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【サブ】仲の良い同僚なだけ (10巻 それぞれの思い)
***〈クロイス視点〉
ケイト様のテントにいたはずの僕は、あっという間にカイルさんとフォーンさんに担がれて外へ連れ出されていた。
野営地に並ぶテントの数々を夕焼けのオレンジ色が染めている。
「いっちにー、いっちにー」と進む2人の腕から伝わってくるのは、歩幅や方向、角度といった情報で、とっとこ進む2人が実はその歩幅やペースをピッタリ揃えて動いてるんだということに驚く。
『あそこだろう』と当たりをつけたフォーンさんが思い浮かべた場所と『OK』と答えたカイルさんが頭の中で思い浮かべた場所の映像が角度まで一緒だった事にも驚いたし、そこへその映像と全く同じ角度から自分が入って行く時には、この2人はテントからここまでのルートをあの時点で思い浮かべてたのかとまた驚いた。
「いたいた」
「ヒアッカなら絶対直接頭冷やしてると思ったよ」
「ペース落として3で止まるぞ、1、2、3」
止まる時ですらピッタリ同じ動きの2人に、こんな風に心の通じ合った仲間がいるってすごいなぁ……と僕は思わず感動する。
ヒアッカは2人の想像通り、馬用の水が汲んである大きな桶に頭を突っ込んでいた。
少し奥に繋がれた馬達が、なんだか迷惑そうな顔でヒアッカを眺めている。
「おい、ヒアッカ風邪ひくぞ」
カイルさんに言われて、ヒアッカがようやく頭を桶から上げる。
俯いたままの真っ赤な髪から、ボタボタと水が滴っている。
もう11月も半ばだというのに、寒くないんだろうか。
いや、寒くしていたというか……冷やしていたのか。頭を……。
「あー……拭くもん何もねーや」
垂れる雫をそのままに俯いているヒアッカに、カイルさんが僕の背に回していた腕を一瞬離して何かを投げた。
「ったく、これ使え」
ばさっとヒアッカの頭にかかったのは手拭いだ。
「あ、助かるっス」
「お前はもうちょっと後先考えて行動しろよ……」
ガシガシと髪を拭いたヒアッカが顔を上げて、僕を見た途端、ふき出した。
「ぶはははははっっ」
こちらを指差して、ヒアッカはお腹を抱えて笑っている。
カイルさんから『全く失礼だなこいつは……』という声が、フォーンさんからは『中腰結構きついな……』という声が聞こえた。
あ、そっか、身長差があるから……。
「ふ、ふ、2人ともっっ何してんスかっ!?」
ヒアッカの言葉にカイルさんが答える。
「だってお前、俺達のどっちかがお姫様抱っこでクロイス抱えてきたら嫌だろ?」
「う。確かに、ちょっと嫌かもっスけど……」
嫌なの? なんで……?
それってディアリンドさんみたいな、ヤキモチってことなの……?
嬉しいような、怖いような、よく分からない気持ちに胸が苦しくなる。
「だから気ぃ遣ってやったんだよ。フォーンなんて俺に合わせて膝曲げてっから大変なんだぞ?」
「カイルがもうちょっと背が高ければ良かったんだけどね」
「それは俺も気にしてんだから言うなって!」
「そんで、お姫様じゃなくて女王様抱っこで来たんスか!?」
「はぁ!?」
「女王様抱っこ……新しいな……」
カイルさんとフォーンさんがまるで違う反応をする。
「だって左右にイケメン侍らせて、クロイスふんぞり返ってるし……っ!!」
「そ、それは、前傾姿勢になったら落ちちゃうからっ……! 別に偉そうにしてたわけじゃないよっ」
またも笑い始めるヒアッカに、僕も思わず言い返した。
「お、イケメンって言われたぞ。俺イケメンか?」
「うーん。イケてないとは言わないけど……普通かな」
「普通かぁ……。フォーンはちょっと高貴っつーか貴族様感あるよな。端正な顔の作りって言うか、俺はフォーンの顔好きだな」
「そう? ありがとう。俺もカイルの真面目そうな顔には好感持てるね」
ぼ、僕を挟んでカイルさんとフォーンさんがお互いの顔を見つめ合っている……!
「はわわわわ……」
「ちょっ、お二人さんの会話にクロイスがあてられて真っ赤になってんスけどっ!?」
「いや、勘違いするなよ? フォーンは家に可愛い奥さんが待ってるからな。俺は全力で恋人募集中だが」
カイルさんが答えると、フォーンさんはいつもの柔らかい微笑みをヒアッカに返す。
「そうそう、俺達は仲の良い同僚なだけだよ。でもヒアッカは違うんだろ?」
「え? えー……」
ヒアッカは首にかけた手拭いの両端を掴んだまま、眉間に皺を寄せて首を傾けた。
「そーゆーのよく分かんねーんスよ。俺恋愛とかした事ないんで」
「そうなの? 意外だな。ヒアッカ結構モテそうなのに」
フォーンさんの言葉に、なぜか僕の方がドキッとしてしまう。
ヒアッカって、モテそうなんだ……?
「確かに、騎士団には少ないよな、こういうシュッとした細いタイプ」
「顔もほっそりしてるし、ツリ目だけど瞳は大きいし、可愛げもあって女子受けしそうだけどな」
2人の言葉に、確かにと思う。
ヒアッカは縦横に厚みのある人の多い騎士団員の中では、スラッと細くて目を引くよね。
顔も、フォーンさんの言うように黙ってるとキリッとしててかっこいいのに、笑うとすごく人懐っこくなって可愛いんだ。
目尻が下がり切らない笑顔が、なんていうか猫みたいで可愛い。
「んー……。よく行く店の女の子に付き合ってって言われたことはあるっスけど、俺そーゆーのよく分かんねーんでパスって言ったっス」
「なんだこいつ、勿体無いことしやがって!」
「ヒアッカのくせに生意気だぞ!?」
カイルさんの本気で羨ましそうなツッコミに、フォーンさんがノリノリで被せてくる。
この2人はいつも大体このノリだ。
「つーかそろそろクロイス下ろそうぜ、俺腕痺れてきた」
「カイルは鍛錬が足りないんじゃないか? 俺はまだまだ腕は余裕だぞ。けど、膝と腰は、ちょっと、辛い……」
あっ、そうだった、結構前からフォーンさんが辛そうだったの忘れてた……。
「ごっ、ごめんなさいっ」
「フォーンのがやべえって!」
「それ明日に響くやつっスよ! ここ! 藁避けたっス!」
「おろせおろせ。1、2の、せーの」
ヒアッカが馬用の藁を僕が座れるように椅子みたいにしてくれて、僕はそこに下ろされた。
「ふぅ……」と腰を伸ばしたフォーンさんが拳で腰を叩いている。
「あの、すみません。お二人とも、連れて来てくださってありがとうございます……」
「気にするな、お前一人軽い軽い」と笑ってくれたのはカイルさんだ。
「ほらクロイス、俺達がここまで運んできてやったんだから、言いたい事なんでも言ってやれよ」
フォーンさんはそう言って、いつものように微笑んでくれた。
「は、はいっ」
思わず背筋を伸ばして答えたものの、えっと、何から話せばいいんだっけ。
女王様抱っこで色々吹き飛んじゃったよ……。
「えっと……」
さっきまで見下ろしていたヒアッカを、今度は見上げる。
まだ乾ききらないヒアッカの赤い髪は、夕日を浴びていつもよりキラキラと燃えるように輝いていた。
「あー……、クロイス、さっきはごめんな。勝手に悔しがって、飛び出してさ。わざわざ迎えにきてくれたんだろ、悪かったな……」
なんだかいつもより影のあるヒアッカの言葉に、僕は慌てて「ううん」と首を振る。
ヒアッカはカイルさんとフォーンさんにも「迷惑かけてすんません。あざっした!」と勢いよく頭を下げた。
「おう、いいって事よ。その手拭いは洗って返せよ」
「うっス」
「じゃあ俺らは行くか?」
「そうだな」
「俺ら夕飯取りに行くわ」
「お前達の分も班のテントに持っていっとくからな」
「あんま遅くなんねーうちに帰って来いよ」
「助かるっス!」
「あ、ありがとうございますっ」
立ち去ろうとしたカイルさんがふと振り返る。
「ああ、クロイスは帰りも迎えがいるか?」
う、確かに、まだ歩けるかというと……ちょっと自信がない……。
「いや、クロイスは俺がおぶってくから大丈夫っス」
「潰されんなよー」
「うっス!」
……ヒアッカがおんぶしてくれるんだ……?
でもヒアッカ細いのに、大丈夫かな……。
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