195 / 202

気合い入れるよーっ

 思わぬ火災で宿を焼け出された俺達は、いくらかの物資を失って、翌日は一日買い出しに費やすことになった。  幸い東側で一番大きな町での出来事だったため、物資は町で無事補給できたが、騎士団としては思わぬ出費だっただろうな……。  そんな俺にこっそり教えてくれたのはドルーグだ。 「今回の火災被害に対しては、あのお貴族様が全額負担してくれたらしいですよ」 「そうなの……?」 「はい、まあ私が言わなくてもそのうち本人が自慢しに来そうな気がするんで、その前にと思いました」 「あはは、それはそうかも……」  そんな会話を交わしたけれど、俺とカディーはその後特に話す機会もないまま町を出た。  5本目の結界柱に近づくにつれて瘴気の気配を感じ始める。  次の村は6本目の結界柱を浄化したその先だから、今回は東回りで最初の町でも村でもない野営地を拠点にした浄化活動になる。  まあ、ここまでが村と町が並んでいただけで、この先キリアダンまでに野営地を利用して2本の柱を続けて浄化するパターンが3回は入るんだけどね。  西側の野営地は2箇所だけど、向こうは1箇所の野営地で3本の結界柱を浄化することになるからどっちが楽かというと……、どっちもどっちかな。  今日は結界柱の浄化が予定されている日なので、護衛は4班の皆だ。  クロイス以外の4人は、俺の馬車を囲むように馬で付いてくれている。  いつもは町から直接結界柱のところへ行くんだけど、今回はカディー達を先に野営地に送り届けてから行くことになっている。  けどもう、この辺りから瘴気が濃くなってきたな……。  俺は馬車の窓を開けると叫んだ。 「皆さん、止まってください! 一度加護をかけます!」  騎士の皆さんも最近では俺のやり方に慣れてくれたようで、俺が馬車を降りた時には騎士達は既に馬を降り2列に並び始めていた。  前側からかけ始めて後ろまで両手で左右の騎士達にかけつつ歩いて行く。  カディー達は1本目の結界柱でゴネて襲撃されて以降、結界柱の浄化の際には大人しく町や村で待機してくれていたけれど、今回は野営地まで来るので、ちょっと瘴気の濃いところも一緒に通らなきゃだよね。  何なら野営地まで付き合わずに、町から直接次の村に行ってくれててもよかったんだけどね……。  なんて言われるかな、と思いながらカディーの私兵達のところまで進むと、ダリスが私兵達を騎士達と同じように2列に並べてくれていた。 「お心に感謝いたします」と頭を下げられて、ああ、話が通ってるなら良かったと思いつつ全員に加護をかける。  カディーとダリスと侍女さんにもかけて、それぞれにお礼の言葉をもらって、俺はひとまずホッとしながら馬車へと向かう。  そういえばカディーと目が合わなかったような気がするけど、気のせいかな?  カディーはいつも青紫色の瞳で俺のことを懸命に見つめてくるから、ほんの少しの間でも目が合わないことってないんだけど……。  まあ、俺も次々に加護をかけてたから、俺がたまたま彼の目を見なかっただけかもしれないな。  俺はそんな風に、深く考える事なく馬車に戻った。  何度か浄化をかけながら野営地を目指す。  あれ?  この辺りはそんなに瘴気が濃くないな……?  野営地でカディー達と別れて、俺と護衛騎士達は5本目の結界柱へと向かう。  この柱は珍しく森の中というよりも草原に近い感じの場所にあるから、馬車でそこそこ近くまで行けるんだよね。  俺達は結界柱が見えるところまで進んでから、馬車を降りた。  ここら辺は人が住んでいないからか、今日のリンは久々に外で顔を出している。  野営地も瘴気が薄めだったけど、結界柱の周りもこれまでに比べて随分と薄いな。  ああ、そうか……。  去年の聖女はここまで来ていたんだな……。  カイルがポツリと呟いた。 「ユーリ様は、青く長い髪の美しい聖女様でした……」  それが去年の聖女さんの名前だろうか。  反対から回っていた去年の聖女さんからすれば、これは15本目の結界柱だったんだな。  ここまできっと皆と頑張ってきたんだろう。  あと5本で全てが終わると、思っていただろうにな……。  騎士の皆を見回すと、皆どことなく暗い顔をしている。  去年の事を思っているんだろう。  この場所で亡くなったのは聖女だけではなかったのかもしれないよな……。  草原にポツンと立つ結界柱に向かって歩き出すと、俺の周りをいつもの4班が囲ってくれる。  いつも穏やかな微笑を浮かべているフォーンも、今日はどこかぎこちない顔をしていた。  皆の気持ちは分かるけど、こんな雰囲気じゃ良くないよな。  俺は努めて明るく声を出した。 「皆、頑張ろうねっ! 俺も精一杯浄化するから!」  ハッと顔を上げた皆の視線が俺に集まる。 「ここさえ乗り切れば、後の行程はもう少し楽になるよ!」  俺はそう言って、にっこりと最高の笑顔を振りまく。  せっかくの聖女の愛らしい容姿を、ここで使わないでいつ使うのか。  俺は、こうやって皆を励ますためにこそ、全力で微笑みたいと思う。  おおお……、と、騎士達からどよめきが起きる。  よしよし、あともう一息かな。 「皆ーっ。気合い入れるよーっっ! 行くぞーーっ!」  俺の声に「「「「おおおおおおおおっっ!!!」」」」と気合十分な声が上がる。  うんうん、よかった。  お通夜みたいな空気は吹き飛んだみたいだ。  視線を感じて見上げると、団長さんが苦笑していた。  あ、もしかしてまた団長さんの仕事を取っちゃったかな……。  俺が『すみません』という気持ちで小さく頭を下げると、団長さんはニコニコ笑顔で首を振ってくれた。  うう、団長さんの懐が深くて救われる……、ありがとうございます、団長さん。 「一旦索敵しますね」  断りを入れて、俺は祈りのポーズを取ると集中する。  俺の背中側にはリンがピッタリ付いている気配がする。  ここは見晴らしのいい草原なんだけど、びっしり生えてる草の高さが聖女の俺の腰くらいまであるし、意外と草の間に魔物が潜んでるんだよな……。  なので、草原地帯に入る前にしっかり広範囲を探っておきたい。  俺は浄化の応用で広範囲を薄く清めながら確認する。  ああ、やっぱり結構たくさん潜んでるな……。 「結界柱を12時の方向として、10時の方向、手前に3体奥に5体、11時の方向は奥に2体、これは育っていて強そうです。12時半の方向に3対、これは手前と中央と奥ににそれぞれ1体ずつバラバラに動いています。2時の方向にも2体いますがかなり距離があるので後回しにしましょう」  報告を終えて目を開けると、皆が目を丸くしている。  あ、流石に15体もまとめて報告したら覚え辛かったかな。  不意打ちを受けないようにと思って広範囲一気に調べたから……。  情報を小出しにするべきだったかなと思っていたら、ヒアッカが笑って言う。 「ケイト様相変わらず最強っスね!? そんで最初に接敵すんのはどれなんスか?」

ともだちにシェアしよう!