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カラサディオの目に映るダリスガンドの姿(1/2)

 〈引き続きカラサディオ視点〉  出会った頃からずっと、ダリスは私を慕ってくれていた。  ダリスは生まれつきツリ目ではあったが、それでも幼い頃は今よりずっと可愛げのある顔をしていた。  私より全てが小さかったはずのダリスは、10歳を過ぎる頃には私より背丈も横幅も大きくなっていた。  ダリスが9歳の頃、私を殺すために菓子に仕込まれていた毒を、ダリスが大量に摂取して死にかけた事がある。  あの菓子をくれたのは、第二王妃派ではなかった。  それに私は衝撃を受けた。  兄を推す者にとってすら、私は邪魔者なのか、と……。  幼い頃の私は先生や両親に喜んでもらえるのが嬉しくて、勉強にも修練にも真面目に励んでいた。  けれど、そのせいで……兄の同じ歳の頃よりよく出来ていると言われ始めたのがいけなかったのだろう。  それからというもの、私は自ら学ぶ事をやめた。  全てにおいて、兄より劣って見えるよう気を配って生活するようになった。  兄より勉強も出来ず、剣技も乗馬も下手で、魔法だって大した才能がない。  周りにそう思わせる事で、自分や自分の周りの者……ダリスやリサを守りたかった。  3年間の努力の甲斐あってか、入学頃には第一王子派が私を狙う事はなくなり、第二王妃派にさえ気をつければ良くなりつつあった。  私が12歳を迎える頃、ダリスが「俺はもっともっと強くなるから、俺以外の奴を護衛に選ばないでくれ」などと可愛い事を言った。  私が12歳から貴族達の学院へ入学すると思っていたのだろう。  元々私は学力不足を口実に入学を一年遅らせるつもりだったのに。  そうして、私はダリスが12歳になるのを待って13歳で2人揃って学院に入学した。  ほとんどの王族が、学院には歳の近い護衛を伴って入学する。  護衛がよっぽど何か問題を起こさない限りは、学院を出ると同時にその護衛がそのまま専属護衛となる。  だからか、ダリスは私の護衛として入学する事を物凄く喜んでいた。  私は、兄よりも遅い年齢で入学し、兄よりも優れた成績を残さぬよう、さりとて王家として兄や父が恥ずかしくない程度の成績であるよう随分と気を配った。  けれど、私を王にと画策する者達がようやく私に見切りをつけて離れた頃、今度はまた別の者達が私に接触しはじめた。  愚弟である私なら、簡単に丸め込めるだろうと思われたようだ。  一応学院内では身分の上下に関係なく学生達は平等に過ごせるとの事だったが、それでも私に声をかける者がこれほど多かったのは、私に隙があったからだろう。  甘い声で私を誘う令嬢達から、次から次へと囁かれる陰謀や欲望に、私はもう、人というものが嫌になりつつあった。  優秀でも劣っていてもダメなのか。  これ以上どうすればよいのかわからなくなって、正直絶望していた。  結局、私のそばにいるだけで、ダリスとリサはいつまでも危ないままなのか。  ダリスはもう、学院を卒業する際には正式に私の専属護衛となってしまうのに。  これではダメだ。  私のそばにいては、ダリスもリサもいつか不幸にしてしまう……。  私を慕ってくれている二人には悪いが、私のそば以外の道を選んでもらわなければ。  ダリスに嫌われるのは嫌だ。  けど、ダリスが私のせいで怪我をしたり命を落としたりする方がずっとずっと嫌だ。  私は、令嬢達の誘いをできる限り受け、なるべく友好的に振る舞った。  元々私は人の話を聞くのが好きだったし、女性は皆それぞれ愛らしかった。  愚かな上に女性関係まで派手となれば、さすがのダリスも辟易するのではないかと思ったのだが、これで私に見切りをつけたのはいくらかの貴族と父だけで、ダリスはうんざりした顔をしながらも私のそばを離れなかった。  あの頃……、16歳を過ぎて夜会に出るようになった私が、令嬢に囲まれ過ぎて眩暈を起こし、バルコニーで涼んでいた時。  ふらりと兄がやって来た。  兄に2人分の飲み物を要求されてダリスが席を外すと、兄が尋ねた。 「私では頼りにならないか?」  労わるようなその声に、私は兄にも心配をかけているのだと気づいた。 「違います、兄上。私は……ダリスやリサを、危ない目に遭わせたくないんです」  そう答えた私に、兄は「お前は困った奴だな」と苦笑なさった。  その通りだ。  本当にダリスを守りたいなら、無理矢理にでも遠ざければいい。  私自身がダリス以外の者を護衛にと指名すればいいだけだ。  わかっているのに。  私はどうしても、ダリスとリサを、自ら手放せずにいた。 「なあ可愛いサディオ。困った時には、ちゃんと私を頼るのだぞ? お前が私の味方であるように、私はお前の味方なのだからね」  見上げた兄は、鮮やかな赤い輪郭を月光に縁取られて優しく微笑んでいた。  赤い瞳を細めた兄が私の頭を撫でる。  17歳の私を撫でてくれた20歳の兄の手は、なんだかとても大きく感じた。  結局、私はその後も何ひとつ問題を解決できないままに、ダリスをうんざりさせるだけの学院生活を続けて、19歳の誕生日を迎えた。  もう卒業式までそう日数もない。  新たな護衛を探すなら、そろそろ動き出さなくては……。  だが私は、たとえ新たな護衛を迎えても、その護衛に同じ思いを抱いてしまうのではないだろうか。  ……自分の為に、誰にも傷ついてほしくはない。  それがたとえ、その者の仕事だとしても……。 「今日の主役が、いつまでこんなところにいるつもりですか」  18歳のダリスはすっかり声も低くなり、その瞳は私を見下ろすようになっていた。  私は、細い月が薄暗く照らすバルコニーで夜風に当たったまま考え込んでいたようだ。 「ああ、そろそろ中に戻ろうか。リサも悪かったね、身体を冷やしてしまっただろう」  今日は私の誕生日パーティーという事もあり、リサもドレスに近い特別な侍女服で私についていてくれた。  寒い思いをさせてしまっただろうか。  風邪をひいていなければいいのだが……。  振り返った私の耳元に、ダリスが背を屈めて顔を寄せた。 「最近ぼーっとし過ぎだ。一体何を考えている」  ああ、私の迷いはもうダリスにも見透かされてしまうほどなのか。  そろそろ決めなくてはならないな。  ダリスとの、別れを。 「そうだな……。今夜話そう。ダリス、パーティーが終わったら私の部屋に来てくれ」  私の言葉に、ダリスは小さく喉仏を上下させて「分かった」と低い声で答えた。

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