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マダートゥールから来た男

 オレとセリクは9時頃に聖力の反応を検知して、急ぎ公園に向かっていた。  オレは早足で歩きながら後ろを振り返る。  セリクとは距離が開きつつあった。 「セリク、大丈夫か?」 「……っ」  セリクが情けない顔をこちらに向ける。  返事ができないところを見ると、大丈夫ではなさそうだ。  オレは速度を落としてセリクが追いつくのを待つ。  セリクはぜぇぜぇと息を荒げながら、必死で伝えてくる。 「っさ、先、行っていい、よ……」 「ばーか。そこまで急いでねーよ」  まあ正直なとこ、気は急くけどな。  お前を振り切ってまで焦ったってしゃーねーだろ。  こんなんでお前が事故ったり怪我でもしたら、悔やんでも悔やみきれねーよ。  手でも引いていくか?  けどまだここ家の近所だしな……。  学区の奴らと顔を合わさねーとも限らねーし……。  オレは思わず周囲を見回す。  視界の端にセリクのふわふわの髪が入った。  ああ、可愛いな……。  春の陽射しを浴びて、淡い金色の髪がきらめいている。  ふわふわと柔らかく揺れるセリクのプラチナブロンドを見ていると、周りなんてどうでもいいか、という気になってくる。 「ほら、手ぇ貸せ」  オレの差し出した手に、セリクが「ありがと……」と素直に手を乗せる。  セリクの手は白くてツヤツヤで、オレより少し小さい。  何だかそれだけでオレは気分が上がって、公園までの道のりをセリクに合わせてゆっくり歩いた。  セリクはここしばらくずっと机にかじりついてたせいで、かなり体力が落ちてるようだ。  あんだけ毎日欠かさなかった兄ちゃん直伝の筋トレメニューも休んでるくらいだもんな。  まあ、セリクがそんだけ急いでくれたのと、先輩が2徹してくれたおかげで変身アイテムも間に合ったしな。ギリギリ。  いやほんとはこんなギリギリになるほど早く行く予定じゃなかったけどな。  あ。思い出したらまたムカムカしてきたな。  父さんのことは一旦忘れよう。  公園に入った時、セリクが驚いた顔で鞄を押さえた。  鞄には受信機の石を入れていたはずだ。  オレらが入ったことで反応したんだろう、なんて考えていたら、セリクが首を傾げながら引き返して、もう一度公園を出入りする。 「何してんだお前」 「え、だってこれ、僕にも反応するんだけど……」 「お前自覚なかったのかよ。最近セリクちょい光ってっけど?」  そういや聖力に関しちゃこいつよりオレの方がよく見えんのか。 「ほんとに……? アオイにいっぱいしてもらってるから……?」  嬉しそうな顔をするセリクに、ククッと笑って答える。 「だろーな。実験の成果が出てんだろ」  セリクはすぐさまセリク自身に鑑定を使って確かめる。 「わぁ。こんなに……。予想よりずっと早く溜まってる……」  オレはセリクに顔を寄せて耳元でそっと囁いた。 「オレが愛を込めて毎晩たっぷり注いでやってんだろ?」 「え……。まさか………………え…………? そ……そういう事なの……?」 「じゃなきゃ何だってんだよ」 「ええっ、聖力って……その……あ、愛……なの……?」  やめろ、外で頬を染めんな。  速攻で連れて帰りたくなんだろ。 「お前……以外とそういう根本的なとこ知らねーんだな」 「えっ、えっ、本当に!?」  まあ聖力が使えるのは聖女だけだし、それ以外のやつが知らないのも当然ではあんのか……? 「まぁ、ざっくり言うならそーだな。使った分の回復も睡眠より感情動かす方がずっと早ぇしな」 「そっ………っ………。そう、なんだ…………。ぇ……じゃあ……ぇぇぇ……」  セリクお前、その段階的に照れんのやめろって。  セリクは、聖力が愛であることを分かったところでようやく、自分がどれほど深く愛されているのか数値の上から理解したらしく、最終的には真っ赤になった顔を覆ってしゃがみ込んでしまった。 「……ひぇぇ……」  何だその情けない悲鳴……。  ほんっと可愛すぎんだろ。  愛されて戸惑うんじゃねーよ。  オレの愛にくらい、そろそろ慣れろよ。 「あー、キラキラしてぅー?」  近くで聞こえた高い声にオレはしゃがみ込むセリクの後ろを見た。  そこには幼女がセリクの背を見ながら立っている。  子どもの歳はよくわかんねーけど、幼稚園児よりも小さく見えるな。  こいつが七凪の娘の実玖か?  よく目を凝らせば、その子も全体的に……いや、特に手が淡く光っている。  あれか? もしかして浄化をかけられまくった箇所はそのうち光るのか?  手くらい浄化で済ませねーで洗ってやれよ。  つっても便利だし気持ちは分かる……って、待て。  だとしたらオレもそのうち手が光り出すんじゃねーの?  手ならまだいーけどさ、セリクの後ろが光るのはやべーな。蛍かよ。  そんなんオレの股間もそのうち光るぞ?  しかもそれって聖女なら誰でも、服着てたって見りゃバレバレなわけだろ?  大問題じゃねーかよ!!  オレは思わず頭を抱えてセリクの隣にしゃがみ込んだ。  待て待て、冷静になれ。  この件については後回しだ。  今はとにかく七凪を捕まえて話を聞かねーと……。  キョロキョロと周囲を見回すもこの子の親らしい女性は見当たらない。  が、幼女の少し後ろから来る男性とはパチリと視線が合った。  幼女はしゃがみ込んだオレに警戒する事なく近づいてくる。 「なにしてぅのー?」  オレは幼女の目の前で浄化を使って見せた。 「わぁー、おにーちゃんもじょーか、キラキラだねぇ」 『浄化』を知ってる幼女、やっぱこいつか。 「お前が実玖か?」 「おにーちゃんみくをしってぅの?」  オレに合わせてか、実玖はオレの前にしゃがみ込む。  警戒心ってもんはねーのか。  いやまだそんなもん育ってねーんだな。まだ生まれて数年だもんな。  さて、なんて尋ねようか、と考えた途端、実玖は後ろから来ていた男の両腕に抱き上げられた。 「パパ? このおにーちゃんキラキラなのよ」 「……聖女か……?」  小さく呟いた黒いコートの細身の男は、怪訝そうな顔のまま、オレ達から距離を取る。  横長のメガネフレームが反射して、男の表情を隠した。  こいつが実玖の父親で、フロウリア……いや、マダートゥールから来た男か……。  つーかめっちゃ距離取られたな。  話しをする距離じゃねーよな。  不審者に対する心の距離だな、これは……。  ってことは、今質問したところで、まともに答えてもらえる可能性は低いって事か……?  オレは内心でため息をつきながら立ち上がると、セリクに手を差し出す。 「ちょい寄越せ」 「あ、うん」  セリクはすぐに察してオレに魔力を渡してくる。  その透き通る青緑色の力を心地よく感じながら、オレは使い慣れた真偽魔法を男に投げた。 「今……何か……魔法を……」  お。よく気づいたな。  魔法使いの多いフロウリアですら、ほとんどの奴がかけられたことにすら気づかねーのに。  オレが内心で感心する間に、男はハッと息を呑む。 「これはまさか……真偽魔法!?」  その言葉にはオレの方が驚いた。 「どうして君が、この魔法を……。いや、その前になぜ君は聖力を持ちながら魔力を……?」 「お前こそなんでコレを知ってんだよ。これは誰でも知ってていいもんじゃねーぞ」  オレの言葉に、男が眉を寄せてオレを見る。 「何でも何も…………。それは、私の作った魔術陣だ」 「………………は?」  オレは思わずポカンと口を開けてしまった。

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