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【サブ】シオンとケーゲルの、巡礼の終わり(4/4)*
〈引き続きシオン視点(回想)〉
ケーゲルからカップを回収して片付けた俺が、部屋に戻ろうと声をかけるつもりで振り返ると、ケーゲルはなぜかその股間をギンギンに勃ち上がらせていた。
「どうしたんだそれは……」
俺の指摘に、ケーゲルは心底困った様子で口を開いた。
怖くて眠れなくて自慰をしていたこと。
でも怖さが上回って、なかなか出せないままだったこと。
俺に連れられてここまで来て、話を聞いてもらってホッとしたらギンギンになってしまったこと。
「なんだよ、俺のせいか……?」
思わずこぼした愚痴に、ケーゲルは「ち、違いますっ」と慌てて首を振る。
その様子があまりに初心で、思わず揶揄ってしまった。
「違うのか? 俺のせいだと言うなら、責任とって抜いてやるんだったのにな?」
「ぇ、え……ええっ!?」
「大声を出すと、夜番の奴らが来るぞ?」
俺の言葉にケーゲルは小さな両手でパッと口を押さえる。
そんな仕草も子どもっぽくて、可愛く思えた。
「どうする? ケーゲル。それは俺のせいか……?」
ケーゲルは闇夜みたいな紺色の瞳を潤ませて、頬を真っ赤に染めて、俺をじっと見つめてから言った。
「……シ、シオンさんの……せい、です……」
ああ、可愛いことを言う奴だ。
俺は淡く笑って答える。
「それじゃあ、俺が責任を取らないとな」
そうして、食堂の物陰でケーゲルを椅子に座らせて、俺はその前に膝をついて、まだ育ち切っていないケーゲルのそれを可愛がってやったんだよな……。
あの頃のケーゲルは、まだ自慰以外の行為をしたことがなかったんだろう。
ケーゲルのそれは、口に含んでやれば素直に跳ねて、ほとんど我慢もできないまま、俺の喉へとまだ若い精を注いだ。
飲み干してやれば顔を真っ赤にして狼狽えたし、ケーゲルに奉仕する俺をじっと見つめる視線は、穴が開きそうなほどにまっすぐで、一途だった。
……いや、待てよ。
まさか、これか……?
ケーゲルが俺にハマったのは、俺が抜いてやったせいか!?
30年も昔の出来事を今更ぼんやりと思い出しながら、ケーゲルに奉仕していた俺に、低い声がどこか恨みがましく告げた。
「シオンさんの……せいですからね……」
俺は、ハッと顔を上げる。
そこには、あれから30年経ってもまるで変わらない、俺をじっと見つめる紺色の瞳があった。
穴が開きそうなほどにまっすぐで、一途な視線……。
あの時は、他人に初めて奉仕されて興奮してるんだな、なんて簡単に考えていたが、そうじゃなかったとしたら……?
「俺が……、俺がずっと、ひとりで暮らしてるのも、俺がシオンさん以外を好きになれないのも……」
憎しみすら感じさせる声色でケーゲルは言う。
だが、俺の口の中ではケーゲルのものがビクビクと跳ねて、今にも弾けそうになっている。
「俺がどうしても、シオンさんを忘れられないのも……っ、全部全部っ、シオンさんのせいですからっ!」
不意に、ぐい、と頭を引き寄せられて、ぐぽっとくぐもった音と共に喉の奥へとケーゲルのものが入り込む。
「っ……、んぅっ」
俺は咄嗟に誤嚥しないよう気道を閉じた。
その動きできゅっと喉奥がケーゲルのものを締め付けると、ケーゲルのそれは一層膨らんで、どくりと大きく脈打った。
次の瞬間、俺の粘膜へと直接ケーゲルの熱いものが叩き付けられる。
俺は息を止めたまま、必死でそれを嚥下した。
飲み切れないと、鼻やら他の方にまで溢れて悲惨な目に遭うからな……。
ったく、口ん中に出してくれりゃもうちょい余裕持って飲めんのによ。
……いや、もしかしたら、ケーゲルはまだこの歳にもなって、そんな経験も知識も持ってないのか……?
俺を……、俺だけを、一途に想い続けていたせいで……?
「シオンさん……好きです……」
震えるような声は、あまりにもか細くて、どうしようもなく悲しげに聞こえた。
ケーゲルは、俺のことをずっと好きでいたかったわけじゃない。
むしろ、忘れられるものなら忘れたかった。
きっと、その為の努力も沢山したんだろう。
それでも、俺を忘れることができなかったのか……。
俺は、俺の口内で果てて力なく出てゆく男のものを、追うように舌を這わせた。
わずかに残った残滓まで全て出し切れるように吸い上げてやると、ケーゲルはびくりと大きく肩を揺らした。
「っ、シオン、さん……」
こいつは哀れな男だ。
長い人生のほとんどを、俺の気まぐれに食い潰された。
しかも、最悪な事に、俺にはその気すらなかった……。
鼓膜の内側で、ケイト様にケーゲルの面倒をみるよう頼まれた日の、ケーゲルの言葉が蘇る。
『お願いしますシオンさんっ! 俺の……哀れな俺の、命を助けると思って……っ』
ああ、本当にそうだ……。
俺を手に入れることが叶わなければ、お前は本当に……哀れな男のままで一生を終えるしかないというのか……。
そんな状況にも関わらず。
俺より強い剣の腕と、腕力を持っていて。
俺を手に入れるだけの立場も力も揃っているのに、俺を強引に奪おうとしないのはどうしてなんだ……?
それこそ、俺を閉じ込めて、家から出さないようにするべきだろう。
万が一にでも俺がここを去って行方をくらましてしまったら、お前はどうなるんだ……。
それなのにケーゲルは、震える俺の手を取って、この家の鍵を開けさせてくれた。
いつでも外に出られると、出ていいと言った。
ケーゲルの手に包まれた時の温もりが、じわりと俺の手の甲に蘇る。
「……ケーゲル……」
俺の唇は、無意識に目の前の男の名を呼んでいた。
ケーゲルはいそいそと服を着直していた。
ああ、俺がさっき、抜いてやるから大人しく飯を食って寝ろと言ったからか。
こんな、なんの力も持たない俺の言葉に、あの頃と同じように従順に従おうとするケーゲルの姿は、俺の目により一層哀れに映った。
「シオンさん、あ、あの、えっと、すごく……良かったです。ありがとうございま……っ、!? なっ、なっっ、なんで泣いてるんスか!?」
言われて初めて、自分が涙を零していることを知った。
だが、お前があまりに不憫で泣けただなんて、お前に言えるはずもない。
「ど、どうし……、あっ、飲むの嫌でした? 苦しかったですか? 俺、ついシオンさんを引き寄せちまって……っ」
ケーゲルがポケットから出したハンカチで、おろおろと俺の涙を拭う。
「すみません、シオンさんっ、あの、あっ、俺飲み物持ってきますっ」
部屋を出ようとしたケーゲルの手を、思わず掴む。
「……俺なんかに、お前が謝ることはひとつもない。謝罪すべきは俺の方だ……」
ケーゲルは、ハッと息を呑んでから、俺の手を引き上げてベッドに座らせる。
「抱きしめても、いいですか?」
これまで散々勝手にむぎゅむぎゅと俺を抱き締めてきた男が、今更聞くのか。
そう思いながらも頷いて返せば、ケーゲルは俺の後ろに座って俺の背を大きな胸で包むようにして寄り添った。
「さっきは俺、なんかちょっと口走った気がするんですが、忘れてください」
おい、なかったことにするな。
俺はハッキリ聞いたぞ。
「シオンさんのせいじゃないです、俺の問題です。シオンさんのせいにしようなんて、思ってませ……」
あまりにも不憫なケーゲルにそれ以上言葉を続けさせたくなくて、俺は体を捻るとケーゲルの頭を引き寄せて、強引に唇を塞いだ。
「っ!?」
これは俺の姿勢に無理があるな。
一度唇を離して向き直ろうかと思った俺の体を、ケーゲルの太い腕が抱え込む。
次の瞬間、グルンと視界が回って、俺の背はベッドに着地していた。
器用な芸当をするな。
「シ、シオンさん……、俺に、キス……っ」
俺に覆い被さるようにして俺を覗き込むケーゲルの顔は真っ赤で、怒っているようにも見えた。
「ああ、お前のを咥えた後の口じゃ嫌だっ……」
「嫌じゃないです! 嬉しいです!」
「……そ、そうか、それなら良かっ……」
「初めてのキスは、シオンさんとしたいって、思ってたから、すげぇ嬉しいです……」
……。
………………。
……待て待て待て、初めてのって、なんだ?
お前、45年も生きてて、騎士辞めるまでその顔で各地を回ってて、キスの1つもしたことないとか、ありえないだろう……?
変な酒場じゃ名前も素性も知らない通りすがりの奴が、いきなり舌突っ込んでくるようなキスをかましてくることもあるんだぞ?
いやこれは、俺の過ごしてきた場所が特殊なだけなのか……??
「今度は俺から、してもいいですか……?」
俺を見つめるケーゲルの紺色の瞳には、欲だけじゃなく俺を愛しく思う気持ちが滲んでいた。
ああ、こいつに応えてやりたい。
馬鹿みたいに俺を30年も待ち続けたこの男に。
俺みたいなのに初めての恋をしたせいで、一生を狂わされたこの男に。
俺の残りの人生を、全て与えてやりたい。
「ああ、いくらでも、していい……」
せめてもの気持ちで、優しく目を細めて囁く。
すると、ケーゲルは紺色の瞳をキラキラと輝かせた。
嬉しくてたまらないって顔が、俺にゆっくり近づいてくる。
「シオンさん、好きです……」
祈るような言葉とともに、俺の唇にケーゲルの唇が重なる。
だけど、俺はまだ、知らなかったんだ。
欲を吐き出すだけの行為と、愛を込めた行為ってのが、どれほど違うのかを。
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