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多角的な関係(2/2)
「どーした、手がいるか?」
ヒアッカの怒声が聞こえたのか、扉からカイルとフォーンが顔を出す。
「ああカイル、ヒアッカと交代してくれ。フォーンは外でヒアッカの面倒を頼んだ」
ドルーグに言われて、カイルが部屋に入る。
ドルーグはガッチリとヒアッカを掴んだまま扉へ向かうと、そのままポイと外へ放り出して戻ってきた。
「ちょっ、ドルーグさ……」
バタンと閉じた扉の音に、ヒアッカの声がかき消される。
はぁ……とため息混じりに戻ってくるドルーグ。
「んーーー? なんでアイツ急にあんな怒ってんの? あ、もしかして、この金髪の子が好きなんだ? ああー、知ってる知ってる、これ三角関係ってやつだろ? へーーーこんななるんだ、面白ぇなぁ」
ブラウの楽しげな言葉に、クロイスが「えっ、えっ……!?」と更に狼狽している。
その推測に関しては一部否定できないけど、ひとまず話を戻させてもらうよ。
「ブラウ、俺はキリアダンにいる間、ブラウをダリスには渡さないって約束する」
薄い目隠し越しにブラウの視線を感じながら、俺は続ける。
「むしろ、ブラウさえよければ、これからは俺の手伝いをしてくれると嬉しい」
周囲の反応が様々だなぁ。
一番嬉しそうな気配は正面から、一番嫌そうな気配は俺のすぐ後ろから漂っている。
ブラウはすぐにも答えたい様子でうずうずしているけど、流石カラサディオに仕えていただけあってか、俺の言葉の終わりまで口を開かず待ってくれるようだ。
「今は俺の手元にあまりお金がないから、お給料は応相談か後払いになっちゃうけど……それでもよければね。俺の手伝いをしてくれる場合は、その間ずっとブラウをダリスから守るって約束するよ。どうかな?」
「やりますっ! ケイト様のお手伝いっ! オイラお金なくてもへーきなんで! いくらでもケイト様の良いように使ってくださいっ!!」
そして、いっぱい褒めてほしい、という気配がビシバシ伝わってくる。
俺は、全力で尻尾を振ってくるブラウになるべく優しく微笑むと、よしよしと頭を撫でてやる。
俺の中では彼を可愛いと思う気持ちよりも、不憫に思う気持ちの方がずっと強い。
でも、だからこそ、せめて彼の目に映る俺は、彼を愛し慈しむ人でありたい。
きっと、セリクにもシオンにも、あの頃足りなかったのは愛だと思うから。
「よしよし、ブラウは可愛いね。食べるものは分けてあげられるから、お腹がすいたら遠慮せず俺のところにおいでね」
目隠しに半分ほど隠れたブラウの頬がぶわっと染まると、ブラウの髪の端を両手で握っていたクロイスが、ついに片手を離して真っ赤になった自分の顔を覆ってしまった。
「ご指示があるまで、オイラずっとケイト様のお傍にいますっ!」
「それは許可できない」
鋭く答えたのはリンだった。
「ちゃんと、見えないとこに潜みます!」
「それでも――」
「いいよ」
リンの言葉を遮って応えた俺の言葉に、リンとドルーグの「「ケイト様!」」とブラウの「ケイト様!」が全く違う声音で重なった。
「ブラウ、これから先はブラウの持つ情報は、俺が許可した相手以外に話したり伝えたりしちゃダメだよ? 俺はブラウが情報を漏らさない事を前提に、ブラウに沢山の物を見せるからね? 分かってくれる?」
「分かりましたっ!」
あまりに返事が早いし軽いんだけど、大丈夫かな……?
チラとクロイスを見ると、クロイスはコクコクッと慌てて頷いた。
少なくとも現時点のブラウはそのつもりでいるようだ。
「ありがとう、頼むね」
「はいっ!」
俺は立ち上がると一歩下がる。
周りを見れば、リンとドルーグは今にも文句を言い出しそうな顔だけど、カイルは困った顔をしつつも口を挟む様子はなさそうだ。
「カイル、ブラウの縄を解いてくれる?」
カイルが「はい」と答えて動き出すと、案の定リンとドルーグが「「ケイト様」」とハモった。
俺は先回りして謝罪する。
「二人の心配はもっともだよ。いつも勝手ばかりしてごめんね」
ぐっと文句を飲み込んだドルーグには、申し訳ないけれどブラウを同行させる許可を騎士団長さんまで取りに行ってもらえるよう頼んだ。
「なんでこう、ケイト様は……っっ」
そう言いながらも扉に向かうドルーグの背中に「本当に、面倒ばかりかけてごめんね」と謝罪を重ねた。
何せ俺はキリアダンに来るまでにシオンも拾ってしまっているからな。
シオンは現在カラサディオ達の手を離れて、騎士団へと身柄を引き渡されている。
建前上は『キリアダンでゆっくりシオンから話を聞きたいから』だ。
どんどん増える仲間達……って、普通は食料が尽きてしまう状況なんだろうけど、その点は意外にもカバーできてるんだよな。
キリアダンまでの瘴気にやられていた村2つで、村人達に無償で浄化の治療を行った事によって、村の皆さんからの寄付が山盛り届いており、食料や物資に関しては現在余るほどの状態だというのは知っている。
ドルーグが俺に止めろと言いきれないのは、それもあるんだろうな。
一方でリンは、俺の後ろから、凍りそうな程冷たい視線でブラウを監視しつづけていた。
ブラウがほんの少しでも怪しい動きをしたら、すぐにでも斬りかかりそうな気配だな。
リンのフォローは夜に時間を設けることにして、クロイスに声をかける。
「クロイスもお疲れ様、フォーンと代わって外で一息ついてくる?」
クロイスは、心ここにあらずといった様子でぼんやりと床を見つめていた。
「ぁ……。……はい……、では、お言葉に甘えて……」
ふらりと足を動かしたクロイスを引き留めたのはブラウだ。
「あっ、待って待って、行っちゃう前にさ、オイラに名前を教えてよ」
ブラウは散々クロイスの名前を耳にしていたはずだけど、相手から名乗られるまでは呼ばないのか。
こういう作法を教えたのはカラサディオ達なのかな……。
「ええと……」
クロイスから尋ねるような視線を向けられたので、俺は「クロイスの好きなようにしていいよ」と答える。
答えたくないなら断ってもいいんだよ、という気持ちを込めて。
クロイスはほんの一瞬迷ってから、澄んだ碧眼をまっすぐブラウに向けて答えた。
「僕の名前はクロイスです」
ブラウは嬉しそうに口端を持ち上げて、言った。
「クロイスちゃん。可愛いね、オイラと付き合う?」
「ぇ……、え……? ええええぇぇぇっ!?」
思いっきり動揺したクロイスの声が聞こえたのか、扉がバンと開く。
「クロイス! どうしたっ!」
飛び込んできそうなヒアッカの肩を、ギリギリでフォーンが掴んだ。
俺はフォーンに尋ねる。
「フォーン、クロイスと交代できそう?」
『ヒアッカはクロイスと会話できそうな程度には落ち着いたかな?』という意味を込めた俺の言葉に、フォーンは室内のカイルと視線を交わしてから「はい」と穏やかに答えてくれた。
フォーンが入ってくるのを見て、クロイスが反射的に扉に向かおうとする。
「あれ? 返事は?」
不思議そうに尋ねるブラウには、俺が「ブラウ、今日はまだ俺の話があるから、その話はまた今度にしようか」と答えておいた。
「返事……?」
怪訝そうに眉を寄せたヒアッカにも、俺は声をかける。
「ヒアッカ、クロイスはもうヘトヘトだから、気遣ってあげてね」
ヒアッカは赤い瞳を瞬かせると、気合十分に答えてくれた。
「うっス!」
うんまあ、良い機会ではあるんだろうし、ここは2人でよく話し合ってみてほしい。
俺は2人を扉の向こうに見送ると、縄を解かれたブラウに向き直った。
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