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2回目のキリアダン出立式

冬祭りに行った翌日、玲菜のところへ行く俺についてきたのは咲希ちゃんだけじゃなかった。 「蒼も来るなんて、意外だったな」 俺が言うと、蒼は「別にいーだろ」とだけ答えた。 蒼は前回も玲菜と俺の距離が近いと文句を言っていたので、わざわざ見張りに来たんだろうか……? 俺なんて、精神の成熟した彼女から見れば幼くて恋愛対象にもならないだろうし、もしかしたら同い年にも見えてないんじゃないかとすら思うんだけどな……。 「玲菜さんってケイさんと同じ歳なんですよね?」 「うん、見た目はね。でももうこっちで300年以上過ごしてるから、俺よりずっと大人だよ。フランクな人ではあるけど、とても立派な元聖女様だから、敬意を持って接してね」 俺の言葉に咲希ちゃんはビシッと背筋を伸ばして「はいっ」と答える。 それに対して蒼の反応は、舌打ちをひとつ漏らしただけだった。 「蒼、態度が悪いよ」 俺の言葉に蒼は悪態を吐こうかどうしようかとしばらく迷った様子だったけど最終的に「ん」とだけ答えた。 まったく、仕方ないなぁ。 実のところ、蒼のこの態度はスタンスで、丁寧な対応もしようと思えばできるんだということを俺は知っている。 一昨年の暮れだったか、たまたま町で重そうな荷物を持ったお年寄りに蒼が丁寧に声をかけているところを見かけた。 つまり、蒼の態度はいわゆる反抗期特有のもので、蒼は敬語が使えないわけでも人に敬意を払えないわけでもないんだよね。 家ではおおめに見てるけど、外では流石にちゃんとしないとダメだよ。 まあ、俺の知らない間に教会の中では横暴聖女として成立してしまっていたけど、ここは別の街なんだからさ。 俺の視線に気づいて、蒼は「わーってるよ」と呟いた。 よしよし、蒼はいい子だな。 今回玲菜は起きていて、俺達が案内されたのは大教会の一番大きな塔の一室だった。 部屋からはキリアダンの街並みが一望できる。 その景色はきっと、彼女にとって愛しいものだったんだろうな……。 「圭斗、弟くんも良くきてくれたわね」 部屋の主に声をかけられて、俺は答える。 「10か月くらいぶりだね、元気にしてた?」 「ええ、おかげさまで。まあ座って」 席を示されて、俺たちは着席する。 と言ってもリンとエミーは俺の後ろだし、蒼や咲希ちゃんの従者や護衛達も後ろに控えるので、座るのは3人だけだけどね。 「リーアはもう飛びかかってこねーんだろーな」 「ご覧の通りよ」 玲菜が指した先には反省中の看板を首から下げて部屋の隅で正座をさせられているリーアがいた。 ひぇ。っと引いたのは俺と咲希ちゃんだけで、蒼はクククと笑って「そりゃいいや」と喜んでいるし、エミー達ですらさもありなんという顔だ。 まあ……そう……なのかな……? 俺を刺した者を同じ部屋に置くには、最低でもこのくらいはして見せないと俺の従者達の収まりがつかないというところか。 確かにリーアが俺にお茶でも出そうものなら、リンもエミーも相当警戒しそうだもんな。 リーアにはちょっとかわいそうだけど、ここは我慢してもらうか……。 俺達はいくつか近況報告をしてから、咲希ちゃんの作った『フロウリアの元聖女』コミュニティの話をする。 咲希ちゃんの差し出したスマホのスクショ……玲菜のお父さんの投稿を見て、玲菜は涙を零した。 「ケイさんはどうやって玲菜さんを連れて戻る予定なんですか?」 咲希ちゃんに尋ねられて、俺は玲菜をしっかり抱き抱えてゲートに入るつもりだった旨を説明する。 絶対離れないようにピッタリくっついて入ればなんとかならないかな。と。 咲希ちゃんは何やら難しい顔をして、それから「それなら玲菜さんは私が連れて帰ります」と言った。 確かに3人それぞれの住所を比べると、咲希ちゃんの方が玲菜の家には断然近いけど……。 「……いいの? だって、もし出られなかったら時空の狭間みたいなとこに取り残されちゃうかも知れないよ……?」 俺の言葉に、咲希ちゃんはしっかり頷いて「はい!」と答えた。 「玲菜さんの事、私も絶対1人にはしませんから!」 「咲希ちゃん……」 咲希ちゃんは強いなぁ……。 「それに、見知らぬ男子よりは見知らぬ女子の方が、まだご両親も話を聞いてくれるんじゃないでしょうか?」 「あはは、それはあるかも知れないね……」 そう言われてしまうと、苦笑しか出ない。 「ありがとう……咲希……」 玲菜も、咲希ちゃんに感謝の言葉を伝える。 そんなこんなで、玲菜はキリアダンから教会までは咲希ちゃんと同じ馬車に乗ることになった。 馬車はキリアダンの大教会が6人乗りのものを用意してくれていた。 さらには大教会からも護衛が20人追加される。 そりゃそうか、こんな風に聖女に元聖女が3人も一緒に移動するなんて前代未聞だもんな。 馬車も大きくなったし、目立つ事が避けられない以上は守りを固めるしかない。 ……俺も帰り道では寝ないで警戒しておかないとな……。 *** 2回目の出立式の蒼も、本当に可愛くて可憐でまさに天使だった。 蒼が微笑む度に、会場が大きく揺れている。 愛想笑いはしないタイプの蒼だが、聖女には顔見せの際に微笑むべき指定位置が定められている。 聖女の仕事はちゃんとやると宣言している蒼は、そこで微笑まないわけにいかなかった。 それが逆に、普段ニコリともしない蒼の貴重な笑顔が見られるチャンスとして式典の見学者数を増やしているのかもしれないなぁ……。 去年は教会のサイドテラスからずっと遠くにいる蒼を眺めていたけれど、今日は玲菜が部屋に入れてくれたので、俺達は広い室内テラスから前よりも近くで舞台を見物できていた。 玲菜が俺の隣で渋い顔をして言う。 「弟くん、ちょっと人気ありすぎない?」 「めちゃくちゃ可愛いでしょ?」 「そういう意味じゃなくて……」 「うん?」 「まあ、私達と分けてもリスクが減るか分からないなら、一緒に動く方がマシかしらね……」 ……それってまさか、現役聖女である蒼を狙う奴がいるかもしれないってことか……。 「……気をつけるね。玲菜も十分気をつけて」 「ええ、分かってるわ。ここまで来て死ぬわけにいかないから」 俺の後ろで、エミーとリンがピリッと緊張したのが伝わる。 俺はテラスの隅で、1人ポツンと蒼を見つめ続けているセリクに気づいて近寄った。 いつも一緒の蒼は舞台の上だし、ロイス達護衛騎士も皆あっちだからな。 「今日の蒼はとびきり可愛いね」 俺の言葉に、セリクは去年よりもずっと素直な言葉を返した。 「はい……とっても……」 その声があまりに切なく聞こえて、俺は思わず去年と同じ問いをしてしまう。 「セリクは蒼が好きなの?」 セリクは迷うことなく「はい」と答えた。 その答えに、俺は胸が痛んだ。 去年はまだ、もう少し喜べただろうに。 今の俺には、この世界の人と俺達は、想い合わない方がいいのに。と、悲しく感じる気持ちの方が大きくなっていた。

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