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2つの目的
「……どうしてそれでケイトが喜ぶのだ? 君はスマートな男より不器用な男が好みか?」
リヴァルド陛下の言葉に、俺は思わずムッとしてしまう。
確かに、ディアリンドがあんまり器用じゃないのは事実だけど……っ。
「……ディアリンドも、スマートなところはスマートですよ」
「ふむ?」
俺の言葉に、リヴァルド陛下が不可解な様子で片眉を上げた。
リヴァルド陛下はそのまましばらく顎に人差し指の側面を当てたまま何かを考え込むように黙って歩いている。
シンと静まり返った空気に、いつもおしゃべりな4班の騎士達ですらも黙ったまま歩いていることに気づいた。
ああそうか、まだこの人達が敵か味方かもわからないから、騎士達も無駄口を叩けないんだ。
俺の情報を漏らしてしまうかもしれないから……。
そんな中で、リンが口を開いた。
「私であれば、出来ても出来なくとも、ケイト様はお喜びくださる」
えっ、いきなりの惚気!?
それはまあ、その通りなんだけど……。
チラと覗いてみたリヴァルド陛下は、なぜか驚いたように目を丸くしていた。
……もしかして、考えてなかったとか……?
リヴァルド陛下みたいに普段人の気持ちを沢山計算して動いてる人には、好きだから好き、みたいな状況は理解しにくいのかなぁ?
ん? でもこの人、奥さんとお子さんいるよね?
お子さんなんて、もう無条件で可愛いもんじゃないのかな? 違うのかな?
……違うんだとしたら、それはちょっと悲しい事なのかもしれない。
この人にとっても、お子さんにとっても。
「大叔父様のご助言に感謝します」
ポツリとリヴァルド陛下が呟いた。
え、今のリンの発言って助言だった?
それから、リヴァルド陛下は腕を組むと、子どもみたいに口を尖らせて言った。
「……まったく、妬けるな」
拗ねたようなその声は、まるで本当みたいに聞こえるのでやめてください。
リヴァルド陛下って俺よりずっと演技が上手いんじゃないだろうか……?
俺は現地に着くまでにと、リンの腕の中で膝立ちをするようにして騎士達の顔を見回して言う。
どうせ向こうに着いたらバレることは、隠したって仕方ないしな。
「皆、聞いてくれる?」
俺の言葉に注目が集まる。
うん、私兵さん達も聞いてくれちゃうか、まあいいけど。
「向こうで父さん達が地中に埋まってた結界柱らしきものを見つけたらしいんだ。そこには人が入ってるらしい。今回俺達はその人を結界柱から出す事が1つ目の目的だよ」
小さくどよめいたのは私兵達だけではなかった。
「それと、裏の結界柱にはまだ入れてないから、中の人の状態も確認しておきたいんだ。これが2つ目の目的だね。手順はいつも通りに行う予定だから、魔法陣を立てるための杭になりそうな木の準備からお願いしたい。父さんのところにある資材でなんとかなりそうなら、伐採からやる必要はないと思う」
こちらは騎士達から「はい」とか「わかりました」と頼もしい返事が返ってきた。
「3班は俺の警護を、4班は結界柱への対応を、現地に到着次第行ってほしい」
俺の言葉に騎士達が声を揃えて「「「はい!」」」と答える。
うん、良いお返事で頼もしいな。
「ありがとう、よろしくね」
俺はにっこり微笑んで、リンの腕の中に引っ込む。
すると、視線を感じた。
ブラウが、自分は何をしたらいいんだろうという顔で俺を見つめている。
「ブラウには、何かわかったことがあれば俺にその都度知らせてほしい」
「はい」
答えると、ブラウはスッと近くの木々の影へと消えた。
そっか。
先に行って様子を探ってきてくれるのか。
もう、これだけの指示でもすぐに動き出せるんだな。
ブラウの成長にそっと感動している俺に、リヴァルド陛下が話しかける。
「今の男にはあれだけの指示で良いのか?」
「はい」
リヴァルド陛下はブラウの事も知ってるのかな。
……知ってるんだろうな。
「ふむ……、あそこの施設の者は私も何人か使っているが、細かい指示を出す必要があるだろう?」
「ブラウは今、自分で考えて動く練習中です」
「練習中……」
俺の言葉を繰り返したリヴァルド陛下が、クククと肩を揺らして笑い出す。
「そうか……、アレもまた聖女様によって生まれ変わった1人か……。ああ、面白い……、実に面白いな」
生まれ変わったっていうのは、流石に言い過ぎでは……?
何が面白いのかよく分からないけど、彼が機嫌の良さそうなうちに話してしまうか。
俺は気合いを入れ直すと、リヴァルド陛下を真っ直ぐ見て言った。
「ルド様は、ロウフォード領の人々の視力悪かった理由はご存知ですか?」
「理由……? ダリスから、村の民はケイトが1人残らず癒したと聞いたが、領民の不調に明確な理由があったのか?」
ダリスは話していなかったのか。
けど、俺はこれからこの人を相手に、結界柱をどうしていくかという話をしないといけないからな。
「ロウフォード領の結界柱には、私の世界で生まれた17歳の女の子が、攫われて無理矢理詰め込まれていました」
「ふむ」
彼の表情からは、驚きも悲しみも読み取れない。
ただ、続きを話せと言われている事だけは分かる。
「その子は両目を酷く裂かれた状態で、結界柱に閉じ込められていたのです」
「ほう……、そういった影響が領民の体調に現れることがあるのか、よく覚えておこう。あれは確か550年ほど前に立てた柱だったか?」
リヴァルド陛下の言葉に、いつも陛下のそばにいる補佐官さんがさっと正確な建立日を答える。
俺はリヴァルド陛下のあまりに他人事みたいな反応に、一瞬呆気に取られた。
でも、そうか。
……そうなんだよな。
リヴァルド陛下が立てた結界柱なんて、まだ一本だってない。
それどころか一番新しい結界柱で300年前だったわけだよな。
リヴァルド陛下のお父さんである前王だって、結界柱は立ててないんじゃないか。
この人や前の王に謝れとか責任を取れというのは御門違いなのだろう。
だけど、そしたら俺は誰に怒りをぶつければいいんだろう。
「閉じ込められたままで、その子の目を治癒することはできるのか?」
「彼女の目は私が治しました。ですので、今後ロウフォード領の領民にそのような症状は出ないと思われます」
「そうか。ならばよかった」
ふ、と僅かな安堵を浮かべてリヴァルド陛下が微笑む。
それから、俺を見て「お手を賜っても?」と柔らかく尋ねた。
う……。
「できれば、遠慮したい、です……」
俺の正直な言葉に、リヴァルド陛下は「それは非常に残念だ」と言ってクツクツと喉の奥で笑う。
だが、笑いを収めると、陛下は酷く真面目な顔で俺に向き直った。
「我が国民を救い、その未来をも照らしてくれた事、国を代表して礼を言う」
なるほど。
この人は、自分のしていないことまで謝るような人ではないけど、自分の国のために心を込めて礼を言うことはできる人なんだな。
真摯に頭を下げたリヴァルド陛下を見つめていると、スッと顔を上げた陛下とバッチリ目が合う。
「時にケイト、私にも騎士達にするように話してくれたらいい。私は君が男性だという事も把握している。無理に女性らしい振る舞いをする必要はない」
うえええ……。
そんな風に言われたら、今まで女性らしく行動してた俺がまるで恥ずかしい人みたいじゃないか。
知ってるなら知ってるって、最初から言ってほしかった……。
「……わかりました……」
「プライベートでは敬語も不要だ、なぁ、ケイト……?」
うっ、そんなイイ顔でそんな風に甘く囁くのはやめてくださいっ。
途端、リンが一歩リヴァルド陛下から距離を取る。
けれどリヴァルド陛下はまるで気にせずに、俺をじっと見つめたまま、手を伸ばして熱く訴える。
「私はケイトともっと親しくなりたい。貴方の心を、もっとたくさん、私に見せてほしい……」
ううっ、情熱的……っ。
俺が返事に困っていると、ほんの少し苛立ちを滲ませたリンが「まもなく到着です」と言ってくれる。
そこへ、俺達を待っていたのか、森の入り口にいた蒼がこちらに気づいた。
「あっ、兄ちゃんっ」
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