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オタク系腐女子です

 ***〈柱の中の人、一ノ瀬 六花視点〉  私の名前は一ノ瀬 六花(いちのせ りっか)、26歳会社員。  短大を出て20歳から京和菓子のお店で働き始めて早6年、24歳からはデパ地下の販売店舗で店舗責任者をしていました。  幸い立地的に治安が良いのか客層が良いのか、クレーム対応もそんなに多くないし、バイトさん達も良い方が多くて。  毎日疲れはするけれどそこそこ楽しく働いて、推し活資金を稼いでは大好きなBLCPへ貢ぐ、そんな生活を謳歌していたオタク系腐女子です。  それが、――なんという事でしょう――。  突然の異世界転移で風呂場の鏡からここフロウリアに来てしまった私は、聖女だ聖女だと囲まれて、えっもしかしてイケメンな王子様に見初められて~とか、ムキムキな騎士と恋に落ちて~とか、そういうロマンスファンタジー的展開になるのか!? とワクワクしているうちに、ピンク色の柱の中に埋め込まれてしまったのです。  ……うん、我ながらわけわかんないなぁ。  特に最後。  異世界転移モノ!?  基本ハッピーエンドのやつじゃん!!  って思ってはしゃいでたんだけど、どうも私の思う異世界転移モノよりも、もうちょっとダークファンタジーっていうか、危機迫る状況だったみたいなんだよね。  基本ハッピーエンドが多いジャンルではあるけど、バッドエンドだってあるよねそりゃ……。  まあ、閉じ込められたとはいえ、痛いわけでも死ぬわけでもないみたいだし、まあいっかー。そのうちなんとかなるでしょ。  なーんて思ってたんだけど、全然誰も助けに来ないって言うか、もう誰も私が埋まってることすら知らないじゃん?  もしかして私って、ヒロインどころか脇役でもなくて……ただのモブ??  いっぱい立ってる柱のうちの1人なわけ!?  そのうち段々待ってるのも飽きてきちゃって、もう寝てようかな~……なんて思って……。  ……そうやって、だらだら寝続けてたら、なんかもう、起きる気力もなくなっちゃったわけよ。  だってほら、起きたところで新たな萌えの供給もないじゃない?  脳内で大事に崇め続けていた推しCPのビジュアルもだんだん朧げになってきちゃうしさぁ……。  せめてスマホがあれば、何回でも繰り返し美麗イラストを拝むのに……。  妄想だって、そう何年もは続かないし……。  はぁ……、自分に創作スキルがないことが恨まれるわ……。  ……そんな風に、萌えも生きる気力も失いかけて、ピンク色の柱に溶け込みつつあった、ある日。  その声は、聞こえたのよ。 『こんにちは、初めまして』って。  ああ、男子の声だなぁ……って思ったの。  まだ若そうな男子の声。  ふんわり優しくて、でもハッキリ聞き取りやすい言葉。  10代後半くらいかなぁ……って。  そしたらまた聞こえたのよ。 『俺の声が聞こえますか?』って。  なにそれエモい。  こんな優しそうな声で、丁寧な口調で、でも一人称は俺なの!?  えっ何!? 敬語男子!?  私は慌てて目を開こうとしたんだけど、そもそも目どころか体がもう柱の中に溶けちゃってて無かったのよ、開くための目も、目を擦るための手も。  それで初めて私は焦ったのね。  うをっ。やべぇ。って。  こんなんじゃせっかくの男子高校生……? 大学生かしら? ともかく、若くて誠実そうなこの声の主を見られないどころか気づいてもらえないじゃない!  このまま「誰もいないなー」なんて帰られたら、死んでも死に切れないっ!  いやもう半分くらい死んでるような気もするけど!!  私が大慌てで自分の姿を取り戻そうとし始めると、なんと、彼が手伝ってくれるじゃないの!! 『ふわふわですねぇ。俺もお手伝いしますね』ですって。  なんかちょっと、ほんわか笑ってくれたような気配がする。  えっなにそれ、可愛くない!?  て言うかふわふわって何が!? もしかして私がっっ!?  よく分からないうちに、彼が柱の中に溶けて散り散りになっていた私の欠片を拾い集めて私の所にひとつずつ丁寧に届けてくれるわけよ。  えっ、なにこれ、優しい……っっ!  面倒見が良いタイプ!?  それとも健気系!? 尽くすタイプなの!?  壊れ物に触れるみたいにそうっと優しく集められると、こう、久々の人との触れ合いだとかにトキメキまくって胸がバクバクするわけ!!  まだどこが胸かわかんないけど!!  いやよく考えたら私これ、ふわふわってよりバラバラじゃないの!?  えっ、気を遣ってその単語にしてくれたの!?  なにそれ気遣いできる系男子!?  ヤバい、ドチャクソ推せるっ!!!!!!!  思い出すのよ一ノ瀬 六花、私はどんな姿だった!?  中肉中背で胸は控えめ、背も高くなく低くない平均身長ど真ん中の158センチ、微妙な老け顔のおかげでこの先20年はきっと変わらないわねと言われた薄めの顔に、感動屋でよく泣くからかしらね、なんて母に言われた泣きぼくろが右目の脇に1つ。  紺色の売り場制服と、それに合わせた紺色フレームの眼鏡をかけて、前髪はしっかりピンで押さえて、髪は後ろで一つに括った清潔感重視の超ド普通スタイル。  それが、今年で腐女子歴10年を迎える私、一ノ瀬 六花よ!!  詳細に思い描くほどに、私はスルスルと自分の姿を取り戻してゆく。  これなら……いけるっ!! 『一ノ瀬 六花! 爆誕!!』  私が気合と共に爆誕すると、私に声をかけてくれたらしき男子は、パチパチと手を叩いて『おおー』と感嘆の声を上げてくれた。  これはあれね、つい勢いで背中にドカーンと爆発エフェクトを背負ってしまったせいね……。  えへへ、ちょっと気合いを入れ過ぎちゃったかしら。  パチパチと手を叩きながら、生まれたての私を優しく微笑んで見つめている男子は、見れば見るほど優しいだけが取り柄な感じの、少しおっとりした印象の平凡男子で、これは平凡受けかしら……? と私は思った。 『ケイト様、これってどーゆー事なんスかぁ? なんかクロイスが混乱してるんスけど』  不意に聞こえた声は、イケメン系ではあるけれど、ちょっとチャラい感じの……、あれね、当て馬によくいる一見チャラチャラして見えるのに実は超一途だったり、何か敵に弱みを握られてたりして裏切ったりしつつも最後には仲間になったり、途中で主人公を庇って倒れたりするタイプね。  キョロキョロ見回してもその姿は見えなかったけど、絶対イケメン系だわ。もしくは三白眼。 『大丈夫だよ、心配しないで見ててね』  目の前の優しげ平凡男子は上の方を見上げながらそう言って優しく笑うと、私に視線を戻して姿勢を正した。  わあ。紳士的ぃ。 『初めまして、一ノ瀬さん。俺は芦谷 圭斗(あしや けいと)と申します。突然で申し訳ないんですが、もし良ければ少しお話しさせてもらってもいいですか?』  おおおおお丁寧っ。  そんでやっぱり優しさMAX!  え、何歳なのかな? 制服姿じゃなさそうだけど、シャツにニットのベストにシンプルな紺のズボンっていうのが清潔感高くてイイ。  眼鏡キャラではないけど、頭は良さそうな感じだよね。  体はそこそこ横幅もあるけど、これはやっぱり受けか……!?  おっと、いけないいけない。  あんまりに久々の男子なものだから、ついつい腐女子ビジョンで見ちゃうわ……。  接客業に従事する者として、大人として、TPOを弁えた対応をしなくちゃね。 『ハイ喜んで!!』  ごめんやっぱ久々の男子に浮かれ切ってるわ。  私の浮かれポンチな答えにも、優しげ平凡男子……もとい、芦谷君はクスッと笑って『ありがとうございます』と答えてくれた。  天使……!? ねえ、この子天使なの……!?  ここに平凡健気受け風天使が降臨してるんだけど!?

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