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この世で一番美しい顔

 外に出ると、緑に包まれるような空気の爽やかさにホッとする。  建物の中は、窓を割ってもまだ、どろりと纏わりつくような嫌な臭いがしてたからな……。  さっきの子の外傷は治したけど、視力はまだ治してやっていない。  ブラウの例があるので、今までほとんど見えていなかった子の目をいきなり治すのは良くないと俺も学習した。  こういう時、セリクの作ってくれた治癒魔法は便利だ。  治すところをリストから選んで治せるからね。  普通の治癒だとなかなか細かいコントロールができないからなぁ。  外の草地に子ども達が全員連れ出される頃には、伝令に馬で駆けてくれた騎士さんが屋敷から応援の騎士達を連れて戻ってきてくれた。  騎士団長さんと副団長さんは駆けつけた村の自警団の人達と話し合っているようだ。  本当に……、余計な仕事を増やしてごめんなさい……。 「ケイト様、まーた何に巻き込まれてんスかー?」  ああ、4班の皆も来てくれたのか。 「ヒアッカ、外だから『聖女様』だよ」  ヒアッカの声にクロイスの注意が続くと、ドルーグがげんなりしたような声で言った。 「こんなに沢山の子ども達……流石に荷馬車には乗り切れないですからね?」 「うう、わかってるよ……」  チラリと見れば、建物の中からはカラサディオが両脇をダリスガンドとリサに支えられるようにして、口元を覆いながら出てきた。  ああ、わざわざ中まで惨状を確認しに行ったのか、カラサディオも真面目だなぁ。  草地にふらふらと膝を付くカラサディオに駆け寄って、俺は浄化をかける。 「……ぁ……、聖女様……、ありがとうございます……」 「スッキリした?」 「はい……」  心は晴れてなさそうだけどね、それはまあ、カラサディオだけじゃなく、俺も、ダリスガンドもそうだからな。  俺はまた草地の子ども達の元に戻って治療の続きをする。  全員の外傷を消して浄化をかけ終わって、よし、次は視力を……と立ち上がった途端、立ち眩んだ。  あ。またやってしまった……。  浄化を使いまくった後は、ゆっくり立たないと、だった……。  ぐらりと傾ぐ体に、暗くなる視界。  俺は自然と目を閉じていた。  思った通り、俺の身体はがっしりした腕に支えられて、優しく抱き上げられる。  なんかもう、最近は『マズイ、倒れる』って思わなくなってきたな。  『マズイ、抱かれる(公衆の面前で)』とは思うんだけど。  そういや今日は朝からこの村全部を浄化したんだったよ。  そこから、聖力を補給しないままに、ブラウの件の話をつけて、さらに孤児院の子を半分以上浄化して、ここにいる子の治癒と浄化……。  うん、倒れるのも当然ってくらい使ってたな。  俺は自分の腕についているはずのブレスレットに意識を集中して、そこから聖力を取り出す。  聖球を作らなくて良くなった分、キリアダンでは俺は隙間時間を見つけては自分用のブレスレットに聖力と魔力を補充していた。  石を割らないように、連なる石から力を8割ずつほど引き出す。  自分の中の聖力が三割程度埋まったのを確認して、俺は重い瞼を開く。  そこには、この世で一番美しい顔が俺を心配そうに見つめていた。  うっっっっっ、開眼一番に顔が良すぎて、あまりの輝きに思わずもう一度目をつぶってしまいそうだよ……。 「聖女様……」  うっっっっ、さらにはその心配そうな声もイイ……っっっ。  俺を覗き込む真摯な青い瞳の手前で、美しい青い髪がサラサラと揺れている。 「……リンはどうしてそんなにカッコイイの……?」 「っ!?」  思わず溢れてしまった俺の本音に、リンが顔を赤くする。  リンくらい最高に格好が良ければ、かっこいいなんて言われ慣れてそうなのに、俺の言葉に毎回赤くなってくれるのが、やっぱり嬉しい。 「あー……、あのですね、聖女様、お取り込み中、大変申し訳ないのですが……」  騎士団長さんに、それはそれは申し訳なさそうに声をかけられて、俺は慌ててリンの腕から飛び降りた。  ***  日が翳り始める頃、後処理を続ける騎士団長さんやダリスガンドを現場に置いて、俺とカラサディオ達は先に屋敷に戻った。  治癒や回復魔法も連発した俺は、結局子ども達の視力をぼんやり程度に回復させた後でもう一度倒れかけて、今はリンにベッドに押し込まれている。  ベッドの上でもそもそと夕飯を食べていると、リンの食事が部屋に届いた。  あ、そうか。部屋でならリンと一緒に食べられるんだ。 「リン、一緒に食べようよっ」  俺の誘いに「はい」と答えたリンが、表情を緩めて「ああ」と返事をし直す。 「アンナも、ブラウも呼んでいい?」  俺の言葉にリンは一瞬だけ眉をまっすぐにしたけど「呼んでこよう」と隣の部屋に声をかけてくれた。  ***  まだほんのり朝霧の残る、朝の日差しの中を護衛騎士の一行は進んでいた。  馬に跨る騎士達の、揃いの甲冑の縁を光がなぞってる。  暦の上では春でも、まだ朝は冷え込むな……。  俺は馬車の中から窓の外の景色を眺めて、外にいるはずのブラウに声をかけた。 「ブラウ、周囲には誰もいない?」  姿はないけど、ブラウの返事はすぐに返ってきた。 「誰もいません。近づく者がいればすぐご報告します」 「……ありがとう」  以前この道で広範囲魔法を喰らって、蒼とセリクが攫われたんだよな……。  シオンが裏切って、キールが大怪我をして、リンが昏倒したロイスを蹴り飛ばして、矢を一刀両断してたっけ。  俺は、不安な思いからブラウに尋ねたはずなのに。  眼裏に蘇ったリンの勇姿が、あまりにかっこよすぎた。  緩む口元を隠しきれずに、俺が小さく笑うと、正面でリンが微笑む。  その『理由はわからないけど、俺が嬉しそうだとそれだけで嬉しい』みたいな顔に、どうしようもなく胸がギュンとなる。  俺は既に昨夜もリンの腕に抱かれて眠ったおかげで、朝から聖力満タンだっていうのに。  これ以上リンに愛を注がれても、溢れちゃうよ……。  俺はリンの愛を無駄にしないように、せっせと余剰聖力をブレスレットへと流す。  見えない手首の石……変身すると男の姿で身につけていたものは不思議なことに消えてしまうんだよな、それに俺が聖力を流していると、リンが気づいて嬉しそうに目を細めた。  幸せそうなリンの眼差しを、朝日に輝く鮮やかな青髪が彩っていて、すごく綺麗だ……。  これから向かう結界柱は、カラサディオの話によると550年ほど前に建てられたらしい。  現実世界では約9か月前か……。  中の人は何歳くらいだろうか。  新しめの柱だから、10代であるのは確実だろうな。  玲菜のように、受験生でなければ良いけどな……。  寝かされているであろう中の人を起こすのに、俺はまた危険を冒すことになる。  一応キリアダンにいる間に対策は考えてみたんだけど、通用するかはやってみないと分からないからな。  それに、シルヴィンの腕は、あの結界柱の前で失われている。  昨年浄化した柱とはいえ、周辺の魔物にも十分気をつけて、気を引き締めてかからないと……。  そう思ううち、御者さんが「森の入り口が見えてまいりました」と声をかけてくれて、馬車はゆるゆると減速していった。

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