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【サブ】4班の休日(1/2)

 ***〈クロイス視点〉  今日の4班は、一日お休みだった。  カイルさんとフォーンさんは朝から2人でキリアダンの町に繰り出してしまったし、ドルーグさんも昼前に「外で飯でも食ってくるかな」と出かけてしまった。  僕はというと、昨夜のうちに今日の分の食事を買い込んでいて、今日は一日4班の部屋で大教会の図書館から借りた本を読む予定だ。  ケイト様おすすめの付与魔法の本はすごくわかりやすくて、これなら僕にも付与魔法が使えそうな気がしてしまう。  一回全部読み終わったら、今度は魔術陣を描きながらやってみよう。 「なあ、クロイスはどこにも行かねーの?」  部屋にはもう一人、ゴロゴロしては筋トレをして、またゴロゴロする……という行動を延々繰り返しているヒアッカがいた。 「んー。今これ、読んでるから……」  上の空で答えた僕に、ヒアッカは言う。 「こんなに天気もいーのに? 外に出ねーのもったいなくねー?」 「大丈夫……」  そのまま時々声をかけてくるヒアッカに上の空で返事をしながら集中して読み進める。  ぐうぅぅぅ。と鳴ったお腹の音に急激に空腹を感じて、本から顔を上げた時には時刻は14時を回っていた。 「なークロイス、いい加減飯食おうぜー? 俺もう腹減ったよ」 「え……? ヒアッカ、ご飯食べてないの? 僕ヒアッカの分も買ってきてたのに……」  僕は部屋にひとつきりの小さな丸い机を見る。  そこには僕が昨日買っておいた食事が入った紙袋がそのまま乗っていた。 「だって部屋に2人でいんのに、俺だけ1人で飯食うのっておかしくねぇ? 食うなら一緒に食おうぜ」  ヒアッカが、そう言って僕の分とヒアッカの分を机の上に並べてくれる。  よく見ればコップにはすでに2人分の水が汲まれていた。  あ、先に準備しててくれたんだ……。 「それなら言ってくれたらいいのに……」 「言ったぞ。少なくとも3回は言った」 「えっ本当にっ!?」 「おう」 「ご、ごめん……」 「いーって、俺もそんなに夢中で読んでんなら待つかな。って思っただけだし」  そう言って、ヒアッカはニカっと人懐こい笑みを浮かべた。  ああ、本当にヒアッカはそう思ってくれたんだ……。  僕はなんだかすごく嬉しい気持ちになって「ありがとうヒアッカ、一緒に食べよう」と本をベッドに置いて机に駆けつけた。  肉と野菜を挟んだパンは、ひんやり冷たい部屋の中で、まだ野菜もシャキッとしていた。 「んー……、くそ、髪が邪魔なんだよな……。今日髪切りにいきたかったのになぁ……」  耳の前へ流れ落ちてくる髪を、パンと一緒に齧ってしまったらしいヒアッカが顰めっ面で言う。  もともとヒアッカは巡礼に出た時から後ろ髪は襟についていて、頑張れば結べる程度の長さだったのに、それが火事のゴタゴタで切りそびれ、そこからも慌ただしい毎日に切りに行ききれず……で、いつの間にやら肩下ほどの長さになっていた。 「ヒアッカ髪伸びたよね。食べる間だけでも括っておくほうがいいんじゃない?」 「俺、髪紐とか持ってねーし」 「僕が結んであげようか?」 「そんなんできんの? やってみてやってみて!」 「うん、待ってて」  僕は席を立つと本の栞代わりに使っていた紐を手に戻ってくる。  ヒアッカの後ろに立って髪紐を口に咥えると、赤い髪を手櫛でまとめる。  初めて指を通したヒアッカの髪は、あの夕日の中で胸に抱き寄せた時と同じように柔らかくて、ヒアッカの優しい匂いがした。  髪は簡単にまとまってしまったのに、ヒアッカの柔らかな髪の触り心地がすごく良くて、なんだか手を離したくなくなってしまう。  僕は残念な気持ちを堪えて、紐を二つに折ってくるくると束ねた。 「はい、できたよ。痛いとこはない?」 「ん? 多分ねーかな」 「突っ張るとこがあれば、指でそこだけちょっと引っ張り出して調整してね」  僕の言葉に、ヒアッカは「ふーん、分かった」と不思議そうな顔で答えて、自分の頭に触れる。 「手慣れてんだな」 「小さい頃からよく妹達の髪を結ってたからね」 「助かった。首んとこがむずむずして、けっこー困ってたんだよ」 「それは良かった。その紐はヒアッカの物にしていいよ、妹のお下がりだけど、それでよければ」 「ハハっ、ありがとな。あー、次の休みには切ってこねーとなぁ……」  ヒアッカはそう言いながら、赤い毛先を指先でくるくると弄んでいる。 「切っちゃうんだ……。そんなに綺麗な髪なのに」 「……ん?」  …………ん?  僕、今なんて言ったっけ……? 「なに、クロイスって、俺の髪好きなんだ?」  そんな嬉しそうに笑って、そんな期待の籠った目で聞き返されたら、違うなんて言えないじゃないか。 「うん……。鮮やかな赤い髪、すごく綺麗だと思うよ。それに……」 「それに?」  ゆっくりと尋ね返すヒアッカが、嬉しそうに目を細めている。  『もっとなんか嬉しいこと言ってくれんのかな』と僕に期待してくれているのが、彼に触れなくても分かった。  いつでも真っ直ぐ、躊躇う事なく、心の内を僕に全部見せてくれるヒアッカ。  なにも隠さず僕に触れてくれるヒアッカには、僕も心を隠したくないと思ってしまう。  僕は、自分の頬がどうしようもなく熱くなっていくのを自覚しながらも、なんとか答えを返す。 「……さ、触り心地も、いいし……さ。このまま伸ばしたらいいのに……」 「でも俺、手入れとかできねーもん。結ぶんだって出来ねーのにさ」 「僕がしてあげるよ」 「え」  僕の言葉に、ヒアッカが赤い瞳を瞬かせた。 「……クロイスが?」 「うん、僕が」 「なんで?」  なんでって……なんでだろう。  僕は自分の心と相談しながら、思ったままを伝える。  この部屋には今、僕とヒアッカしかいないから。 「ヒアッカが、もっと髪を伸ばしたところが見てみたいんだ」  相変わらず僕の答えをじっと待っててくれたヒアッカが、少し驚いたような顔をした。  それから、どこか照れくさそうな顔になって、嬉しそうに笑う。 「そーなのか。じゃあ伸ばしてみっかな」 「いいの?」  自分から言い出したくせに、なんだかヒアッカに無理を強いたような気がして、急に不安になってしまう。 「おう、長髪初挑戦だな。ま、面倒になったら切ればいいだけだし」  ヒアッカにそんな風に言われると、そうか、そんな難しく考えなくてもいいのか。と、僕の小さな不安が溶けてゆく。 「つか、クロイスは髪伸ばさねーの? キラキラしててキレーな金髪なのにさ」  綺麗な金髪、かぁ……。 「うーん、金髪って僕くらいの歳になったら大体茶色っぽくなるから、伸ばす必要ないかなって思ってたんだけど……」 「そーなのか? クロイスの髪はずっとキラキラの金色なのかと思ってた」  耳の手前から僕は長めの横髪を引っ張って、自分の髪色を確認する。  僕の髪色は、この年になってもいまだに金色のままだった。 「僕のお祖父さんの護衛騎士も、晩年までほとんど同じ金色だったって聞いたから、もしかしたら、僕もそうなのかもしれないね……」  ……僕としては、さっさと茶色くなってくれた方が良かったんだけどな……。 「ん? なんでそこで暗くなんの?」

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