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この辺で読了しようかという方向け エピローグ (この先も続けて読む予定の方は飛ばしてください)
このお話は「メインCPも無事くっついたし、そろそろこの辺で離脱しようかな」という方向けの暫定エピローグです。
この先の現代編も続けて読んでくださる予定の方は、ネタバレになるため読まずに飛ばしてください。
続けて読んでくださる皆様には、本当にありがとうございます!!
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
ここで離脱の皆様も、ここまで大切なお時間を割いて稚拙な文章を読んでくださり、
圭斗達を応援してくださったこと、リアクション等いただけたこと、大変感謝しております。
またどこかでお目にかかれると嬉しいです。
読んでくださった全ての皆様の幸せと健康を祈って、ここまでのお礼の言葉とさせてください。
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俺がほんの4.5日の9年間をフロウリアで過ごした4月の初め。
あれから、現実では半年が過ぎていた。
咲希ちゃんと玲菜は時空の狭間に残されることなく、あの日のうちに咲希ちゃんのゲートからすぐにこちらに戻って来れたらしい。
咲希ちゃんが送ってくれたLINEには、咲希ちゃんの自室らしき背景にカメラ目線で笑っている咲希ちゃんと玲菜の写真と『戻れました!』の文字が並んでいた。
咲希ちゃんの元聖女コミュニティはあれからもずっとにぎわっていて、ほとんど毎日のように新たな元聖女様が増え続けている。
あの黒装束達に囚われていた元聖女達も、帰還を望んだ子は全員こちらに戻ってきた。
連絡係を務める元聖女はちょこちょこ入れ替わっていたが、あの善意溢れるコミュニティは、これからも末永く続いてゆくんだろうなと思ったりしている。
フロウリアの歴史がこれからも続いてゆくように、こちらでも、少しずつ受け継がれるものがあるんだな……。
あれからフロウリアではもう350年ほど経っている。
司祭様はもちろん、エミーもロイスも、ロイスの子達も、孫達ですらもう残っていない。
それでも、皆の子孫はきっと今もあの地で生き続けているんだろうな……。
俺は空を見上げる。
大学の構内から見上げる空は、木々の合間からほんの少し秋の色をのぞかせていた。
俺はというと、中々決まらないプレゼントに悩みながら、大学の構内を門に向かって歩いていた。
そういえば今日の夕飯の当番は俺だから、プレゼントの前に夕飯の献立も決めなきゃな……。
外門に近づくと、ちょっとした違和感に気づく。
門を出た人も、入る人も、その外にいる誰かに目を奪われているのか、皆一様に同じ方向を見ていた。
もしかして……と思いながら門を出れば、そこには日本人離れした美しい顔立ちの黒髪の男性が、門に背を預けて片手で文庫本を開いていた。
彼を驚かせないように、俺はそっと近寄る。
それでも、彼は俺がほんの一歩近づいただけでパッと顔を上げてしまった。
「今日は仕事終わるの早かったんだね、お疲れ様」
俺が声をかけると、彼は嬉しそうに微笑む。
「ケイト様……」
彼は失言に気づいて本で口を押さえると、言い直した。
「いや、ケイトこそ勉強で疲れただろう。せめて私にその荷を持たせてくれないか」
俺は小さく笑って「ありがとう」と鞄を預ける。
リンはこちらに着いた時、その青い髪と瞳を黒っぽく変えていた。
けれども、それ以外の見た目が変わらなかったリンに比べて、セリクの変化は大きかった。
セリクは20歳だったその姿を、なぜか15~16歳ほどの見た目に変えていた。
まだ幼さの残ったスラリとした体躯に、髪色もプラチナブロンドのような淡い金色で、目の色は黄緑色の名残をほんのり残したようなヘーゼルカラーだ。
その変化に大喜びしたのは蒼だった。
蒼は向こうでは小柄な自身の細腕に大分文句を言っていたので、セリクが自分より若干小さくなった事で自分が物理的にもセリクを守ってやれると感じたようだ。
まあ、その身長差は5センチもないんだけど……。
どうやら、心に合わせて姿が変わるのはこっち側にも適用されるらしい。
これも、聖女の姿と同じで初回特典みたいなものなんだろうな。
ほとんど姿の変わっていないリンに関しては、蒼の「ディアは、心も体もそのまんまって感じだもんな」という言葉に、俺も深く同意した。
セリクは男の姿の蒼にすっかり惚れ直してしまったようで、毎日うっとりと蒼を眺めている。
蒼は特別美形というわけでもないし、俺と一緒で平凡顔だと思うんだけどなぁ……。
まあ俺より若干整っているのは認めるけど……。
知的な目元にメガネの組み合わせがいいんだろうか?
「リン、俺今日夕飯の当番なんだ、買い物に付き合ってくれる?」
俺の言葉にリンは嬉しそうに微笑む。
「ああ。ケイトの行く先ならどこへでも」
こちらの世界では俺は平民なので、敬語を使わないようにと繰り返しお願いした結果、リンはこうやって普通に話してくれるようになった……のだけど、なんだかその分、言葉に甘さが増している気がする。
最初の頃俺の家に泊まっていたリンとセリクは、今は2人で賃貸のマンションに暮らしている。
そこは父の兄である伯父夫婦が経営しているマンションで、父が話をつけてくれたおかげで戸籍のない2人にも部屋を貸してもらえた。
リンが抱えていた大荷物には実家から餞別としてもらってきた金や宝石が入っていて、最初の頃はそれを換金して生活していたが、今ではそれぞれがちゃんと仕事をしていた。
まさかたったの半年でここまで素早く生計を立てるとは思っていなかったので、俺は2人の能力の高さに改めて驚いた。
先に働き始めたのはリンで、母の親戚の伝手で雇ってもらった大きなホテルでホテルマンのバイトを始めた。
丁寧な言葉遣いと紳士的な物腰に目を引くルックスが手伝って、荷物を運ぶベルスタッフとして雇われたはずが、今では顔出しメインの仕事をしているらしい。
ホテル側はぜひ正規雇用をと言ってくれているのだが、無戸籍ではそれが難しいらしい。
リンに関しては母方の親戚達に気に入られているようで、何やら養子縁組の計画まで立ててくれているらしいので、もしかしたら近い将来には何とかなるかもしれない。なったらいいなと願っている。
そんなリンよりも先に何やら怪しい戸籍を手に入れて、やけに華々しく活動しているのがセリクだ。
セリクは蒼とデートの最中にショッピングモールで怪しい男にスカウトされた。
ファッション雑誌のモデルをしてみないか。というお誘いである。
まあ、抜けるような白い肌に整った甘い顔立ち、プラチナブロンドにヘーゼルアイと、あれだけ目を惹く外見をしていればそういったスカウトの1つや2つきてもおかしくないだろうが、そのスカウトに強気で乗って、しっかり契約書を細部まで読み込んで、あれこれ追加条件をつけた上で契約してきたのは蒼だ。
セリクの戸籍も、何をどうやったのか分からないが事務所側が用意したらしい。
俺は、リンと一緒に入ったスーパーの飲料売り場で、でかでかと貼られたポスターに、ペットボトル飲料を片手にふわりと微笑んでいるプラチナブロンドがいる事に気づいた。
「リン見て、こんなとこにもセリクがいるよ」
「これは初めて見たな」
俺も初めて見た広告だったので、2人一緒にその写真を眺める。
「セリクは本当に可愛いねぇ」
俺の言葉にリンが僅かに眉を寄せる。
最近のリンからは、ほんの少しずつ俺に対する独占欲が見え始めていた。
俺はそれを恋人として嬉しく思うのだけど、彼はどうも良くない感情だと思っているようだ。
これもまた、機会をみてゆっくり説明してあげないとな。
度を越えなければ、俺はその気持ちが嬉しいよ……って。
モデルをはじめたセリクは、蒼の手腕であっという間に売れてしまった。
蒼は、セリクの美しさを大勢から評価してもらえるのが嬉しい反面、それを独り占めしたいという欲求も相当のようで、俺はいつか弟が犯罪を犯さないか心配だったりする。
現在の蒼は学業の合間を縫ってセリクのマネージャー的ポジションを務めており、邪な思いを抱えてセリクに近付く不埒な奴を、一人残らず刈り取っているらしい。
セリクを自分で見せびらかしておいて、その上でこれはオレだけのものだと主張するのだから、本当に手に負えないよな……。
俺はリンと2人でスーパーから出る。
今日の夕飯はデミオムライスハンバーグにすることにした。
これはリンの好きなメニューだ。
「リンもうちで夕飯食べていくよね?」と尋ねたら「ケイトの望むままに」と答えてくれたから、俺は今夜ははりきってハンバーグを捏ねるつもりだ。
エコバッグは当然のようにリンが持ってくれている。
こちらの世界にもすっかり慣れたリンは、スーパーの入り口では当然のようにサッとカゴを取ってくれるし、スーパーでは俺の横にカゴを保持してピッタリ歩くし、レジを通ればこんな風にまた何も言わず荷物を持ってくれるのだ。
俺が「ありがとう」と微笑むと、リンはそれはそれは幸せそうに微笑み返してくれる。
ああ、幸せだなぁ……。
こんな日が、こんな風に続いてくれるだなんて、あの頃は思ってもいなかったのに。
リンとセリクがこちらに来てすぐは、その成長速度がこちらの時間に対してどうなるのかと俺も蒼も相当心配したものだけど、1日2日経ってもセリクの身長やリンの爪の伸びが俺達と変わらない様子に、俺達は4人で胸をなでおろした。
多分これも初回特典のうちなんだろうな。
それから蒼は、セリクに身長を抜かされたくないようで、毎日せっせと牛乳を飲んでいる。
おかげで今日も俺は牛乳を買った。
この先どこまで一緒に居られるのかはわからないけれど、コミュニティには『フロウリアから連れてきた人と今もハッピーに暮らしてまーす』なんていうたくましい先駆者の書き込みもあって、励まされている。
俺は、隣を歩くリンを見上げる。
リンの髪や目は一見黒いんだけど、それでもじっと見つめていると不思議な事にどこか青みがかって見えた。
さらさらと前髪を揺らす愛しいその人の、25歳の誕生日プレゼントがどうしても決められなくて、俺は口を開いた。
「リンはもうすぐ誕生日だよね」
「ああ」
「誕生日にプレゼントを贈りたいんだけど、何か欲しいものってあるかな?」
俺はリンが目を丸くするのを、やっぱりなんでだろうなと思いながら眺める。
恋人の誕生日にプレゼントを贈らないわけがないじゃないか。
誕生日といえば、リンの24歳の誕生パーティーでリンのご家族から伝えられた言葉の意味に俺が正しく気づいたのは、こちらに戻ってきてからだった。
リンをお願いしますって、この先ずっとお願いしますって、俺はあの時皆さんに頼まれてたんだな……。
だって、ゲートで俺を抱えたリンに言われたあの言葉。
俺の意に沿わない我儘を1度だけと乞われたのは、リンの誕生日よりも前だったんだから。
そんなことを考えていると、リンの顔が俺の視界に入り込んできた。
リンは俺を大切そうに見つめて、凛々しく微笑んで答えた。
「私はケイトの隣に居られるだけで十分だ。他に欲しいものなど何もない」
うっ……顔が良い……っ。
リンは相変わらず顔面が強い。
前ほど四六時中一緒にいられなくなった今、俺のリンの顔面耐性は前より下がってしまっている気がする。
「……そ、それでも、何か欲しいものを考えてみてくれると、嬉しいんだけど……」
俺はまっすぐ捧げられた愛の言葉に顔を熱くしながらも、なんとか頼み込んだ。
リンは俺の言葉に「何か、か……」と真剣な様子で片手を口元に運んでじっくり考えてくれる。
軽く伏せられた睫毛が長くて綺麗だな……なんてうっとり見つめていると「それなら……」とリンが口を開いた。
「もし叶うのなら、ケイトの一日が欲しい」
真摯な瞳に乞われて、俺は苦笑する。
「そんなの、十日だってひと月だって、それこそ一生リンにあげるよ」
だって俺達は生涯を共にと誓っているんだから。
何を当然なことを……と思って言い返したのに、リンは俺の言葉に瞳を揺らして頬を染めた。
えええ……。
そ、そんな反応されたら……困っちゃうよ……。
なんだかつられて俺まで顔が熱くなってきてしまう。
リンは朱に染まった頬で嬉しそうに瞳を細めると、長身を屈めるようにして俺に顔を寄せて囁いた。
「では、ありがたく頂戴しよう」
耳元にかかったリンの熱い息に、俺は思わず肩を揺らす。
え……待って……?
それって、そういう意味だったの……?
一日デートしてとか一日一緒に過ごしてとかかと思ってたんだけど?
まさか、丸一日抱かせてって……意味だったり、したの……??
ドキドキと早くなる自分の鼓動が期待を示しているのだと気づかないまま、俺は答えを求めるようにリンを見上げる。
俺の隣を歩くリンは俺の視線をまっすぐ受け止めて、光栄だと言わんばかりに美しく微笑んだ。
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