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銃刀法(銃砲刀剣類所持等取締法)
「えーと、銃刀法……銃砲刀剣類所持等取締法は、銃や刀など一定の危険性の高い道具の所持・携帯を厳しく規制することで、人に危害が及ぶ事態を防ぐための法律……なんだよね」
俺がタブレット端末の画面を見ながら説明すると、リンは頷きながら同じように画面を覗き込んだ。
「えっと、リンには読める? こっちの文字とか……漢字とか……」
「はい。時々分からない単語はありますが、概ね理解できていると思います」
そっか。良かった。
それなら本を読んだりテレビを見たりも問題なさそうだ。
俺自身も向こうでそうだったように、何らかの翻訳機能が働いてるのかな。
俺は、リンにタブレットをスワイプしてスクロールする操作を教える。
リンはすぐに覚えて、銃刀法についての解説ページを読み進めてゆく。
しかし、知れば知るほどに、銃刀法はリンの帯剣を許してくれそうになかった。
それどころか、このリンの立派な剣は、所持しているだけでも何やら登録証がないとダメみたいだ。
だが発見の届出をするにしても、どこで見つけたのかという問いにどう答えればいいんだろう……。
今までに舞台の小道具として長物を扱うこともあったけど、あれは搬入搬出場所や目的がハッキリしていて、殺傷能力が低くて、なおかつ大道具と一緒に持ち運んだからこそセーフな案件だったんだな……。
刃渡り6センチ超えると明確な目的無しでの携帯はアウトらしいし、カッターや折りたたみノコギリも『今日の作業で必ず必要』って時以外は持ち歩いてるだけでダメなのか。
リンの剣はあんなにザクザクと魔物も人も斬ってしまうほどの斬れ味だ。
リンが帯剣して出歩くと、蒼の言う通り即逮捕となる可能性が高いというのはよく分かった。
しっかり調べたのは初めてだったが、思っていたより随分と厳しい仕様の銃刀法に、俺達日本人はずっと守られてきたんだな……。
だって、俺こっちでは一度も刃物を突きつけられた事ないもんな。
……フロウリアでは、刺されたけど……。
俺の手は無意識に、あの日刺された腹部をなぞる。
あれほど耐えられない痛みを感じたのは、生まれて初めてだった……。
あまりの痛みに頭が回らなくて、自分で治癒がかけられなくて。
ダメかもしれないと思った俺を助けてくれたのはセリクだったな……。
「ケイトさ……っ、ケイト……」
リンの声に顔を上げると、リンが心配そうに俺を覗き込んでいた。
「ああごめん、ちょっと考えてただけだよ」
「ケイト、の手に、触れてもいいですか……?」
「? うん」
リンの手が、おずおずと俺の手の甲に重なる。
リンの大きな手が俺の手ごと俺の脇腹を包んで、俺はようやく、自分が以前刺された場所を撫でていたのだと気づいた。
「申し訳ありません……」
悔しさを堪えたようなリンの声に、俺も胸中で自責を浮かべながら苦笑して応える。
「いや、こちらこそ……」
俺はもう片方の手をリンの手の甲に重ねて、優しく撫でる。
リンは自分が不甲斐ないから俺が刺されたなんて思ってるんだろうけど、違うんだよ。
「あれは俺が悪かったんだ。リンのせいじゃないから、もう気にしないで」
謝らないでと言ってしまえば、リンは謝罪を口にしなくなるだろう。
でもそれじゃリンが苦しくなるだけだ。
気にしないでと言ったところで、リンがすぐにそれを気にしなくなるとは思えないけど、でもこれがきっと一番マシだと思う。
リンを見上げると、俺をまっすぐ見つめるその瞳には悔しさや後悔のような物がまだ残っていたけど、それでも俺を守りたいのだと強く思ってくれているのが伝わってくる。
それが俺には、本当に嬉しい。
「俺は、いつでもリンに助けられてるよ」
「ケイト……」
あ、今のは珍しくさらっと名前が出たな。
「ふふっ」
思わず嬉しくて笑いが溢れてしまった。
「ケイト……?」
「ううん、リンにそんな風に呼んでもらえるの、嬉しいな……」
リンの瞳が一瞬丸くなって、それから幸せそうな微笑みに変わる。
「ケイト……」
囁くような声と共に、俺はリンの腕の中に包まれた。
そうっと抱きしめられて、もう一度耳元で名前を呼ばれる。
「ケイト」
呼ばれ慣れた名前なのに、リンの声でこんな風に呼ばれると、すごく特別に聞こえてしまうから不思議だ。
「リン……」
何だか幸せな気持ちでリンの背中に手を回す。
リンの肩に顔を預けて、しばらくリンの鼓動の音に耳を澄ます。
ああ……、彼は本当にこの世界で……俺の隣で生きているんだ……。
俺は、そんな事を昨日から何度も確認しては、リンがここにいるという事実に毎回感動してしまっていた。
けれど、リンはゆっくり俺から体を離して、硬い声で言う。
「……私は、剣を持たずにケイトを守り抜く事ができるでしょうか……」
「えーとそれは……、できるんじゃないかな?」
俺の言葉にリンは瞠目する。
「武器も無しで、護衛が可能なのですか?」
「うん。だってこの国にはそもそも俺を狙う人がいないしね。甲冑も着なくていいと思うよ」
剣と違って甲冑は、法律的には着て外を歩くことも可能みたいだけど、ガチャガチャいうし大きいから、スーパーとかに甲冑で入るのはちょっと……いや、すごく目立つし、迷惑になりそうだよね。
「……武器も……鎧すらも、必要無い……、と、仰るのですか……」
呟くリンは愕然と目を見開いたままで、その声は小さく震えていた。
う、うーん……。
もうちょっと順を追って説明した方が良かったかな……。
リンみたいに、ここまでの人生の大半を剣の修練に費やしていた人には、存在意義そのものを揺らがせてしまう言葉だったかも知れない……。
「えっと……リンが剣を置いて外出するのが不安なら、ひとまず今日は俺だけで買い物行ってくるよ?」
「ケイト様が……っ、いえ、ケイト、が、お一人で外出など、とても……」
途切れた言葉のかわりに、リンはぎゅっと目を閉じて苦しげに首を振った。
うーん……。これはダメかぁ……。
というか俺が一人で外出するのがリン的にアウトなんだとしたら、明後日のガイダンスにもリンはついてくる気満々なんだろうか……?
いや、えーと……。
大学って、ボディガード付きで通っていいんだっけ??
俺はリンの腕から抜け出す。
「ケイト……?」
「ごめん、ちょっと調べ物するね」
慌てて検索してみても、その辺りは大学と要相談という結果しか出てこない。
相談しようにも、そもそも俺に護衛って必要性がないんだよな……。
「兄ちゃん? まだ部屋にいんの?」
蒼の声にリンが部屋の扉を開ける。
「アオイ様です」
俺を振り返って報告するリンに、蒼が「オレん家で取り次ぎとかいらねーから」と返している。
「兄ちゃん何してんの? まだ銃刀法調べてんの?」
「銃刀法も調べたけど帯剣は絶対無理だね。今は大学にリンを連れて行けるかどうか調べてたとこ……」
俺の言葉に、蒼はククッと喉の奥で笑う。
「兄ちゃん本気でディアを大学に連れてこうと思ったわけ? ったく兄ちゃんらしいなぁ。そんなん無理に決まってんじゃん」
バッサリ切り捨てられて、やっぱり無理か。と思う。
「ディアもあんま兄貴を困らすなよな。言ったろ、向こうとこっちじゃ常識が違うって。こっちに来たからには、こっちのルールに従ってもらう。……それができないなら帰れよ?」
ふっと言葉の終わりで蒼の声が冷たくなって、リンがビシッと背筋を伸ばした。
「――は、はい!」
そんなに圧をかけないであげようよ。
リンだって、まだ何が良くて何がダメなのか分かってないだけなんだし……。
「つーか、兄ちゃん達服買いに行くっつってたけど、ディアはその格好で外出る気なのか? そもそもディアの服はこいつが持ってきてんのもあるだろ?」
言われて俺はもう一度リンを見る。
手首と足首が見えてるリンは、オシャレというよりどう見てもツンツルテンなんだよな……。
「うん、でもどれもフォーマルすぎるっていうか、装飾がすごくて……」
こちらにリンが持って来た服は、貴族の服っ感じのばっかりなんだよね。
そもそもリンがラフな服を着ているところなんて、今まで一度も見たことがない。
「装飾なんて外せばいーだろ」
「え?」
サラッと言われて、俺は目を丸くする。
それは考えてなかった……。
だって、せっかくの高くてかっこいい服を台無しにしてしまうなんて……。
「いいよな? 外しても」
蒼がリンを振り返る。
リンは躊躇いなく「はい」と頷いた。
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