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幸せになれない男と絶対幸せにしたい男(2/2)

 俺はシオンに微笑んで言う。 「無理矢理自分を許そうとしなくていいよ、シオンにはまだまだ時間が足りないと思うんだ。今はかわりに俺が、自分を許せないシオンを丸ごと許しておくから、大丈夫だよ」 「……ケイト様……」  躊躇うような、でもどこか縋りつくような眼差しが俺に注がれる。 「シオンはこれからどうしたい?」 「……っ」  まだ自分のやりたいことを見つけるのは難しいか。  じゃあこれならどうかな? 「ケーゲルさん、ちょっと手を貸してくださいね」  言ってシオンの横で膝をついているケーゲルさんの手を取ると「いかようにもお使いください」と返事がきた。  いや、ちょっと手を借りるだけだよ?  俺はケーゲルさんの手を、シオンの膝の上で固く握りしめられたシオンの手の上に乗せる。  シオンの紫の瞳は戸惑うようにそれを見つめた。  うん、嫌ではなさそうだな。  ケーゲルさんの手が、ぎゅっとシオンの手を握り込む。  それは、もう決してシオンの手を離したくないと言っているように見えた。 「リン、シオンの肩に触れて」  俺の言葉にリンは「はい」と答えてシオンの肩を片手で包む。 「シオン、もしその肩と手に触れている手のどちらかがくっついたままずっと取れなくなるとしたら、どっちの方が許せる?」 「……え?」  シオンが驚いたように俺を見て、それからケーゲルさんとリンをそれぞれ見比べた。 「選んで、ずっと離れられないならどっちがマシ? 今すぐ答えて」  俺が即断を求めると、シオンは慌てて答えた。 「ケ、ケーゲルでっ」  ケーゲルさんが今にもシオンに抱きつきそうな顔をして、腕までグッと持ち上げかけたけど、なんとか堪えたようだ。 「リン戻っていいよ、ありがとう」 「はい」 「ケーゲルさんは、来年からはどこでどんな風に過ごされる予定ですか?」 「私は教会下の自宅でシオンさんと過ごす予定です」  いや、待って待って。  俺が今ケーゲルさんを選ばせたのは消去法だったんだからね?  そこに早々にシオンを組み込むのは、流石に強引じゃないかな……。 「それってシオンの同意は取れてるんですか?」 「これから取ります!」 「そういう事は同意が取れてから言ってください」 「はいっ! 以後気をつけます!」  ケーゲルさんがスパッと言い切ったところで、シオンの肩が揺れていることに気づいた。  あれ、シオン笑ってる? 「ふっ、ククッ、……もう、ケーゲル、勘弁してくれ……っ、俺は今、ケイト様と真面目に話してるんだぞ……?」  うわ、シオンっていつも無表情か顰め面だったけど、笑うとこんな可愛い顔になるんだ。 「っ、シオンさん! 俺と一緒に暮らしましょう! 俺が絶対シオンさんを幸せにしますっ」  とうとう我慢できなくなったらしいケーゲルさんが、シオンにガバッと抱きついた。  その勢いにシオンが体勢を崩して押しつぶされる。  ケーゲルさんは体に厚みがあるからリンより重そうだよな……。 「……っ、ケーゲル、俺にはそんなこと許されないって……」 「それは俺が許したよ?」  俺が言うと、ケーゲルさんも畳み掛ける。 「シオンさんっ、神の御使いである聖女様がお許しになったのに許されないことなんてこの世にありませんよっ、足りないんなら俺も許します!」 「そ……、そんな…………」  シオンの声は動揺に震えている。  あれ、これって押せばなんとかなりそう……? 「俺は聖女として、シオンには幸せになる資格が有るって宣言できるよ」 「っ、ケイト様っ」  床の上で、ぎゅうぎゅうにケーゲルさんに抱きつかれたままのシオンが困惑するような声を上げる。  んん? もしかしてシオンって、ケーゲルさんを振り払えないの?  それって……申し訳ないから……?  シオンって意外とストレートな押しに弱いんだな。  いやむしろ損な役ばかり引き受けてるのは、昔からそうだったって事か……?  よし、押そう。 「シオン、ケーゲルさんはシオンがいないとダメなんだよ。俺もせっかく最後の巡礼を終えたばかりのケーゲルさんをこんなところで失うのは嫌なんだ」 「う、失う……!?」 「ケーゲルさんは、シオンと一緒じゃないと死んでしまう病にかかってるんだよ」 「!?」  驚きに目を見開くシオン。  まあ、辛うじて嘘ではない。  俺もリンと一緒じゃないと『心が』死んでしまう『恋の』病にかかっていると言えなくもない。  ……かなり強引だけど。  ケーゲルさんは俺の言わんとすることが分かったのか、嬉々として乗っかってきた。 「そうなんですよシオンさん! 俺はシオンさんと離れたら生きていけないんです!」 「ケーゲル……、そんなわけ……」 「あります!」 「っ」  なるほど、そこで言葉を呑んでしまうのがシオンなんだなぁ。 「シオンさん……、俺は……シオンさんがいないと、生きていられないです……」  ケーゲルさんが全力でシオンを口説いている。  俺は神妙な顔で深く頷きながらケーゲルさんの言葉を肯定する。 「世の中にはそういう病があるんだよ、実は俺もそうなんだ……」  チラと後ろを見れば、リンが喜びを隠しきれていない顔をしていた。  ……離れていると生きた心地がしないという点では、ケーゲルさんよりリンの方が重症かもしれないな。  シオンは俺の視線で俺の病の相手に気づいたのか、驚いたような、でもどこか腑に落ちたような顔をした。  実際、リンは常に俺のそばにいるからな。  俺は内心で苦笑しながら、なるべく真面目に申し訳なさそうな顔をして言う。 「シオン、そんなわけでとても申し訳ないんだけど、俺が次の巡礼に行ってる間だけでいいから、ケーゲルさんの面倒をみてあげてもらえないかな?」  あくまで、面倒を見られるのはシオンじゃなくて、ケーゲルさんという方向で。  おそらくシオンはケーゲルさんに面倒をかけたくないと思ってるだろうから。 「ケイト様……」  シオンが途方に暮れたような顔で俺を見上げてくる。  なんだか不憫ではあるんだけど、俺は精一杯困った顔で頼み込む。 「巡礼が始まる前と終わった後には、俺も必ずケーゲルさんの様子を見に行くから、シオンが頼まれてくれると本当に助かるんだけど……」  俺としては、今回シオンが俺に殺してくれって言わなかっただけでも、手応えは感じている。  だからもう少しだけ、シオンはケーゲルさんにたっぷり愛を注がれながら過ごしてみてくれないかな……。  ケーゲルさんの愛を、今はまだ受け取りきれないままでいいから。  しばらくは、隣からかけ流される愛に戸惑ってるだけでいいから。  シオンはケーゲルさんにひっぱり起こされて俺の前に膝をつき直しているけど、シオンが姿勢を正してもケーゲルさんはシオンの手をぎゅっと握ったままだ。  それでも、シオンはその手を振り払わないんだね。  ……これなら大丈夫かな。 「シオン、引き受けてもらえないかな?」 「お願いしますシオンさんっ! 俺の……哀れな俺の、命を助けると思って……っ」  ケーゲルさんはシオンの手を両手で必死に握りしめている。 「ケーゲル……」  シオンはどうしたらいいか分からないみたいな顔をして、ケーゲルさんを見てから、俺を見た。 「多くはないけどお給金は出すから、シオンには次の巡礼が終わる頃まで、ケーゲルさんと共にいることを俺から依頼してもいい?」  仕事の依頼という形にすれば、シオンも呑み込みやすくなるんじゃないかな。  シオンは、少し苦しそうに眉を寄せながらも、諦めを滲ませて「わかりました。私でケイト様のお役に立てるのでしたら、喜んで」と答えてくれた。 「っ、ありがとうございますシオンさんっっ、ケイト様っ!」  ガバッともう一度ケーゲルさんがシオンを抱きしめる。  むぎゅむぎゅと抱きしめられて、すりすりと頬を擦り合わされても、シオンに戸惑いはあれど嫌悪感は無いように見える。  ん……?  シオンの両手はケーゲルさんの背中側に回りつつも、ケーゲルさんを抱き返していいのか迷っている様子で、中途半端な位置で止まっている。  うーん、お節介かな……?  俺は、やり過ぎかもしれないと迷いながらも、浮いたままの手が見ていられなくて、シオンの手の甲を押してケーゲルさんの背にペタリとくっつけた。  ケーゲルさんがハッと一瞬体を震わせて「シオンさん……」と震える声で零すと、感極まって泣き出した。  あ、ごめん、それシオンの意思じゃないんだ。  説明するべきか迷った一瞬のうちに、シオンの手が動いた。  シオンの大きな手は、ケーゲルさんの背を優しく撫でていた。 「ケーゲル……ありがとう……」  シオンの声は、まだ悲しみの色を纏ってはいたけれど、とても優しかった。  俺は、どうやら自分のお節介がやり過ぎではなかったようだとホッとする。 「リン、しばらく部屋を出ようか」 「はい」  俺は、涙を零して抱き合う2人を寝室に残して、そっと居間へと移動した。  よかった……。  シオンの望みが死ではなくなって。  また1年後に、もう1度シオンに望みを聞いてみよう。  どうか1年後のシオンには、俺の叶えられるような前向きな願いが生まれていますように。  俺は、窓の外に広がる夜空を見上げて、切に願った。

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