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背の高い6班

 翌日、俺は朝から結界柱を含めた町全体の浄化に向かった。  この町はそう小さい町ではないものの、馬車で移動するには難しい道が多いので、今日は基本的に徒歩での移動となる。  俺の後ろには、いつものリンだけでなくクロイスも付いてきてくれている。  移動距離が長いので、アンナは留守番だ。  エミーなら絶対ついてきてたけどね。……多分マリーもついてくるタイプかな?  今日俺の一番近くで護衛をしてくれるのは6班の皆だ。  シヴァルの後ろにラドムの姿を見つけて、そういえば確かに、彼はシヴァルと共に行動していたなと思い出す。  そうか、6班だったのか。  ……あれ?  じゃあ、あの大型魔物が出た時にはどうして怪我を……?  わざわざ自分から突っ込まない限りは巻き込まれないはずの位置だったのに……。  俺は内心で首を傾げつつも、騎士達に挨拶をする。 「シヴァル、ラドム、6班の皆さん、今日はよろしくお願いします」 「よろしくお願いします」 「よろしくお願いしまーすっ」 「聖女様と町を回れるなんて光栄ですっ。一生の思い出にしますっ」 「おいおい、デートじゃねーんだぞ、真面目に仕事しろよ?」  わあっと声をかけてきてくれたのは名前の知らない3人で、その後ろから「必ず、お守りいたします」と告げたのがラドムだった。  この人は、責任感の強い人なのかなぁ……。  シヴァルは優しい銀青色の瞳を細めて静かに頷いただけだが、妙にサマになるその仕草が実は返事が面倒なだけというのを知ってしまってからは、なんだか微妙な気持ちになったりもする。  しかし6班の皆さんは背が高いなぁ。  178センチのリンより少し高いシヴァルが180センチくらいはありそうなのに、ラドムがそこからさらに5センチくらいは高いし……。  あと2人もリンと同じくらいの背の高さだ。  騎士達を見上げていた俺が視線を下ろすと、最後の1人と目が合う。  彼は……170あるかないかくらいかな?  焦茶色の髪と瞳をした青年は20歳ほどに見える。 「あはは、こいつらみーんな背ぇ高いから首が痛くなっちゃいますよね。デカい奴らは壁かなんかだと思ってもらって、無理に顔見上げなくていいですよ?」  彼とは視線が合わせやすくて、ちょっとホッとする。  俺が苦笑したのを見て、彼はニコッと笑って言った。 「俺アークって言います。式典の聖女様すんごいお綺麗で、昨日のお姿見て、正直惚れました。今日はデートのつもりで回らせてください!」  そう言って差し出された手を、握ってもいいものかと迷う。  えっと……今のは冗談……かな……? 「ええと……ありがとう……?」  首を傾げつつその手を取ろうとした俺の目の前で、アークは姿を消した。  ラドムが彼を後ろへ引いたようだ。  結構、力一杯。  首が絞まったのか、アークは目を白黒させている。 「聖女様を困らせるな」  シヴァルの静かな声に、ほんのりと怒気を感じる。 「お、班長が喋ったぞ」 「アークお前……班長を怒らせると後が怖いぞ?」  あ、6班の班長はシヴァルだったのか。  シヴァルはまだ31歳だし若い方だと思ってたけど、確かにこの中では一番年上のようだ。  他は皆20代って感じだもんな。  ゲホゲホとむせったアークは、涙目で言う。 「デートってのは流石に冗談だって!」 「惚れたってのは?」 「それはまあ……マジだけど」 「うおぉ……」 「凄腕護衛の前で、よく言えるな……」 「お前勇気あるよ……」 「別に聖女様とどうこうなりたいとか思ってねーからっ! ただめちゃくちゃ可愛くて、強くて優しくて……本当に素敵だなって思ったから……、言えるうちに言いたいって思っただけだろ!」  言えるうちに。か……。  去年の聖女さんは巡礼の半ばで倒れたんだよね。  彼らはまだ、それぞれに、その時の傷を抱えてるんだろうな……。  ほんの少ししんみりとしてしまった空気に、俺は悩みながらも口を開いた。  正直に話してくれた彼には、俺も正直な気持ちを話したいと思ったから。 「ありがとうアーク。確かに今日は魔物の出ない町の中だけど、俺……実は前にこの町で元聖女なのがバレて、向こうの森に入ったとこで攫われた事があるんだ」  騎士達の間にわずかな緊張が走る。  俺の後ろでは、クロイスが息を詰めた音がした。 「それで、この町の地下牢に入れられて……なんか結構……ギリギリでさ。だから、ほんとはちょっと、今日町を回るのが怖いんだ……。アークとデート気分で回れたらよかったんだけど、俺……今、あんまり余裕なくて……。気の利いたこと言ってあげられなくて、ごめんね……」  苦笑を滲ませてじわりと俯いた俺の肩を、リンの手が優しく包む。  グローブと手甲に包まれたリンの手は、昨夜も俺を温めてくれた手だ。  俺は、その手に安堵し温まる心を感じながら、リンの手の上に自分の手をそっと重ねた。 「聖女様っ、ご安心くださいっ、俺が絶対にお守りしますからっ!」 「わ、私も、誠心誠意お守りします!」 「私も!」 「私もですっ!」 「必ずや」 「私もです」  クロイスを含む騎士達は、絶対に俺を守ってくれると意気込んでくれた。  シヴァルも、いつもより強い眼差しで頷いてくれていた。 「皆……ありがとう。嬉しいよ、頼りにさせてね」  俺の言葉に、全員が「はい!」と声を重ねる。  俺達のやりとりを馬上から見守っていた騎士団長さんが号令をかけると、昨日の討伐隊より3班少ない3班編成で、町の浄化隊は動き出した。  他の班の人達は、浄化予定の結界柱の周辺を警戒しつつ待ってくれている。  こうして、気合十分な騎士達と共に俺は町の隅々までを浄化した。  町の周囲を守る3本の結界柱はいわゆる中サイズが1本と小サイズが2本だ。  大きな結界柱があるのはフロウリアの一番端となる外周部分だけなので、ここにはない。 「クロイス、これにも触ってもらっていい?」 「はいっ」  小サイズは人が入れるようなサイズでもないけど、中サイズなら人くらい余裕で入るからなぁ。  とはいえ、サイズが関係するのか、そもそも人の体が丸っと入っているのかまでは俺もよく分からないので、クロイスには全ての結界柱に触ってもらっていた。  柱に触れて目を閉じて、クロイスはしばらくじっと耳を澄ますような様子で集中していたが、ふぅと息をついて手を離した。 「どうかな?」 「なにも感じ取れませんでした」 「そっか、じゃあここは大丈夫そうだね。よかった」  俺が安堵の笑みを浮かべると、クロイスは少し不安そうな顔のまま微笑んだ。  感じ取れないことにOKをもらうだけでは、役に立てているのか不安なんだろうな。  やっぱりクロイスにだけは、後で俺の知ってることを全部話しておこうかな。  クロイスなら口も堅そうだし。 「聖女様、それは何をなさってるんですか?」  アークの問いに、俺は言葉を選ぶ。 「うーん、なんて言えばいいのかな……。困ってる人がいたら、助けたいなと思って……」  アークは小さく首を傾げたものの、ニコッと笑って「聖女様らしいですね」と言った。  それからもう一度首を傾げて「違うんです、ええと……」と言いながら俺にそっと近づく。 「ケイト様らしいなと、思いました」  アークは小さな声で、俺にそう囁いた。  その優しさと気遣いが嬉しくて、俺は微笑む。 「ふふ、ありがとう。嬉しいよ」  アークの頬がカアッと赤くなるのを見て、あ、ちょっとまずかったかな? と内心思ったりしながらも、町の浄化作業は妨害や襲撃もないまま、すんなりと終わった。 「えーと……終わってしまいましたね」  団長さんごめんなさい。  2日どころか1日もかかりませんでした……。  俺の言葉に団長さんは楽しそうに笑った。 「順調でなによりです」  でも、これじゃあ丸二日もお休みになっちゃうよ。  カディーに、時間があるならもっと会おうなんて言われるのも困るしなぁ……。 「あの、なにか私が町でできることは他にありますか?」  騎士団長さんは俺の言葉に目を丸くして、それから「ふむ……」と顎を親指と人差し指で摘むようにして考える。

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