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信じたいと思う気持ち
俺は、なんとなく助けを求めるような気持ちでリンを振り返る。
けれどリンはカラサディオの方に全力で同意していた。
なんでそんな「分かる」みたいな顔で頷いてるんだよ……。
だから、俺はそんな人間離れした崇高な存在じゃないからね……?
「私はそんな大層な者ではございません、ただ聖力を扱えるだけなのですから」
そう言って、俺はなんとか強引にカラサディオの賞賛ラッシュを終わらせる。
残念そうに止めたカラサディオに俺とダリスガンドと侍女さんが思わずホッとすると、なぜか背後からも前から漂う物と同じような残念そうな気配がした。
リンはそこでガッカリしないでほしい。
「あの……、カラサディオ様はどうして私にそのようなお話をなさるのですか……?」
「自身の愚かな思い違いに気づき、任務の達成不可能を確信した……というのはもちろんありますが、私は純粋にケイト様のことをもっと知りたいのです」
俺の……何を知りたいんだ……?
「幸いなことに、私はこの旅の終わりまで、もう少しの時間をケイト様と共にいられる幸運に恵まれました。ならばこそ、私はこの機会を逃すべきではないと考えています」
「機会、ですか……」
俺としても、確かに彼は教会では得られない情報を持っている可能性のある人ではあるんだけど……。
「はい、本に書かれている知識ではなく、実際の巡礼でどのようなことが行われているのかも、我々は知る必要があるのだと感じました」
そう答えたカラサディオの瞳は、自身の無知を恥じている様子だった。
この人ってもしかして、あれから本当に真面目に勉強をし始めたんだろうか。
いや確かに俺が、勉強はしたほうがいいよって言ったけどね。
ああでもそうか、あれほどに俺を高評価しちゃってる人なら、俺の言うことならって即行動するのかもしれないな……。
「カラサディオ様は巡礼や結界、結界柱についてどの程度ご存知ですか?」
尋ねた俺に、カラサディオは自身の知る限りのことを伝えてくれた。
それは本当に、聖女が巡礼でこの国をぐるりと回って結界柱を浄化する事により結界が守られ続けます。という基本の内容のみだった。
「……それは……、カラサディオ様のご兄弟やご両親もそういった認識であると思っても良いのでしょうか……」
俺の言葉にカラサディオは正直に答えてくれた。
「それに関しては私には判断いたしかねます。私は兄の予備としてほぼ同様の教育を受けてはおりますが、あまり熱心でなかった事に加え、立場の違いもありますので……」
なるほど、カラサディオに意図的に知らされていない事も少なからずあるだろうという事か……。
うーん……、聞くだけ聞いてみようかな。
「カラサディオ様は、もしお兄様やご両親のお持ちでない情報を手に入れた場合、それをどう扱うおつもりでしょうか」
「……まさか……私を……信頼してくださるのですか……?」
えっと、期待してくれてそうなとこ悪いんだけど、正直に答えるね?
「それはまだ分かりませんが、カラサディオ様を信じたいと思う気持ちはあります」
青紫色の瞳が大きく瞬く。
それは俺が思うよりもずっと、喜びを映していた。
ああ、彼の瞳はよくよく見ると単純な青紫色なのではなく、中央付近に赤味が入った青い瞳なのか。
リンみたいで綺麗だな……。
「ケイト様のお気持ちに応えられるよう、全力を尽くします」
それはつまり、無条件で全てを筒抜けにするような事はしないでくれると思っていいんだろうか。
うーん。
まだ彼が味方であると判断するのは難しいけど……。
でも王族に一人でも味方ができるなら、とてもありがたいことだよね。
ただ、父さんも父さんで別勢力と連絡を取ってるみたいなので、そことどう関わるか次第ではあるけど……。
あー……、やっぱりそこ考えると俺の方はノータッチの方が良かったかなぁ……?
向こうとこっちで親子別々に権力争いに巻き込まれるようなことにならなきゃいいんだけど……。
「ケイト様の信頼を得られた暁には、ぜひケイト様の本当のお姿に拝謁が叶いましたらと願っております」
「……え?」
思いもよらないカラサディオの願いに、俺は思わずポカンと彼を見つめ返す。
えーと……、だって、もうカラサディオは俺の事ピンク色に見えてるんだよね?
じゃあ、本当の姿って……まさか、男の姿の……俺が、見たいの……?
「ケイト様は男性であると聞き及びましたので」
サラリと涼しげに微笑まれて、俺は苦笑するしかなかった。
「そこまでご存知だったのですね」
フィリックさんの手紙によれば『元聖女』であるという記述で返したので男性だと思われている可能性は低そうだって話だったんだけどなぁ。
騎士達がそんな話でもしてたのかな?
って、待って待って?
めちゃめちゃ驚いてそうな顔がカラサディオの後ろに並んでるよ?
ダリスガンドと侍女さんは俺が男だって知らなかったっぽいけど……?
「ですのでどうか、我々にも普段通りにお話しいただけると幸いです」
カラサディオは素知らぬ顔で俺に微笑む。
ああなるほど、ようやく分かってきた。
カラサディオは知らないフリとか気づかないフリが特別上手な人なんだ。
ダリスガンド達はカラサディオの手綱を握ってるつもりでいるみたいだけど、実はそれすらも、カラサディオにそう思わされているだけなのかもしれない。
俺も騙されないようにしないとなぁ。
俺は感服するような気持ちを苦笑に変えて口を開く。
「……それは流石に、不敬ではないでしょうか?」
「私はここではロウフォード家の末端貴族カディーですから、聖女様にでしたら呼び捨てられてもまったく構いません」
えっへんと身分詐称して胸を張るカラサディオは確かに、ちょっとアホな子に見えるんだよなぁ。
これが演技なのだとしたら、彼には役者の素質がありそうだ。
いや、これは彼が立場上身につけざるを得なかった演技力なのかな……。
俺の胸に、あの日の茶店で聞いたカラサディオの身の上話が蘇る。
家族で争いたくない。できればずっと家族仲良く過ごしたい。
そんな願いを一つ叶えるためだけに、彼はここまで見えない努力をずっと積み重ねてきたのだろうか。
第二王子として生まれてしまったばかりに、人によってはささやかな願いが、彼にとってはとてつもなく難しい願いになってしまった。
それでも、彼はこの歳までずっと、それを諦めないで大切に握りしめてきた人なんだ……。
ああ、やっとこれまでの彼が俺の中で全部繋がった。
彼は間違いなく、本当の強さと優しさを持った人だ。
……それを、普段は隠しているだけで。
俺は、俺をまっすぐ見つめてくれる青紫色の瞳を見つめ返して「わかりました」と答えた。
それならせめて、俺達と旅をしてくれている間は彼を末端貴族のカディーとして扱わせてもらおう。
「じゃあこれからは、カディーと呼ばせてもらうね。俺にももっと気軽に話しかけてくれたらいいよ」
俺がそう言って微笑むと、カラサディオは今まで見た中で一番嬉しそうな顔で「ありがとうございます、ケイト様」と答えた。
……うん。分かってた。
カラサディオの崇めっぷりからして、敬語は抜けないだろうなって事は。
***
カラサディオとの話が思ったより長引いたので、俺はもうすぐ1時間になってしまうと慌ててシヴァルのところに向かったんだけど、シヴァルはさっき見たのと変わらない場所でまだ眠っていた。
「えっと……シヴァル、無事終わったよ、ありがとう」
声をかけるとシヴァルは目を開けて、銀青色の瞳で俺を見て、それから小さく微笑んで……。
「……眠ったようですね」
リンの言葉に「そうだね」と返す。
三度寝……?
というかシヴァルは今日一日をずっと寝て過ごすつもりなのかな……。
馬の世話が途中だったからと馬の所へ戻るリンの隣を歩きながら、俺はリンに尋ねる。
「シヴァルは1時間過ぎたらカディーのテントに来てくれてたと思う?」
リンは迷う様子もなく「はい」と答えた。
……そっか。
そうなんだ。
それならよかった。
俺達が出てきたから、シヴァルは安心してまた寝てたのかな。
でもどうやって、寝たままで俺達のことがわかるんだろう……?
リンは俺が小さく首を傾げたのに気づいたのか、説明してくれた。
「あの位置でしたら、彼のように地面に腕を付き、その掌に耳を乗せていた場合、我々が居たテントあたりまでは振動音で人の出入りは分かる筈です」
「へぇそうなんだ。リンもシヴァルもすごいね」
俺が笑って言うと、リンは遠慮がちに小さく微笑んだ。
ああ、やっぱりリンが一番かっこいいなぁ……。
カラサディオとの話以降、リンはフードを外していた。
俺が青い空を背景にしたかっこいいリンにうっとり見惚れていると、リンは少し迷うように視線を動かしてから、俺に言った。
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