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【サブ】正しい友達との距離感?
〈引き続きクロイス視点〉
「ん? なんだよ、俺じゃ不満か?」
ヒアッカが僕の顔をジトっと半眼で覗き込む。
「そ、そういうわけじゃないけど……」
「けど?」
「その……大丈夫かなって、ちょっと、心配しただけ……」
僕の言葉に、ヒアッカは赤い瞳を大きく揺らして視線を地に落とした。
「……俺って、そんなに頼りねぇか……?」
しゅんとしたヒアッカの姿は、いつもよりずっと小さく見えた。
「そ、そうじゃなくてっ! えっと……」
「いや、実際そうなんだよな。俺、全然役に立たなくて……情けねーよな……」
夕日と重なったヒアッカは、赤い髪が夕日に溶けていて、そのまま夕日の中に消えてしまいそうな気がして僕は怖くなる。
「だ、だから、その……、あっ! ケイト様が僕の事を起こせたのは、浄化したからだっておっしゃってたよっ!」
「浄化……?」
ヒアッカの大きな赤い瞳がキョトンと瞬く。
「……なにお前、穢されてたのかよ」
ヒアッカが、僕のすぐ前までやってくる。
「う、うん。心の中に穢れをもらっちゃったみたい……」
「はぁ? 心を穢されるって……なんか、それ、体を穢されるよりヤベーんじゃねーの?」
ヒアッカは僕にそうっと手を伸ばしてくる。
なんだろう、この手って……握ったらいいのかな?
「わ、わかんないけど……」
ヒアッカの手は僕の目線くらいの高さで進んできて、僕が戸惑ううちに、僕の頬に届いた。
なっ、なんだろう、これ……。
ヒアッカの手は水に触れてたせいかひんやりしてたけど、サラッとした感触のヒアッカの指が、僕の頬を優しく撫でた。
あ。
無言のまま僕をじっと見つめるヒアッカから、感情が伝わる。
『さっきまで、お前……ずっと起きなくてさ、声かけてもかけてもピクリともしねーしさ、お前の手、俺がずっと握ってたのに、ずっと呼びかけてたのに、手も体も、だんだん冷えてってさ、俺……あのまま、お前が……死ぬんじゃないかと……思って……』
ヒアッカの赤い瞳に涙がゆっくりと溜まる。
それは、ぎゅっとしかめられた顔の端から零れて、夕日の中で赤い宝石みたいに煌めいて……。
僕は思わず、その雫を手の平で受け止めていた。
ヒアッカの雫を拾った僕の手の平を、ヒアッカが覗き込む。
「……何してんの?」
「え、あ……なんとなく……?」
僕の答えに「ぶはっ」とヒアッカが笑った。
笑った拍子に、ヒアッカの瞳に残っていた涙が溢れる。
その雫がヒアッカの頬を伝うのは見たくない気がして、僕はヒアッカの頭を両腕で抱き寄せた。
「へ? クロイス……?」
ヒアッカの髪はまだちょっと濡れてたけど、ヒアッカの頭はじんわり温かくて、僕の胸に、なんだかすごくピッタリ収まった気がした。
そっか、最初からこうしてあげればよかったんだ。
泣いてる妹を慰めてあげる時は、よくこんな風にしていたから。
ヒアッカが年上だからとか、先輩だからとか、そんなの気にしないで、よしよしって慰めてあげたらよかったんだ。
ケイト様も、悲しい人がいたら、いつも優しく撫でてくれるから……。
僕はなんだかすごく納得して、ここまでザワザワしていた胸もすっかり落ち着いて、ヒアッカの赤い髪を優しく優しく撫でた。
「いっぱい心配させちゃったね、ごめん。でも……、あのね、僕、ヒアッカがあんなに僕のこと心配してくれて、嬉しかったんだ」
僕の言葉に、ヒアッカの中にぶわっと喜びの感情が生まれるのを感じる。
ああ、可愛いな。
僕の言葉にいつもまっすぐ応えてくれるヒアッカが、僕も、とっても大事だよ。
ヒアッカをこんな風に悲しませたり悔しがらせない為には、僕はどうしたらいいんだろう……。
「……俺さ、お前の事ちゃんと守りてーんだけど、……どうすりゃいーんだと思う?」
ヒアッカの言葉に僕は瞬く。
ヒアッカも、僕と同じような事を考えてくれているみたいだ。
僕の願いもヒアッカの願いも結局は一緒なのに、どうしたらいいのかが僕達には分からない。
「どう、したらいいんだろうね……。ケイト様に相談してみる?」
僕のなんとも頼りない人任せな発言に、ヒアッカは小さく笑って頷いた。
「ん……。俺達じゃわかんねーもんな、そうすっか」
すっかり涙もおさまった様子のヒアッカの頭を手放す。
念の為にヒアッカの両目を親指の腹で撫でて確認すると、ヒアッカは少し恥ずかしそうに「もう泣いてねーよ」と言って、照れ笑いを浮かべた。
「よし、じゃテント戻るか。乗れよ」
僕の前にヒアッカの背中が差し出される。
……そうだった。
帰りはヒアッカのおんぶだった……。
「自力で掴まれるか? 手握っとく方がいいか?」
ああ、意識のない人を運ぶ時は足の下から入れた腕で相手の手も握っとくんだっけ。
「多分大丈夫……」
「多分なら握っといてやるから、ほら、前に手出せ」
「う、うん……」
でもなんか、これ、ギュッとくっつくのがちょっと恥ずかしいって言うか……。
僕を背負ったヒアッカは、僕と同じくらいの肩幅の割に、ふらつくこともなく歩き出した。
「俺、今まで魔物が倒したいってずっと思っててさ、いっぱい倒して、何匹倒したよってじいちゃんに報告すんのが楽しみでさ。聖女様のこと守ろうとかはあんま考えてなくてさ」
ヒアッカの話を、僕はヒアッカの背中で聞く。
「でもケイト様は、初めて守りたいと思った聖女様でさ、そんで、お前の事も守りたいって思ったんだけどさ」
……なんで、そこで僕の事も守りたいって思っちゃったの?
ケイト様は剣を持たない人だからわかるよ?
でも僕はヒアッカと同じ騎士なのに。
「俺よく考えたら、守り方って知らなくてさ、今まで誰かを守ったことなんてなかったんだよなぁ」
自分の言葉にケラケラと笑い出すヒアッカに、自嘲ってそんな楽しそうに笑うものだっけ……? と思いながらも僕はさっきの疑問を口にする。
「……なんでヒアッカは僕のこと守りたいって思うの?」
「んー、それが俺にもよく分かんねーんだよな」
相変わらず、ヒアッカは心の声と口から出る声にタイムラグがほとんどない。
考えている間も、そのまま口を動かしてしまうタイプなんだよね。
「俺よりちっちゃくて可愛いからじゃねぇかな?」
「か、可愛い……!?」
「おう、すげー可愛い。その金髪も明るくて可愛いしさ、その青い色した目もキラキラしてて好きだ」
「す、好きって……」
さっきのフォーンさんの言葉のせいで、つい意識してしまう。
ヒアッカはそういうつもりじゃないって言ってたのに……。
「あー、そういうつもりじゃねーんだけどさ、けど、俺クロイスのことすげー好きなんだわ」
後ろからは見えないけど、多分ヒアッカはニカッて人懐こい笑顔をしたんだろうなって思う。
「いっつもすげー頑張ってて、偉いなって思うし、なんかもっと俺も助けてやりてーなって思う」
ヒアッカが思い浮かべてくれている頑張っている僕の姿は、現実よりも努力感マシマシに見えてる気がするよ……?
「俺さ、お前には笑っててほしいんだよな」
へへへ、と照れ臭そうに笑うヒアッカがたまらなく可愛いんだけど、これって本当に友愛なの? ヒアッカ的には友愛なの?
じゃあ寮だと同室のアークとはもっと仲良く過ごしてるの……!?
僕にはヒアッカの距離感が全然わかんないよ……。
ううう、ドキドキしちゃうのは僕だけなのかな……。
僕がぐるぐると悩むうちに、4班のテントに到着してしまう。
「突っ込むから顔下げとけよー」
「う、うん」
両手の塞がったヒアッカが天幕を強引に突破すると、カイルさん達の声がした。
「おー、やっぱりな」
「ヒアッカなら突っ込んでくると思ったよ」
「食事避けといて正解だったな」
「ただいまーっス」
ヒアッカの明るい声に、僕も「ただいま戻りました」と続けると、ドルーグさんもカイルさんもフォーンさんも笑っておかえりと答えてくれる。
4班の人達は、僕に遠慮なく触ってくれる。
これまでずっと、僕は親戚にも近所でも学校でも避けられ続けていたのに。
それがなんだか不思議で、でも嬉しくて……。
僕は4班の人達が大好きだ。
ケイト様の事も大好きだ。
マリーとアンナも普通に好きだ。
でも僕のこの『好き』は、ヒアッカが僕に向けてくれる『好き』とはちょっと違う気がするんだけどなぁ……。
うーん……よく分からないや……。
そもそも僕は人から距離をとって過ごしていた時期が長すぎて、正しい友達との距離感というのが全く分からないんだよね……。
とにかくその辺も含めて、ケイト様に相談してみようっと。
僕はそう決めると、カイルさん達が僕とヒアッカの2人分を並べてくれた食事に手をつけることにした。
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