうしてそこまでお近くで想い合いながら唇の一つも重ねないのですか?」 「え……?」 ……まさか、そういう方向のお説教をいただくとは……、正直、全然思ってなかった。 「私に遠慮なさることはございません。私はいつだって目を瞑っておりますのに」 えっ、エミーは見ないふりまでしててくれたの? ずっと? 俺達がイチャイチャし始めたら毎回ずっと目を閉じててくれてたの? 「ご、ごめん……」 思わず謝った俺に、エミーはさらに続ける。 「そもそも、お二方は以前アオイ様に止められた告白を、ちゃんとなさったんですか?」 「え、えーと……したっけ? いや、してない気がするけど、もうなんか、伝わってるんじゃないかなって思って……」 もごもごと口籠る俺の言葉に、青い瞳を驚愕に見開いたのはリンだった。 ……あれ? なんか食い違いがあった……? 「も……申し訳ありませんっ!」 リンが勢いよく頭を下げると、そのまま馬車の床に膝をつく。 「ケイト様、お許しいただけるなら、どうか……もう一度私に機会をください」 そう言ってリンは俺の前に跪き、俺の手をそっと下からすくい上げた。 えっ待って? 今から? ここで? 告白し直してくれるの? リンが? 俺に?? いやもう、伝わってるよね? 相思相愛なんだよね? だってエミーも周知の事実って言ってたよ??? じっと俺の返事を待つリンに、俺は思わずエミーを見る。 エミーは俺の視線をさらりと躱すと、すっと手を伸ばして馬車の左右にある窓のカーテンを閉めた。 馬車の中がぼんやりと薄暗くなり、外から隔絶された空間になった。 なっ……なんで今閉めたの……? まだ陽射しは眩しいほどの時間でもないのに……。 なんだか逃げ場のない状況に、俺は焦りながらもリンに視線を戻す。 リンは縋るような眼差しで、俺を必死に見つめていた。 「ど、どうぞ……」 いやいや、思わず口から出てしまったけど、これは告白を促すにはあまりにも味気ない言葉じゃないだろうか。 それによく考えれば、リンは既に俺に気持ちを伝えてくれていたはずだ。 リンに捧げられた気持ちを、ずっと返せていなかったのは、俺なのに。 リンは僅かに青い前髪を揺らして、口を開いた。 「ケイト様、私は貴方を心よりお慕い申し上げております。叶うならば、貴方と生涯共に在る事を私にお許しください」 リンの言葉はまっすぐだった。 俺のことが好きだと、ずっと側にいたいと伝えてくれていた。 でもリンの生涯は、俺にとってもう残りほんの1か月ほどしかない。 その事実に、どうしても胸が痛んだ。 俺はリンの瞳をじっと覗き込む。 深く青い瞳は、優しく真摯に瞬いた。 リンは、俺とは生きる時間が違うと十分理解した上で、俺にそう伝えてくれているのだと分かった。 「俺も……リンが好きだよ」 俺の言葉にリンの青い瞳が喜びに潤む。 「心から愛してる……。こんなに誰かの事で頭がいっぱいになっちゃうなんて、姿が見えないだけでこんなに寂しくなっちゃうなんて……。今まで一度もなかったんだ」 幸せそうなその顔が本当に美しくて彼に喜んでもらえたことが嬉しくて、俺は、思うままを口にしてしまった。 それが悲しい結末に続くのだとも気づかずに。 「だから俺も……。俺もずっと……ずっと……リンと一緒に……いたいよ……」 言葉の終わりは、滲んで掠れてしまった。 違うのに。 泣くつもりなんてなかったのに。 想いが通じ合えて嬉しいのに。 ……この幸せが一瞬で終わってしまうことが、どうしようもなく悲しくて、……胸が張り裂けそうだった。 リンは慌てて立ち上がると、俺をその胸に抱き寄せてくれた。 リンの腕の中は温かくて、幸せで、俺はいつまでも涙を止められなかった。 *** 私の腕の中で、ケイト様は泣き疲れて眠ってしまった。 眦に残ったケイト様の涙をエミーがそっと拭き取って、私に謝罪した。 想定外だったと、彼女は言った。 献身的でよく気のつく彼女のことだ。彼のためにと思っての事だったのだろう。 その彼女ですら予想できなかった事態なのだ。 私の考えが及ばなかったのも仕方のないことかも知れない。 そうは思いながらも、私は自分の行動が彼をこれほどまでに悲しませてしまったことをまだ許せずにいた。 あの時、熱に侵された彼の内側から淫紋の破片を取り出す際に、彼にいただいた言葉……。 私の事を好きだと言ってくださった、それを覚えていたのは私だけだったのだと気づいて、それならばと私はもう一度心を告げた。 そうすれば、この方に喜んでいただけるのだと思って。 そうすれば、私はもう一度この方からそれを賜われるのではと思って……。 私がそんな風にこの方に求めてしまったから、この方は私に応えようとして、……どうにもならない現実に触れてしまったのだ。 一瞬で消えてしまう私などより、永遠に近い時間を残されてしまうケイト様の方が、ずっとずっとお辛かったのだと。 そんなことにも気づかないで、どうして私がケイト様をお守りしようなどと思えたのだろうか。 このままではいけない。 彼をこんなに悲しませるために、彼を愛したわけではないのだから。 私はどうしても、彼には幸せに微笑んでいてほしいのだ。 そのためにできることなら、私は何だってするつもりでいた。

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