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負傷者のとこに案内して!

 ***〈カラサディオ視点〉  だが、ずっと私のそばにいると約束した私の専属騎士は、この通り。  すぐに単独行動を取っては私を置いて駆けて行ってしまうのだから、本当に困ったものだ。  私の待つ馬車へと駆け戻るダリスの姿を眺めながら内心でため息をついていると、マントにフードを目深に被った2人が夜番の騎士達の荷馬車からこちらへ向かってくるのが目に入った。  シオンと……もう1人はなんという御婦人だったか。  シオンとは私の管理下にあった頃何度か顔を合わせていたが、女性の方は近くで顔を見るのも初めてで、名前を聞いたこともなかった。 「2人とも、よく来てくれたね。落ち着くまでしばらく私の馬車に乗っていなさい」  私の言葉に2人が躊躇いを浮かべる。  そこへダリスが駆け付けて、有無を言わさず女性をさっと私の馬車に詰め込むと、丸腰のシオンに自身の腰から剣を一本外して差し出した。  おや、ダリスはその男を戦力として数えていたのか。 「馬車の守りを頼みたい、私兵達は魔物と戦った経験が浅い」  ダリスの言葉に、シオンが紫の瞳を揺らした。 「後ろから斬られるとは思わないのか?」 「お前は聖女様の迷惑になるような事はしないだろう。聖女様が戻られるまで、我々はこの村と自身の身を守る必要がある」 「……引き受けよう」  シオンは短く答えて剣を受け取った。  途端に、馬車から少し離れた所へ魔物が姿を現す。  先ほど見たものと同じような四足歩行の狼に似た輪郭の魔物だ。 「ここは任せる!」  ダリスはシオンを含む私兵達に叫ぶと、さっきよりも2人多く名前を呼んで4人を引き連れ魔物へと向かった。  ふむ、つまりダリスはシオンの事を、あの私兵2人分の穴を埋めるに見合った実力だと認めているのか。  チラと馬車の中へ視線を移すと、リサが御婦人の緊張をほぐすような声かけをしている。  彼女もシオンも、ケイト様に救われた人々だ。  それで言うならば、私も、ダリスですらケイト様に救われた人間なのだろう。  私はケイト様に心を救われ、ダリスは自領であるロウフォード領の民達の穢れを、ケイト様の浄化で癒していただいた。  ロウフォード領では、私の知らないダリスの顔を沢山目にした。  兄上はあちこちに出かける人だったが、私はほとんど城から出なかったので、ダリスが自領でどんな風に振る舞っていたのかも今回初めて目にした。  ……あんな風に、ダリスが私以外の誰かを慈しむような眼差しで見つめていたのも、初めて見た……。  あの夜ダリスに尋ねたところ、孤児院にいたあの女性はダリスの産みの親なのだそうだ。  彼女にも父親にも直接確かめたことはないらしいが、屋敷に残っていた手紙と書類から、おそらく間違いないだろうとダリスは言っていた。  そう言われて私は納得した。  書類上のダリスの母親はロウフォード伯爵夫人だが、確かにロウフォード家の妹弟とダリスはあまり似ていないと感じていた。  それに比べれば、孤児院にいたあの妹弟の方がよっぽどダリスに雰囲気がよく似ていた。  母親が同じだからだろう、とダリスはどこか寂しげに言った。  いつ頃気づいたのかと尋ねれば、父親から書類庫の鍵を渡された18歳の頃だと答えた。  では、それから5年もの間……。  お前はこんな秘密をひとりでずっと抱えていたのか……?  私に一言話してくれてもよかっただろうに……。 「黙っていてすまない。俺は本当は……お前の近衛騎士となる資格を半分しか持っていないんだ……」  そう言って両拳を握り締めたダリスの肩は、小さく震えていた。  まさか、この男はそんな事に怯えていたのか、と私は驚いた。  あんなに強引に私を手に入れておきながら、資格が足りないだなんて。  もう今さら、私がお前以外の者を選ぶはずなどないのに……。 「12時方向に1体現れました!」  私兵の声にそちらを見ると、さっきよりも少し小さい魔物がポツンと立っていた。  先ほどと違ってこの魔物は猪のようなずんぐりとした姿をしている。 「気をつけろ、あれは突進してくる事がある。向かってきたら避ける事に専念した方がいい」  私兵達に助言をしたのはシオンだった。 「わ、わかりました」 「了解です」  何人かが素直に返事をしているが、応えない者も多いな。 「3時方向にも魔物を確認、さ、3体いますっ!」  おや、それは良くないな。  9時方向で戦っているダリス達からすれば完全に反対方向だ。  ダリス達はまだモタモタと魔物と戦っているが、あれは私兵達に経験を積ませるためにダリスは手を出さずに監督をしているのか……。 「ダリス!」  私が呼べば、ダリスはなぜかどんなに離れていても必ず気付いてくれる。  今回も、随分と距離があったのにダリスはパッとこちらを振り返った。  それだけの事が、私にはなんだかとても嬉しい。 「来るぞ!」  鋭い声はシオンのものだ。  私は戦闘の邪魔にならないよう素早く馬車の中へ引っ込むと窓を閉めた。  こうすれば馬車の中は各種の防護魔法で守られる。  ただ、外の声が聞こえなくなってしまうので、状況もまるで分からなくなってしまうわけだが……。  振り返った馬車の中では、リサともう1人の女性が揃って様子をうかがうように私を見ていた。 「少し戦闘になりそうだ。しばらく窓は開けないほうがいいだろうね」  私の言葉に「分かりました」とリサが答え、隣の女性も頷いた。  私は内側から見える範囲に視線を巡らせるが、やはりここからでは2人の私兵の背が見えるだけだな。  後はとにかく待つしかないな。  私の専属護衛であるダリスが馬車の扉を開けてくれるのを……。  私はダリスの無事を強く強く祈ると、ゆっくり深く呼吸をして気持ちを切り替える。  そうして、まだ名も知らないご婦人とこの機に親交を深めるべく、柔らかい笑みを浮かべて口を開いた。  *** 「3班5班は下馬し対魔物用陣形で村へ突入! 魔物は発見次第討伐、村人への聖球利用は惜しむな! 1班は村の周囲を確認する! 偶数班はカディー様の兵達の支援! 馬車を守りつつ、聖女様が到着次第、聖女様の指揮下に入れ!」  馬車よりも早く馬を走らせて村にたどり着いた騎士団長のヴィクトルさんはそう言ったのだと、まだ馬車にいる俺にブラウが伝えてくれる。  おそらく村に着いたら偶数班の隊長さんから状況説明があるんだろうけど、ブラウが先に教えてくれたおかげで、少し早く考えられるね。 「村に魔物がどのくらいいるかわかる? 負傷者の数は?」  ブラウが現時点で聞き取れた限りの情報を俺に伝えてくれる。  村人は魔物が湧いてきた方向……南西側にはもうほぼ残っておらず、北東にある村でひとつだけの教会に集まっているようだ。  ただ魔物と接触して穢れた人が多く、戦闘要員以外で教会の外で寝かされている人数もそこそこいるらしい。  穢れてしまった人達は穢れの感染を防ぐ為、教会に入れてもらえないんだろう。  ブラウにはまた新たな情報が分かり次第報告してくれるよう伝えて、俺はリンと2人で村での動きを相談する。 「じゃあ俺とリンは4班に入って、浄化移動時の編成で2、4、6班の順で行くのがいいかな」 「それがいいでしょう」  そこへ、ブラウが屋根の上から窓にひょこっと顔を出す。 「あー……、ケイト様、ダリスの兵がけっこーやられたみたいで、カラサディオ様の馬車の周りがバタバタしてます」 「治癒は?」  カラサディオの隊にも治癒術師はいたはずだけど……。 「かけてるみたいですが、間に合わない感じで……、あ、これシオンですね。なんでだろ……」 「シオン……!?」  どうしてシオンが……?  そう思う間に馬車が止まる。  リンが扉を開けると、村からは甲冑の音に騎士達の声、血の匂いと、濃い瘴気が漂っていた。  結界からは離れたのに、魔物が多いからか村の瘴気が濃い。  俺が着いた事に気づいた騎士達数人が、俺を振り返る。 「「ケイト様!」」  カラサディオの馬車の周囲をぐるりと守っていたのは護衛騎士達だ。  私兵は3人とダリスしか立っていないのか。 「負傷者のとこに案内して!」  俺の言葉に応えるように、シヴァルがパッと駆け出す。  するとリンが俺を抱き上げて駆け出した。  そこには血溜まりの中に横たわるシオンの姿があった。

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