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二度目のお茶会
***
イザベイラ様は、前と同じように第三王子で23歳のドゥクシオ様と、18歳で第二王女のバリシアス様と共に大教会の庭園で俺を出迎えてくれた。
まあ、自分の屋敷に来いと言わずに大教会で催してくれるのは、移動時間を取られない分ありがたいといえばありがたい。
でもなんか、その分断り辛いよな……。
王族がわざわざここまで出向くんだから……まさか断ったりしないよね? っていう無言の圧を感じてしまう。
イザベイラ様は前回と同じようにお茶やお菓子の話をして、子ども達の得意な音楽や歌の話をしたりしてから、にっこりと微笑んで、扇で口元を隠して言った。
「できる事ならば、もう少し結界柱を増やしたいと思っているのですけれども、ミノル様はどうお考えですか?」
正直に答えるなら「何言ってるの?」だよ?
俺は聖女ミノルとして優雅に微笑むと3人をゆっくり見回して答えた。
「イザベイラ様、ドゥクシオ様、バリシアス様は、結界を支える結界柱がどのように出来ているのかご存知ですか?」
俺の言葉にドゥクシオ様とバリシアス様は互いに顔を見合わせて首を傾げ合っている。
どうやら子ども達は知らないみたいだな。
まあカラサディオも知らなかったしね。
……カラサディオの兄である第一王子様はどうなんだろうか。
「と、おっしゃいますと……?」
ひとりだけ、俺から目を離さずにこちらの様子を窺い続けていたイザベイラ様が、どこか慎重に問いかけてくる。
ああ、知ってるのかな、この人は。
知ってて、よく聖女にそんなこと言えるね?
俺はふんわりとした笑顔のままで、イザベイラ様を正面から見返して言う。
「ご存知であればあなたの問いにお答えしますし、そうでなければこの場は、結界柱が増えるといいですね、とお答えしておきます」
「……でしたら、ミノル様と2人だけでお話をさせていただいても構いませんかしら?」
俺が笑顔のままで「はい」と頷くと、彼女はパッと扇を振る。
すると、彼女の後ろに控えていた侍女が遮音の魔法を使った。
同じ丸テーブルに座る息子と娘を省いて、きっちり俺とイザベイラ様だけを囲うなんてすごいな。
イザベイラ様は扇で口元を覆って答えた。
「結界柱の事は……具体的にではありませんが、それなりに存じておりますわ」
なるほど……?
「では、貴女様がドゥクシオ様かバリシアス様を結界柱に埋めても構わないとおっしゃるのなら、私も考えたいと思います」
彼女にとって、子どもは大事なはずだ。
そうでなければ、彼女がカラサディオを狙う事もないはずだから。
彼女の受けた衝撃にプルプルと震え出した扇は、次第にブルブルと大きく揺れる。
「……な、……な……っ、何て馬鹿なことをおっしゃるのです!?」
「これが馬鹿な事だと思うのならば、なぜ貴女はそれを望むのですか? 結界柱に今も埋められている人々にだって、貴女様の子ども達と同じようにその身を案じる者がいるとは思わないのですか?」
「……っ」
イザベイラ様は一瞬、ほんの一瞬だけ眉をしかめて喉を詰まらせる。
しかし、それだけだった。
「だとしても、私達王族の尊い身とただの市民が同等であるはずがありません」
「そうでしょうか? 私には誰もが等しく、この世にひとつきりのかけがえのない存在だと思えますが」
「何をおっしゃるのですか! 私や私の子達が、そこらの平民と等しいわけがないでしょう!?」
「特別であるとおっしゃるなら、イザベイラ様が私達とどう違うのか、私にも分かるように教えていただけますか? 例えば、心臓を貫かれても頭を割られても大丈夫だとおっしゃるのでしたら、なるほど私達とは違うのだなと思うのですけれども……?」
「……ぇ……?」
「イザベイラ様さえよろしければ、今ここで私に確かめさせていただけますか?」
俺はここまでと変わらない優しい微笑みのまま尋ねる。
ガタンっと音を立てて立ち上がったのはイザベイラ様だった。
まあ、今は遮音魔法の中なので外に音は聞こえないけれど。
色の濃い肌ではわかりにくいけれど、青ざめているのだろうか。
紫色の瞳には、はっきりとした恐怖が滲んでいる。
もっと怒り狂うのかと思ったけど、どうやら怖がらせ過ぎちゃったみたいだ。
「あ……、な……なんて、事を……っ」
イザベイラ様は俺から目を離すのが怖いのか、俺を見つめたまま、震える手で扇を振る。
すると、俺とイザベイラ様と包んでいた小さな遮音魔法が素早く解かれた。
ホッとした様子を隠すようにして、彼女は椅子に座り直す。
皆の前では俺がさっきのような事を言わないとでも思ってるんだろうか。
「母上……?」
「どうかなさったのですか?」
ドゥクシオ様とバリシアス様が、不思議そうに瞬いて尋ねる。
その姿を見て、俺は思った。
きっとカラサディオならこんな時、そんな事は言わないだろうな、と。
「いいえ、なんでもありませんわ。ミノル様に秘密のお話をうかがって、それがあまりに驚いてしまうお話でしたのよ」
そんなイザベイラ様の言葉に、子ども達は「わあ、私もそんなびっくりするお話を、ぜひうかがってみたいです」「お母様ばっかりずるいですわ」と無邪気に笑う。
これは間違いなく大切に育てられているな。
……完全に間違った方向に。
これが例えば、まだ幼稚園くらいの……せめて小学2年生ほどまでの子だったなら、微笑ましく見えていたのだろうけど。
彼らはもう23歳と18歳。
15歳のクロイスよりも、ずっと年上なのに。
そんな事を言っていられる立場では……ないはずなんだけどな……。
俺はカップに残ったお茶を品良く飲み干すと、ドゥクシオ様とバリシアス様にふんわりとした微笑みを向けてから、イザベイラ様を見つめて言う。
「イザベイラ様とのお話は、ここまでですね」
びくりと彼女の肩が揺れた。
俺はそれに気づかないフリをして、丁寧にお茶会のお礼を伝えて席を立つ。
ドゥクシオ様とバリシアス様はニコニコと、イザベイラ様も若干引き攣った笑顔ではあったけれど、穏やかに言葉を交わした。
別れの挨拶をして、彼女達に背を向ける。
そのまま無言で自室に向かっていると、中庭に面した長い廊下の途中でリンがポツリと言った。
「……聖女様にしては珍しく、敵をお作りになりましたね」
俺はリンの言葉に振り返らないまま「うん……」と答える。
カラサディオから彼女の人となりを聞いていた時点で……。
最初のお茶会の時に、俺はこういう態度をとっておくべきだったんだ。
それなのに、俺がどっちつかずな態度を取ってしまったから。
脅せばなんとかなるかも知れないと、イザベイラ様に思われてしまったから……。
だから……リーアが狙われたのかもしれない。
「……初めから、俺がこんな風にはっきりした態度を示しておけば、リーアは……」
思わず漏らしてしまった心の言葉に、足が止まってしまう。
「聖女様……」
リンが俺の肩を慰めるように撫でる。
「聖女様の責では、ございません……」
リンの言葉に、アンナも意気込んで口を開く。
「そうですよっ、悪いのはイザベ……もがっ」
俺は慌ててアンナの口を塞いだ。
こんなとこで出していい名前じゃないよ。
「えへへ……失敗しちゃいました」
苦笑するアンナに「気を付けてね。下手したらアンナの首が飛んじゃうよ」と言うと、ようやく事の重大さに気づいたのか、アンナがブルリと身を震わせる。
もう、しょうがないなぁ。
本当に気をつけてよ……?
俺が苦笑すると、視界の端でリンも小さく微笑む。
立ち止まってしまった俺の足も、2人のおかげで軽くなったな。
俺は、いつも俺の味方でいてくれるリンとアンナに感謝しながら、足早に自室へと戻った。
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