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2通目の招待状
戻ってきた俺の部屋の前には、見かけない侍従さんがピシッとした姿勢で立っていた。
けれど、戻ってきた俺達を見て、その肩が揺れる。
……まあ、ドルーグが人をひとり担いでるからなぁ。
「ああ、お気になさらず。大丈夫ですよ」
俺はひとまずにっこり微笑んで、まだ若そうな彼に声をかける。
何の説明にもなっていない言葉だったが、それでも彼は俺の落ち着きにホッとしたのか、姿勢を正して手紙を差し出してきた。
「こちらはイザベイラ様からです」
侍従さんは俺に頭を下げると、アンナに手紙を差し出す。
アンナも心得ていて、粛々と受け取って礼を述べた。
うんうん。この3か月で随分まともな侍女っぽくなってきたよね、アンナは。偉いぞ。
部屋に入ると、俺は4班のそれぞれに指示を出す。
それから「ふぅ」と一息ついて、ソファに腰かけた。
アンナがすかさずお茶の用意に取り掛かる。
もうアンナは俺のお茶の好みも分かっているので、何も言わずとも俺好みのお茶が俺好みの温度で出てくるのがありがたい。
俺は、ブラウの様子をもう一度だけ確認してから、俺の前に置かれた手紙を手に取った。
手紙の中身を確かめると、それはイザベイラ様からのお茶会の招待状だった。
あれ? もう既にこないだお茶会したよね?
当たり障りない感じの会話をして、うふふ、おほほ、って感じで互いに本音を見せないまま、つつがなく終わったよね?
俺は首を傾げつつ、イザベイラ様とご子息達の顔を思い浮かべる。
イザベイラ様は褐色ほどではないものの色の濃い肌に、紫色の髪をしていた。
瞳も鮮やかな紫で、いかにもって感じの気の強そうな方だ。
息子さんのドゥクシオ様と娘さんのバリシアス様は肌の色こそイザベイラ様に似ていたものの、赤紫色の髪と目をしていた。
どちらも割とおとなしそうな、良い子っぽい雰囲気の子達だったよね。
イザベイラ様ばかり喋っていたので、2人とはあんまり会話できてないけど。
イザベイラ様は玲菜を見たことがあったらしくて、キリアダンにはこの地を長く守ってくれた聖女が居るんだとか、幼い頃に見た元聖女様がいかに気高く美しかったのかとか、そういう話を自慢げにしていた。
俺が連れ帰りました。なんて言ったら絶対に睨まれそうだったので、「そうなんですね」って微笑んでおいたけど。
俺の事も「ミノル様はとても優秀な聖女様だとか」と持ち上げようとしてきたけど、あいまいに相槌を打って謙遜して躱してきたんだけどなぁ。
もう一度お茶会って……なんでだろう。
首を傾げていると、俺の後ろからリンが教えてくれる。
「おそらく、式典でケイト様の神々しいお姿を目にして、どうしても味方につけたいと思われてしまったのでしょうね……」
「えええ……。俺はもうイザベイラ様とのお茶会には参加したくないんだけどなぁ……」
視界の端で、しゅぱっと元気よく手を上げたのはアンナだ。
思わず「はい、アンナ!」と当ててしまいそうになるのをグッと堪えて俺は言う。
「えーと、挙手よりは『差し出がましいのですが……』とか『畏れながら』とか前置きをつけて、相手の様子を見つつ、聞いてもらえそうなら話し出す方がいいかな」
「かしこまりました」
「俺は好きなんだけどね、アンナのその元気の良さが」
ついつい、俺は言ってしまった。
俺が指導することによってアンナが一人前の侍女に近付きつつあるのは良い事だと思うんだけど、それによってアンナの本来の良さが損なわれてしまうのは、ちょっと心苦しいんだよね。
「十分心得ておりますとも!」
アンナに弾ける笑顔で答えられて、俺は杞憂だったなと思った。
俺に愛されてるのくらい知ってるぞ、と胸を張って自信満々に言えるアンナは、しっかり愛されて育ったんだろうな。
……じゃあ、ブラウはどうだったんだろう。
人から褒められる事が何より大事で、その為なら何をしてもかまわないと、彼に思わせてしまったのは一体誰だったのか……。
「畏れながら申し上げますが、体調不良を理由に断ればいいのではないでしょうか? 冬祭りの式典で疲れが出たとか……」
アンナの意見にリンが答える。
「だが、この先我々は2か月キリアダンに滞在する。イザベイラ様がいつ頃帰城予定かは分からないが、ずっと体調不良というわけにもいくまい」
「うっ、確かにそれはそうですね……」
部屋番のドルーグも相談に加わる。
「体調不良よりは、睡眠を取っているとする方が良いだろうなぁ。聖女様はキリアダンで仮眠を取られる方も多い」
ああ、確かにね。
「まとまった睡眠が必要なのは西回りの聖女様の場合だと私は聞きましたが、ケイト様も眠られるのですか?」
アンナはそういう認識なのか。
まあ概ねそうだろうけど、徹夜明けの人なら召喚された時点で眠いだろうね。
俺は招待状に視線を戻す。
3日後の15時からか。
予定は何も入ってなかったよな。
おそらく向こうも俺のスケジュールくらい教会から聞いてるんだろう。
「今回はもう招待状を受け取ってしまったから、その手を使うとしたら次の機会だね」
渋々ながらも行く事に決めた俺の向かいでドルーグが、後ろでリンが、同時にバッとブラウの方を見た。
***〈ブラウ視点〉
……ん……、なんだろ。
なんか、すーげぇ近くで話し声してんな……。
あれ?
オイラ……寝てたっけ……?
いつ寝た? どこで……。
……そうだ。
あの時……ケイト様がオイラの頭を撫でてくださるんだと思って……。
でも、違った。
ケイト様がオイラに魔法を使って、それで意識が飛んだ。
そっか、オイラ今、縛られてんのか。
すげーな。
動こうとしなきゃ痛くもねーのに、腕も足もビクともしねーじゃん。
あー、こりゃダメだな。
やっぱ殺されんのかな。
まずは情報を全部吐かされる……?
別にオイラの持ってる情報くらい、いくらでもゲロっていーけどな。
だってオイラには世の中がどうなろーと、あんまかんけーねーし。
けど……情報吐いたら次は……ダリスんとこに連れてかれんのかな……。
あいつなら、知ってる事全部言ったって、どんだけ謝ったって、ぜってー殴るよな?
ボッコボコにされる未来しか見えねーよなぁ。
あー……しくったなぁ……。
まさかケイト様が……こんな風にオイラを騙すなんて……思わなかったっつーかさ……。
馬鹿だよな。
嘘をつかねー奴なんて、この世にいやしねーって、オイラは知ってたはずなのにな……。
……ん……?
んーー? 待てよ?
ああ、そっかぁ……。
ケイト様は怒んねーって言ってたし、話がしたいって言ってたけど、捕まえないとか何もしないなんて事は言ってねーや……。
そんなの、オイラが勝手に解釈しただけだ……。
……そっか……。
ケイト様は、嘘なんてついてなかった。
ケイト様がオイラにくれた言葉には、いっこも、嘘はなかったんだ……。
へへ、やっぱオイラ、ケイト様が好きだなぁ。
いっぱい褒めてくれるし、いっぱい撫でてくれるし。
「よしよし」って撫でてくれんの、すげー優しい声でさ、手も優しくて、あったけーんだよな。
そしたらなんか鳩尾んとこが、じわーってして、あったかくなるんだよ。
不思議だよな。
撫でられんのは頭なのに、なんでこんなとこがポカポカすんだろうな。
今度ケイト様とお話できたら聞いてみようって、思ってたんだけどな。
もっともっと、ケイト様に褒めてほしかったな……。
……でも、オイラはここまでだ。
ダリスにボコられんのはぜってー嫌だからな。
だってあいつ死んだ方がマシってくらい殴ってくるからよ。
あいつ、自分が耐えれるからって、誰もが同じだと思ってんじゃねーだろーな……。
はー……。
じゃあとっとと、意識が戻ったって気付かれないうちに、寝てるふりのままこっそり死んどこっと。
こーゆー時の為に、ちゃーんと奥歯に即効性の毒仕込んでっからな。
ん。
よし、ちゃんと噛み潰せ……って、うぐぇぇ……。
めちゃくちゃにげぇぇぇぇぇぇぇぇ……。
思わず反射的に吐き出したくなる味だな。
吐くな吐くな……頑張れオイラ。
これさえ飲み込めば、すぐ死ねるからな……。
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