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偶然に偶然が重なった結果

 ***  翌日、俺は朝食の席で、ダリスガンドにめちゃくちゃ謝られた。  昨夜のうちに夜番の騎士さんに連絡をお願いしたので、俺の無事は伝わってたはずだけど、朝から俺の顔を見たダリスガンドは、明らかにホッとした様子だった。  どうやらダリスガンドは自身の屋敷内で、俺に不審者を近づかせてしまった事を酷く恥じているようだ。  それに、俺の体調もしきりと気にしていて、一日の治療人数を減らそうかとか、期間を伸ばそうかとか色々提案してくれた。  心配かけてごめんね。せっかくの提案なんだけど、巡礼のスケジュールをなるべく変更したくないから、予定通り今日含めてあと3日で詰めさせてもらうね。  そんなこんなで村人達の浄化を続けること4日。  最終日の今日も、俺は30人治す毎に休憩と自分への浄化を挟みつつ作業を続けていた。  初日に襲撃があったせいで治療の場所を変更したロウフォード家の広いダンスホールには、騎士団から3班分、15人ものメンバーが詰めている。  昨日は1班、3班、5班の奇数班だったけど、今日は2班、4班、6班の偶数班が俺の護衛担当だ。  このメンツだと、休憩中が騒がしいんだよね……。  部屋で簡単に昼ご飯を済ませた俺達の休憩時間は、まだ10分ほどあった。 「聖女様、この服なんなんスか?」  ヒアッカが指したのは、ナース服……とでも言えば良いのか、治療院の制服のようだ。エプロンドレス風のそれは、俺の椅子の隣に吊り下げられている。 「それは、治癒の礼にと昨日聖女様に捧げられた物だ。今日は是非ともその服を着て治療をしてほしいと頼まれたが、聖女様が良い顔をしないもので、そこに飾っている」  ダリスガンドが説明をして、それから屋敷の誰かに呼ばれて部屋を出てゆく。  ……だって、スカートって足元がスースーして、苦手なんだよ……。  この体に纏っている服はこんな可愛らしい見た目ではあるけど、俺の心の姿なだけなので、体感では履いてるんだよな、ズボンを。  本当は式典服だってスカートよりズボンがいい。  でもこればっかりは式典の間だけだからと思って、えいやと着ている。  舞台衣装だと思えば、それもやむなしと思える。  けど、今回は浄化をするだけなのにさ、わざわざ着替える必要ある……?  ないよね……? 「いやでもこれめちゃくちゃ可愛いですね!?」  興奮気味にそう言ったのはアークだ。  確かに可愛い。  可憐さと儚さを極限まで目指しました、みたいなデザインは、むしろ治療する側として間違ってるんじゃないかと思うくらい可愛い。 「あー、これ脱がせんのとか滾るよなぁ!」  握り拳を作って叫ぶアークを、ラドムが「静かにしろ」と注意している。 「脱がせるくれーなら着せなくていーじゃん」  ヒアッカのツッコミに、アークが焦茶の瞳を半分にして言う。 「はー……、ヒアッカはこれだからわかってねーんだよな」 「何だよそれ」 「なあクロイス、これヒアッカが着たらかわいーと思わねぇ?」 「えっ、それ僕に聞くの……?」 「ヒアッカならギリ着れそーじゃん」 「着れるかー?」  胡散臭そうな顔のヒアッカに、アークは掛け台から服を手に取ってヒアッカの肩に当てる。  すると、アークのことを「またアホなこと言って……」みたいな顔で見ていたモリーとビルドの表情が変わった。 「お。可愛い可愛い、ヒアッカ顔も細いし目もスッとしてっし十分いけるな。クロイスも可愛いと思うだろ?」 「ぇ、ぁ……、う、うん……」  クロイスは視線を彷徨わせているが、その頬はじわじわと赤くなりつつある。  その表情を見て、ヒアッカが驚いた様子で瞬いた。 「んでも俺聖女様とは10センチくれー背ぇ違うけど?」 「バッカお前、ミニスカになる方がいいに決まってんじゃん! 着せろ着せろ!」  いつの間にかモリーとビルドまでがアークと一緒にヒアッカに迫っていて、アークの掛け声に応えて3人がかりであっという間にヒアッカにナース服を着せてしまう。  ちなみに昼休憩中には屋敷内で護衛騎士達の班長会議が行われているため、ドルーグもシヴァルも2班の班長さんも今は不在だ。 「うをっ、想像以上に似合うな……」 「せっかくなんだし胸になんか詰めるか」 「お、良いなそれ」  アーク達がパッと散開する。 「あーくそ……髪ボサボサじゃん……」  そういえばヒアッカは最近髪を括ってるよね。  ずいぶん伸びてたもんな。  ああ、今日は三つ編みだったのか、赤い尻尾がエビみたいで可愛い。  お寿司が食べたくなってしまった。 「ふふ、あとで結び直してあげるよ」  クロイスがそう言って柔らかく微笑む。 「おー、助かる」  ヒアッカが髪を括っていた紐を解くと、肩下ほどのウェーブヘアになった。 「俺も結べるようになっとかねーとなぁ……」  ……ん?  それって、ヒアッカの髪を毎日クロイスが括ってるって事……? 「クロイスはどうよコレ、似合ってるか? つーか俺よりクロイスの方が似合いそーな気がすっけど?」 「ヒアッカは、本当に……よく似合ってる。綺麗だよ……」  クロイスはじっとヒアッカを見つめて「僕は遠慮したいけど」と付け足した。  そこへアークが手に布を持って戻ってきて、ヒアッカの胸元へとグイグイ詰めながら言う。 「クロイスは可愛い顔だけど眉太いし骨格が男だからなー。やっぱ女装って感じになんだろ?」 「俺だって女装じゃん」 「わかってねーなーヒアッカは。クロイスだと『女装』だけど、ヒアッカだと『女装……?』って感じになるんだよ! このよくわかんねー部分がロマンなの!!」  ギャーギャー騒ぐアークに、ラドムが「アホーク、静かにしろ」と注意する。  ラドムも使うのか。『アホーク』浸透してるなぁ……。  カイルが「おいヒアッカ、そろそろ甲冑を着直せ」と注意すると、フォーンがため息をつきながら言った。 「アーク、モリー、ビルド、休憩中でも護衛任務中の仲間の甲冑を脱がすのはどうかと思うよ……?」  服を脱ごうとしたヒアッカが「ん? なんかこの服、変な匂いしねぇ?」と言った。  そうだ。昨日、俺がその服の入った箱を部屋に持ち帰った時も、ブラウが「この匂いは……」と言った。  それから「ケイト様はその服を着るんですか?」と聞かれて俺が「着ないよ」と答えたら「そんならいいですね」と言ったんだっけ。  一体何の匂いがするんだろう?  俺が首を傾げた途端、ガララララッという音がいくつも響いて、部屋が真っ暗になる。  なんだ!?  と、思った時には俺はリンに抱き上げられていた。 「聖女様、大丈夫ですか?」 「俺は大丈夫だよ、リンは?」 「異常ありません」  ヒソヒソと囁き合いながら部屋を見回す。  ああ、ダンスホールの大窓のシャッターが全部一気に閉まったのか。  まだ明るい時間帯でランプもつけていなかったため、一瞬真っ暗になった気がしたが、目が慣れてくれば薄明かりの中で皆の姿が見え始める。  シャッターが上げ直された時、ホールにヒアッカの姿はなかった。

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