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急成長
***
「リン、今日も一日お疲れ様。寝るのが遅くなってしまってごめんね、ゆっくり休んでね」
俺の言葉に、リンがいつものように答える。
「はい、おやすみなさいませ。ケイト様もごゆっくりお休みください」
リンに微笑みを返して、俺はベッドに潜り込んだ。
今夜はシオンとケーゲルさんが落ち着くまで寝室を貸していたので、結果的にリンを寝かせるのが遅くなってしまったな……。
リンはいつも早朝から修練をしてるから、明日に響かないといいけど。
そんなことを考えながら目を閉じると、部屋の隅からリンの声が聞こえてきた。
「ケイト様……」
「うん?」
どうしたんだろう。
挨拶を交わした後で、リンが声をかけてくることは珍しい。
「ケイト様は……私がいないと生きられないのですか?」
うっ。
わざわざそれを掘り返すの……?
寝返りをうってそちらを見ると、リンは上半身をまだ起こしたままで俺をじっと見つめていた。
ううう、そんな嬉しそうな、期待に溢れた眼差しで見てくるなんて、ずるいよ。
リンにそんな顔されたら、違うなんて言えないじゃないか。
「う、ん。まあその……。……うん……。そんな感じ、です……」
「ああ、ケイト様……」
なるべく直接的には肯定しなかったのに、それでもリンはベッドから立ち上がってしまった。
感極まったみたいな顔で、うっとり俺を見つめたまま、俺のベッドに乗り上げてくる。
「私もです……」
リンが俺の顔に触れそうなほどに顔を近づけて囁く。
幸せそうな顔してるなぁ。
きっと俺も今、こんな顔をしてるんだろうな。
「よく知ってるよ」
俺が苦笑して答えると、リンも苦笑する。
「ご存知でしたか」
「だから、死なないでね」
「はい。ケイト様も」
「うん、できる限り頑張るよ」
リンは、その言葉だけで十分だと言わんばかりの顔で微笑んだ。
暗い部屋の中でも、リンの青い瞳は本当に綺麗だ。
「今日は一緒に寝ようか、このベッド大きいから」
「よろしいのですか?」
「……何もしなくてよければだけど……」
難しいかな?
リンはもうやる気満々だったりする……?
色気をたっぷり纏って微笑むリンは、それでも「はい」と答えてくれる。
この日俺達は、手を繋いで眠った。
リンの手は大きくて、温かくて、すごく安心する……。
シオンもいつの日か、こんな風に大切な人と手を繋いで過ごせる日が来るといいな……。
……結界柱に入ってる人達は、今もずっとひとり、あの柱の中にいるんだよな……。
そう思う度に、俺だけが幸せに過ごしている事に、罪悪感が幾重にも積み重なる。
一日でも早く、誰かと一緒に過ごせるようにしてあげたい。
家族でも友達でも恋人でも、彼らが会いたいと思う人達に、また会わせてあげたいな……。
この町……、ルクレイン領にある西側で一番大きな町とも明日でお別れだ。
大きな町だけあって、町の浄化自体にも多めの日数が割り当ててあったし、各施設の慰問予定や、この町を拠点に行って戻ってで2本の結界柱を浄化することもあり、ここでは3週間ほどの時間を過ごした。
この町から教会のある町まではそう遠くないので、ここにいる間にルクレインの私兵さんには何度も蒼達とのやり取りを手伝ってもらったな。
おかげで山ほどあった聖球も無事父さん達の手に渡ったし……。
きっと今夜も、父さんやセリクは机に向かって頑張ってるんだろう。
蒼はもう眠っているだろうか。
こっちにはインターネットもないし、もう寝てるかな……。
いや、スマホにメールが届いた時には本当にビックリした。
さらに翌日には電話もかかってきたからな。
こっちからはメールも電話もできないけど、それからは毎晩時間を決めて電話でやり取りしていた。
すぅ、すぅ、と規則的な寝息が聞こえてきて、リンが寝付いたことに気づく。
護衛騎士達は当番制で寝たり起きたりする事もあるからか、寝付くのも早いな。
仰向けのまままっすぐ眠るリンの姿に、リンは寝ている時までまっすぐなんだなと思う。
じっと見つめていると、いつだって俺を支えてくれる美しい横顔に、どうしようもなく愛しさと感謝が胸に溢れる。
俺も、もっともっと頑張ろう。
出口の見えない道に立つ人達を、ちゃんと明るい場所に導いてあげられるように……。
誰の目にもはっきりと届くくらい、強い光になりたい。
そして、辛い人達の苦しみを全部包み込めるくらいの、もっともっと、大きな心が……欲しいな……。
「……ケイト、様……?」
すぐ近くからリンの声が聞こえた。
でもそれは、いつもの愛しさがたっぷり込められたような声ではなくて、どこか戸惑っているような響きだった。
どうしたんだろう。
瞼を閉じたままでも、朝の光がほんのり感じられるので、今が朝なんだろうなということはわかる。
外はまだシンと静かなので、いつもリンが早朝の鍛錬に抜けていくくらいの時間なんだろう。
けど、いつもならリンは俺を起こさないようにと、気配を殺してそっと出ていくのに……。
どうやら何かあったらしいとようやく理解して、重たい瞼をよいしょと開ける。
すると、困ったような顔で俺を見つめるリンと目が合った。
リンが動揺を隠すように青い瞳を揺らす。
「っ、起こしてしまって申し訳ありません、ケイト……様……?」
うん?
なんで疑問系……?
……というか、リンが頬を赤く染めつつあるのはなんで……?
俺はもぞもぞと体を起こして、自分の姿を確認しようとして、気づく。
……胸しか見えないんだけど……?
というか今までもそこそこ邪魔になっていた胸が、さらに大きくなってるんだけど……?
重みを特に感じないのは、心の姿だからというのはわかるけど、だからってなんで胸がこんなに成長して……。
顔も変わってるんだろうか、と、俺は腰のポーチから変身コンパクトを取り出そうとして、胸に阻まれる。
いやこれ、腕を胸の下から回さないとなのか……。
うう、せっかく浄化の時にも胸に当たらないように両手を組めるようになって、ずいぶん慣れつつあったのに……。
こんなに急にサイズが変わったら、また自分の胸に腕が当たって狼狽える恥ずかしいところを騎士達に見られてしまう……。
コンパクトを開けて中の鏡を覗くと、男の俺が映っている。
……そうだよ、これじゃ今の姿は見えないじゃないか。
俺のしたかったことに気付いたリンが「お待ちください」と言って寝室の鏡台から手鏡を持ってきてくれた。
わぁ……、顔も大人っぽくなってる……。
最初の聖女が14歳くらいの姿で、昨日までの姿が17歳くらいの姿だったとしたら、今の姿は20歳くらいだろうか。
……俺の実年齢よりも年上に見えるんだけど……??
「なんで急に姿が変わっちゃったんだろう……」
「ケイト様のお心がお美しく成長なさったという事ではないでしょうか」
そう言うリンは動揺を乗り越えたのか、今はうっとりと俺を見つめていた。
服もちょっとデザインが大人っぽく変わっているみたいだけど、窮屈だったりはしない。
一体どうして急に成長したんだろう。
あ、もしかして昨夜俺が自身の心の成長を願ったから……?
……いや、待って?
俺が願ったのは大きな力とか大きな心であって、大きな胸ではないよ!?
うーん……。
さらに育ってしまった障害物のサイズを今のうちに把握しておかないと、早速今日から困りそうだな。
俺が胸の大きさを確認するように左右から両手で挟んでみたり、下から持ち上げたりしていると、リンの視線が俺の胸にめちゃくちゃ注がれているのに気付く。
「リン……?」
パッと顔を上げると、リンが大慌てで視線を逸らす。
いや、今更だよ? めちゃくちゃ見られてるの分かったよ?
きっと世の女性達もこんな風に、胸を凝視されれば分かるんだろうなぁ。
俺も失礼なことをしないように気をつけないとな。
「えーと……、俺の胸、気になる? ……触ってみる?」
ちょっとした悪戯心で尋ねてみると、リンは飛び上がらんばかりの勢いで大きく後退った。
「わっ、わわわわわっ私がですかっ!?」
……まさか、リンがここまで動揺するなんて思わなかった。
なんだか面白くなってしまって、俺は頷いた。
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