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【サブ】シオンとケーゲルの、巡礼の終わり(3/4)*

 〈引き続きシオン視点〉  今まで、俺を抱きたがる奴もいれば、俺に抱かれたがる奴もいた。  だが、どちらでもいいなんて言う奴はいなかった。 「シオンさんは俺とできそうですか? どちらが楽にできそうですか?」  そんなことを尋ねられたのも、初めてだ……。 「抱く方なら、できると思うが……」  口にしておきながら、本当にできるだろうか、とも思う。  最近は自慰もそう多くないし、歳とともに性欲が落ちてきているのは確かだ。  できると口にしておいて、途中で萎えるようでは格好がつかないのではないか? 「じゃあ俺を抱いてください」  言い切られて、俺を覗き込むケーゲルをじっと見上げる。  ケーゲルは、俺が言うのもなんだが、美丈夫だった。  背は俺より指2本分ほど高いだけだが、肩幅や筋肉の量は俺よりずっと多い。  45歳だと言われなければ、まだ30代にも見える張りのある肌に、年齢をわからなくさせる彫りの深い顔立ち。  スッと通った鼻筋は男らしくキリッとしていて、髭を伸ばしてもきっと似合うだろうと思う。  分厚めの唇はいつも緩く持ち上げられているが、戦闘時にキリリと引き結ばれる様もまた男らしい。  だが、この男が果たして男に抱かれて乱れ喘ぐのかと尋ねられると、どうにも疑問だった。 「お前は……男に抱かれた経験はあるのか?」 「ありません」 「男を抱いたことは?」 「いえ、ありません」  男を抱いたことも抱かれたこともない奴が、よくどっちでもいいだなんて言えたな。  こいつは本当に考えなしなのか、それとも……。 「……じゃあ、この家に、そういった準備はないんだな?」 「……何も……ありません、すみません……」  はぁ。とため息を吐くと、ケーゲルが慌ててベッドの上に正座した。  別に叱っているわけじゃない。姿勢を正すな。 「な、何が必要ですか!? 今すぐ買ってきますっ」 「いや、もういい。もう疲れた。今夜は俺が抜いてやるから、お前は大人しく飯食って寝ろ」 「そっ、そのくらいなら、シオンさんのお手を煩わせなくても、自分でできますっ」  準備不足を恥じているのか、ケーゲルは険しい顔で眉を寄せて答える。  俺は、そんなケーゲルがどうしようもなく可愛く思えて、誘うように首を傾げた。 「へぇ……? それは残念だな。せっかく俺が良くしてやろうかと思ったのにな?」  指で輪を作って上下に緩く動かしながら舌を出して見せれば、意図が伝わったらしいケーゲルが真っ赤になった。 「シッ、シッ、シオンさんが……っ、俺を、こっ、こんなにエロく、誘って……!? ハッ、これは、夢か……!!!」  落ち着け。  現実だ。  ……そこまで驚くような誘いはしてないだろう……? 「口で抜いてやろうかと言っているだけだが……。余計な世話だったか?」 「おっ、おおおおおね、おねおねお願いしみゃしゅっっっっ!」  落ち着け。  噛みすぎだ。  俺は、思った以上に初心なケーゲルの様子にすっかり気を良くして、ケーゲルの体躯に見合う立派なそれへと手を伸ばす。  服越しに撫でてやると、ケーゲルも、ケーゲルのそれも、同じようにびくりと小さく跳ねた。  ああ、可愛いな。  ふ、と思わず緩む口元を見せないように俯いて、ケーゲルの下衣を下着ごと下ろす。  元気に立ち上がっているケーゲルのそれが軽く下着に引っ掛かり、ぶるんと震えるようにして飛び出す。  ケーゲルが小さく息を呑む、それもまた初心で可愛らしいと思う。  そういえば、以前にも、見習い騎士だったケーゲルのを抜いてやったことがあったな。  あの頃はまだ俺の片手で収まる程度だった気がするが、今のケーゲルのそれを包むには両手が要りそうだ。  俺はケーゲルをベッドの端に座らせるとベッドを降りてその前に膝をつく。 「あ、の、……シオンさん、覚えてますか。前にも、こんな風に……」  ああ、ケーゲルも覚えていたのか?  ほんの一度の、あんな5分足らずの出来事を……? 「覚えてるよ」  答えて、俺はケーゲルのそれを手に取ると、舌を伸ばした。 「……っ」  俺の舌でそれの先端を撫でてやると、ケーゲルはビクリと小さく肩を揺らした。  ああ……なんだか懐かしいな。  あれは確か、ケーゲルにとって初めての実戦の後だったか……。  ……あの日は……、そうだ。  俺は夜中に喉が渇いてしまって、水を飲もうと起き出した。  その時、小さな影が部屋の隅でびくりと揺れた。 「ケーゲル? どうした? 眠れないのか?」  覗き込んだ俺が目にしたのは、自身の股間を両手で慌てて隠した少年の姿だった。  自慰の最中だったのか? それは悪いことをしてしまったな。  だが、班員達の眠る部屋での自慰は避けるべきだ。  気づくものは気づくし、下手をすれば面倒なことにもなりかねない。 「溜まっているなら、トイレで抜いてこい。人のいる場所で行うのはオススメしない。お前が乱交や男同士での行為に興味があるなら別だが」  俺の言葉に、ケーゲルはひゅっと息を呑んだ。  まあ、これだけ言えば十分だろう。  水を飲みに行くか、と部屋を出ようとした俺を、か細い声が引き留めた。 「シオンさん……」  まるで迷子みたいな声に、俺は仕方なく振り返る。 「水を飲みに行くんだが……、お前も行くか?」 「は、はいっ」  慌てて布団から飛び出して俺の後ろをついてくるケーゲルは、まだ俺の肩ほどの背もなくて、その幼い姿にあの頃の自分が重なった。  俺の初めての巡礼は、孤独だった。  母の薬代を稼ぐため、大人気の聖女を攫うため、俺は騎士達に紛れ込んでいた。  こんなことはしたくない。  こんなことはしてはいけないことだ。  だけど母を見捨てることはできない。  そんなことばかりが頭の中でぐるぐると回り続けていて、夜はなかなか寝付けなかった。  誰かに助けてほしいと願いつつも、誰にも本当の事が言えなかった。  騎士の皆が優しくしてくれるほどに、胸が痛んだ。  人のいない食堂に入って、水差しから水を汲んで、2人で水を飲む。  窓から入る星の光がぼんやりと床を照らしていた。 「ケーゲル……、なんか困ってることでもあるのか? 俺にはなんでも話していいんだぞ。俺は……お前がどんな事を隠していたとしても、お前の味方をしてやる」  思わず、そう言っていた。  それはあの頃の俺が言って欲しかった言葉だった。  ケーゲルは驚いたように俺を見つめて、それからおずおずと口を開いた。 「お、俺、今日、初めて魔物を、斬って……」  そこまでで、ケーゲルの涙腺は決壊した。  ボロボロと溢れる大粒の涙をそのままに、ケーゲルは続けた。 「すご、く、怖く、て……。こんな、こんな……こと、俺、続けられる、か……」  カタカタと震える細い肩を、俺はそっと胸に抱き寄せた。  ……なんだ。魔物が怖かっただけかよ。  そんな、ほっとしたような、どこか羨むような、むしろ妬ましいような、複雑な思いを静かに噛み潰す。 「……初めての巡礼だ、そう思うのは当然の事だ。俺達だって、いまだに魔物の纏う瘴気を正面から浴びれば、逃げ出したくもなる」 「……ぇ……。シオンさんも、怖いんです、か……?」 「……ああ、怖いよ……。俺は、魔物も怖いし、人間も怖い……」 「人間も……?」 「ああ、人間は怖い。人の不幸を何とも思わない奴や、自分さえ良ければ他人はどうなってもいいと思ってる奴が、世の中にはいっぱいいるからな」  ケーゲルは紺色の瞳にたっぷり涙を溜めたまま、不思議そうな顔で俺を見上げていた。  こいつはまだ、そんな人間にあったことがないのか。  ……そうか。  そういう奴もいるんだな……。 「そんな奴らに比べたら、魔物の方がまだ可愛いくらいだ」  言って笑って見せれば、ケーゲルは素直につられて笑みをこぼした。  細めた瞳からポロリと大粒の涙が零れる。  俺はそれを優しく指で拭ってやった。 「……少しは落ち着いたか?」 「……っ、は、はいっ……」  少年の、まだふっくらとした丸みを残した頬がみるみる赤くなる。  羞恥からだろうか。 「まだお前は見習いだ。怖がることを恥じなくていい。正しい恐れは自身の命を守るために、必ず必要な物だ」 「正しい恐れ……」 「そうだ。……ケーゲル、お前はきっと強くなるよ」  無鉄砲で怖い物知らずの奴よりも、怖い自分を奮い立たせて立ち向かう奴の方が、ずっとずっと強くなる。  怯え恥じる少年を励ますように、俺はとびきり優しく微笑んで、その頭を撫でた。 「俺が保証する」  俺の言葉に、ケーゲルの頬が紅潮し紺色の瞳がキラキラと輝く。 「はいっ」  満面の笑顔と共に力強く答えたその声に、もう怯えは残っていなかった。  よしよし、少しは元気になってくれたようだな。 「俺、強くなりますっ、シオンさんを守れるくらいにっ」  いや、俺は守らなくていいだろう?  護衛騎士が守るべきは、聖女様と元聖女様だ。  そうは思ったものの、せっかくの少年の決意に水を差すのも悪い気がして、俺は曖昧に微笑んで「期待してるぞ」と、その小さな肩を撫でた。  この時の俺はまだ、この年の巡礼を最後に自分が護衛騎士を辞めることになるなんて思ってもいなかったし、自身こそが聖女様や元聖女様を害する者になるとは、夢にも思っていなかったんだ……。

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