315 / 336
【サブ】僕とヒアッカの、新しい関係(1/2)( 15巻 変わってゆく関係達)
***〈クロイス視点〉
解散の号令を受けて、騎士達はバラバラに動き始めた。
門へ向かう者だけでなく、厩舎へ向かう者や、寮に向かう者、教会の懺悔室に向かう者まで実に様々だ。
僕はそんな中でキョロキョロとヒアッカを探していた。
普段は班別集合じゃなくても、さりげなく僕のそばにいてくれたのに。
今日のヒアッカは一日、ずっと挙動不審だった。
僕が仕掛けたことだから、まあ多少は冷たい態度を取られてしまうのも仕方ないだろうな、なんて思ってたけど。
……まさかあんな方向に勘違いしてるだなんて……。
ケイト様から助言を受けなければ、しばらく様子を見ておこうとか思っちゃうところだったよ……。
「あー、終わった終わったぁ!」
「今夜は飲むぞーっ」
「馬出してこいよ」
「徒歩で行けるとこにしよーぜ、どーせお前らべろべろまで飲むだろ?」
「俺は酒よりも、こう……だな……」
「んじゃお前はあっちに混ざりゃいーだろ」
「ちげぇって! 肉っぽいんじゃなくて、こう、健気で可愛い癒しが欲しいんだよ!」
「あー、あれか、アニマルセラピーか」
「それそれ!!」
「ブラウはどこだよ」
「今夜はケイト様んとこだろ、もうこっちついた時はクタクタだったみたいで、ウトウトしてたからな」
「眠そうなブラウも可愛かったよなぁ」
「最後はディアリンドさんに肩に担がれてたけどな」
「あれはちょっと不憫だった」
「ケイト様には必ずお姫様抱っこなのにな」
「そりゃケイト様はお姫様だからなぁ」
「俺んとこに来てくれりゃブラウも姫抱きしてやったのになぁ」
「私物化すんなって言われただろ」
「そーそー、ひとりじめ禁止令が出たよな」
「くそっ、もっと早く俺だけの物にしておけば……」
「ちょっ、ヤバイ奴いるぞ!」
「衛兵呼べ!」
「あっ、聖騎士さーーんっ」
「おいやめろって! 冗談だよっ!」
ゲラゲラ笑いながら駆けて行った騎士達の向こうに、鮮やかな赤い髪を見つけて、僕は駆け寄った。
「ヒアッカ!」
ヒアッカは僕の声に一瞬ビクッと肩を震わせて、それから何かに怯えるようにおずおずとこちらを向いた。
「……ぁ……、クロイス……」
「ヒアッカ、この後の予定は?」
ヒアッカは一体何を考えているのか、心ここに在らずといった様子でぼんやりとしたまま答える。
「えーと……、寮戻って、飯食って、アーク達と遊んで寝るだけかな……」
……それ、アークさんと遊んで、それから、別々に寝るって事だよね……?
「……具合悪いのに?」
僕の言葉に、ヒアッカは『あっそうだった!』という顔をする。
具合悪い設定、忘れてたんだね……?
カイルさんなんて本気で心配してたのに。
ドルーグさんとフォーンさんは僕とギクシャクしてるっぽいのに気づいて、仮病かなって顔してたけど……。
「えーと……、あー……そうだな。今日は飯食ったら大人しく寝るわ」
一応まだ続けるんだ? 具合悪い設定……。
「寮ってさ、外泊届けとか当日でも出せるの?」
「いや、そーゆーのは別にないぜ、学生寮じゃないからな」
ヒアッカは僕の顔まで視線を上げては、目が合う前にまた下ろすという、挙動不審なことをしている。
普段は真っ直ぐ目を見て話す人だから、きっと無意識に顔を見そうになるんだろうな。
「そうなんだ。じゃあ今夜、僕と外泊しない?」
「え……?」
ヒアッカの真っ赤な瞳が、ようやく僕を見る。
「僕と美味しいもの食べて、一緒に寝よ?」
「……え……!」
途端、ヒアッカの赤い瞳がキラキラと輝いた。
うわぁ、そんなに嬉しそうな顔しちゃっていいの?
もうこれだけで答えなんか出てるような物なのになぁ。
ヒアッカはどうして気づかないんだろう。
「……ああ、でもヒアッカは具合悪いんだったね。それじゃ無理かぁ……。代わりに他の人を誘うしかないかなぁ……」
ケイト様ほど上手くない僕の演技でも、ヒアッカは十分に動揺してくれた。
「えっ、え……っ」
「誰なら応じてくれるかなぁ? 一緒にご飯食べてくれて、僕と一緒のベッドで寝てくれる人」
「寝っ……!? えっ……!?」
慌てふためくヒアッカを見てると笑ってしまいそうなので、あえて視線を外して続ける。
心の中で、ブラウさんごめんなさい、ちょっとお名前借りますね。と謝ってから。
「ああ……ブラウさんなら、いいよって言ってくれるかなぁ……?」
その途端、ヒアッカが鋭く叫んだ。
「やめろよッ!!」
騎士達がもうすっかりいなくなった演習場に、ヒアッカの声が響いた。
「そ、そんなの、クロイスらしくねーだろ!? 一体……どうしたんだよ……」
狼狽えながらも僕を心配してくるヒアッカに、僕は堪えきれず苦笑しながら答える。
「……言っとくけど、これヒアッカが言ってたのと同じことだけど?」
「へ……? 俺……?」
パチパチと瞬くヒアッカの赤い瞳。
夕方から夜へと変わりつつある景色の中でも、ヒアッカの鮮やかな赤い瞳はすごく綺麗だ。
「そんなこと、俺、いつ言っ………………」
そこまで言ったヒアッカが、サアっと顔色を変えた。
「あ……。言った……。言ったな、確かに……」
へえ、ちゃんと覚えてたんだ?
正直ちょっとだけ意外だった。
だってあの時のヒアッカは、熱に浮かされてふわふわしてたし……。
「っ、けど、あん時と今とは状況がちげーだろ?」
「状況が違ったら許されるの? 僕あの時すごい嫌な気持ちだったんだよ?」
「え……?」
不快感を、僕は隠さず顔に出して見せる。
こんな風に感情を顔に出す事を、僕はあまりしたことがないんだけど、ヒアッカには分かりやすく見せないとダメだって分かったから、ヒアッカのやり方に合わせるよ。
だってヒアッカは嬉しいときも悲しいときも、気持ちをそのまま顔に出してくれるから。
僕はそんな風に素直な感情を見せてくれるヒアッカに、ずっと安心をもらってきたから……。
次第に、ヒアッカが困惑を浮かべる。
なんて返事をしていいのかわからないみたいだ。
「ヒアッカも今、僕に同じこと言われて嫌だったんでしょ?」
「ぇ……ぇえ……?」
「困ってる場合じゃないよ、ちゃんと考えて答えて」
僕の言葉に、ヒアッカは真剣な表情をする。
まだわからないけど、少しでも僕の求めに応えようって思って、一生懸命考えようとしてくれるヒアッカ。
僕はヒアッカのそんな姿に、何度でも胸を打たれてしまうんだ……。
「僕が他の人と……」
って言うとぼんやりしちゃうか……。
うーん……、ブラウさんごめんなさい、もう一回だけお名前お借りしますね。
「僕が、ブラウさんと2人っきりでご飯食べて、一緒に寝るの」
「……っ」
ヒアッカの細くて綺麗な眉がキュッと悲しげに寄せられる。
そんな悲しそうな顔するくらいなら、もっと早く気づいてよ。
「嫌なんでしょ?」
「……っ、い……嫌、だ……」
ヒアッカは、ひどく苦しげに、言葉を絞り出すようにして、そう答えた。
そのまま、ヒアッカは自身の胸の中央を両手で握り締めて言う。
「ここら辺がなんか、すげーモヤモヤして、ムカムカして、……叫びたくなるくらい嫌だ……」
「そっか。そんなに嫌なんだ。僕と一緒だね」
僕が微笑んでみせると、ヒアッカは泣き出しそうな顔になった。
「……でも、なんでか分かんねーんだよ……」
僕を見つめるヒアッカは、暗闇の中で一人きり、迷子にでもなったみたいな顔をしている。
「俺、今まで友達と友達が仲良くしてても、こんなに嫌な気持ちになったことねーのに……」
「それはね、ヒアッカにとって、僕が友達じゃないからだよ」
「ぇ……」
掠れた声には、怯えのようなものが滲んでいた。
ともだちにシェアしよう!

