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クロイスの成長(*)

 リンが部屋に遮音をかけて、俺はヒアッカにかけた睡眠魔法を浄化で解く。 「ぁ……れ……、ケイト様……?」  ぱち、と目を開いたヒアッカが俺の姿を映す。 「ヒアッカ、辛かったね……。ごめん、俺の身代わりにさせちゃったね」 「え、あ。大丈夫っス。今は体も軽いし……、ケイト様が治してくださったんですか? ありが…………、……っ」  体を起こしてお礼を言おうとしたヒアッカが、急に息を詰まらせる。 「ごめん、まだ全部は治せてないんだ。ヒアッカの身体に淫紋が残ってるはずなんだけど、それがどこにあるかわかる?」 「どこ、って言われ、ても…………っ」  ぐらりと体を揺らしたヒアッカの頬がみるみる色づいてゆく。 「無理に起きなくていいよ、横になってて。全身確認させてもらっていいかな」 「ん……っ」  コクリと頷いたヒアッカは、それだけで小さく肩を揺らしてしまった。  俺は一時しのぎとは分かりつつ、もう一度浄化をかける。  腕や胴をあちこち裂かれた服を脱がせて、下着も全部取り払う。  また息を詰め始めたヒアッカに、俺はまた浄化をかける。 「やはり外にはありませんね」  リンの声に「そうだね」と同意する。 「ヒアッカ、触れるぞ」  リンが短く断りを入れて、ヒアッカの下腹部を指で確かめるように押してゆく。  俺と同じだとしたら、やっぱりそこだよね……。  俺は、ヒアッカの肌を確かめるリンの手の動きに、つられて自分の下腹部までが熱くなりそうな気がしてしまう。 「ぅあっ」  ヒアッカがビクリと跳ねると、押された場所からふわりと魔術の光が覗いたのが見えた。  そこかぁ……。結構奥だね……。  ヒアッカは声を出してしまったのが恥ずかしいのか、両手で自分の口を襲えて驚いた顔をしている。 「それを壊したらいいの? 浄化の応用で外から出来そうな気がするけど、やってみる?」  確か蒼がやってたアレを俺がやればいいってことだよな。  俺が尋ねると、リンが首を振った。 「破壊しても、結局は砕かれた淫紋が内部に残るでしょう。砕く前に取り出して、それから破壊する方が良いのでは……?」 「でも大きいままだと出すのが大変じゃない? それに紋が有効な間は外せない可能性が高そうだよ」 「それは……おっしゃる通りですね……」 「じゃあやってみるね。ヒアッカ、ちょっとじっとしてて」  俺は記憶を頼りに、魔術陣を即興で書き換えて、ヒアッカのそこへと浄化の力を一点集中させて注いだ。  パキン! と俺の手の向こうで何かが砕けた手応えがある。 「できた!」 「さすがですケイト様!」  俺を手放しで褒めるリンの賞賛がくすぐったい。  ヒアッカも苦しげな表情でちょっとだけ微笑んでくれる。  俺はすぐにもう一度浄化をかけた。 「はぁ」と疲労の色濃い息を吐いたヒアッカに、俺は言う。 「ごめんね、まだ終わってないんだ。なるべく早くヒアッカのお腹の奥にあるそれを掻き出したいんだけど……」 「……マジっスか……」  ヒアッカが引き攣った顔をする。  そりゃそうだよね。身体の疲労は回復魔法で多少マシにはなっただろうけど、散々痛め付けられた後だし、精神的な疲労が溜まってるよね……。 「俺が出してあげるからね、足を広げてもらってもいい?」  あ、でも俺、こっち側から他人に指を入れたことないなぁ。  うまくできるかな。  慣れてるリンにお願いするべき……?  ……でも何だか、ちょっと……。  俺以外の人の内側に、リンが触るのって……嫌……かも……?  ……え、……うわ……、……俺ってこんな独占欲もあったんだ……?  リンが父さんに触られてるのを見て、リンが俺以外の人に触られるのは嫌だなって思ったけど、……リンが他の人を触るのも嫌だと思ってしまうなんて……。  なんか、心が狭いみたいでちょっと情けない気分になる。  内心狼狽える俺の前でヒアッカがぎこちなく足を開くと、俺の後ろから声がした。 「ケイト様。それは、私にさせてください」  クロイスの言葉に、俺は目を丸くして振り返る。 「え……。クロイスがするの……?」  思わず聞き返してしまった俺に、クロイスは真っ赤な顔でちょっと眉を寄せながらも、俺をまっすぐ見つめて「はい」と答えた。  そっかぁ……。クロイスがしたいのか……。  クロイスはヒアッカを、もうそういう風に意識してるって事なんだね。 「ヒアッカ、クロイスに任せてもいい?」 「いいっスよ」  やたらケロリとした返事じゃない?  でもまあ、ヒアッカもいいのか、そうか……。  ヒアッカは、クロイスに任せていいと思ってるんだな。  ヒアッカの返事にクロイスが甲冑を外そうとするので、リンが手伝いに入っている。 「じゃあ俺、今のうちに香油取ってくるね」  部屋を出ようとすると、リンが慌てて駆け寄ってきた。 「ケイト様、お一人で行動なさらないでください」  同じ廊下の3つ隣の部屋までだけどな、とは思うものの、俺はこの世界でほんの一瞬のうちに攫われた事が何度もあるので何も言えない。  リンが廊下で待機してくれてた4班に、俺の荷物ごと持ってきてくれるように頼んでいる。  いやでもそうか、ヒアッカとクロイスがついに……。  最近かなり距離が近いとは思ってたんだけど、とうとうお互い自覚したんだな……。  そんな風に思いながら、俺はクロイスにも浄化をかけて、説明と準備を済ませてから尋ねる。 「部屋は2人だけにした方がいいよね?」  クロイスが「お願いします」と言うのに対してヒアッカは「どっちでもいいっスよ」と答えた。  えー……。  ……まだヒアッカはそういう自覚が無さそうなんだけど、それでもいいの……?  この先ギクシャクしない?  いや、自覚がないからこそセーフなのかな……?  部屋を出ながら俺が視線でクロイスに「大丈夫?」と尋ねると、クロイスは小さく苦笑して「ありがとうございます」と言った。  その表情は今まで見たクロイスの顔の中で一番大人びていて、ああ、クロイスはこの旅でずいぶん成長したんだな、と俺は改めて思う。  クロイスは本当に、この巡礼で、魔物討伐も、結界柱の事も、ヒアッカと一緒に乗り越えてきたもんな。  この旅が終わればクロイスの肩書から『見習い』は消える。 「大丈夫?」だなんて、そんな心配は、きっと一人前の騎士には失礼だろう。  でも、だからこそ、もう少しだけ。  この巡礼が終わるまでは、俺にクロイスの心配をさせてね。  俺がクロイスより年上でいられるのは、ほんの一瞬だけだから。  多分、この先もずっと、俺は16歳のクロイスがどんな風に生きていたのか覚えてるんだろうな……。  俺が元の世界に戻って、次の週末にフロウリアに戻ったとして、その頃にはクロイスは30代目前だ。  男の俺と一緒にいてくれた頃のロイスと同じくらいの歳なんだから、きっと俺よりずっと体格も大きいんだろう……。  聖女の姿で俺が初めてロイスに会った時、ロイスは23から24歳になるとこだったんだよな……。  俺は廊下で隣に立つリンを見上げる。  リンは今年25歳になった。  俺との歳の差は、7つに広がった。  これ以上広がることはあっても、縮まることはないんだよな……。 「リン……」  俺の声は思ったよりも弱々しかった。  リンは少し驚くように青い瞳で瞬くと、俺を抱き上げた。  え…………?  いや、なんか最近リンってば気軽に俺を抱き上げすぎじゃない?  リンは俺の頭に顔を寄せると、小さな声で囁く。 「どうした? 話があるなら部屋で聞こう」  うっっっっ。  不意打ちで敬語抜きで喋られると、心臓がドキーーーッッってなるんだけど……。  そっか。内緒話がしたい時にも、リンは俺を抱き上げるんだね。 「……ケイト?」 「……っ」  耳元でそっと囁くのはやめてください。  顔が上げられないくらい真っ赤になっちゃうので……。  リンは小さく笑うと、顔を上げられない俺をリンのマントで包み隠して、俺を部屋まで運んでくれた。

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