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父の帰宅 (6巻 春の嵐と新学期)
朝から兄ちゃんとディアを玄関先で見送ったオレは、例の公園に来ていた。
しかし昼過ぎまで待っても、公園にそれらしい親子は来なかった。
無駄足だったな……。
9時前から昼過ぎまで、公園で遊ぶ子ども達やその保護者達を眺めていたら、オレの春休み最後の日の午前中は終わったわけだ。
とはいえ、オレもただ人々を眺めてただけじゃねーけどな。
オレの手元にはセリクの書いたレポート用紙を5枚クリップで束ねたものがある。
ひとまず、セリクの使ってたスタミナと疲労を合わせて回復する魔法とやらの術式はなんとか理解できた。
帰ったらセリクに魔力をもらって、使えるかやってみるか。
できっかな……。正直オレは治癒適性がまるでねーから、理解しても動くかは別問題なんだよな……。
レポート用紙を丸めてコートのポケットに突っ込む。
オレの手首には相変わらずセリクの色をした石が連なっているが、これはやはり緊急時に取っておきたい。
つーか、できればずっとこのままセリクの色を身につけていたいと思う。
使えば使った分補充するって言ってくれてんだけどな、今セリクはゲートの陣の解読でいっぱいいっぱいだから、他の事で手を煩わせたくねーんだよな。
オレはすっかり固まっていた体をギギギと動かして立ち上がった。
せっかく外に出たし、なんかうまいもんでも買って帰るか。
オレは弁当屋で弁当と飲み物を買って、セリクへの差し入れにすることにした。
冷え切ってかじかんだ指先が、小銭を取り落とす。
それを何とか拾い上げて、弁当屋を出た。
はぁ……、ずっと外にいたからか、身体が芯から冷えてんだな……。
手袋の上から両手をすり合わせる。
帰ったらセリクで暖を取るか。
後ろからひっつくくらいなら、そんな邪魔にもなんねーだろ。
困った顔で笑うセリクを思い浮かべれば、それだけで胸がぽかぽかした。
冷え切った手で急に触れたら、あいつは飛び上がりそうだな。
帰ったらお湯で手を洗って、ちっとは温めてからにすっか……。
なんてことを考えているうちに辿り着いた家の玄関は、ちょうど扉が開かれたところだった。
ん?
ああ、父さんか。帰ってくるって言ってたもんな。
「おかえり」と声をかければ、オレより少し背の高い中肉中背の男が振り返った。
「おお、蒼か! しばらく見ないうちに大きくなったなぁ」
前に会ったのは3年前だから、オレが13歳くらいの頃か?
久々に見た父さんの印象はそんなに変わらなかったけど、白髪混じりの髪にゴーグル付きの探検帽に丸いメガネで、相変わらずの優しそうなタレ目は兄ちゃんに良く似ていた。
服は上下とも薄茶色の作業着で、考古学者だと名乗られない限りは探検家か作業員だと思うだろう。
「オレ見てでかくなったって思ってんなら、兄ちゃん見たら驚くと思うぞ」
父さんが見てないうちに、兄貴は縦にも横にもガシッとしたからな。
「で、異世界人はどこなんだ?」
父さんは玄関先に荷物をまとめて下ろすとキョロキョロとリビングを覗き込む。
おい、兄ちゃんの話はスルーかよ。
「……父さん何しに帰ってきたんだよ」
父さんはオレを振り返る事なくリビングからダイニングを見回しながら言った。
「異世界人の話を聞き取りにきた!」
おい待て。
「ちげーだろ! 兄ちゃんの入学祝いのためだろ!?」
「それもあるが、正直今は異世界人に興味津々でそれどころではない !」
「その正直な感情は息子にさらけ出していいもんじゃねーよ!」
「何を言う! 異世界人だぞ……! いいい異世界人だぞ……!?」
「落ち着け。んでもって学者らしい語彙力を獲得してから出直して来い。その気持ち悪ぃ顔が隠せねーんなら、オレのセリクには会わせねーからな?」
「ななななんだって!? 家主の私が、私の家に生息する異世界人に会えないとは何事だ!!」
「こんな鼻息荒い奴にオレのセリクを見せてたまるか!!」
玄関で言い合うオレ達の元に、2階から軽い足音が近付く。
マズイ!
バッと振り返ったオレと、セリクの目が合う。
「アオイ……、どうしたの……?」
「出てくんな! 部屋に戻ってろ!」
「え?」
キョトンとした顔が可愛い。じゃなくて、早く戻れ!!
焦るオレの隣をスルリと通り抜けた父が、まだ階段にいたセリクへ一瞬で詰め寄る。
「やあやあこんにちは初めまして君がセリク君かい?」
「ぇ」
「肌が白くて可愛いねぇ抜けるような白さだねぇこれは種族的な物なのかな?」
流れるような動きで、父はセリクの両手をしっかり掴む。
「やめろ! 触んな!」
オレの言葉をガン無視したまま父はセリクの頬へと手を伸ばした。
「髪色と瞳の色はこちらにもある色だけれどよく見ると……」
「触んなっつってんだろ!」
オレは咄嗟に手を伸ばしてセリクの前に障壁を張る。
白い障壁にバチッと弾かれて、父さんが階段を踏み外す。
「チッ」
オレは仕方なく父さんの背中側にも障壁を出した。
「ぅおわぁ……? んん?」
背中を何かに支えられていることに気づいて、悲鳴を上げかけた父さんがキョロキョロしている。
「シャンと立て。もう消すぞ」
デカい障壁を2枚キープし続けんのは、今のオレの聖力じゃ辛いんだよ。
「あ、僕支えようか?」
セリクが、オレの息が上がりかけてんのに気づいたのか、声をかけてくる。
「いい。自業自得だ。もう解くからな」
宣言と同時にオレは2枚の障壁に送り続けていた力を止めて、セリクを背に隠すようにして父さんとの間に割り込む。
父さんは「うわっ」と言いながらも、手すりを掴んで体勢を立て直した。
ったくこいつは油断も隙もないな。
オレが帰んのがもうちょい遅ければ、この家はセリクと父さんの2人きりになってたって事か……?
……マジであぶねーとこだったな……。
「何だい今のは?」
「魔法だよ」
「マホウ………………まほう……?」
父さんが何やら考えてるうちに、オレはセリクの手に浄化をかけてから「部屋に戻るぞ」と肩を抱く。
「まっ、魔法!? えっ、今のキラキラしたのも魔法なのか!?」
「るっせーな! 父さんが触ったとこを浄化したんだ! もう二度とオレのセリクに触んな!!」
「ジョウカ……? 浄化か! すごいな蒼、お前はちょっと見ない間に魔法が使えるようになったのか!?」
「セリク、行くぞ」
「ぁ、うん……」
セリクは多少戸惑ってはいるようだったが、オレに背を押されると素直に部屋に向かう。
「ま、待て待て、聞きたいことが山ほどある!!」
「テメーに話す事なんて何ひとつねーよ!」
案の定父はオレ達を追いかけてくる。
「セリク、壁張れ」
セリクは頷くと同時に階段の途中に風の壁を張った。
父さんも今度は用心したのか、オレの背中で悲鳴が上がることはなかった。
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