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年下キラー
尋ねて、俺はシオンの答えを待つ間にシオンにも回復をかける。
この渓谷に拠点を持つ窃盗団のボスだったその男は、白い髪を3つ編みにした、中肉中背の30代中頃の男だったらしい。
ということは、シオンより20歳は年下か……。
ケーゲルさんもシオンより10歳ほど離れてるし、シオンは年下に好かれるタイプなんだろうか。
男との出会いは、もう15年ほど前に遡るらしい。
その男がまだ少年だった頃、裏の世界に足を踏み入れたばかりで不慣れなその子の面倒を何くれとなく見ているうちに、自然と懐かれていたそうだ。
……それもケーゲルさんと同じパターンでは……?
「なるほど……。よくわかったよ、ありがとう」
俺の言葉に、シオンが「今回は私の招いた事件に皆を巻き込んでしまい、大変申し訳ありませんでした」と謝罪する。
「ううん、これはきっと良いタイミングだったんだよ。ケーゲルさんと一緒の時でよかったね」
俺の言葉に、シオンはじわりと頬を赤らめて俯きながらも「……はい」と小さく答えた。
おお?
なんだかシオンにも少しは心境の変化があったんだろうか……?
リンが遮音を解いたので、俺は横たわるケーゲルさんへと向き直る。
「まだ血が足りないので、3回ほど追加で回復をかけますね」
声をかけて両手をかざすと、ケーゲルさんは「ありがとうございます」と答えた。
けれど、ケーゲルさんはシオンやソーンほど堪え性がないのか、そわ、そわ、と小さく体を揺らして俺をチラチラと見てくる。
回復魔法の方は別に動いてても構わないんだけどね。
その視線は、ちょっと気になるからやめてほしいなぁ……。
どうしたのかな。
俺がシオンと話した事が知りたいんだろうか?
あ、リンがケーゲルさんに注意をしようとしている……。
そんな背後の気配を察知した時には、ケーゲルさんはシオンに叱られていた。
「ケーゲル、ケイト様に礼を欠く態度を取るな。ケイト様がお許しになっても、私は許さないぞ」
うん?
シオンって確かに俺には常に敬意を持って接してくれるけど、周りにまでそれを強要するような事はなかったんだけどな……?
これもシオンがケーゲルさんに心を開いてきたことによる変化なんだろうか?
シオンはケーゲルさんに小言を言いながらも、ケーゲルさんを大切そうに見つめている。
ケーゲルさんは、そんなシオンをじっと見つめて、それから俺に「ケイト様、申し訳ありませんでした」と礼儀正しく謝罪する。
詳しくはわからないけど、どうやらこの2人は雨降って地固まった……ということだろうか?
回復をかけ終えた俺は「ケーゲルさん、ゆっくり体を起こしてみて、ふらつくようなら言ってください」と声をかける。
「はい」
と答えたケーゲルさんが「ケイト様、私に敬語を使わなくて結構ですよ」と苦笑する。
俺は、ほとんどの騎士達にタメ口で話してるけど、30代後半以降の人達にはついつい敬語を使っちゃうんだよな。
それで言うと37歳のドルーグは敬語の対象なんだけど、彼は最初に名前を知ったのが大号泣してるとこだったからなぁ……。
あんまり「年上の立派な人だ」と思わなかった第一印象のまま、タメ口で許されている。
もちろん、今はドルーグがちゃんと年上の立派な人である事は理解してるし、むしろ俺が最も頼っている騎士の1人だ。
「私より年上のシオンさんに敬語を使わないケイト様が、私にだけ敬語を使うのがなんだかむずむずしていたんです」
言われてみればそれもそうなんだけど……。
「……俺にとって最初に出会ったシオンは、15歳の男の子だったからね」
「15歳のシオンさん……」
ケーゲルさん……いや、ケーゲルは真剣な顔で何かを考える。
「可愛かったですか?」
そんなことか。
「すごく可愛かったよ。まだ目もクリクリしてたし、一見して利発そうな顔立ちでね。とても大人しかったから心配で……」
だけど、あの時、俺はシオンを助けられなかったんだ……。
思わず俯いた俺の背に、リンがそっと触れた。
顔を上げるように言われた気がして、俺は反射的に顔を上げる。
すると、俺の言葉に幼い頃のシオンを想像したのか、デレデレと鼻の下を伸ばすケーゲルと、それを「恥ずかしいから想像するんじゃない」と目元を赤らめながら止めるシオンがいた。
そうか……。
あの頃、誰にも何も打ち明けられずに、SOSすら求められなかった小さな少年は、もうどこにもいないんだ。
「あ、そうだ。当時の写真があるかも」
俺はシオンを撮ってなかった気がするけど、確か咲希ちゃんが出発の時の集合写真を撮ってたはずだから……。
「写真……?」
俺はスマホから目的の写真を見つけ出すと、拡大して見せる。
シオンはカメラ目線でもなければ、少し俯きがちで、暗い顔をしている。
だけど、そんな後ろ暗い空気を纏った姿は、ある意味で今のシオンと共通していた。
「ほらここ、出立の時の写真だから、まだ15歳だね」
「……っ!」
俺のスマホを覗き込んだケーゲルが真っ赤になる。
……好きな人の若い頃の写真みて、可愛いなって思うのまでは分かるけど、真っ赤になるのはなんでなの……?
「こ、これは……サキ様の四角い物に入っていたものでは……?」
「そうなんだけど、写真ってデータを送ったり出来るから、えーと……、いくつも増やせるんだ」
「そ……そうなんですか……」
「シオンさん……俺と結婚してください……」
いや待って? プロポーズする流れじゃなかったよね?
あとフロウリアって同性婚できるんだっけ??
「ケーゲル、変なことを言うのはやめてくれ」
うんざりと答えるシオンだけど、口調ほどに嫌そうな顔ではないな。
もしかして、この会話って2人の間では日常会話なのか……?
「いや俺、シオンさんみたいな子が生まれるなら産みますよ、根性で」
根性で……?
「無茶を言うな」
そう言って苦笑するシオンは、やはり言うほど嫌そうではない。
……むしろ、見ようによっては幸せそうな笑みにも見えるな。
俺は、ふと気になったことを尋ねた。
「ところでシオン、確認なんだけど、ケーゲルや今回の人以外にシオンが面倒を見てやった相手って、もういないよね……?」
俺の質問に、シオンがギクリと肩を揺らす。
それを見て、ケーゲルもヒクリと頬を引き攣らせた。
「えっと……、あと何人いるの……?」
「ごに……、いや、あー……、3人、程でしょうか」
つまり、下手すると5人いるのか。
若い頃にシオンに優しく世話を焼かれて惚れてしまったかもしれない少年少女が。
さらには、怪しげなのだけでも3人はいると……?
「それって全員野郎なんですか?」
「ああ、そうだな。そうだ。男なんだから、こんなことがもうこれ以上あってたまるか」
ケーゲルの問いに答えるシオンが、ホッとした様子で胸を撫で下ろしているけれど、俺には相手が少女だろうと少年だろうとフラグが回避できた気はしないな……。
ケーゲルもそう思ったのか、片手で額を押さえて小さくぼやいた。
「あんな奴と……まだあと5回も戦うのかよ……」
……戦うんだ?
それって戦うのが前提なんだ……?
「……頑張って。俺はケーゲルを応援してるよ」
なんともざっくりした俺の励ましに、ケーゲルは騎士の礼で答えた。
「必ず、私がシオンさんを守り抜きます」
ケーゲルの表情は、真剣そのものだ。
「ケーゲル……」
ケーゲルを呼んだ小さなシオンの声には、戸惑うような色にほんの少しの期待が混ざっている。
そうだね。
物静かで全てにおいて一歩引いてるようなシオンには、ケーゲルくらい暑苦しくて、ぐいぐい迫ってくれるような人がちょうどいいのかもしれないな。
「期待しているよ」
俺はケーゲルとシオンに微笑むと、立ち上がった。
「さあ、本隊をずっと待たせてるから、そろそろ合流しようか」
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