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ロイスの置き土産(1/2)

 ***  俺はその日、3日に渡って続いたキリアダンの全結界柱の浄化を全て終えて、午前中のうちに大教会へと戻っていた。  15時からはイザベイラ様とのお茶会だ。  ……そして、18時から俺達は、リーアの前夜式に参列する予定だった……。  キリアダンの衣装部の方が急遽式典用の衣装の装飾を全部外して、葬儀に参列する俺の為にと持ってきてくれた。  今は、衣装部の方が持ってきてくれた服をアンナと衣装部の方に着せてもらっていたところだった。 「これで良さそうですね」 「はい、お手数おかけしてすみません」 「いいえ。教会の者の葬儀にわざわざミノル様が参列してくださるなんて、ありがたい限りです」  そう言って頭を下げる衣装部のお二人を部屋の外まで見送って、俺はため息と共にソファに腰掛けた。 「はぁ……。俺、お通夜とかお葬式って出るの初めてだよ、ちゃんとできるかな……」  しんと静かな部屋で、俺が零した言葉に、アンナが「私もです」と同意すると、リンも「私も幼い頃以来なので、参列の作法は不確かですね……」と答える。  3人ともが不慣れだと知ったからか、部屋番をしていた騎士団長のヴィクトルさんが「私で良ければお教えしましょうか」と静かに声をかけてくれた。  ヴィクトルさんは立場もあるし、騎士団内での殉職者が出れば、必ず参列するわけだよね……。  俺の思ったことに気づいたのか、ヴィクトルさんは少し苦い微笑みで俺に言った。 「……私は、17の頃にロイスさんの葬儀に出たのが最初でした」  ヴィクトルさんの思いがけないその言葉に、俺達は3人とも背の高いヴィクトルさんを見上げる。  あ……。  そっか。ロイスが亡くなった頃、今年42歳のヴィクトルさんはもう騎士団にいたんだ。  じゃあ、41歳以上の騎士さん達に聞けば、その時のロイスの様子もわかるかも知れないって事か?  俺もシオンも、ロイスの死を自分のせいだと感じているけれど、できればもう少し詳しく当時の様子が知りたい。 「アンナさんはロイスさんのお孫さんだと聞きました。……ロイスさんが貴女の顔を見る事なく殉職されたのは、私のせいです。大変申し訳ありません」  うん?  ここにも、もう1人。  ロイスの死に責任を感じている人がいたのか。  深く頭を下げられて、アンナが慌てて両手を振る。 「えっ、いえいえっ、私が頭を下げられるような事ではありません」 「心得ております。しかし、どうしても一度、直接謝罪がしたかったのです。私の我儘だと思ってください」 「わ、分かりました。では、そのお気持ちしかと頂戴しました」  そう言って、アンナはニコッと笑った。  ヴィクトルさんはそんなアンナに、どこか痛みを抱えた表情で微笑み返した。 「ありがとうございます」  ああ、確かに。  マリーとアンナとクロイスの中では、アンナが一番ロイスに似ていると思う。  その人懐こい笑顔なんて、ロイスにそっくりだ。  肩上で切り揃えられている髪色は金に近い茶色だけど、そばかすは3人の中で一番濃くて、目の色も淡い茶色ではあるれど、全体の明るい雰囲気がやっぱりロイスに一番近い。  クロイスは髪と目の色はロイスと同じだけど、性格が全然違うからかあんまり重なって見えないんだよな。  マリーもアンナとよく似た顔立ちだけど、髪色はアンナよりも茶色に近いし、そばかすもお化粧でかなり薄くされてるし、いかにもしっかり者な性格からか、クロイスと同じくロイスと印象が重なることはあまりなかった。 「ヴィクトルさん、すみませんがその時の話を詳しく聞かせてもらってもいいですか?」  俺の言葉に、今度はヴィクトルさんが焦げ茶色の瞳を瞬かせた。 「こちらのディアリンドはロイスと9年間共に戦った騎士でした。俺もロイスには専属護衛についてもらったりして、5年の間、たくさん支えてもらったんです」 「なんと……、そうだったのですか……」  俺は騎士団の中ではそこそこロイスの名を出してるつもりでいたけど、この人の前では初めてだったようだ。  ヴィクトルさんは遠い昔の記憶を辿るように、少しだけ上を見上げながら話し始めた。 「ロイスさんが亡くなったのは、司祭様が変わって少しした頃……」 「4820年でしたね」 「ええ、そうです。前司祭様が就任して5年目となる頃でした」  俺達がお世話になったモンドベル司祭の後任で、今のマルコメロ司祭の前任者。  バハムール司祭という人が、シオンに指示をして聖球を運ばせたり聖女を攫わせたりし始めた人だ。  いや、今の元聖女達が結界柱に埋められたのはもっとずっと昔なので、その頃からずっと、こういう役割を果たしていた司祭様はいたのだろう。  ……もしかしたら、俺達に優しくしてくださったあのモンドベル司祭様ですら、無関係ではなかったのかもしれない。  俺があれこれと考えるうちに、ヴィクトルさんの話は進んでロイスが亡くなった森に辿り着いていた。  大事な聖球を落としたと気づいたのは、森に入ってずいぶん進んでからだった、とヴィクトルさんは言った。  4820年後半には、4820年前半の聖女様が残した聖球の数も残り少なくなっていて、既に護衛騎士全員には1つずつしか聖球が持たされていなかったらしい。  ヴィクトルさんの所属する班の班長だったロイスは、ヴィクトルさんが聖球を持っていない事に気づくと、自分の聖球を譲ってくれたそうだ。 「俺のを持っとけ、使わなきゃまた返してくれればいいんだからさ」  ロイスはそう言って自分の頭をポンと撫でてくれたのだと、ヴィクトルさんは苦しげに話してくれた。  しかし、その森には昨年の浄化残しがすっかり人型にまで育った強い魔物がいた。  剣に聖力を付加するためには聖球が必要だった。  聖力の宿らぬ剣で、人型の魔物に狙われた聖女を守るには、ロイスは身を挺する以外の方法がなかった。 「……ですから、ロイスさんが亡くなったのは私のせいなのです……」  辛そうなヴィクトルさんには悪いけど、俺は正直ホっとしてしまった。 「なんだ、そうだったんですね……。俺はてっきり、ロイスだけが最初から聖球を持たされていなかったのかと思って……。そうじゃなかったなら、本当に良かったです」  ヴィクトルさんは俺の言葉が意外だったんだろう。  不思議そうに一度瞬いてから、小さく苦笑した。 「バハムール司祭様は、今の司祭様に比べれば、ずっとまともな方でしたよ」  なるほど。  シオンからの話だけでは極悪人に思えたバハムール司祭様も、少なくとも護衛騎士からみた姿は悪くなかったんだな。 「これは……すぐにでもシオンに知らせてやらないとな」  俺の小さな呟きに、ヴィクトルさんがその名を繰り返す。 「……シオン……?」  ん?

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