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襲撃
キリアダンを出て3日。
休憩地に止まった馬車の中で、アオイがピリッと感知したのは悪意だった。
「馬車から出るな!」
アオイの言葉に、馬車を降りかけたララが慌てて引っ込む。
「周囲を警戒しろ! 後続の馬車にも降りるなって伝えろ!」
馬車の中で叫んだアオイの声は、大きくなった集団の全体に届くにはあまりに細かった。
後方で悲鳴が上がる。
女の声だ。
「出んなっつったろーが!」
立ち上がりかけたアオイがギシっと動きを止める。
「ア……アオイ……様……」
隣に座るララの首元にはナイフがうっすらと赤い筋をつけていた。
突然の出来事に顔面蒼白となっているララにナイフを突きつけているのは、ララの前に座っていたシオンだ。
「……はぁ!?」
セリクがシオンへと手を伸ばす、シオンが動くよりも早く、セリクはシオンを寝かせた。
「くそっ、どういうことだよっ!」
他にも内部に内通者がいるのか!?
それともシオンだけか……!?
「落ち着いてアオイ、1人ずつ確かめるんだ。怪しい奴を寝かせていこう」
「あ、ああ……」
「ララ、お前はオレの味方だな?」
オレは真偽魔法をかけて問う。
「は、はいっ」
真なる発言であるという青色を確認してからオレはララに「そいつを縛っとけ」と指示して馬車の戸に手をかける。
「アオイ、危ないから僕が先に行くよ」
セリクの手がオレの小さな手を包む。
くそ、オレももっと身体がデカけりゃな……。
こんなサイズじゃこいつの盾になることすらできねーじゃねーかよっ。
悔しさを噛み殺しながら外に出ると、後方では地に倒れる護衛騎士と、それに縋る咲希の姿があった。
地に広がる淡い緑の髪……あれは。
「キールくん! キールくんっ!」
「大丈夫、俺が治すからね」
その言葉にセリクが反射的に兄貴を目指して駆け出す。
ピリリと察知できた悪意はオレとセリクに迫っていた。
自分に向かってきた黒装束に睡眠魔法を向けながら必死で叫ぶ。
「セリク!」
ハッと振り返ったセリクに黒装束の男の腕が伸びる。
その黒い腕がセリクに届く瞬間、それを切り落としたのはロイスだった。
「っぶねーな、こいつらセリクまで狙ってんのか!?」
オレの目の前でごとりと地に伏した男に、声をあげたのは兄ちゃんだった。
「蒼!?」
「寝かしただけだよ。兄ちゃんも使えるだろ」
「あ、そっか……」
ったく、術式見てたら分かっただろうに。
いや、そいつの怪我を見ててこっちは見てなかったのか。
「全員その場を動くな! 内通者がいる!」
オレの声に動きを止めた騎士達の中で、兄貴に魔力を注いでいたセリクだけが立ち上がった。
「アオイ! 広範囲魔法だ!」
セリクが叫んだ次の瞬間、地面にぶわっと文字が浮かび上がる。
「ここから離れて……――」
オレを庇うように、オレに向かって飛びついてきたセリクの声が急速に遠のく。
それと同時にガツンと上下に全身を揺さぶられて、オレの意識は途絶えた。
***
俺は、広範囲魔法だと言ったセリクの言葉に、咄嗟に障壁を張った。
俺を中心にドーム型に広がる障壁。これに強引に床面を張る。
俺に近い順に、キールと咲希ちゃんと、エミーにリンまでが入ったところでその魔法は発動した。
さっきまで俺の肩を掴んでいたはずのセリクは蒼を助けようと飛び出していて、俺の障壁には入っていなかった。
空間が歪むように縦に大きく揺れて、俺たち以外の全員がその場に崩れる。
その途端、道の両脇から黒装束の男達がぞろぞろと現れる。
その数は20に近い。
リンが俺の隣で剣を構えるが、この障壁を解くべきか悩む。
巡礼の隊列はかなり長くなっていたはずだ。
中央付近の騎士達は倒れても、前か後ろで広範囲魔法の範囲外に騎士が残っていないだろうか。
このまま障壁に入っていれば、せめてこの範囲内の人だけでも守れないだろうか。
俺が一瞬迷ううちに、黒装束達の一部が蒼とセリクを担いで駆け出す。
「蒼っ! セリク!」
思わず俺は2人を追おうと障壁を解いてしまう。
途端に、残った15人ほどの男達が俺達に飛びかかった。
リンが一瞬で俺達の前に出て、ひと薙ぎで3人を弾き飛ばす。
だけどリン1人では守らないといけない人数が多い。
ダメだ、せめて自分の身だけでも守らないと。
「俺にぎゅっと近づいて!」
俺はキールに覆い被さるようにして、エミーと咲希ちゃんをもう一度障壁の中へと包む。
キールはまだ治療途中だ。
セリクのくれたブレスレットはまだ半分以上残ってるけど、セリクは連れ去られてしまったので、この魔力は治療に使えるように残しておいた方がいい。
「はぁっ!」
リンは裂帛の気合とともに、1人、また1人と確実に男達を倒してゆく。
俺は切実に祈る。
リンお願い、頑張って……。
どうか、死なないで……。
俺はきっと、リンに危険が及べばこの障壁を解いて、ブレスレットの魔力を使い切ってでも全範囲に睡眠魔法を放つだろう。
でもそれは、キールを見殺しにしてしまうことに繋がりかねない。
5人、6人とリンに黒装束達が倒される中で、ガチャッと聞こえたのは馬車の扉の音だ。
そちらに視線を向けると、黒装束の男が馬車の戸を開こうとしていた。
中には玲菜達がいる。
「やめろ!」
しかし、黒装束の男は次の瞬間吹き飛んだ。
チラリと見えた馬車の中では、黒装束へと手を伸ばした玲菜の肩をシルヴィンがしっかり掴んでいた。
玲菜はそれ以上でしゃばる事なくガチャリと馬車の戸を閉める。
そうか。戸を閉めていれば馬車の中には魔法を通さない結界がかかってるんだったね。
玲菜は俺達を不利にさせないように引っ込んだのか。
確かに、剣戟の音が続いてる限りは……。
「リン! 右!」
視線を上げた先では、黒装束の男と斬り結ぶリンに矢が放たれようとしていた。
マズイ、障壁を解いて、リンの右側に障壁を……。
そう考えるうちにリンは俺の声に「はい!」と応えて目の前の男を斬り払い、向かって来た矢を切り落とした。
……えええ……?
矢とか切れるもん……?
ちょっと……リン……強すぎない……?
「ケイト様には指一本触れさせません!」
気魄十分に叫んだリンが瞬時に弓手へと距離を詰め、構えかけていた弓ごと男を斬る。
残る男は2人だった。
リンが男達にゆらりと向き直ると、男達は震えあがって悲鳴を上げて逃げ出した。
そこへ向こう側から先頭の騎士団長達が駆けて来る。
逃げた2人はその場で騎士団員達に取り押さえられた。
7名の騎士達が合流するのを確認して、俺はシルヴィンを呼ぶ。
セリク程の速度は出ないが、シルヴィンからの魔力だけでキールの治療は無事に終えることができた。
はじめ俺達の近くに倒れていたロイスは、戦闘の邪魔だったようでリンに後方へ蹴り飛ばされている。
うーん。浄化じゃ目覚めないか……。
睡眠状態でもないし……、激しい揺れで三半規管がやられてるのかな。
試しに頭部に治癒魔法をかけると、ロイスは「ってて……」と呻きながら目を覚ました。
ああ、その背中が痛いのは……それは……リンが蹴ったとこだね。
まあその、戦闘に巻き込まれて下手に踏まれると命にかかわるから……それを避けるため仕方なく蹴ったんだろうけど。
俺は真実を伏せたまま、それを治した。
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