233 / 238

多角的な関係(1/2)

 ドルーグとリンの視線につられて、俺もなんとなくブラウを見た。  ブラウはさっきとは変わらない様子でじっとしていたけど、ブラウの長い長い髪の端を握っていたクロイスの表情はさっきよりもずっと真剣で、何かを聞き取っているんだと分かった。  そんなクロイスのすぐ隣では、ヒアッカが心配そうにクロイスとブラウの様子を交互に見比べている。  ブラウがほんの少しだけ眉を顰めたような気がした。  途端、クロイスが顔色を変えてバッと俺を振り返る。 「ケイト様、浄化をお願いします! 彼は毒を煽りました!」  俺は答える代わりに両手を翳して浄化をかける。  そうか、毒を体内に隠してるってパターンもあったか。  俺は通常の浄化を終えると、念のためがっつり高濃度浄化をかけてみた。  途端、ぐん、と重くなった手ごたえに、ブラウの中に相当な量の穢れが潜んでいたことを知る。  全身を強い聖力の白光で包まれたキッラキラのブラウが、驚いたように目を見開いて俺を見上げた。 「うぇええっ!? ケイト様!?」  ブラウの声は酷く掠れている。  毒のせいだろうな、今治すからね。  穢れがこれだけブラウの体内を侵してたんだとしたら、この後の治癒では他にも治るところがあるかも知れないな。  俺はセリク直伝の治癒術を展開する。  複雑な魔術陣が浮かび上がる様に、ブラウはビクリと肩を揺らしたけれど、しっかり縛られているのでそれが精一杯のようだ。  怖がらなくて大丈夫だよ、これは治癒だからね。  口には出せなかったので、せめてブラウに微笑んだら、リンが代わりに伝えてくれた。 「ケイト様はお前を癒そうとなさっている。恐れる事はない」 「治癒……? オイラ別にどこも……、あ、今飲んだ毒か…………」  俺は、ずらりと並んだ治療箇所のリストを見て息を呑んだ。  なんだこれ……。よくこんな状態で生きてたな……。  特に頭と目に損傷個所が多すぎる……。  これ……、今までちゃんと、見えてた、のか……?  俺はひとまず毒の影響を強く受けていた口内から喉、食道、胃……と内臓を治すと頭と目に取り掛かる。 「……ぇ……?」  手足は擦り傷が多いから最後だな。捕縛の際に縄で擦れたんだろう。 「なん……っ、なんだ、これ……」  ブラウが驚愕に目を見開いたまま、視線を彷徨わせている。  喜びよりも動揺を強く滲ませるブラウの様子に、俺はまさかと思う。  まさか、目が見えるのは生まれて初めて……なんて可能性が……ある……?  うーん……。  ひとまず手足の擦り傷はいいか。  縄を解くまで何度も小さな傷はつくし、また解いた後で治癒しよう。  まずは不安そうなブラウを安心させることにして、俺は治癒魔法を終了させた。 「ブラウ、大丈夫?」  俺はブラウの転がる床にしゃがみこむ。 「ケイト……様……?」  俺の顔を見上げたブラウの瞳が戸惑うように揺れた。 「どうやら彼は生まれつき目が悪かったようです」  代わりに答えてくれたのはクロイスだった。 「っ……」  ブラウの顔色がサーッと青白くなる。 「ケイト様、離れてください!」  クロイスの叫びに、リンが即座に俺を抱えて後ろへ飛ぶ。  ブラウはうまく曲げられない身体を捩って、苦し気に胃液のようなものを吐いた。  俺はすぐリンの腕から飛び降りて、浄化で吐しゃ物を消す。 「視界から入る情報が急に増え過ぎて、どうやら酔っているようですね……」  クロイスが説明してくれたので、俺はひとまずブラウの目に薄手の手ぬぐいを巻く事にした。 「ひとまずこれを巻いておこうか。ごめんね、急に見えるようになったら驚いちゃうよね」  ブラウは大人しくそれを巻かせてくれている。  いやまあ抵抗しようにも腕と足はガッチリ固定されてるんだけどね。首は動かせるから。 「びっ……くりしました。けど、うん……びっくり、しました……」  ブラウはまだうまく状況が吞み込めていない様子だ。  俺は苦笑しながら、白い目隠しを巻かれたブラウの頭を優しく撫でた。 「よしよし、びっくりしたね、もう大丈夫だよ。視界は少しずつ慣らしていこうね」 「ケイト様……。へへへ、オイラやっぱりケイト様に撫でられるのが、最高に好きです」  蕩けるような声で言うブラウに、背後でリンの気配がヒヤリと冷たくなる。  リンを不愉快にさせちゃうのは本当に申し訳ないんだけど、ここはブラウにしっかり懐いてもらわないと困るから、もう少しだけ……ごめんね……。  クロイスは逆に、幸せすぎる心を浴びて真っ赤になっているな……。 「ブラウが暴れたり逃げ出したりしないなら、もう少し縄を緩めたいとこなんだけど、どうかな?」  俺の言葉に「んー……」と悩む様子でブラウは黙り込んだ。  クロイスが「ええと、ですね……」と口を開く。 「ケイト様は、ブラウ……さんを、傷つけたりしませんよね?」 「うん。今のところは」  クロイスがパチリと瞬いた。 『今のところは』という部分が意外だったんだろうか。  俺は、ブラウがクロイス達を傷付けるなら、黙ってはいないよ?  もちろん殺すつもりは毛頭ないけどね。 「ブラウさんは、ダリスさんに引き渡されるのが嫌みたいです」  結局クロイスはブラウに『さん』をつける事にしたようだ。  まあ10歳近くは年上っぽいもんな。 「んーー? なんでお前、オイラの事そんな分かんの?」  ブラウに布越しに見上げられて、クロイスが「えっ……」と戸惑う。 「ん? なんかお前、顔真っ赤じゃね……? あ、もしかしてオイラの事が好きなんだ?」 「えっ!?」  唐突な言葉に、クロイスがさらにおろおろする。 「そんでオイラの事、そんな色々分かんの? ほあー、すんげーなー、愛の力ってやつだ」 「ちっ、違いま――」 「んなわけあるか!!」  叫んだのはヒアッカだった。 「寝言は寝て言えよ!? クロイスがてめーみてーなコウモリ野郎を好きになるわけねーだろ!!」  怒鳴りつけたヒアッカを、俺は止めようとする。 「ヒアッカ、一旦落ち着いて……」  せっかくブラウが落ち着いてきたのに、ここで喧嘩腰になられたら困るよ。 「大体てめーはなぁ――んむぐぅぅぅっ」  怒りを滲ませて叫ぶヒアッカの口と頭を、大きな手でガッシリ掴んだのはドルーグだった。

ともだちにシェアしよう!