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帰還式後の、急な来客
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衣装部の皆さんの頑張りで、帰還式の衣装は無事に俺の新しい体のサイズにピッタリ合ったもので行われた。
帰還式とはつまり、無事に巡礼が行われたことの証明なんだよな。
だって、途中で聖女が力尽きた際には行われない式典なんだから。
去年行われなかった分も、と心血を注がれた衣装は、俺の髪が赤に見えたりピンクに見えたりすることも考慮されてた上で、上品やホワイトカラーに金色をベースとしたカラーリングだ。
職人達が徹夜で仕上げたビーズ刺繍は美しく、そして重かった。
式典をつつがなく終わらせて、ようやく部屋に戻る。
衣装の重さに軋んだ腰を撫で摩りながらなんとかソファに腰を降ろした時、慌ただしいノックの音が鳴った。
誰だろう。
今はリンもブラウもいないから、前情報なしでノックに対応するのは久々だな。
リンは護衛騎士の一員として、揃いの式典用甲冑で式典中の警備をしてくれていたので、今は他の皆と一緒に甲冑を外しているはずだ。
普段の魔力でパチパチンと簡単に脱ぎ着できる護衛騎士の甲冑に比べると、式典用の甲冑は1人では脱ぎ着できないので着脱に時間がかかる。
ブラウも今はおそらく騎士達と共にいるんだろう。
巡礼後半頃には騎士団のマスコットと化していたブラウだが、どうも最近、ブラウには特別気になる騎士さんがいるようだ。
ブラウも随分と成長したことだし、護衛騎士達にも十分認知されているので、俺が教会にいる間は、ブラウには自由行動を許可している。
教会には今まで一緒に行動してきた護衛騎士とは別に、聖騎士達や侍女達もいるので、この機に色々な人と話す経験を積んでほしいな。
対応に出たアンナが、マルコメロ司祭の側にいつもいる侍従からの伝言を聞いて、急な来客がきたので対応をするように、との司祭の指示を伝えてくる。
基本的には聖女の部屋には外部からの客は通さないので、教会の応接室に向かえということのようだ。
「今すぐ行かなきゃかぁ……。ああ……もうちょっと休みたかったなぁ……」
「私、うっかりケイト様に伝言をお伝えし忘れてしまいましょうか?」
「そしたらアンナが叱られちゃうよ」
「そのくらい構いません」
明るく元気な侍女のアンナは、そう言ってニコッと微笑んだ。
出会った時からずっと俺の味方でいてくれるアンナは、巡礼の間に侍女として見違えるほど立派に成長した。
リーア……今はリアナと名前を変えた彼女の指導が入るようになってから、アンナには随分と窮屈な思いをさせてしまったと思う。
それでも、彼女の気質が変わらないままでいてくれた事が、俺は、とても嬉しい。
「ふふ、ありがとう。待たせないうちに行くとしようか」
よいしょと腰を庇いつつ立ち上がって、よたよたと部屋を出ると、ブラウに伝言を頼む。
「ブラウーっ、俺は第一応接室に移動するって、リンに伝えてー」
これで、すれ違いは防げるだろう。
腰を摩りつつ歩き出そうとした時、今日の護衛についてくれていた2班の班長のブレアルさんが言った。
「もしよろしければ、我々がケイト様を応接室までお連れ致しましょうか……?」
え、抱っこで? それはリンが知ったら嫌がりそうだから……。
って、ん? 我々……?
振り返れば、2班の皆さんは一人掛けのソファの両脇と後ろに1人ずつ構えて、ソファを持ち上げている。
「えっ、本当に……?」
そんなお神輿みたいなことを……?
「ええ、本当です」
にこり、と微笑まれて、彼と2班の皆の本気が伝わってきてしまう。
「いやあの、それは、流石に、ちょっと恥ずかしいというか……」
「何をおっしゃるんですか!?」
「我々の大切な聖女様にご無理はさせられません!」
「ええぇ……?」
「さあどうぞ、お座りください!」
「必ずや安定を保ってお運び致しますっ!」
「行くぞ! 1、2、1、2!」
「ま、待って待って、ちょっと!?」
ソファの方からグイグイやってきて、足元を掬うように座らされてしまった俺は、結局、お神輿よろしく重厚なソファでえっさほいさと運ばれてしまった。
まあでも、腰が痛かったので、助かった、かな……?
道ゆく人々がめちゃくちゃ見てくるので、とても恥ずかしかったけど……。
うう、リンがそばにいてくれたら、お姫様抱っこだけで済んだのに……。
いや、お姫様抱っこも十分人目は引くか……。
けどほら、掛け声がさ!?
今も1、2、1、2って号令がさ!?
ものすごく目立つんだよ!
廊下の直線の先に第一応接室の扉が見えてきた。
応接室の中で一番立派な角部屋の第一応接室に通される人って事は、それなりに偉い人なんだろうな。
応接室の扉が並ぶ奥の廊下の右手側から駆けてきたのはリンだ。
ああ、部屋に入る前に合流できてよかった。
リンは「何事だ!?」みたいな顔してるけど。
リンとも合流できたし、もうこの辺で降ろしてもらおう。
「皆、もうこの辺で……」
その時、バンと第一応接室の扉が開いた。
「何事だ!?」
扉を開けたのは、ルクレインの甲冑を着た人だ。
部屋の奥でソファに座る人はフード付きのローブをかぶっていたけど、そこから覗く真っ赤な瞳とは、バチッと目が合ってしまった。
わ、かっこいい人だな……。
なんかちょっとリンに似た顔立ちで……、リンを、こう、5倍くらい偉そうにした感じ……?
一瞬驚きに開かれた赤い瞳が、キリッとした眉と共に苦笑するように歪められる。
「ふっ、ククッ。なんの騒ぎかと思えば、……まさか、聖女様が騎士達にソファごと担がれてくるとはな……、ふ、ふふっ、クククッ」
なんか、静かに笑われている……。
「ほらぁ、だから恥ずかしいって言ったじゃないか。お客さんに笑われちゃったよぉ……」
恥ずかしさと大失態にしょんぼりしながら訴えると、2班の皆も謝罪を口にしながら俺をそっと下ろす。
しかし本当に、ここまでほとんど揺らされずに連れてきてくれたのは凄いよな。
「でも、皆の気持ちは嬉しかったよ。運んできてくれてありがとう、助かったよ」
「「「聖女様……」」」
感動している様子の2班に苦笑を返しつつ、俺は、リンにエスコートを求める。
だって、今更ここで治癒をかけるから待っててなんて言うのも、お客様に失礼だし……。
「今日の衣装が重すぎてまだ腰が痛いんだ、助けてくれる?」
リンは嬉しそうに「はい」と応えて、俺に肘を差し出してくれた。
俺はリンの腕を借りて、第一応接室へと足を進める。
フードの人はしばらくリンの顔を凝視していたけれど、俺が口を開くと俺へ視線を戻した。
「大変お騒がせ致しました。聖女のミノルです」
俺はなんとか頑張ってカーテシーを披露する。
フードの人も、きちんと立ち上がって礼を返してくれた。
フードの中からさらりと溢れた長い髪の色を見て、ギョッとする。
真っ赤な髪の毛の先は鮮やかな青色のグラデーションとなっていた。
リンに似てて当然だよ!
この人は……カラサディオのお兄さんで、リンの又甥のリヴァルド殿下じゃないか!!
「やあ、初めまして。貴女が噂の聖女様だね? 会えて嬉しいよ」
いやいやいやいや……。
この人戴冠式終わってたよな?
てことはもう今この人王子じゃなくて王様だよな?
リヴァルド殿下改めリヴァルド陛下……。
っ、……国のトップじゃないか!!!
こんなとこに1人で……って、護衛の人とか侍従さんはいるみたいだけど、こんな少人数でやって来ちゃっていいの……!?
「私の事はルドとでも呼んでくれたまえ」
仮名のずさんさが兄弟で一緒……っっっ!!
「あの、ルド様……?」
「ああ……良いな……。貴女のその声で呼ばれてしまうと、なんだかこちらこそが正しい名のような気がしてしまう……」
……どういうことですか……。
そんなうっとり眺められると、リンがヤキモチ妬いちゃうのでやめてください。
「貴女と2人で話したい。遮音をかけても、構わないか……?」
なんだか愛でも囁かれているような口調なんだけど、尋ねられてるのは秘密の話をしていいかって事だよね?
コクリと頷くと、リンがジリっと半歩、俺へと距離を詰めた。
絶対に遮音範囲に入ってやるというその姿勢に、リヴァルド陛下はチラとリンを見て不敵に笑ってから、指をパチンと鳴らした。
すると、陛下の後ろに控えていた男が一瞬で部屋全体に遮音をかける。
部屋にいる侍従や私兵には聞かせても構わないって事か。
むしろ、連れてきた者達はそれほどに信頼を置いているという意味なんだろうか。
「あの、お城を空けて、大丈夫なんですか……?」
「心配無用だ。弟を置いてきた」
っ、カラサディオ!!
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