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30分間の休憩(*)
確かに、ここまで戦闘をしつつの歩き通しだったし、皆そろそろ休憩が必要か。
流石に全員に疲労回復をかける程の余力もないし、ここは各自で体力を回復してもらわないとね。
団長が全員に聞こえる大きな声で30分間の休憩を伝える。
騎士達は思い思いに腰を下ろしたり木に背を預けたりと休憩の態勢に入る。
周囲の瘴気はかなり薄めたけれど、1班につき2人ずつは班の外側で立ったまま待機している。
あ、さっき怪我をしていた3人にだけは疲労回復をかけておいた方がいいか。
俺はポシェットから自分の魔力が入ったブレスレットを取り出して念の為に手首に通す。
緊急時に魔力切れになったら困るからね。
小さなポシェットには、あとスマホとコンパクトとセリクの魔力入りブレスレットと飴が入っている。
俺は飴を一つ取り出して口に放り込んだ。
エミーが巡礼のお供にと持たせてくれた飴の甘さにホッと心が緩む。
何というか、エミーは離れていても俺の心の拠り所だよなぁ……。
きっと俺達の無事を祈ってくれているんだろうな、そう思うだけでほわんと心が温まる。
さあ、早いところ3人に疲労回復をかけてしまおう。
自分の聖力回復もしないといけないし。
休憩は30分しかないからね。
俺は3人のうち目についた順にセリク直伝の疲労回復スペシャルをかけて回る。
胸をやられていた人は体がグッと軽くなったと喜んでくれたし、脚をやられていた人も破顔してくれた。
2人ともそこそこの出血量があったので、少しふらついていたようだ。
えーと、あと1人はどこかな……。
「おーい、ラドムー?」
覚えたばかりの名前を呼ぶと、木陰からくすんだ緑髪の男が姿を現した。
何でそんな背が高いのにサラッと自然に溶け込んでるの?
髪が緑だから?
木陰だと保護色なの?
内心で首を傾げる間に、ラドムは俺の前まで来るとスッと膝を付いた。
「聖女様、参りました」
「あ、ありがとう……。えっと、さっきの出血を補える魔法をかけてもいいかな?」
ラドムは一瞬だけ躊躇って、それから「聖女様のご負担でなければ……」と頭を下げた。
いやいや、頭は下げなくていいからね?
初日の事をまだ気に病んでるのかなぁ……?
俺はよく分からないままに疲労回復スペシャルをかける。
基本的にラドムは無愛想というかなんというか、無表情に近い。
さっきの謝罪の時も治癒の時もずっとそうだったんだけど、今、体が軽くなったのを感じたのか、彼の表情がちょっとだけ緩んだのが俺にも分かった。
「ありがとうございます」
彼の言葉が心からのものだと感じて、俺まで嬉しくなる。
「こちらこそ、俺の我儘に付き合わせちゃってごめんね。もうあと少しだから、森を浄化して皆で一緒に帰ろうね」
微笑んで伝えると「はい、必ず」と短いけれども熱い答えが返ってきた。
4班に帰ろうとしたところで、俺はシヴァルを見つけて駆け寄る。
「シヴァルお疲れ様。怪我はしてない?」
シヴァルは4班の後方両サイドにいる5、6班のうちの6班にいたから、4班からは戦闘中もほとんどその姿を見なかったんだよな。
「はい」
岩に腰掛けていたシヴァルは静かな声でそう答えて、小さく微笑みを返してくれる。
そろそろ昼に近づいてきた森の中は、瘴気の薄くなったこの辺りもそこそこの明るさで、木漏れ日の降り注ぐ中でシヴァルの肩でゆるく結ばれた銀色の髪が静かに光を返す様はとても神秘的に見えた。
「今日中に森の浄化を済ませたら後が楽になるから、やっちゃおうね」
俺の言葉に、シヴァルはどこか楽しそうに目を細めてコクリと頷く。
「そのために、俺もちょっと聖力回復しとかないとなぁ……」
呟いた俺に、シヴァルは銀青色の瞳を瞬かせると、のそりと立ち上がる。
「ん?」
「私が見張っておきます」
そう言ったシヴァルが視線で俺達に木陰を勧める。
えっ。
どういう事?
それ、まさか、俺にそこの木陰でイチャイチャしろって言ってる!?
そうか、シヴァルはエミーから聖力回復の方法も聞いて知ってるのか!!
い、いや、そこまで気を回してくれって意味ではなかったんだけど……だけど……っっ!!
恥ずかしさに熱くなってきた顔を両手で覆いながらも、シヴァルの厚意を無下にするのも申し訳ないので俺は素直にシヴァルが横に立つ木の裏側にまわりこむ。
シヴァルの6班は元々隊列の一番外側なので、その外には誰の目もない。
人目のないところへそっとしゃがみ込むと、それだけでホッと心が落ち着いた。
ここまでずっと騎士さん達に囲まれてたから、多少なりともずっと気を張ってたんだろうな。
もちろん良い人達ばかりではあるんだけどね。
まだあと15分くらいは時間もあるよね。
ここはシヴァルに甘えて、少しだけゆっくりさせてもらっちゃおうかな……。
ガシャ。と聞き慣れた甲冑の音とともに、俺の隣にリンが腰をかける。
「ここは日陰で少し湿っているようだ。私の上に掛けてください」
そっと両腕を広げられて、俺はリンを見上げた。
ふわりと微笑むその顔は、俺を腕に抱きたいのだと伝えていた。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
俺はなんだかくすぐったい気持ちで、その膝に腰を下ろす。
リンの両腕が俺の身体をそうっと包み込む。
男の俺でははみ出てしまうけど、この聖女の体はすっぽりとリンの腕の中におさまりきる。
リンの腕の中は何だかものすごく安心できて、体の力が全部抜けてしまいそうだ。
「ケイト……」
小さく囁いて、リンが俺の髪に顔を寄せる。
「えっと、俺、今日は結構駆け回ってるから、その、汗かいてるよ……?」
「私もだ」
そうだよね。俺を抱えて走ったりしてくれてたもんね。
仕方ないか、と俺は苦笑する。
汗くさいくらいで、リンが俺を敬遠するはずもないし。
俺は少し小さくなった飴を口の中でコロリと転がす。
「あ、リンも飴食べる? 甘くて元気が出るよ」
俺は自分の口を指差して、エミーにもらった飴食べてるよ、とリンに見せる。
リンは俺の口元をじっと見つめて、ほんの少し頬を染めて答える。
「貴方の食べている『それ』ならば」
ん?
これって………………あ。これ、の事……?
これと同じ味って事じゃなくて、俺が食べてる『この飴』が欲しいって言ってる!?
心臓がバクバク言い出して、カーッと顔が熱くなるのがわかる。
え、ええええええええ……???
これは……なんて答えればいいところなの……??
俺が必死で返事を探している間に、期待を滲ませていたリンの青い瞳がじわりと長いまつ毛に隠されてしまう。
「…………いけませんか……?」
あっ、そんな、しょんぼりした顔をするのは反則ですっ!
「い、いけなくは、ない、です……」
俺は真っ赤な顔のままで首を振って、それからキョロキョロと周りを見回す。
両手を前で組んで魔物の探知までして、周囲になにもいない事を確認してから、俺はリンの膝の上で膝立ちをした。
ぐらつく俺の身体を支えるようにリンの腕が腰に回る。
腰を支えるリンの腕の感触にも、俺の体は反応を返しそうになる。
俺は舌の先に飴を乗せて、リンの唇に自分の唇を重ねると、舌ごと飴をリンの口の中へ押し込む。
「……っ」
粘膜の擦れ合う感触に、ぞくりと背中を熱が駆け上がる。
俺はそれ以上の物を感じないうちに、と、慌てて顔を離した。
「っ、はぁ……」
息を吐いて、顔を上げると、リンが幸せに蕩けたような顔で俺を見つめていた。
深い青の瞳がいつもよりちょっと鮮やかな色になっていて、リンが興奮しているのだと分かる。
「……こ、これ以上は無理だからね……?」
思わずストップをかけてしまった俺に、リンは艶麗に微笑むと「充分です」と答えた。
っっ!
リンが……。
俺の恋人が、規格外にカッコ良すぎるよ…………っっっ!!?!?
……あ。
いつの間にか、俺の聖力は満タンだった。
えぇ……。
だって……。
なんか……こんな……。
えええ……俺って簡単過ぎない?
俺の聖力チョロすぎるよ……。
「ぅぅ……」
俺は呻いて顔を覆う。
とてつもなく恥ずかしい。
けれど、森は静かで、心はポカポカしていて、恥ずかしくて小さくなる俺をリンは満足そうに腕に包んでいて……。
なんだか幸せだなあと……思ってしまった……。
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