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【サブ】僕とヒアッカの、新しい関係(1/2)( 15巻 変わってゆく関係達)

 ***〈クロイス視点〉  解散の号令を受けて、騎士達はバラバラに動き始めた。  門へ向かう者だけでなく、厩舎へ向かう者や、寮に向かう者、教会の懺悔室に向かう者まで実に様々だ。  僕はそんな中でキョロキョロとヒアッカを探していた。  普段は班別集合じゃなくても、さりげなく僕のそばにいてくれたのに。  今日のヒアッカは一日、ずっと挙動不審だった。  僕が仕掛けたことだから、まあ多少は冷たい態度を取られてしまうのも仕方ないだろうな、なんて思ってたけど。  ……まさかあんな方向に勘違いしてるだなんて……。  ケイト様から助言を受けなければ、しばらく様子を見ておこうとか思っちゃうところだったよ……。 「あー、終わった終わったぁ!」 「今夜は飲むぞーっ」 「馬出してこいよ」 「徒歩で行けるとこにしよーぜ、どーせお前らべろべろまで飲むだろ?」 「俺は酒よりも、こう……だな……」 「んじゃお前はあっちに混ざりゃいーだろ」 「ちげぇって! 肉っぽいんじゃなくて、こう、健気で可愛い癒しが欲しいんだよ!」 「あー、あれか、アニマルセラピーか」 「それそれ!!」 「ブラウはどこだよ」 「今夜はケイト様んとこだろ、もうこっちついた時はクタクタだったみたいで、ウトウトしてたからな」 「眠そうなブラウも可愛かったよなぁ」 「最後はディアリンドさんに肩に担がれてたけどな」 「あれはちょっと不憫だった」 「ケイト様には必ずお姫様抱っこなのにな」 「そりゃケイト様はお姫様だからなぁ」 「俺んとこに来てくれりゃブラウも姫抱きしてやったのになぁ」 「私物化すんなって言われただろ」 「そーそー、ひとりじめ禁止令が出たよな」 「くそっ、もっと早く俺だけの物にしておけば……」 「ちょっ、ヤバイ奴いるぞ!」 「衛兵呼べ!」 「あっ、聖騎士さーーんっ」 「おいやめろって! 冗談だよっ!」  ゲラゲラ笑いながら駆けて行った騎士達の向こうに、鮮やかな赤い髪を見つけて、僕は駆け寄った。 「ヒアッカ!」  ヒアッカは僕の声に一瞬ビクッと肩を震わせて、それから何かに怯えるようにおずおずとこちらを向いた。 「……ぁ……、クロイス……」 「ヒアッカ、この後の予定は?」  ヒアッカは一体何を考えているのか、心ここに在らずといった様子でぼんやりとしたまま答える。 「えーと……、寮戻って、飯食って、アーク達と遊んで寝るだけかな……」  ……それ、アークさんと遊んで、それから、別々に寝るって事だよね……? 「……具合悪いのに?」  僕の言葉に、ヒアッカは『あっそうだった!』という顔をする。  具合悪い設定、忘れてたんだね……?  カイルさんなんて本気で心配してたのに。  ドルーグさんとフォーンさんは僕とギクシャクしてるっぽいのに気づいて、仮病かなって顔してたけど……。 「えーと……、あー……そうだな。今日は飯食ったら大人しく寝るわ」  一応まだ続けるんだ? 具合悪い設定……。 「寮ってさ、外泊届けとか当日でも出せるの?」 「いや、そーゆーのは別にないぜ、学生寮じゃないからな」  ヒアッカは僕の顔まで視線を上げては、目が合う前にまた下ろすという、挙動不審なことをしている。  普段は真っ直ぐ目を見て話す人だから、きっと無意識に顔を見そうになるんだろうな。 「そうなんだ。じゃあ今夜、僕と外泊しない?」 「え……?」  ヒアッカの真っ赤な瞳が、ようやく僕を見る。 「僕と美味しいもの食べて、一緒に寝よ?」 「……え……!」  途端、ヒアッカの赤い瞳がキラキラと輝いた。  うわぁ、そんなに嬉しそうな顔しちゃっていいの?  もうこれだけで答えなんか出てるような物なのになぁ。  ヒアッカはどうして気づかないんだろう。 「……ああ、でもヒアッカは具合悪いんだったね。それじゃ無理かぁ……。代わりに他の人を誘うしかないかなぁ……」  ケイト様ほど上手くない僕の演技でも、ヒアッカは十分に動揺してくれた。 「えっ、え……っ」 「誰なら応じてくれるかなぁ? 一緒にご飯食べてくれて、僕と一緒のベッドで寝てくれる人」 「寝っ……!? えっ……!?」  慌てふためくヒアッカを見てると笑ってしまいそうなので、あえて視線を外して続ける。  心の中で、ブラウさんごめんなさい、ちょっとお名前借りますね。と謝ってから。 「ああ……ブラウさんなら、いいよって言ってくれるかなぁ……?」  その途端、ヒアッカが鋭く叫んだ。 「やめろよッ!!」  騎士達がもうすっかりいなくなった演習場に、ヒアッカの声が響いた。 「そ、そんなの、クロイスらしくねーだろ!? 一体……どうしたんだよ……」  狼狽えながらも僕を心配してくるヒアッカに、僕は堪えきれず苦笑しながら答える。 「……言っとくけど、これヒアッカが言ってたのと同じことだけど?」 「へ……? 俺……?」  パチパチと瞬くヒアッカの赤い瞳。  夕方から夜へと変わりつつある景色の中でも、ヒアッカの鮮やかな赤い瞳はすごく綺麗だ。 「そんなこと、俺、いつ言っ………………」  そこまで言ったヒアッカが、サアっと顔色を変えた。 「あ……。言った……。言ったな、確かに……」  へえ、ちゃんと覚えてたんだ?  正直ちょっとだけ意外だった。  だってあの時のヒアッカは、熱に浮かされてふわふわしてたし……。 「っ、けど、あん時と今とは状況がちげーだろ?」 「状況が違ったら許されるの? 僕あの時すごい嫌な気持ちだったんだよ?」 「え……?」  不快感を、僕は隠さず顔に出して見せる。  こんな風に感情を顔に出す事を、僕はあまりしたことがないんだけど、ヒアッカには分かりやすく見せないとダメだって分かったから、ヒアッカのやり方に合わせるよ。  だってヒアッカは嬉しいときも悲しいときも、気持ちをそのまま顔に出してくれるから。  僕はそんな風に素直な感情を見せてくれるヒアッカに、ずっと安心をもらってきたから……。  次第に、ヒアッカが困惑を浮かべる。  なんて返事をしていいのかわからないみたいだ。 「ヒアッカも今、僕に同じこと言われて嫌だったんでしょ?」 「ぇ……ぇえ……?」 「困ってる場合じゃないよ、ちゃんと考えて答えて」  僕の言葉に、ヒアッカは真剣な表情をする。  まだわからないけど、少しでも僕の求めに応えようって思って、一生懸命考えようとしてくれるヒアッカ。  僕はヒアッカのそんな姿に、何度でも胸を打たれてしまうんだ……。 「僕が他の人と……」  って言うとぼんやりしちゃうか……。  うーん……、ブラウさんごめんなさい、もう一回だけお名前お借りしますね。 「僕が、ブラウさんと2人っきりでご飯食べて、一緒に寝るの」 「……っ」  ヒアッカの細くて綺麗な眉がキュッと悲しげに寄せられる。  そんな悲しそうな顔するくらいなら、もっと早く気づいてよ。 「嫌なんでしょ?」 「……っ、い……嫌、だ……」  ヒアッカは、ひどく苦しげに、言葉を絞り出すようにして、そう答えた。  そのまま、ヒアッカは自身の胸の中央を両手で握り締めて言う。 「ここら辺がなんか、すげーモヤモヤして、ムカムカして、……叫びたくなるくらい嫌だ……」 「そっか。そんなに嫌なんだ。僕と一緒だね」  僕が微笑んでみせると、ヒアッカは泣き出しそうな顔になった。 「……でも、なんでか分かんねーんだよ……」  僕を見つめるヒアッカは、暗闇の中で一人きり、迷子にでもなったみたいな顔をしている。 「俺、今まで友達と友達が仲良くしてても、こんなに嫌な気持ちになったことねーのに……」 「それはね、ヒアッカにとって、僕が友達じゃないからだよ」 「ぇ……」  掠れた声には、怯えのようなものが滲んでいた。

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