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【番外】一生離してやらねーからな?(1/3)(*)

 部屋に連れ込んだ途端、セリクはオレの部屋に遮音の魔法をかけると、ベッドにぴょこんと飛び乗ってキラキラした瞳でオレを見上げてきた。 「ね、アオイ、する? すぐする?」  なんなんだよ……、可愛過ぎんだろ……。  オレはため息と同時に頭を抱えてしゃがみ込んだ。 「アオイ……?」  心配そうなセリクの声。  でもやっぱり、セリクが触れてきそうな気配はない。 「セリクは、オレとしたいのか?」  オレは頭を抱えたまま、セリクを一切見ないまま尋ねる。 「うんっ」  返事は、なんの躊躇いもなく、すぐに返ってきた。 「せっかく新しい体になったんだろ? そんなすぐオレに汚されていいのかよ」 「うんっ」  即答かよ!! 「だってせっかく新しくなったんだもん。初めては絶対アオイがいいよ」  はぁ!? 『初めて』だと……?? 「……お前、オレを煽るのもいい加減にしろよ……?」  腹の底から迫り上がってくる感情は怒りにも似ていて、オレはこの酷く暴力的な感情をセリクに向けてしまわないように、大きく息を吸って、吐く。 「……なんで? アオイはずーーーっと我慢してたでしょ? 僕、アオイにだったらいいよ、乱暴にされても、きっと気持ちいいから」 「……っ、お前はいちいち、うるせーんだよ」  耐えきれずにセリクをギッと睨みつけると、セリクは嬉しそうに微笑んだ。  ドッと心臓が音を立てて、身体中の血が沸くように動いて、体温が上がる。  ダメだ。  セリクがわざと誘ってるって、分かってんのに。  セリクはオレを優先しようとしてる。  自分の痛みを隠してでも、オレを良くしようとしてる。  分かってんだから、オレだってちゃんと優しくしようって、ちゃんと大事にしようって思ってんのにさ。  ……なんで、そんな事言うんだよ……。 「……もうお前、喋るの禁止な」  オレの言葉にセリクはコクコクと従順に頷いた。  ゆっくりベッドに上がってセリクの肩を掴む。  オレの手の中に収まるサイズの肩が、愛しくて仕方ない。  そのまま少し押すだけで、セリクはオレのベッドに仰向けになる。  ベッドに両手をついて覆い被さるオレの下で、淡い色の金髪が紺色のベッドカバーの上に広がる。  ほんのり緑がかった瞳が、期待を滲ませてオレを見上げている。  言いつけ通りに黙ったままのセリクだが、その瞳は一途にオレの名を呼んでいた。  くっっっっそ、可愛いな……。  けど乗らねーからな、お前のペースには。  とにかく一回抜こう。  そうすりゃもうちょい冷静になれんだろ。 「下脱げ、オレも脱ぐから……」  つかオレが脱ぐのは初めてだな。  部屋を明るく照らす電灯は昼白色で、フロウリアで過ごす夜に灯されていたランプほどの温かみがない事になんだかうんざりしながら、オレは電気を消した。  ピ。と鳴った電子音に、セリクがキョロキョロする。 「今のは電気……明かりを消した音だ」  セリクが、明かりをつけた時と同じ……? みたいな顔をする。 「そ。つけた時にも鳴ったろ。壁のパネルか、このリモコンで操作できる。どちらの場合も本体……あの天井についてるやつな、あれが動いた証拠に音を鳴らすって事だ」  コクコクと頷くセリクを見ながら、こいつとは口を開かなくても十分意思疎通ができるよな。なんて改めて思う。  部屋の明かりを消しても、少しすればカーテン越しに入る街の明かりで室内はうっすらと見えるようになる。  セリクと2人で兄貴達を待っていた、あの真っ暗な森のような、あんな暗闇を纏う夜は多分この町にはない。  セリクの上から体を起こして、オレも下衣を脱ぎ捨てる。  すでに立ち上がっている自身を見下ろす。  それはオレの体格からして標準的なサイズではないかと思う。  けど、あの時……、動けないセリクにあてがわれていたあの男の物に比べれば、自分のそれは随分と貧弱な気がした。  ……セリクは風呂場でオレのを見て、どう思っただろうか。  シン、と静まり返った部屋。  当然だ。オレが喋るなって言ったんだからな。  なのに、なんでこんなに、息苦しいんだよ……。  不意に、オレの目元に白い指が伸びた。  視線で辿ると、セリクが心配そうにオレを見つめていた。 「さわれよ、オレに」  セリクの白くて細い指が、オレの目尻から頬をそっと撫でる。 「お前だけは、オレに許可なくいつだってオレに触れていいんだ。そろそろ分かれよ」  セリクの両腕が、オレの頭を抱き寄せる。  それに酷くホッとしてしまってから、自分が不安を抱えていた事に気づいた。  そうか。オレはずっと不安だったんだ。  あれもこれも、今日の全てが。  ゲートに飛び込む時も、母さんに話をしてる時も、そして今この時も。  だからセリクはオレを誘ってたんだ。  オレを……慰めようとして……。 「セリク、喋っていい。でも、煽んのはナシな」  オレの声は、情けなく震えていた。 「うん……。アオイ。もう大丈夫だよ……」 「ん」 「僕は消えてないし、そんなすぐには死なないみたいだから……」 「……ん」 「アオイは強かったよ。すごく、かっこよかったよ」 「過去形かよ」 「ううん。今のアオイが、いつでも一番、最っ高にカッコイイよっ」  手放しの賛辞に、思わず苦笑が漏れる。  こんな強がりばっかの、情けない男でお前はいいのかよ。  ……まあ、たとえお前が嫌だっつっても、もう逃す気はねーんだけどな。  オレは緩んでしまった鼻をすすって深呼吸で涙を堰き止めながら、眼鏡を片手で外してベッドボードに置く。  服の袖でぐいと涙を拭って、背筋を伸ばして、セリクを見つめる。 「セリク……お前はこの世で一番可愛いよ」 「ふえ……!?」  カアアアアっと音が聞こえてきそうなほどに、セリクの顔が耳まで真っ赤になる。  オレはその赤い頬を愛しく撫でる。 「その顔も、可愛くてたまんねーな……」 「えっ、ちょっ、アオイ!? どうしちゃったの……!?」 「オレが今までどれほどお前を愛しく思ってたか、お前は知らねーだろ?」 「ひぇ!?」 「オレはこれまで一度も、お前自身に可愛いとか好きだとか言ってねーからな」 「ど、どういうこと……!?」  真っ赤になりすぎて顔から湯気でも出そうなセリクを、オレはゆっくりと抱きしめる。  白い肌は、首までもが赤く染まりつつある。  その首筋に顔を埋めて、風呂上がりのセリクの匂いを胸いっぱいに吸い込む。 「一度でも口にしたら、オレはお前を手放せなくなると思った……」  きっとオレは、どんな強引な手を使ってでも、お前をオレの側に縛りつけようとしてしまう。  ……オレとお前は、こういう執着の強さも似てんだよな。  だから、ずっと我慢してきた。  想いを口にする事を。 「……でもさ、もういいよな?」  呟いて、オレは体を少し起こしてセリクの顔をじっと見つめる。 「アオイ……」  セリクは赤い頬のまま、瞳を潤ませてこちらを見つめ返してきた。 「セリクはこんなに頭も良くて、才能もあって、努力家でさ、フロウリアにいれば将来すげー魔術師になれるだろうに、わざわざこんなとこまでオレについてきてさ……」  セリクの瞳は期待を浮かべたまま、オレの言葉の続きを待っている。 「もうお前はオレだけの物だって、思っていいよな?」 「うんっ……、うんっっ。僕をアオイだけの物にしてほしい……」  頭の隅で、人を物扱いしちゃダメだって言う兄ちゃんの声がした気がする。  けど違うんだよな。  セリクにはこういう言い回しが、一番しっかり伝わるんだよ。 「一生離してやらねーからな?」  言って口端を上げて見せれば、セリクは涙を浮かべて幸せそうに破顔した。 「うんっ! ずっとずっと、僕を離さないで」  ぎゅうっとオレにしがみついてくるセリクが、たまらなく愛しい。 「セリク、愛してるよ……」  耳元に囁けば、セリクの体がカアッと熱を持つのが分かった。  よし、今んとこオレのペースだな。  今夜はこのままたっぷり可愛がって、お前にこれでもかってくらい思い知らせてやるよ。  お前がどれほどオレに愛されてるのか、な。

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