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中途半端でモヤモヤ

 副団長さんがダッシュで戻ってくる。  その後ろにはテントを抱えた10人ほどの騎士さん達。  結界柱の周りで待機してた人達が2班分駆り出されてきたようだ。 「皆さんありがとうございます。我儘言ってすみません……」  俺が頭を下げると「聖女様の頼みならいつでも聞きますよ!」「手空いてたんで大丈夫っス!」「お安いご用ですよ」「ご遠慮なく」と皆口々に温かい言葉を返してくれた。休憩中だっただろうに……、騎士さん達が良い人すぎるっ。  テントを抱えた騎士さん達はあっという間にテントを組み立てて、そこを出張浄化所として構えた。 「聖女様はこちらでお待ちください。すぐに患者を連れて参ります」  俺はありがたくお礼を伝えて中に入る。 「苦しそうな人がいれば優先してあげてね。あ、でも下手すると揉めちゃうかなぁ……?」  外まではみ出るほど長い列で、皆順番を待ってるわけだしね。 「そのような騒ぎは、我々が起こさせません」  ヴィクトルさんは頼もしい笑顔でさらりと答えてテントを出る。  さすが騎士団長さん……頼もしい……!  俺は患者の誘導を頼れる騎士さん達に任せて、テントの奥に置かれた布張りの木製折り畳み椅子に腰を下ろす。  最初に連れてこられたのは、クロイスが声をかけていたお婆さんだった。 「あらあらぁ、まああぁぁ……。聖女様……こんな年寄りに……本当によろしいんですか……?」  騎士達に左右を挟まれて小さくなって入ってきたお婆さんに、俺はなるべく優しく微笑む。 「こちらこそ急にお呼び立てして申し訳ありません。今から浄化と回復をおかけしますので、どうぞ楽にしていてくださいね」  こうして俺は、テントに次々と案内される村の人達に浄化をかけた。  治療院から出てきた方には浄化だけで、回復がまだの方には症状に応じて回復もかける。  確かに1人ずつの浄化の方が必要最小限の聖力でできるので、高濃度浄化より聖力の減りはずっと少ないけど、時間と手間がかかるなぁ……。  最終的にはヒアッカやクロイスにも手伝ってもらって、手分けしつつ流れ作業で聞き取りと浄化を行ったけれど、終わった頃にはすっかり昼を回ってしまった。  俺達は昼食を済ませてから残りの治療院を回る。  昼休憩の間に、テントの中をいつものリンと4班のメンバーだけにしてもらって、ちょっとだけ聖力回復タイムも取らせてもらった。  4班の皆はそろそろ俺に愛を捧げるのにも慣れてきた感があるな……。 「私はケイト様を心から敬愛しておりますっ、とってもとっても、大好きですっ」  そう言って微笑むクロイスなんかは、慣れてきてからの方がさらに愛がたっぷり込められている気がする。  こんなにも熱の籠った瞳を向けられてしまうと、ほんわかを通り越してドキッとしてしまうよ……。  そんな風に皆が捧げてくれる愛に赤くなってしまう俺に、最後はリンから特大の愛と嫉妬の混ざった気持ちを捧げられて、ヒアッカにケラケラ笑われるところまでがいつものパターンだ。  そうして聖力を満タンにした俺は、無事に村中の治療院を回ることができた。  治癒術師さんの何人かには、俺の使うスタミナ回復と疲労軽減のスペシャル回復魔法の魔術陣を教えてくれと言われたらしいので、明日以降に村長さんのところにきてくれるように伝えてもらっている。  帰ったら大急ぎでセリクが書いてくれた魔術陣を書き写しておかないとな。  今日浄化を受けていない体調不良の村人には、あと2日は俺が村に留まるので午前中ならいつでも騎士のテントに来てくれるようにと声をかけてもらっている。  ヴィクトルさんが言うには、そう人も多くない村なので人づてでほとんどの村人に知れ渡るだろうとの事だった。  そんなわけでようやく教会に辿り着いた時にはすっかり日も暮れかかっていた。 「ようこそ遥々お越しくださいました聖女様、私は司祭のエスペルトと申します」  村にひとつだけの教会で、出迎えてくれたのはふさふさの白いおひげをたっぷりたくわえたおじいさん司祭様だった。  おお……雰囲気がある……。 「遅くなり申し訳ありません、聖女のミノルです。今日はよろしくお願いいたします」  おじいさん司祭様の案内で教会内部を見て回る。  教会本部から寄付された聖球は丁寧に包まれて木箱に入っていると見せてくれた。  2箱だけど、どちらも半分ほどしか入ってないので量的には100個ほどだろうか……?  聖球は布に包まれているので、この箱の底まで全部本当に聖球かっていうとこれを全部開けてみないと分からない。  そこまでは流石に出来ないけど、伝わる聖力から本当の聖球は50個ほどのように感じるなぁ……。  司祭様の見せてくださった書類によると、川の周辺で穢れを受けた村人の浄化に使ったのと、魔物に襲われた商隊を浄化するのに使った分が34個か……。結構多いな。  けれど、本部に残っていた書類では、この教会へは全部で180個もの聖球が寄付されていたはずだ。  数が合わない。 「残りの聖球はどちらでしょうか?」  俺がふわりと微笑めば、司祭様の笑顔が引き攣ったような気がした。  そういえば旅の者に譲ったものがあったかもしれないとか、帳簿に書き忘れていた分があったかもしれないとか、だんだん発言が怪しくなってくる。 「それで全てでしょうか」  俺がなるべく優しく微笑むと、司祭様が「そ、そうですね」とつられるように笑った。 「では残り50個ほどは、どこに消えたのでしょうか」  多分本当はもっと無いはずだ。  だって、俺が見せてもらった聖球は180個中の50個弱しかないんだから。 「……あ……、ああ、お伝えし忘れておりました!」  失敬失敬と苦笑いを浮かべながら、司祭様が俺達を中庭へと連れてゆく。  そこには井戸があった。 「残りの聖球はこの井戸の浄化に使っておりました」 「まあ、聖球で井戸の水が浄化できるのですか? ぜひ見せていただきたいですわ」  俺はニッコリ微笑んで胸の前でポンと手をたたく。  もしここから50個も出てくるなら、村の井戸に入れた聖球は全然足りてないって事だしな。  参考にもなるだろう。  しかし、司祭様は聖球は井戸の底に沈めてしまっているので引き上げることはできないのだという。 「そうなのですね、ではせめて、井戸の水を見せていただくことはできますか?」  俺は汲んでもらった水にさりげなく浄化をかける。  浄化対象は無し、つまり全く穢れのない水だ。 「この井戸は、周辺にお住まいの皆さんも利用できるのですか?」 「い、いえ……これは教会の者だけで使っておりますので……」 「まあ、それは勿体ないですね。こんなに綺麗なお水があれば、皆さん喜びますのに……なんとか周辺の方へもお水を分けることはできないでしょうか?」 「そ、そうですね……、では清らかなる水として販売するよう手筈を……」 「……何とおっしゃいましたか?」  俺はニッコリ微笑んだんだけど、司祭様は「ひぃっ」と小さく悲鳴をあげた。  失礼な。これでもかなり優しい対応をしているつもりなのに。 「すみません、聞き逃してしまったようで……」  俺がもう一度微笑み直すと、司祭様は「き、休息日に来た民達に無償で振る舞いましょう……」と言い直した。  うーん……。仕方ないな、俺がこの立場で出来るのはここまでかなぁ。  司祭様に見送られて教会を去った後で、俺はこっそり浄化で井戸に入れられていた聖球と教会にある聖球の数を把握しようかと思ったんだけど、裏手に回ろうと言った俺を止めたのはリンだった。 「まだ2階の窓からこちらの動向を見張っている者がいます。ここは一旦村の中へ戻るほうが良いでしょう」  そんなのよく分かるなぁ……。  騎士さん達を見回すと、騎士団長さんや副団長さんの他に、ドルーグやシヴァルも肯定するような顔で頷きを返す。  思わず教会の2階へ視線を投げそうになるヒアッカを、カイルがガシッと片手で頭を掴んで止める。  クロイスの頭には、フォーンさんが宥めるように手を翳していたので似たような状況だったんだろう。  俺もヒアッカが止められるのを見なければ見上げようとしていたかも知れない。  俺は慌てて視線を前に戻すと、素知らぬふりで村へと戻った。  それにしても、教会は村の南端に建ってるので一番川には近い位置にあるのに、それでもあんな綺麗な水を使ってるなんてなぁ……。  司祭様の肌艶が良かったのも納得だ。  村人達は全体的に痩せ細った人が多かったのに、司祭様の恰幅が良かったのは、やっぱり消えた聖球をお金に変えたんだろうか……。  俺が考え込んでいると、俺の前を並んで歩くヒアッカとクロイスの会話が聞こえてきた。 「やっぱ聖女様は最強だよなっ、もー俺笑いを堪えんのに必死だったし」 「僕も、ちょっとプルプルしてたかも……」  俺の両隣を守っているカイルとフォーンがそれに加わる。 「俺も腹筋に全力を込めた」 「いやぁ流石我らの聖女様だと思ったよ、スカッとしたなぁ」  なんかスカッとするようなとこあったっけ?  俺は正直色々モヤモヤしたまま帰ってきた感じだったけどなぁ。  帰りに立ち寄った村の中央の井戸は、聖球を沈めたことで確かに穢れは薄まってはいたものの、まだほんのりと穢れを纏っていた。

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