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【サブ】4班の休日(2/2)

 〈引き続きクロイス視点〉  僕、今、暗くなった……かな……?  うん。確かにちょっと憂鬱な事を思い出しちゃったから……。  ヒアッカは本当に、僕の事をよく見てくれてるよね。  僕は、パンの最後の一口を飲み込んでから、口を開いた。 「僕みたいな金髪碧眼は、うちの家系だとロンドリドの血が濃いって言われるんだよね」 「ああ、えーと、貴族の血筋なんだっけ?」 「うん。僕の親からは家名もないけどね。えっと…………何も面白くない話だけど、僕の家の話ってヒアッカ聞きたい?」 「お前が話すの嫌じゃないなら、俺は聞きたい。俺今めちゃくちゃ暇なんだよ! もうクロイスが話してくれる事なら、何でも聞きたいっ!!」  ヒアッカは今日一日、反省文の一件で謹慎中だった。  そうでなければ、間違いなくヒアッカも朝からカイルさんとフォーンさんと一緒に町に繰り出していたと思う。  とはいえ謹慎はこの一日のみで解ける予定だ。  ヒアッカが、ちゃんと今日一日、部屋から出ずに、真面目に謹慎していれば。 「そっか、じゃあ話すね」  僕はそう言って、ヒアッカに説明を始めた。  貴族の家の事情なんてヒアッカには全然関係ないけど。  ヒアッカが聞きたいと思うんなら、僕に話せることはなんでも話そうと思って。  それでヒアッカの謹慎の助けになるなら、それだけで十分意味があるよね。  ロンドリド家は、領地と呼べるような土地もほとんどなく、商才があるわけでもなく、頭が良いという事も、魔力に秀でたという事もない、パッとしない貴族だ。  それでも、その歴史だけは長く、男子は皆体格に恵まれており、フロウリアの建国から代々続く騎士家系だった。  男子なら教会の騎士に、女子なら教会の侍女に。  分家のクロイス達が強制されることはなかったけれど、本家はいまだにその流れに沿って代々優秀な騎士と侍女を排出し続けていた。  そんなロンドリド家の跡取りは、僕のはとこにあたる今年20歳の本家の長男ロデリックの予定だった。  だけどロデリックは身体が弱く、騎士にはなれなかった。  かといってロデリックには弟妹もなく、彼に代わって後を継ぎたいという者も分家含めていないので、そのままロデリックがロンドリド家を継ぐのだと、誰もが思っていた。  それなのに、今年になって急に本家は、護衛騎士見習いでありロンドリドカラーの金髪碧眼でもある僕を、養子にしたいと言い出した。 「僕は貴族の勉強とか全然してないし、急に呼ばれても困っちゃうんだけどね」 「ふーん……。クロイスは貴族になりてーの? なりたくねーの?」 「僕はどっちでもいいけど……」 「けど?」 「本家のおじ様達が困ってるなら、助けになりたいとは思うよ。でも、それでロデリックさんが嫌な気持ちになるなら、断る方がいいんじゃないかなとも思う……」 「貴族になったら、護衛騎士は辞めるのか……?」 「辞めないよ。むしろロンドリド家当主には、護衛騎士か聖騎士であったことが求められるんだから」 「なんだ、そっか」  ヒアッカがホッとした顔を見せる。  ……僕の話ちゃんと聞いてた? 「僕が本家入りしたら、妹達や両親にはあんまり会えなくなると思う。だって、帰る家も変わっちゃうわけだし、僕が両親と呼ぶ相手も、変わってしまうから……」 「そりゃそーなるよな……。それはやっぱクロイスとしては寂しいとこか」 「うん、やっぱりちょっとはね……。でも、僕ももう小さな子じゃないんだし、本家のおじ様達も良い人達だし。そのくらいは我慢できると思うよ。元の家族に会っちゃダメって事でもないしさ」 「なるほどなぁ」 「だからこそ、迷ってて……。巡礼から戻ったらって、返事を保留にさせてもらってるんだ」 「じゃあ6月までには決めるのか」 「うん。そのつもりでは、あるけど……」  俯いた僕の頭に、ヒアッカの手が伸びる。  ポン、とヒアッカの手が僕の頭を撫でて『やっぱクロイスは真面目で可愛いな』と心の声が聞こえてしまう。  優しい響きで伝わる心の声に、どうしようもなくドキドキしてしまうのは僕だけで、ヒアッカはそんな僕の事にも自分の心にもまるで気付かない様子で小さく笑った。 「まだ答えが出ねーんだな」 「う、うん……」 「そんなら、もうちょい考えてみりゃいーんじゃねーの? つかその本家の長男とやらはなんつってんだ?」 「それが、まだ直接は話せてないんだ。一応おじ様からロデリックさんも同意してるとは聞いたんだけど。僕、巡礼前は覚える事が山積みで、全く時間がなかったから……」 「ふーん。じゃあ今考えたってしゃーねーかもな。帰ってから、まずそいつと話してみろよ」 「うん。……そうだよね。今考えても、答えは出ないのかも……」 「俺から見たら、別にどうしてもお前がやんなきゃなんねー事じゃねー気がすっけどな」  言われて、僕は目を丸くした。  だって、僕達の代は女の子ばっかりで。  金髪碧眼の男子で、さらに騎士になったのは僕だけだったから。  僕がやらないといけないんじゃないかって、思っていたけど……。 「何驚いた顔してんだよ。お前じゃないとダメな事は他にあんだろ?」 「僕じゃないと、ダメな事……?」 「結界柱の中に入るケイト様達を助けんのとか、こないだのコウモリ野郎が毒飲んだのに気づくとかさ、そんなの、クロイスの他に誰ができるんだよ」 「あ……」 「クロイスにしか出来ねー仕事、今は毎日やってんだろ? それってすげー事だよ」  ヒアッカが、そう言ってニカっと笑う。  鮮やかな赤い髪が揺れて、炎みたいな赤い瞳が僕を優しく見つめている。  ああ、綺麗だな……。  こんな風にずっと、ヒアッカが僕の隣にいてくれたらいいのに……。  ヒアッカと同じ班で過ごせる巡礼は、今月でその前半が終わってしまう。  班は毎年組み直されるし、4班は比較的安全な場所で慣れない騎士をベテラン騎士が見守るという班なので、来年はまた新しい騎士が配置されるだろう。  ドルーグさん、カイルさんやフォーンさんはまだ来年も4班に残るかもしれない。  でも見習いを終えた僕と、陣形を保って戦えるようになったヒアッカは、来年は別々の班になるんだろうな……。  来年の巡礼では僕じゃない誰かがヒアッカの隣にいて、こんな風に優しく話を聞いてもらったり、励ましてもらったり、慰めてもらったりするんだろうか。  それを想像してしまうと、なんだか胸の奥がモヤモヤしてしまう。  これが嫉妬だってことは分かる。  でも、その嫉妬が恋愛感情による物なのかは分からない。  だって、妹達ばかりが母様に可愛がられているとこんな気持ちになるって、僕は知っている。  嫉妬心は、恋愛だけでなく家族愛や友愛にも起こり得る感情だって、僕は知っているから……。  嫌だな。  こんなわがままな気持ちを、ヒアッカに対して抱いてしまう事が。  ヒアッカは誰にだって気さくだし、誰にだって明るく優しい。  それはヒアッカのいいところなのに。  そんなヒアッカに、自分にだけ優しくしてほしいなんて、そんなのわがまますぎるよ……。  僕は憂鬱な気持ちを飲み込んで「ありがとう」とヒアッカに微笑んだ。

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