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騎士達の話と殺気

 どうやら声は騎士達のテント側から上がった声のようだ。  カラサディオはそちらへと視線を向ける。  今頃、聖女様もあちらにいらっしゃるのだろうか……。  何となく耳をすましていると、騎士達の会話が途切れ途切れに聞こえてきた。 「ソーン!」 「お前無事だったのかよ!」 「聖女様凄すぎんだろ!!」 「さっさと顔出せよな、心配してたんだぞ!?」 「班長にこってり絞られてたんだよぉ……」 「いやもう俺、あの姿見た時ソーンは死んだと思ったからな」 「真っ黒焦げだったよなぁ」 「そーそー、赤じゃねーの、黒だったよな!?」 「知らないよぉ、俺見てないもん……」 「ったく本当に聖女様に感謝しろよ!?」 「感謝してるよぉ」 「流石の聖女様も、お前を治すのには相当ご無理をなさったんだぞ!?」 「本当になぁ。あの聖女様が倒れられた時には、もうどうなることかと……」 「この旅に来てくださったのがミノル様じゃなくてよかったよなぁ」 「本当にな、ケイト様は最高だよな」 「あったかいお方だよねぇ。見てると眠くなるよぉ」 「それはソーンだけな」 「皆にフレンドリーでさ、優しいのに強いんだよなぁ」 「可愛い姿してんのに、戦場だとめちゃくちゃ凛々しい顔するんだよなぁ」 「そーなんだよ! 可愛いのにカッコイイってどういうことだよ!」 「強い聖女様もいいが、俺はよそゆきお上品モードも好きだ!!!」 「ああ、あれはあれでまた良いよなぁ」 「深層の令嬢感がイイよなぁ……」 「ふわんとした喋りがたまらなく可憐で可愛らしいんだよなっ!!」 「見てると眠くなるよねぇ?」 「それはソーンだけな」 「俺は男のケイト様も好きだけどな」 「あーっ、俺それ見たことないんだよ!」 「見たことないやつの方が多いって」 「俺チラッと見たことあるけど、あんま覚えてねーな」 「そんな印象薄いんか」 「んー? 普通の男子……?」 「どんな感じだよ、教えろよ」 「知らねー奴は知らないままのがいいんじゃねーの?」 「夢が壊れる感じなのか」 「まああれだ、細くはない」 「そーそー。騎士ほどじゃねーけど、文官って感じじゃないよな」 「どちらかといえば肉体労働向きの体?」 「……マジか」 「そうだったのか……」 「いやでもさ、雰囲気はほんわかしてんだよ」 「なんかこう、ほのぼのっていうかほわほわっていうかさ」 「すげー平和な感じ、正直癒される」 「俺、男のケイト様の部屋番なら一生したい」 「分からんでもない」 「いや俺は分からなくなってきたぞ!?」 「男のケイト様に、にこって笑顔を向けられるとさ、なんかキュンっとなるんだよな」 「何でだよ!?」 「お前そっちだったのかよ!」 「いや分かる……」 「お前まで!?」 「聖女姿の笑顔がドキーンって感じだとしたら、元聖女姿の笑顔はキュンって感じだよな」 「そーそー! それだよ!」 「何だよ、トキメキ減ってんのか」 「ちげーって、トキメキの種類が違うんだよ!」 「なんつーか、やべぇ……俺が守ってあげなきゃ……、みたいな気持ちになる」 「どっちに」 「男の方」 「何でだよ!?」 「ぜってーおかしいだろ!?」 「今の話聞く限りそうはならんだろ!?」 「まあ落ち着けって、この巡礼が終わったらケイト様も元のお姿にお戻りだろうよ」 「ケイト様は男のお姿でもあったかい方なのかぁ、眠くなりそうだねぇ……」 「ソーンはもうテント戻って寝とけって」 「巡礼後にはお前らもあのお姿にときめくがいい!」 「いや、男の笑顔にはときめかんだろ」 「俺は夢が壊れるの怖いんで遠慮しとく」 「おい失礼な事言うなよ、あっちが本当のお姿だぞ!?」 「本当の姿じゃなくてもいい! 俺は可愛い女子の姿にときめきたいんだよ!!」 「そんな事言って、お前が男のケイト様にときめいたら笑ってやるからな」 「つーか、こいつなら絶対一発でノックアウトだろ、ケイト様の笑顔に」 「あはは、間違いねーな」 「何でだよっ!」  どっと笑い出す騎士達の声を遠くに聞きながら、カラサディオは震える手で窓を閉めた。  …………ど……。  どういう……こと……だ……?  頭の中で今聞いた話を整理しようとする。  けれど、おかしいくらいに、まるで思考が働かない。  整理すれば簡単に繋がりそうなそれを、どうしても理解したくないと思っている自分がいる。  カラサディオは、困惑する自分を宥めることもできないまま、ただ馬車の床板をじっと見つめていた。  *** 「それって……、シオンが……盗賊集団を率いてるって事ですか……?」  俺の言葉にダリスは頷いた。  ダリスは、俺がソーンを回復した後で「約束は約束ですから」と言って、シオンについての情報を話してくれた。  リンが遮音の魔道具を出してくれたおかげで、救護テントの中での会話でも、俺とリン以外には聞かれていない。 「貴女のおっしゃるシオンという人物が、褐色肌に銀髪で50代中頃の男であるならば、ですが」  ああ、それは間違いなく、俺の知るシオンだ……。  あの頃16歳だった彼は、今頃54歳を迎えているだろう。 「あの、その情報は……」  思わずたずねてしまった俺に、ダリスは「それは答えられません」と言った。 「ただ、我々にも独自の情報ルートがあるというだけです」  なるほど……。  さすが王族は違うなぁ。  密偵とかお庭番みたいな人がいるんだろうか?  会話が終わったと見たリンが魔道具を停止させる。  俺はダリスのくれた情報に心から感謝の言葉を告げた。 「教えてくれてありがとう、ダリス」  途端、どこかでチリっと殺気めいた気配を感じた。  俺の後ろでリンが剣の柄に手をかける。  俺の前では、ダリスが額を押さえてため息をついていた。  何だろう。ダリスには今の殺気に心当たりがあるんだろうか……? 「お気になさらず、聖女様に害なす者ではありません」  よく分からないけれど、さっき言ってたダリス達の部下さんだろうか?  しかしなんで殺気……?  何かの合図に使われてるとか……?  いや、殺気を……??  俺は内心首を傾げつつ、テントを出るダリスを見送った。  しかし……、あのシオンがなぁ……。  今回は聖球が目的だったようだけど、だとすれば、俺がこの先巡礼中に聖球を作り続ければ、また襲撃される危険もあるって事なのかなぁ……?  ダリスがテントを出た途端、口を開いたのはヒアッカだった。 「いやー、兄さんめっちゃ我慢したっスね!」  ん? 「最後まで我慢できて超えらいっスよ! 俺正直ヒヤヒヤしてたっス!」  何の話……?  少し遅れてアンナとクロイスが「ああ!」みたいな顔をする。  何? 何??  俺分かんないんだけど……?  あ、でもさっき見たリンは確かに、泣きそうな顔をしていたよね……。  泣きそうな顔になっちゃうくらい、何かを我慢していた……?  振り返れば、リンは兜の下で顔を赤くしていた。  なんで? 「ほらほら、ケイト様も兄さんに手握らせてやってくださいっスよ」 「手?」 「ラドムさんに握られたり、お貴族サマの護衛の兄さんに握られてた手っスよ」  あ……。  あーーーーーー、そういうことか……!  俺が両手を差し出すと、リンは素早くもう片方のグローブと手甲も外して、両手で俺の手を包み込んだ。  思ったより素直に……むしろ飛び付かんばかりの勢いで手を握ってきたリンに、思わず笑いがこぼれてしまう。  なんだか可愛いなぁ。 「我慢しててくれたの? ありがとう」 「……っ」  息を詰めてしまったリンの代わりに、ヒアッカが口を開いた。 「さっき兄さんがわざわざ遮音の魔道具出してきたのも、多分ケイト様にあの男を近づかせたくなかったからっスよ」  ああなるほど、このテントで内緒話をしようとすれば、自然と顔を寄せてヒソヒソする事になるのは……確かにそうだろうな……。 「……そうなの?」  リンに尋ねると、リンは消えそうな声で「申し訳、ありません……」と肯定した。 「謝らなくてもいいのに。助かったよ、ありがとう」  感謝を込めて微笑むと、リンはようやくホッとしたような顔を見せた。  俺はリンの手を包むようにして、むぎゅむぎゅと握る。  リンが安心してくれますように。 「ヒアッカも、教えてくれてありがとう。助かったよ」  おかげでリンを長い事嫌な気持ちにさせなくて済んで、本当に良かった。  ヒアッカは特に助言のつもりもなかったようで、一瞬きょとんとした顔をしたけど、いつもの人懐こい顔でニカッと笑って「役に立ったなら良かったっス!」と答えてくれた。

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