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【サブ】扉の外の2人(1/2)

 ***〈クロイス視点〉  部屋の外に出ると、人通りのない廊下はしんと静かで、僕はなんだかホッとした。 「クロイス、足元ふらついてっけど大丈夫か? 他の班から応援呼ぶか?」  ヒアッカがそう言って、僕の肩を支えてくれる。  ヒアッカに触れられた肩からは『顔色は……そんな悪くねーかな。でも結構辛そうだよな……。立ってるより、座るか横になる方がいーんじゃねーかな……』と僕を気遣う気持ちばかりが流れてきた。  僕は相変わらずのヒアッカの心に、安堵してしまう。 「大丈夫だよ」  僕は笑って答えて、扉の脇の壁にもたれるようにして立つ。  本当はダメな姿勢なんだけど、今は……膝がガクンとなったら困るので、ちょっとだけ……。  そうすると、ヒアッカも扉の反対側で同じように壁に背を預けて「そっか、そんなら良かった」と笑ってくれた。  しばらく、今日の式典でのケイト様がすごく綺麗だったとか、大声に町の人達もびっくりしてたねとか、そんな当たり障りのない話を続けているうちに、僕より先に出ていたドルーグさんが帰ってきた。  ドルーグさんの後ろにはドルーグさんよりも背の高い2人がついてきている。  あれは、銀髪の方が6班の班長のシヴァルさんで、くすんだ緑髪が6班のラドムさんだ。 「おお、2人ともここにいたか。クロイスはそろそろ立ってんのも辛ぇんじゃねぇか? 応援呼んできたから、お前らは今日はもう上がっていいぞ」 「……そんな、私ばっかり休むわけには……」  僕は未成年で他の皆より勤務時間も少ないのに、さらにこんなに早く上がってしまっては、今日は式典の護衛くらいしかやってない事になってしまう。 「クロイスはお前にしか出来ねぇ事でしっかりケイト様のお役に立ったんだから、胸張って休みゃいいんだよ」  そう言って、ドルーグさんは大きな分厚い手で僕の頭を撫でた。  伝わるのは、言葉と同じねぎらいの気持ちだ。  こんな風に4班の皆が僕に躊躇いなく触れてくれるのが、僕はやっぱりたまらなく嬉しい。  僕の頭から手を離したドルーグさんが、ヒアッカの方へ体を向けると、険しい表情でヒアッカを見下ろした。  ヒアッカが、ピシッと姿勢を正す。 「ヒアッカは、休憩じゃなくて反省だ。お前は聖女様の足を引っ張るところだった。それは分かってるな?」 「うっス。すんません……」  しゅんと反省するヒアッカは、やっぱり素直で可愛いと思う。  ……ラドムさんが、なんかいつもより怖い顔でヒアッカの事睨んでない?  元から表情はわかりにくい人だけど、今日はなんだか不機嫌なような……。  あ、ヒアッカがケイト様に迷惑にかけたって聞いたからかな。  僕も4班の皆もケイト様大好きだから、あんまり人の事は言えないけど、この人もかなり……ケイト様に心酔してるよね……。 「勤務時間中に反省文書いて、俺んとこまで持ってこい。その他の時間はクロイスの面倒を見るように。まずは部屋まで肩貸してやれよ」  俯いていたヒアッカが、弾かれたようにドルーグさんを見上げる。 「っ、はい!」 「……いいんですか……?」  僕がもう一度尋ねると、ドルーグさんだけでなくシヴァルさんまでもが優しく微笑んでくれた。 「ここはこの2人に任せて、ゆっくり休んで調子を整えておけ」  ドルーグさんの言葉に、口数の少ないラドムさんまでもが「私達に任せておけ」と言ってくれる。  シヴァルさんは微笑んだだけだったけど、僕を労わる気持ちは伝わってきた。 「ドルーグ班長、シヴァルさん、ラドムさん、ありがとうございますっ」  僕の言葉に続けて、ヒアッカも「ありがとーございます!」と礼を告げて頭を下げた。  キリアダンの大教会では護衛騎士は、男子宿泊棟の6人部屋に班ごとに寝泊まりしている。  ヒアッカの肩を借りて4班の部屋に向かっていると、向こうからアークさんがやってきた。 「お前ら何してんだ、クロイス調子悪いのか? 俺も反対側支えよーか?」 「だっ、大丈夫ですっ」  思わず、触れられる前に断る。  だってアークさんって、いつでもその……なんか、卑猥なことばっかり、考えてるんだよね……。  なんで今そんなこと考えてるの!? って、叫びたくなるくらい。  だって料理の配膳とか荷物の受け渡しとか、そんな普通の作業中に、そんなこと考えてるんだよ!?  しかも、アークさんが頭の中で、その……あられもない姿を思い浮かべてる相手って、僕も知ってる護衛騎士の人なんだよね……。  伝わる心の声からすると、その姿って妄想の時もあれば、回想の時もあるっぽいし……。  って事は本当に、あの人がアークさんの前で、あんな……あんな姿を…………っ。  ……っ。  で、でも、その人はきっと、アークさん以外の人にそんな姿を見られるなんて絶対嫌だと思うんだ。  だから、意図的でないにしろ、勝手に見ちゃうのは……、本当にいけないことで……、申し訳なくて……。  そんなわけで、僕はなるべくアークさんには触れないようにしていた。  アークさんを警戒する僕に気付いたのか、ヒアッカが僕を斜め後ろに隠すように身体の角度を変える。 「部屋すぐそこだし、へーきだから、アークはクロイスに触んなよ」 「んんー……?」  首を傾げたアークさんが、ニヤリと悪い笑みを浮かべた。 「なんか、触るなって言われっとさ、触りたくなんねぇ……?」  あああ……逆効果だった……。 「……お前……人の嫌がる事すんの好きだよなぁ……」  ヒアッカが心底嫌そうな声で、じり、と近づくアークさんと睨み合う。 「よく言われるっ!」  言葉と同時に伸ばされたアークさんの手。 「自覚あんなら直せよ!」  ヒアッカが、その手を避けるように僕の肩を抱き寄せた。 「うわっ」 「ちょい1人で立っててくれよ」  言ったヒアッカが視界から消える。  え!?   ヒアッカはしゃがむと同時にアークさんの足をスパッと払っていた。 「は?」  一瞬遅れて、アークさんが石造りの廊下に顔から突っ込む。 「行くぞ!」  ヒアッカに手を引かれて、僕はもつれそうな足で駆け出す。 「いってぇ……、お前いきなり仲間転ばすとかマジかよ!?」  後ろからアークさんの痛そうな声がするんだけど……いいのかな……。 「お前から仕掛けたんだろっ、正当防衛だ! アホーク!」  ヒアッカはチラッとだけ後ろを振り返ると、スッキリした顔で楽しそうに笑う。 「もうちょい走れるか?」 「う、うんっ」  僕が頷くと、ヒアッカは弾けるような笑顔を見せてくれた。  その笑顔があんまり綺麗で、僕はなんだか顔に血が集まってしまいそうになる。  4班の部屋に僕を入れると、ヒアッカはガチャリと錠を下ろした。 「よーし逃げ切ったな。流石にあのアホも大教会の部屋壊したりはしねーだろ」 「そ、そう、だね……」  僕はホッとした途端に力が抜けて、そのまま床にへたり込んでしまった。 「あー……、しんどいとこ走らせて悪ぃな」  謝ったヒアッカが、テキパキと僕の甲冑を外すのを手伝ってくれる。 「あ、ありがと……」 「こんくらい気にしなくていーって」  屈託なく笑うその横顔が、やっぱり可愛いなと思う。  すぐそこに見える寝台まで、移動したいところなんだけど……。  一度座り込んでしまったら、もう立ち上がるだけの力がない。  「あー……」と、ちょっと迷うような声を漏らしたヒアッカが「兄さんの真似、してみていいか?」と赤い瞳で僕を覗き込む。  ディアリンドさんの、真似……?  僕が内心で首を傾げつつ「いいよ?」と答えると、ヒアッカは僕の背と膝裏に腕を回してきた。 「え、お姫様抱っこ? できるの!?」 「甲冑無しなら、すぐそこまでくらい、出来んだろっ」  ふんっ。とヒアッカの体に力が込められると、不安定ながらも僕の体は浮き上がった。 「わわ……」 「じっとしててくれよー?」 「う、うん……」  こ、これって、やっぱり上半身は、ヒアッカの胸に預ける方が、安定する……よね……?  そーっとヒアッカの身体側に体重を預けているうちに、寝室しかない部屋の、自分のベッドに到着した僕はその上に下ろされ……あ……。 「うおわっ」  僕をベッドの真ん中に下ろそうとしたヒアッカが、腕を伸ばしたせいでバランスを崩して僕の上にのしかかってきた。  ごち、と頭がぶつかって、痛い……。  ヒアッカの心の声と実際の声が一斉に謝るのを、僕は苦笑しながら許した。  僕とベッドの間から両腕を抜き取ったヒアッカが、そう広くない一人用のベッドの縁に乗り上げたまま、胡坐をかいて腰を落ちつけた。  ……下りないの?  座るにしたって、ほらそこ、ヒアッカのベッドすぐ隣にあるよ? 「なあ」  ヒアッカの呼びかけに、僕は隣のベッドに向けていた視線を、僕のベッドに座るヒアッカに戻す。 「さっきの『返事』ってクロイスに関係あんの?」

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