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カラサディオの目に映るダリスガンドの姿(2/2)
***〈引き続きカラサディオ視点〉
私はダリスを部屋に入れると、リサに遮音を頼んだ。
リサは私が学院にいるうちにいくつかの魔法を身につけていて、私は令嬢達と秘密の会話をする際に、リサによく遮音を頼んでいた。
リサはソファーとテーブルの並ぶ部屋の他に、寝室にも遮音をかけてから下がった。
ああ、私がダリスを夜に呼んだので気を使ったんだろうか。
今夜はそういうつもりではなかったのだが……。
ダリスは私が17歳を超えたあたりから、なぜか自ら進んで私の性欲処理を手伝うようになった。
私の立場ではどこから足をすくわれるか分からないからと、閨に入る者を徹底的に調べるよりも自分が相手をする方が、手っ取り早い上に安全だと。
自分で出来るので必要ないと断っても、ダリスは一歩も引かなかった。
「俺にさせてくれ、頼む、カラサディオ」
ダリスにそんな風に頼み込まれてしまうと、首を横に振るのは困難だ。
ダリスは最初こそ私のモノを黙々と手で擦っていたのだが、いつからかダリス自身のモノまで合わせて擦るようになった。
確かに私だけが気持ち良くなるよりは、ダリスも共に済ませてしまう方が時間的な効率は良いのだろうが……。
「カラサディオ、話というのはなんだ?」
声をかけられて、私はリサが淹れて行ってくれたお茶のカップから視線を上げた。
向かいに座るダリスは既に飲み干してしまったようで、ダリスの前のカップは空になっている。
ああ……なんと言って切り出したものか……。
私はほんのひとくちお茶を口に含むと、苦い思いで飲み込んでから口を開いた。
「ダリス……、今まで私によく仕えてくれた」
ポツリと伝えた感謝の言葉に、ダリスは怪訝そうな眼差しを私に向ける。
「……お前もそろそろ、私には嫌気が差しただろう?」
そうだと言ってくれ。
そう思う気持ちと、ダリスからそんな言葉は聞きたくないと思う気持ちが胸の中でせめぎ合う。
「何を考えている」
ダリスの声はいつもより低く、冷え冷えとした響きだった。
「お前は俺にどうしてほしいんだ」
ギロリと私を睨みつけてくるダリスの瞳には、紛れもない怒りが滲んでいる。
「私、は……」
ダリスとはもう会いたくないと、これ以上ダリスをそばに置く気はないと、そう言わなければいけないのに、私の口は完全に動きを止めてしまっていた。
俯いてしまった私に、ダリスは立ち上がると大股でそばに来る。
「まさかお前……俺を……」
ダリスの両手が俯いた私の両肩を強く掴んだ。
薄い寝衣越しにダリスの指が肩へと食い込む。
その力強さに思わず顔が歪んだ。
「俺を、遠ざけようと……しているのか……?」
それは、今までダリスから聞いたこともないほどに掠れた声だった。
ダリスを泣かせてしまっただろうか。
私が慌てて顔を上げると、そこには酷く暗い瞳で私を睨みつける男がいた。
途端、ダリスが私を強く抱き締める。
私の耳元で、ダリスは背筋が凍るほどに低く恐ろしい声で言った。
「そんな事は、絶対に許さないからな」
「ぇ……?」
「俺が分かっていないとでも思っていたのか? お前が馬鹿なフリをするのは俺やリサの安全を守るためなんだろう?」
「……ぁ……」
ダリスはわかった上で、何も言わずにそばに居続けてくれたのか……。
「ただ、馬鹿なフリも9年も続ければ、もうすっかりフリではなく正真正銘の馬鹿だというのも分かっている」
「……それは……そうだな……」
毎日誘われるがままに遊び歩いていれば、当然勉強に割く時間はなく、近頃は授業に追いつくのが精一杯だ。
元々私はそう頭の良い方ではなかったのだ。
努力で補っていた私が努力をやめてしまえば、凡人以下になるのは当然だった。
「お前は本当に馬鹿だ」
「……ああ」
「お前に、俺やリサをそこまで優先する理由なんかないだろう」
「そんな事はない。私はお前達が何より大切なんだ……」
言葉にしてしまえば、それだけだった。
私が守りたいのはほんの少し。
家族と、たった2人の友人。
それだけなのに、そんな事すらうまくできないのは、私がやはり愚かなのだろうか……。
私の傍は、いつまで経っても、安全には程遠い……。
「だから、手放すと言うのか。……俺を……」
「……すまない……」
私がもっとうまくやれていれば、こんな事にはならなかったのに。
6年に近い月日をかけても、私はお前達に平穏を用意する事が叶わなかった……。
「お前はなぜそう1人きりで解決しようとするんだ!」
ダリスはそう言って少しだけ体を離して私の顔を覗き込んだ。
苛立ちに顔を歪ませたダリスが、いつもより暗い灰色の瞳で私を鋭く睨み据えている。
「お前が俺達を守りたいと思うように、俺達もお前を支えたいと思っていると、なぜ分からない!?」
「……分かっているさ」
分かっているからこそ、そんなお前達を、巻き込みたくないんだ。
こんなくだらない諍いに……。
「分かっていながら俺とリサを外すのか。それが俺達の為だと、お前は本当にそう思うのか?」
……分からない……。
分からないけれど、私には、もう……他に方法が思い浮かばないんだ……。
私はダリスの鋭い視線から逃げるように、視線を床へ落とした。
「お前は言っただろう!? 俺がいなければ生きていけないと!!」
ダリスの縋るような叫びに、幼い頃の記憶が蘇る。
……ああ、違うよダリス……。
私は「ダリスが死んでしまったら、私は生きていけない」と言ったんだ。
ダリスさえ無事でいてくれれば、私は生きていける。
たとえダリスが私の傍に居なくても。
ダリスが元気で生きていてくれるなら、私はそれで十分なんだ……。
私は首を振る。
「いいや、違うよ」
私の言葉に、ダリスは酷く傷ついた顔をした。
「……そん、な……」
ダリスは幼い私のあの言葉に、これまでずっと囚われていたのだろうか。
そのせいで……私を見捨てることも出来ず、この6年間、私のそばにいてくれたんだろうか……。
ダリスが私の目の前で弱々しく首を振った。
「そんなのは……嘘だ……」
その姿はまるで唯一信じていた物に裏切られたかのような痛々しさを纏っていて、私は居た堪れず、その頬に手を伸ばした。
「ダリス、そうじゃない。落ち着いて聞いてくれ」
ダリスの頬はひやりと冷たくて、小さく震えていた。
誤解を解かなくては、そう思った次の瞬間、浮遊感と共に床から足が離れる。
一瞬何が起きたのか分からず、ぐんぐんと動く視界に焦りだけが募る。
私がようやく状況を理解したのは、ダリスに抱え上げられたまま寝室のベッドの中央へと投げ込まれた後だった。
ダリスは無言で私の靴を脱がせてベッド脇へと放り捨てる。
「ダ……、ダリス……?」
尋ねる私の声に、ダリスは応えない。
ただじっと私から視線を逸らさずに、ダリスは靴を脱ぎ捨て、ジャケットを脱ぎ捨てる。
そのまま膝でベッドに上がったダリスは、首元のタイを解きながら私の上へと覆い被さってきた。
薄暗い寝室で、ダリスの影が一層暗く私を染める。
……ダリスはいったい何を考えているんだ。
見上げたダリスの灰色の瞳はギラギラと私を見下ろしていて、そこには今までに見た事のない色が宿っていた。
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