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愛しい人*

 一糸纏わぬ姿の彼をベッドの中央にそっと横たえて、ゆっくりと覆い被さる。  チャリ、と小さな音を立てて彼の肌に私の首にかかっていたペンダントが触れる。  冷たかったのだろう、僅かに肩を揺らした彼が苦笑して「外してもいい?」と尋ねる。  私が「はい」と答えると彼は「俺がまたつけてあげるからね」と優しく微笑んだ。  このペンダントはこれまで一度も彼以外の手でつけたことも外したこともない。  それがなんだか首輪のようで嬉しいだなんて、口にしたらきっと彼を困らせてしまうだろう。  彼の手でそっと外されたそれを、私は目で追う。  彼の愛が込められた白い光を宿したペンダントはいつ見ても美しい。  彼に「いいよ」と誘われて、私は彼に身を寄せる。  体重をかけてしまわないよう、慎重に、彼の素肌に私の肌を重ねた。  肌と肌が直接触れ合うひたりとした心地よい感触に、背を熱が駆け上る。  適度に引き締まりつつも程よく柔らかさを残した彼の肌は、触れれば触れるほどに私を虜にした。 「ケイト……」  愛しいその名を囁くと、彼は幸せそうに目を細める。  彼の黒い瞳から視線を逸さぬままに、私は手探りで彼の身体を愛撫する。  次第に彼の瞳がじわりと緩み、うっすらと滲む。  眉は切なげに内側へと寄せられて、たまらなく扇状的な表情を見せる。 「ああ、ケイト……。貴方を愛しています。心から……」  私の口から勝手に溢れた愛の言葉に、彼はまつ毛を震わせるようにして微笑んだ。 「俺もだよ……。俺もリンが好き。大好き……」  彼の言葉はどこまでもあたたかく、柔らかい。  ああ……、あまりの多幸感に宙に浮いているような気分だ。  俺の優しい眼差しに導かれるようにして、その柔らかな唇に口づける。  昼に触れた小さく慎ましやかな唇も愛らしかったが、やはりこの包み込むような厚みのある唇が、大きな愛を持った彼そのものだと思う。  私はたっぷりの愛を込めて、彼に教わった方法で彼の口内を十分に愛撫する。 「ん……ぅ……んんっ、……はぁ、……っ」  角度を変える度に息をつぐ、彼のその吐息さえもが愛しくてたまらない。  思わずぎゅっと身体を密着させると、小さく軋んだベッドの音に、彼がビクリと肩を揺らした。  その様子に、私は枕元に置いた遮音用の魔道具を手に取る。  魔力を入れると起動し、魔力を抜くことで発動を停止するタイプのそれに私はそっと魔力を流し入れる。  巡礼に合わせてエミーが持たせてくれたのは飴だけではなく、馬車用のクッションにケイトの好きな茶葉に焼き菓子と、巡礼で彼を確実に支えてくれるものばかりだった。  もちろんこの遮音用の魔道具と香油も、やはりエミーからの差し入れだ。  エミーは当初一定時間で効果が切れるものを選ぶつもりだったらしいが、私がセリクの改造した剣を十分扱える様子を見て、こちらの魔力を抜くと停止するタイプに変更したらしい。  こちらの方が自由も効くし値段も安いと聞いて、魔力制御の練習が役立った事を嬉しく思った。  私は笑みを浮かべながら、彼に囁く。 「遮音の魔道具を起動した。音を気にすることはない」  彼は私を見てホッとした様子で微笑む。 「ありがとう……」  私は香油を手に取り温める。 「ケイトの内側に、触れても良いだろうか」 「うん。リンに触ってほしい……」  答えて、彼は私に向けてぎこちないながらもおずおずと足を開く。  ああ……。  こんなに純真で美しい彼が、こんなに愛らしく健気に私を誘ってくださるなんて……。  熱い感情は胸から溢れて、もう今にもこぼれ出しそうだ。 「ケイトの望むままに」  応えて、私は彼のそこへと手を伸ばした。  ***  リンの長い指が、ゆっくりと俺の中へ潜り込む。 「……ぁ……」  温かなその感触に、思わず息が漏れた。  ぬるりとした彼の指が纏う香油はエミーが持たせてくれたらしい。  香油といい遮音の魔道具といい、相変わらずのエミーの用意周到さに、俺はずっと助けられっぱなしだ。  リンの手は大きくて、しっかり厚みがあって、剣だこがあって、でも長くてスラリとしていて、いつ見てもかっこいい。  そんな彼の手は、いつでも俺を助け、支えてくれた。  俺はこの手が大好きだ……。 「んっ……ぁ……っ」  いつも俺の肩や頬を撫でて慰めてくれるリンの指が、今は俺の内側を優しく撫でてくれている。  俺のナカで動くこれが彼の指なんだと思うだけで、俺の息は上がってゆく。 「あ……、あっ、あぁ……っ」  2本、3本と指が増やされる度に、柔らかな刺激にどうしようもなく煽られる。  彼は俺を少しも傷つけまいと、いつも優しく動くから……。 「リ、ン……っ、早く……、早く、入れて……っ」  夢中で手を伸ばして触れたリンのものは既に熱く硬く立ちあがりきっていて、溢れた先走りで根元までぐっしょりと濡れている。 「ケイト……今すぐ」  おそらくリンはどれほど苦しくても、俺が求めない限り俺に入れないんだろうな……。ぼんやりとそんな事を考えた時、抜かれた指に代わって入り込んできたずっしりとしたリンの熱で、俺の思考は吹き飛んだ。 「ぁあぁあああ……っっ」  ぞくぞくと背筋が震えて、自然と背が反る。  リンが動きを止めようとするので、俺は慌てて言葉を足す。 「んっ、リンっ、気持ちいい、から……、やめないで……っ」 「ケイト……」  愛しげに俺の名を呼ぶリンが、ずぶずぶと腰を進めて奥まで届く。  腹の奥にずくんと響いた眩しいほどの快感に、目の前が白く染まる。 「ぁああっ、んんっ、ぅあ、奥、気持ちい、よ……っ、リン、もっといっぱい、来て……」  俺の求めに、リンの身体が熱を帯びる。  緩やかに動き始めたリンの腰に合わせて、俺も自然と腰を揺らしてしまう。 「あ、あっ、うあっ、ああっ」  リンのモノが奥を叩くたび、視界にパチパチと火花が散るような快感が弾ける。  もっと深く、もっと強く、リンに貫いてほしい。  お願い、リン。  もっと俺を……リンでいっぱいにして……。 「んぅっ、あぁっ、リンっ、もっと……っ、激しく、して……っっ」  嬌声の合間から必死で求めて、俺はリンの頭を両腕でぎゅっと引き寄せた。  ***  私はケイトに求められるままに彼を揺らし続ける。 「あっあっ、ああんっ、いいっ、リンの、きもちイィよぉ……っ」  ケイトは前に触れる事なく内側への刺激だけでその美しいお身体を激しく震わせ至った。 「あっあぁあっぁああっ! ンンンンっっっぅぅぅ……っっ!!」  彼の内側が私を強く絞る。  彼の身体は私の齎すものが欲しいのだと理解して、私はグンと奥まで突くと、彼の内へとそれを差し出した。 「あっ。ぅああんっ! リンの……リンの、あつくて、きもちいぃ……っっ、ンンンンンっっ」  ビクビクと彼のお身体が大きく跳ねる。  私の熱に押し出されるようにして、ケイトの前からも自然と精が吐き出された。  ああ、よかった……。  悦んでいただけたようだ……。  彼がその御身で作り上げた液体は、彼の肌をさらに艶かしく飾り上げ、キラキラと聖なる白色に輝いていた。  たっぷりと聖力が宿ったその輝きに私は瞠目する。  そして、そこに込められた聖力……愛が、私へ向けられた物なのだと理解すると、私は彼の肌に散ったそれへと指を絡め、舌を這わせる。 「……ぁ……、……っ」  私の指が彼の肌をぬるりと撫でる度、彼は甘い吐息を溢した。 「なん、で、……俺の……舐めてる、の……?」  涙を滲ませて、とろりと蕩けたその瞳がたまらなく可愛い。 「ケイトから賜る愛を、一滴残らず受け取りたい」 「えぇ……? ん……んん……、ぁ……」  ケイトは少しだけ苦笑するような顔をしてから、私の与え続ける淡い快感に身を委ねた。  私が彼の零した愛を全て舐め取ると、ケイトはまだ時折震える身体で私をじっと見上げて、甘く愛らしくねだった。 「俺にも……リンのを……。もっと、ちょうだい……?」 「ああ、もちろん喜んで。ケイトの心が私の愛で満たされるまで、何度でも注ごう」 「ほんとに……? ふふ、ありがとぅ……。リン、だいすきぃ……」  いつもはっきりと聞き取りやすい彼の言葉が、快感に蕩けて私の前でだけ甘く緩む、この瞬間がたまらない。  胸が熱く焦がれると、ケイトの内側で私のモノも力を増した。 「あっ、ん……っ、かたい、の、うれしい……」  私がもっと欲しいのだと素直に伝えてくださる彼の身体に、その言葉ひとつひとつに、私はどうしようもなく煽られてしまう。  ゆるゆると彼を揺らし始めると、彼はまた愛らしく甘い声をいくつもいくつも零してくださった。  ***  そんな、昨夜の甘い情事を思い返しつつ、幸せな気持ちで眠りについた日の、翌朝。  私は目覚めと同時に失態に気づいた。  下着の中に、ぬるりとした感触がある。  これは何ということだ。  まさに大失敗と言えるだろう。  性に目覚めたばかりの10代の少年というわけでもあるまいに……。  私は焦った。  一刻も早く証拠を隠滅しなくては。  何せケイトは人よりも随分と察しが良い。  大慌てで立ち上がった私の肩に「リン?」と愛しい人の声がかかる。  ああダメだ。  彼に今、私の状態を尋ねられてしまったら……。  私は、彼の問いに対して、全てを正直に話す以外の選択肢を持たないというのに……。  どうか、このまま見逃してはくれないだろうか。  こんな失態を、彼に知られたくはない。  愛しい彼の前でだけは、私だって男として多少なりとも格好をつけていたいのだ……。  しかし、彼はいつものように優しい声で、だが私の異変を僅かに察知した様子で「どうかした?」と心配そうに尋ねた。  ……終わった……。  私はどうすることもできず、がっくりと肩を落とした。 「……それで、こんな事になっちゃったの?」  私の説明を聞いて、聖女の姿でケイトはそう確認なさった。  苦笑を滲ませながらも、私に優しく浄化をかけてくださる。  彼の美しく輝く聖なる力が私の失態をそっと包み込み、まるで何事も無かったかのように消し去る。  私は深く頭を下げ、反省の意を示した。 「至らぬ私のせいで、早朝からお手をわずらわせてしまい、大変申し訳ございません……」 「至らぬっていうか、至ってはいたけど……」  ケイトが私には聞き取れない声で小さくぼやく。  なんだろう、彼に……幻滅されてしまっただろうか……。  私が嫌われてしまう分には致し方ないが、彼をがっかりさせてしまったのだとしたら、それは本当に、万死に値する行いだろう。 「本当に……、申し訳ございません。深く反省し、二度とこのようなことのないよう努めます」 「いや、別に謝るような事じゃないんだけどね。……うーん……俺ってリンに我慢させちゃってるのかな……?」  彼に我慢を強いられていると思った事など一度もない。  私はただ、彼に求められた時に必ず応えたいと願っているだけだ。  ケイトは考え込むような顔をする。  私は彼のこの表情が好きだ。  いつも優しく弧を描く眉がそうやってわずかに寄せられると、彼の横顔は途端に精悍なものへと変わる。  そこへ少し伏せられたまつ毛が、何とも言えず理知的で美しいのだ。  その表情は、本来の姿でも、聖女の姿でも変わらなかった。 「リンが俺に遠慮する必要はないんだよ? したいときはいつでも誘ってね?」  彼はそう言ってふわりと微笑んだ。  朝日が淡く差し込む部屋で、聖女の姿をした彼の淡いピンクの髪が優しく揺れる。  その姿は本当に美しいのに。  それでも私は、彼の黒髪が朝日に透けて優しい茶色に揺れるのを見たいと思ってしまう。  ああケイト……、私はいつでも貴方に触れたい。  本当は四六時中、ずっと……常に貴方に触れ続けていたいと思っている。  だがそんなことを口にしては、貴方の歩みの邪魔をしてしまう。  私は貴方の足を引っ張るような事は、微塵も行いたくないのだ。  だから私はこれからも、貴方が私を求めてくれる時にだけ、その求めに応じるだろう。  私は彼の優しい許しに、小さな願いを込めながら「はい」と答えた。  叶うならば、彼が一夜でも多く私を求めてくださいますように……。

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