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【サブ】僕とヒアッカの、新しい関係(2/2)

 〈引き続きクロイス視点〉 「クロイスは……、もう、俺とは……友達じゃねーの……?」  ヒアッカの声が震えている。 「お、俺のこと、……っ、き、嫌いに、なっ……」 「なってない!」  ヒアッカの指先が震えていることに気づいて、僕は咄嗟にヒアッカを抱きしめた。 「僕は、ヒアッカのことが好きだよ」  そう囁いて、ヒアッカの背中をトントンと叩く。  硬くなっていたヒアッカの体から、じわじわと強張りが解けてゆく。 「クロイス……。俺……、俺も、クロイスが好きだよ。クロイスに嫌いになられたら、すげー嫌だ……」  ヒアッカの心の声は、口にしたものと変わらない。  ……もう、本当に困った人だなぁ。  ヒアッカは僕のこと純粋で可愛いって言うけど、僕から見たらヒアッカの方がよっぽど純粋で……、何も知らなくて、可愛いよ……? 『でも、じゃあ、俺とクロイスは……』 『友達じゃないなら……なんなんだ……?』  不安げに揺れるヒアッカの心の声が、なんだか可愛くてたまらない。 「知りたい……?」  コクリ。と素直に頷くヒアッカは、それでもどこか不安げだ。  そうだよね。  誰だって、大切な関係を変えてしまうのは、勇気のいることなんだろう。  こんなに友達の多いヒアッカでもそうなんだから、僕が怖く感じるのは当然なんだ。  よし、頑張るぞ。  僕はケイト様にも、良い報告を期待されてるんだから。  そう思うと、自然と勇気が湧いた。 「じゃあ今夜は僕と一緒に行こう? 僕がヒアッカに教えてあげるから」  ヒアッカは差し伸べた僕の手を、じっと見つめてからぎゅっと握り返した。 「分かった、一緒に行く」  僕はヒアッカの手を引いて教会の正門へと歩き出す。  僕の手は、今のヒアッカにとって暗闇の中で見つけたたった一つの灯りみたいに見えたのかもしれない。  なんだかとても大切そうに僕の手を握り締めるヒアッカから、震えるような心の声が聞こえてきた。 『もうずっと、わかんねーことばっかで……怖いんだ……。俺が、俺の知ってる俺じゃなくなるみたいで……』  ああ、ヒアッカもずっと苦しかったんだ。  なかなかうまくいかないなって、困ってたのは、僕だけじゃなかった。  そうだよね。  だって、あの日から、ずっと一緒に考えてきたんだから。  僕達じゃわかんないね、困ったねって。  ケイト様に相談してみようかって。  僕が考えていたのと同じだけの時間を、ヒアッカもヒアッカなりに考えてくれてたんだ。  こんな風に、見当違いの勘違いをしてしまうくらいには、きっと、一生懸命。 「なあ……クロイス……」 「うん?」 「俺とクロイスが友達じゃなくなっても、俺はクロイスの隣にいていいのか……?」 「ヒアッカは、僕の隣にいたいの?」 「俺は、クロイスとずっと一緒にいたい。明日も、そのまた明日も、毎日クロイスに俺の髪を結んでほしい」  ……それってさ、プロポーズじゃないの?  世の中には無自覚にプロポーズしてくる人がいるんだね……? 「それならきっと大丈夫だよ。僕もヒアッカとずっと一緒にいたいって思ってるから。明日も明後日も、僕はヒアッカの髪を結んであげるよ」  僕の返事に、ヒアッカはようやくホッとした顔を見せた。  ああもう、ヒアッカは本っ当に可愛いなぁっっ!  あ、そうだ。  誤解も早めに解いておかないと……。  そう思って口を開きかけた時、ヒアッカの心の声が聞こえた。 『でも俺、まだ髪こんだけしかねーんだよな……。これじゃブラウに全然勝てねぇよ……。なんかもっと早く髪のばす方法ってねーのかな……。あ、そうだ、明日ケイト様に相談してみるか!』 「えっ、待って!? そこ!?」  ヒアッカが『あっ!』と心で叫んで片手で口を押さえる。  いや、口押さえても意味ないからね!?  恥ずかしそうに眉を寄せたヒアッカの頬が、みるみる真っ赤に染まってゆく。  待って……、可愛すぎるから、待って……。  僕は、今にも不整脈を起こしそうな心臓を片手で押さえながら、ヒアッカの手をぎゅっと握って、夕闇に染まる町を目指して教会の門を出た。 「どこ行くんだ?」  逸る思いに早足で進む僕に、ヒアッカが尋ねる。 「魔道具屋さんに行ってから、夕飯のつもりだったんだけど……」 「けど?」 「僕もう、早くヒアッカに触れたくて……」  ゴクリ。と喉を鳴らしたのは、僕じゃなくてヒアッカだ。  ヒアッカは黙ったままだったけど、繋いだヒアッカの手からは『嬉しい』とか『俺も、触って欲しい』とかそんな気持ちが流れてきて、僕はヒアッカの方を見られなくなってしまう。 「だから、夕飯は屋台の物を買って、部屋で食べるのでもいいかな?」 「それは別にいーけど、部屋はどうすんだ? 宿とんのか?」 「ううん、僕の家」 「クロイスの家ぇ!?」 「そんな驚くとこ?」 「いや、驚くだろ……」 『だってお前、俺のこと抱く気なんだろ……? ん……? 違うのか……?』  戸惑ってるヒアッカも可愛いな。 「無事に帰ったよって、家族に顔見せたいし。初めての巡礼だから心配してると思うんだ」 「まあそりゃ、そーだよな……」  そこで納得しちゃうところが、可愛いなぁヒアッカは。 「だから今、魔道具屋さんに向かってるんだよ、大急ぎで」 「魔道具って、何買うんだ?」 「遮音の魔道具。ドルーグさんに教えてもらったんだ、ここがオススメだって」  僕は教えてもらった通りの看板が出ているのを確認して、二階に上がる外階段を上がると、扉を開いた。  僕に続いて狭い店内に入ってきたヒアッカが息を呑む。 「ここって……魔道具屋ってより、大人の玩具屋って感じじゃねーの……?」 「こういう店の方が簡易版の安いのがあるんだって」  普通の魔道具屋だと、機能は色々選べるらしいけど、全体的に高くつくらしい。  僕は事前に予定していた通りの物を手に取ると、それをカウンターに置いてカウンター前のショーケースの中を指さして言う。 「おじさん、これとこれと、これください」 「あいよ。……金はあんのか?」 「あります」  答えて、僕は2か月分の給料を揃えて出した。 「何買ったんだ?」  ヒアッカの質問に、おじさんが品物をケースから取り出して間違いなく袋に詰めるのを確認しながら答える。 「遮音の魔道具と、香油と、洗浄スクロール」  スクロールがなぁ……使い捨てなのに高いんだよねぇ……。  アークさんが洗浄は定型魔法があるって言ってたから、そのうち覚えようと思う。  まあ、覚えて使ってるのはアークさんじゃなくてソーンさんの方らしいけど。  ソーンさんっていつも眠そうでぼんやりしてるのに、強くて魔法も使えるなんてすごいよね。  もしかしたら貴族の出なのかなぁ。  家名を聞いたことはないけど、ないって言われたこともないし……。  騎士団内だと家名を持ってても名乗らない人もいるみたいなんだよね。 「なんかクロイス、度胸ついたな……」  唖然とした顔で僕を見るヒアッカに苦笑を返す。 「嫌だった? おどおどしてる僕の方が守ってあげたくなる?」  最初は13センチも離れていたヒアッカとの身長差も、この一年で残り6センチまで追いついた。  まだ今は僕がヒアッカを見上げてるけど、来年の今頃には並んでいるかもしれない。 「……それになんか、ちょっと意地悪になったよな」  ヒアッカが苦笑しながら言う。 「性格は元からだよ。最初は慣れない場所で緊張してただけだと思う」 「そっか」  ヒアッカの心の声だけが『それならよかった』と嬉しそうに続けた。  あまりに優しい心の声に、僕は思わず言ってしまう。 「嫌いになりそう?」 「ハハッ、まさか。いいじゃん。カッケーよ」  分かってたのに、聞いてしまった。  そうか、分かってても言ってほしい言葉ってあるんだな。  だって、僕は分かってたのに、言ってもらえると、こんなに嬉しい……。 「ふふ、ありがとうヒアッカ……嬉しいよ」  胸に溢れる喜びのままに微笑むと、ヒアッカは「っあー……」と呻いて片手で額を押さえた。 『……俺ってなんか、クロイスの手の平の上でいいように転がされてんじゃねーのかな……』  それは流石に言い過ぎだよ。 『けどなぁ……。まーそれでもいっか。って思っちまうのが不思議なんだよな……』  いいの?  僕の手の平で転がされても、……ヒアッカはいいんだ?  僕は、ヒアッカの心の声になんだか衝撃を受けつつ、品物を受け取って、帰り道で夕飯を2人分買い込んで、家に帰った。  ノッカーを鳴らすと「はぁーい、どなたー?」と母さんの声がする。 「ただいま。クロイス戻りました」  僕が答えると、勢いよく扉が開いた。 「お兄ちゃんっ おかえりーっ」 「お土産はーっ?」  最初に顔を出したのは妹のライラとミアだ。 「おかえりなさいクロイス、どこも怪我はない?」  母さんは変わらないように見えるけど、妹達はどちらも少しずつ大人っぽくなったな。 「うん、元気だよ」 「まあまあ、随分背が伸びたのねぇ」 「えっ、イケメン……」  先にヒアッカに気づいたのは、上の妹、12歳のライラだ。 「あら、そちらはお友達?」 「騎士団で同じ班のヒアッカだよ」 「どーも、お邪魔します」 「ほぁぁ……」 「かっこいい……」  妹達がヒアッカに見惚れている。  そうだろうそうだろう。  やっぱりヒアッカは妹達の目から見てもかっこいいようだ。 「急に連れてきてごめんね、今夜は僕の部屋に泊めてもいいかな?」 「それはいいけど、布団はどうしようかしら……。あ、それにお夕飯……」 「夕飯は買ってきたから大丈夫、部屋で食べるよ。ヒアッカは細いから、一緒のベッドで十分寝られるよ」 「そう? じゃあ飲み物だけ持って行くわね」 「私がお兄ちゃんのお部屋に運んであげるねっ」 「ミアも運ぶーっ」 「ミアはダメよ、階段で転んだら大変じゃない」 「ミア転ばないもんっ」  言い合う2人の頭を、ヒアッカが両手でそれぞれポンと撫でる。 「ハハッ、元気な嬢ちゃん達だなぁ。ありがとな。2人で持ってきてくれよ」  ニカッと人懐こい笑顔を向けられて、2人がポポッと頬を染めた。  ちょっとヒアッカ、うちの妹達まで落とさないでよ!?  兄妹で同じ相手を取り合うとか、僕はやりたくないからね!?  2人が揃って「「はぁーいっ」」と返事をする。 「ヒアッカ入って、こっちだよ」  僕は階段へと足を進めながら言う。  ヒアッカは「おう」と答えて僕に続いて階段を上がりつつ尋ねた。 「そーいや親父さんは?」 「多分まだ仕事、父さんは帰るの遅いんだ。家を出るのは遅いから、明日の朝会えるかもね」 「そっか」  階段を上って久しぶりに入った自分の部屋は、埃っぽいこともなくて、母さんが僕の帰りに合わせて掃除をしてくれていたんだな、と胸がじんわり温かくなった。

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