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そういった行為を行う必要性
「ヒアッカは無事!?」
俺が駆け付けた時、ようやく拘束を解かれたらしいヒアッカは、服を鮮血に染めて息を荒げていた。
額には大粒の汗が浮かび、顔は真っ赤だ。
ヒアッカはろくに体を動かせないのか、縄を解かれたその場にへたり込んだ。
俺はすぐに治癒と浄化をかける。
出血の割に治癒するべき箇所はほとんどなくて、あれ? と首を傾げる。
「ケイト……様……、ご無事で、良かったっス……」
潤んだ瞳で俺を心配するヒアッカは、治癒をかけてもまだ真っ赤な顔のままだ。
だけど浄化をかけると、血の痕は消え、ヒアッカの顔色も戻った。
が、自力で立ちあがったヒアッカは、次第に身体を震わせて、小屋を出るより先に、膝から崩れてしまう。
「ヒアッカ、大丈夫?」
クロイスが息を荒げるヒアッカの肩に手を乗せると、ヒアッカはびくりと肩を揺らして、息を詰めた。
何だかおかしいな、と俺が定型魔法の鑑定を使おうとした時、一瞬で鑑定魔法を使ったリンが俺に耳打ちした。
俺のために毎日何度も鑑定を使ってくれているリンの鑑定は俺の何倍も早い。
「ケイト様、ヒアッカは強制発情状態です」
……強制発情……!?
「浄化ではすぐ戻ってしまう様です。場所を移して対処する方が良いでしょう」
「つまり……今は寝かせるしかないって事……?」
「おそらくは」
「わかった」
「ヒアッカ、ちょっと休んでいてね」
俺は右手を翳すと、赤い顔でぼんやりと俺を振り返ったヒアッカに睡眠魔法をかけた。崩れるヒアッカの体をリンが抱き止める。
「ケイト様!?」
周囲で上がるいくつもの声に、俺は皆を見回して微笑む。
「詳しい話は戻ったらするよ。ヒアッカの治療があるから、俺達はひとまず屋敷に戻ろうか」
俺に聞きたいことは沢山あるだろうに、4班の皆は仲間をいきなり寝かせた俺の言葉に従った。
皆の信頼が、ありがたいけどずっしりくる。
この気持ちと期待を、裏切らないようにしないとな。
ヒアッカを抱える役はすぐにドルーグが代わってくれたので、俺は来た時と同じようにリンの前に座って馬に揺られて戻った。
ダリスガンドや騎士団長さん達には、まだこれから小屋を調べたり、捕まえた人攫い達から話を聞き出す仕事がある。
奇数班を現地に残して、俺達は偶数班の15人と一緒に屋敷へ戻った。
***
ロウフォードの屋敷で客室を新たに一つ借りて、ベッドにヒアッカを横たわらせる。
ああ、強制発情中は顔の赤みで気づかなかったけれど、眠っている状態では相当顔色が悪いな。
そりゃそうか、あれだけたくさんの血を流したんだもんな……。
ヒアッカが座らされていた椅子の周りには血溜まりができていた。
そんな貧血状態のヒアッカの血を強制的に頭に上げさせるだなんて、なんて無茶苦茶なことをするのか……。
俺は疲労回復魔法を2回かけ、まだもう少し悪い顔色に、3回目をかけた。
俺がそうしている間に、リンは部屋の中を俺とリンとブラウと4班の人だけにしてくれて、遮音をかけてくれている。
「ありがとう、リン」
俺の言葉にリンは『このくらいしか出来ないが』みたいな顔をする。
そのくらいじゃないよ、俺にはリンがしてくれる事全部、すごくありがたいよ。
俺は、俺を見つめる4班の皆を見回すと、話した。
ヒアッカがあれからどうなって、今どうなっているのかを。
ヒアッカは俺と間違われて攫われた。
ブラウの話では、あの匂いを辿るのはブラウが育てられた組織の独自の技術らしい。
あそこで育てられた諜報員は、耳や鼻は良くても、致命的に目が悪い。
目が悪ければ悪いほど、耳や鼻の能力が伸びやすいのだから、そうなんだろうな。
だから、あの服を着て、赤髪を肩下まで下ろした赤眼のヒアッカを聖女と間違え攫ったんだろう。
まあ実際ヒアッカの女装は、アークの言葉を借りるなら『女装……?』って感じだからな。
あの小屋に運び込まれ、聖女としての協力を強要されたヒアッカは、それに応じなかった。
まあ、聖力を使えと言われても無理だからね。
暴力で言う事を聞かせようとする人攫い達に対して、ヒアッカは俺達が駆けつけるまでの時間稼ぎか、いくら切り刻まれても一言も声を漏らさなかったらしい。
相手も聖女を殺すわけにはいかないようで、斬り付けては治癒魔法で治すという事を繰り返していたらしいが、あまりに痛みに強いヒアッカを相手にこの方法では埒が開かないと悟って、別の手段に切り替えた。
「それで、ヒアッカは今、魔法で淫紋を刻まれて、強制発情させられているみたいなんだ……」
俺の言葉に、4班の皆の顔色が変わる。
「強制発情……!? あっ、それであんな色っぽい顔……」
そこまで言ってカイルが自分の口を手で覆った。
「いや、確かに顔がやけに赤いなとは思ったけどね……」
フォーンも何とも言えない顔で視線を彷徨わせている。
「それは浄化では解けな……、解けなかった、ですね……」
ドルーグが、あの場で俺が浄化をかけたのを思い出し、言い直す。
「ケイト様は強制発情を解く方法はご存知なんですか……?」
「うん、淫紋を見つけて破壊したら良いはずだけど……」
俺の記憶にもぼんやりとあるよ。
なぜか俺の中にあったよね、淫紋ってやつが……。
俺がチラリとリンを見上げると、言いづらい俺に代わってリンがハッキリ答えてくれた。
「淫紋は場合によっては体内に埋められている可能性がある。それを解除し、ヒアッカに残った熱を冷ますため、多少そういった行為を行う必要性がある」
今までずっと黙って話を聞いていたクロイスが、ロイス譲りの碧眼を大きく見開いた。
フォーンとカイルが「そういった」「行為……」とリンの言葉を繰り返す。
「心配しなくて大丈夫だよ、俺とリンでちゃんと解いてみせるからね」
俺が微笑むと、皆少しだけホッとした様子を見せてくれた。
「そんなわけだから、しばらくこの部屋は俺とリンとヒアッカだけにしておいてもらえるかな?」
俺の言葉にドルーグが頷いて、深く頭を下げる。
「はい分かりました。ケイト様……、どうかヒアッカをよろしくお願いします」
「うん、任せて。ドアの前に衝立を置いておくから、どうしても急ぎの時には入っていいからね。部屋に遮音をかけてしまうから、入ってもらわないとこちらも分からないし」
現地に残っている団長さん達から、緊急の連絡が入る可能性もあるからね。
俺はブラウにも「また夜にたっぷり褒めるからね。しばらくはお仕事に戻っていてね」と声をかける。
ブラウは「はいっ」と元気な返事を残して姿を消した。
ドルーグとカイルとフォーンがぞろぞろと部屋を出たところで、最後に残ったクロイスが俺達を振り返った。
「あ、あの……、私、あの……っ」
両手をギュッと握りしめているクロイスの頬が、見る間に赤くなる。
それでも、俺を見つめるクロイスの眼差しは真剣そのものだった。
「クロイスは……、こっちにいる?」
俺が尋ねると、クロイスは「はっ、はいっ!!」と必死に答えた。
扉の向こうで、4班の3人が顔を見合わせている。
俺が「いいかな?」と尋ねると、ドルーグは「ケイト様がご迷惑でなければ」と答えてくれた。
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