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殺気漂う歓迎会

 ***  ロウフォードの領地にある村に辿り着いたのは日が暮れてからだった。  村の代表として俺達を出迎えてくれたのは、知った顔だった。 「聖女ミノル様、我が村へようこそお越しくださいました」  そう言って俺に礼を捧げたのは、甲冑ではなく礼装に近い服を着たダリスガンドだった。  領主のガレスロンドさんは王様の専属護衛を務めていて城を離れられないらしく、今回の村での歓待は全てダリスガンドが取り仕切るそうだ。  そりゃそうか、この領地の領主様の長男なんだもんな。  ダリスガンドの元から鋭い視線が、殺意を滲ませて俺の背後に注がれる。  俺の背後に立たせているブラウには、一応さっきの休憩地で護衛騎士の甲冑を着せておいたんだけど、どう見てもめちゃくちゃバレているな。  兜の面も上げてないのにすごい観察眼だ……。 「ダリス、私のことも聖女様に紹介しておくれ」  どう見ても不穏な気配を滲ませるダリスガンドへ、宥めるように声をかけたのはカラサディオだった。  どうやらこの地では二人とも実際の身分で行動するつもりらしく、ダリスガンドはカラサディオを第二王子であるカラサディオ=フィズ=フロウリアだと紹介した。 「初めまして、聖女ミノル様」  カラサディオはそう言って美しく礼を捧げると、俺の容姿をたっぷり褒めちぎって柔らかく微笑む。  うっ。久々に見ても、やっぱりカラサディオは輪郭だとかパーツだとかがリンとそっくりで……。  リンじゃないってわかってるのに、リンがこんな風に微笑んで、こんな風に言ってくれたら……って、勝手にリンに置き換えてしまうのをどうしても止められない。  カーッと熱くなってしまう頬をどうすることも出来ないまま、俺はカラサディオに初めましてと挨拶をした。  カラサディオが聖女に接触したのは、キリアダンでイザベイラ様達がお茶会に招待したと聞いたから、という理由になっているようだ。  なるほど、第二王妃が接触したのだから、国王や第一王妃、第一王子はともあれ第二王子の自分なら顔を合わせておくのも良いだろうというところか。  この村には大きな宿があるので、巡礼の際はいつもそちらに泊まらせてもらうんだけど、今回は第二王子も一緒だからということで俺達はまとめてダリスガンドの屋敷に泊まることになった。  ダリスガンドの屋敷で行われた歓迎会の席には、村の上役の方やロウフォード家の親戚や家族が揃っており、和やかでアットホームな雰囲気の中、ダリスガンドの滲ませる怒気が異様だ……。  村の人もロウフォード家の人も、誰一人ダリスガンドに近づこうとしない。  料理を運ぶ人だけが、決死の覚悟でそろそろと慎重ににじり寄る様子は、なんだか可哀想なほどだった。  ダリスガンドはいつもの三倍仏頂面のままだったけど、領主代理としての勤めを果たし、お母さんや妹さんや弟くんの事も紹介してくれた。  ……なんだかあんまり似てないな……?  いや、お母さんと妹と弟は似てる。三人は瞳や髪の色も揃いで、親子って感じがする。  だけど、ワインレッドの髪と眼をした三人と、いぶし銀のようなダークアッシュの短髪と鋭い灰色の瞳をしたダリスガンドは似ていない気がする……。  すると、ダリスガンドのお母さんがふわりと微笑んだ。 「ダリスは旦那様にそっくりなんです」  聞けば、ダリスガンドの父親であるガレスロンド=エル=ロウフォード伯爵は、ダリスガンドそっくりの外見をしているらしい。  ダリスガンドの強さもまた夫譲りなのだろうと微笑む夫人に、俺はロウフォード家は家族仲が良さそうだなと思ったりした。  つつがなく歓迎会は幕を閉じ、屋敷を後にする人々を見送って、ようやく部屋に戻れると思った矢先。  バタンと閉まった扉の音に続くようにして、ダリスガンドが低い声で唸る様に告げた。 「聖女様、彼をこちらに返してください」  早速来たか……。  いや、むしろよくここまで我慢したよな。  もうダリスガンドから殺気滲んでたもんな……。  俺はへとへとの心と体に鞭を打って、背筋を伸ばしてダリスガンドへと向き直る。 「それはできません。彼は今、私に仕えてくれています」 「何を勝手な事をっ!」  ぶわりとダリスガンドの怒気が膨れ上がった瞬間、リンが俺とダリスガンドの間に立っていた。  別に怒気くらい俺が被ってもいいのに。  それでも、目に見えないものからも俺を守ろうとしてくれるリンの気持ちが嬉しい。  怒りに震えるダリスガンドの腕に、そっと触れたのはカラサディオだった。 「ダリス、今夜はもう遅い。聖女様はお疲れだ、少しでも早く休んでいただくべきだろう?」 「っ! しかし俺は! それをすぐにでも八つ裂きにしなければ気がすみませんっ!!」  ストレートな殺人予告に俺の後ろで甲冑の中のブラウが息を止めた気配がする。  そんなブラウを、疲れた顔のクロイスが宥めるように背を撫でてやって、それをヒアッカが眉間に皺を寄せて睨んでいる。 「ダリス、言葉が乱れているぞ。お前は今どんな立場でここに立っているのだ?」 「……っ」 「こんな事では私の隣にいてもらう事も難しくなってしまうだろう? 今は立場を弁えてくれ」  うわぁ……カラサディオの言葉は、宥めと脅しのバランスが絶妙だな……。  ダリスガンドはギリッと奥歯を鳴らすと、拳を固く握りしめたまま、俺達に目を合わせずに別れの挨拶を残して踵を返した。  ドスドスと不機嫌な足音が遠ざかると、はぁぁぁと、誰からともなくため息が漏れた。 「今日一日で寿命が縮みましたよ」 「本当に……」  そう嘆くフォーンとカイルの肩をドルーグが両手でバシバシと叩いて言う。 「こんくらいの殺気、気合いで跳ね返せよ」 「そんなこと出来ませんって……」 「どうやるんスか、ドルーグさん」  ドルーグは「気合いだよ」と雑に答えてヒアッカとクロイスを見る。 「逆にヒアッカはもうちょい殺気に敏感になった方がいいな。クロイスは……もう今日は休め。ヒアッカ、クロイスを部屋まで連れて行ってやれ」  ヒアッカが「はい」と答えた後に、クロイスが「すみません……」と謝った。  言われたクロイスを振り返れば、確かに顔色が悪い。  ブラウを宥めるのに、また何か見てしまったんだろうか。 「クロイス、一応疲労回復をかけるけど、早めに休んでね」  俺が声をかけるとクロイスは痛みを堪えるような顔で微笑んだ。 「はい……ありがとうございます……」 「大丈夫かクロイス、俺の肩使えよ」  ヒアッカがすぐにクロイスに肩を貸す。 「クロイスちゃんって、体弱いのか……?」  ん? ブラウがクロイスを心配している……?  いや、事実を確認したいだけなのか……? 「うっせーな! てめーにゃカンケーねーだろ!」  ヒアッカの暴言に、ブラウはただ瞬く。  あれは……何にも感じてなさそうだな……。 「大丈夫ですよ。心配してくれてありがとうございます……」  クロイスはブラウを安心させたかったんだろう。  小さく微笑んで、それからヒアッカと二人で去っていった。  ブラウは何だかよく分からないような顔をしている。  ブラウにクロイスを心配したつもりはなかったんだろうな。  けれど、礼を言われて、微笑まれて、困惑してるってところだろうか。 「聖女様、我々も参りましょう」  ドルーグに声をかけられて、足を動かす。  俺達以外誰の姿も見えなくなった廊下で、リンの分厚い手が、俺の肩をいたわるようにそっと撫でてくれた。

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