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ロイスのそばかす遺伝子強過ぎだろ
〈引き続き蒼視点〉
父さん達の一行は、結界柱が見えるあたりの開けた場所に扇状にテントを並べて生活していた。
開けた場所っつーか、わざわざ開いたのか、そこらの木を切り倒して……。
よく見れば切った丸太を利用した簡易的なテーブルや椅子のようなものも見える。
そのテーブルの一つに、人に囲まれて図面をのぞき込む父の姿があった。
今朝ぶりに見た父は、見失った時と同じ姿をしている。
いや、髪色と目の色は今まで見たことねーくらいに明るい茶色をしてんな……。
周囲の人がパッと離れたかと思うと、父は空中に両手を翳して、まるで見たことも聞いたこともねーような魔法を使った。
まるで空気を凍らせるようなパキバキという音の後で、空間が小さく歪んで、戻った。
……なんなんだそれ……。
さらには見た感じ、その魔力は父さんの自前に見えるんだが?
オレは思わず早足で父に詰め寄る。
「父さん!? 何でその姿で魔法使えてんだよ!?」
「おお、蒼じゃないか、久しぶりだな」
「オレからすりゃ今朝見たばっかだっつの。つーかテメェ何勝手にゲートに入ってんだよ、テメェのせいでセリクもオレも死ぬとこだったし、ディアがオレらを庇って大怪我したんだぞ!?」
「おや、そうだったのかい?」
「そーだったんだよっ!! ってか兄ちゃんにはなんも言われなかったのかよ!?」
「圭斗と私は初めの頃はなかなか会えなかったからねぇ、そのうち忘れてしまったんじゃないか?」
んなこと言って、父さんが兄ちゃんの苦情を聞き流しただけじゃねーのかよ。
父さんは助手っぽい人達にあれこれ指示を出してから、オレ達を連れてテントに入った。
「それより、蒼はこのタイミングでこちらに来たのかい? どうやって?」
「いや、俺の質問から先に答えろよっ! 何でその格好で魔法を使ってんだ!?」
噛み付くオレに、父さんの代わりにシルが小声で答える。
「ミノル様には私が幻術をかけました」
「幻術!?」
オレの言葉にシルがシーッと口元に指を立てる。
ん?
なんかマズかったのか。
「このテントには遮音がかかっている、心配いらないよ」
父さんが言うと、シルとエミーがホッとした様子を見せた。
ああ、シルが幻術使えるっつーのは隠さなきゃなんねー事なのか。
何やらパソコンに向かい始めた父さんを横目に、シルから詳しく話を聞く。
「なるほど、そりゃいーな」
ハディルドの話を聞いた後だと、安全対策になるとは言え、聖女姿じゃ動きづれーなと思ってたんだよな。
「オレにも、かけてくれるか?」
「はい、もちろんです」
「助かる」
オレが感謝を込めて見上げると、シルは長い銀髪を揺らして嬉しそうに銀青色の目を細めた。
「そしたら俺の立ち位置は元聖女だな……。あー……。オレ達はこっちについてから今まで旅に出てたって事で……いけるか……?」
オレの苦しい言い訳に、エミーが頷く。
「そうですね、現在の教会では儀式の日もゲートの広場に見張りを置いていないと聞きましたので、十分可能かと思います」
ふぅん、それって元聖女をもてなす気はねーって事か……?
それとも勝手に下に降りて来いって?
「ま、好都合だな。んじゃそれで。皆、いいな?」
セリクとエミーとシルが頷く。
いやおい、父さんも話聞いてろよ!
そこへ「失礼します」とテントに入ってきたのは教会の侍女服を着た女だった。
エミーが、オレに今年の聖女付き侍女だというマリーを紹介する。
「彼女は大変優秀な侍女ですよ」
へぇ。こいつが今年の猛者中の猛者か。
オレの前でマリーは父さんのパソコンの周囲に乱雑に積まれた書類をテキパキと整えながら、新たに持ってきた書類と共に何かの実験結果を報告する。
いや、なんでそんな優秀な侍女が父さんの助手をしてるんだよ……。
巡礼に行った兄ちゃんにつくべきじゃねーのか?
マリーは父さんに報告を済ませると、オレの視線に頭を下げて、こちらに挨拶に来た。
オレはざっと事情を聞いて、ため息を混じりに謝った。
「そんで父さんについててくれてんのか……。出世の邪魔して悪ぃな」
「いいえ、ケイト様より賜りました大切な使命ですので」
なんだそれは。
また兄ちゃんは人をたらし込んでんのかよ。
「こちらのマリーと、現在ケイト様と共に巡礼に出ている侍女のアンナ、見習い護衛騎士のクロイスの3人は皆ロイスの孫なんですよ」
エミーがにっこり微笑んで説明する。
へぇ、ロイスの孫ねぇ……。
子じゃなくて、もう孫が活躍してんのかよ。時の流れが早過ぎだろ。
あ、そばかす。
化粧で隠されてるっぽいが、マリーの顔にはロイスによく似たそばかすがうっすらと見えた。
「もしかして3人ともそばかすだったりすんのか?」
オレの言葉にマリーはどこか不服そうに頷いた。
「マジかよ。ロイスのそばかす遺伝子強過ぎだろ」
ロイスの遺体が無事回収された話も聞いて、オレとセリクはホッと息を吐く。
兄ちゃんと同じ馬車に乗ってる見習い騎士は外見もロイスによく似た金髪碧眼らしいし、兄ちゃんの侍女までロイスの孫なら、なんだか兄ちゃんは楽しく巡礼できてるような気がした。
いやまあ、兄ちゃんならどんな奴とでもすぐ仲良くなるし、楽しくやれるんだけどな。
楽しそうに笑う兄ちゃんの姿を思い浮かべると、自然と口元が緩んだ。
そんなオレに、エミーが微笑んで言う。
「私とシルヴィンの子も護衛騎士としてケイト様についていますし、アオイ様の侍女だったララの子も護衛騎士になっておりますよ」
「エミーと、シル……の、子? それぞれの子って事か?」
オレの言葉にシルがそっとエミーの肩を抱いて言う。
「私達は夫婦となりました」
……マジかよ。
「そこは読めなかったな……」
オレの呟きに、エミーが苦笑するように答える。
「アオイ様が帰られてからの事です」
「ふぅん。ま、2人がそれでいいんならよかったんじゃねーの?」
視線を交わして微笑む2人は幸せそうだった。
言われてみりゃ、確かに今日見た二人の距離はずっと近かったな。
「あー……、かなり遅ぇけど、おめでとうな」
オレの言葉に2人が声を揃える。
「「ありがとうございます」」
「つーかララの子も護衛騎士だとか言ったよな。ララも結婚したのか。なんつーか、こっちの方が意外だな」
エミーが小さく笑って言う。
「確かに、あの頃のララしか見ていないアオイ様が、そう思われるのも無理はありませんね」
オレがこっちにいたのは2年きり、オレの世界でほんの1日の事だからな。
「ララはああ見えて、アオイ様に心酔していたんですよ」
エミーがイタズラっぽく片眉を上げて言う。
「へぇ?」
あんまそーは見えなかったけどな。
自由にさせてくれた事はありがたく思っていたが、だからって……。
オレの脳裏に、以前ララが教会で他の侍女達に囲まれていた時の言葉が浮かぶ。
ああ、そうだな。
ララは確かに、オレを悪く思っちゃいなかったか。
不意に届いた不器用な信頼に、胸がじわりと温かくなる。
オレは熱くなりそうな顔を誤魔化すように「どっか場所を借りられるか?」と優秀らしいマリーに尋ねた。
オレとセリクは物置になっているらしいテントで、聖女の姿に変身する事にする。
テントの外には護衛がわりにシルが立っている。
もう40年近く顔すら見せなかったオレを、とっくに現役を退いた片腕の騎士が、それでも守ろうとしてくれる、その気持ちがなんだかくすぐったい。
セリクの手がオレの肩に触れて、解除用の魔術陣に使う分の魔力を流してくる。
つってもこれ兄ちゃんのコンパクトなんだよな……。
オレはパールホワイトとピンクのフリフリに甘い装飾がなされたそれを手に、うんざりした顔でロックを解除して「変身」と唱えた。
明るいピンクの光がオレの身を包む。
兄ちゃんの変身ポーズは『可愛い』に全振りしてんのが多くて恥ずかしい。
この辺は先輩が絶対譲らなかった部分なので、もうオレはただ無心で変身が終わるのを待った。
……ん?
よく考えたら兄ちゃんこれ心の準備無しでやったのか?
あー……ちょっと……いや、けっこー……悪ぃ事したな……。
せめてこの変身時間は無駄じゃねーんだって説明だけでもしときゃよかったな。
元に戻る時は作った体を消すだけだから一瞬だけど、聖女になるには丸っと体を作るから時間がかかる。
その必要時間内にポーズを決めているので、これによって余計な時間がかかることはないって……。
……言ったところで、このポーズとエフェクトはなんともならねーか……。
ただただ、純粋に先輩の趣味が詰まっているだけだよな……。
しかも、一度体を作った後は変身解除時に魔力がコンパクトに回収されるので、変身解除したら次からはその魔力で実行可能なんだよな。
向こうの世界では持って半日くらいだったが、フロウリアなら丸1年は持つからな。
かなり有能なコンパクトなんだが……。
やっぱこのポーズとエフェクト機能だけは要らなかったんじゃねーかな……。
そう思うオレの視界の端で、セリクがうっとりとオレを見つめている姿が目に入る。
ああ……セリクは、オレの変身する姿に、見惚れてんのか……。
オレがギミックに従って微笑むと、セリクの顔が真っ赤に染まる。
ほんのそれだけのことで、オレは俄然やる気を出して、変身ポーズをやり切った。
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