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答え合わせはそれからか

 駆け寄ってきた蒼が、リヴァルド陛下の姿にぴたりと足を止める。 「誰だそいつ」  小さく呟いた蒼が、ハッとした顔をした。 「まさか、そいつが……?」  俺はリンにそっと下ろされる。  蒼はいつもの弟の姿だったけど、よく見たら目と髪だけは紫色っぽくなってるな。  これもシルヴィンの幻術なのか。 「……つーか、兄ちゃんなんでそんな背ぇ高いんだよ」 「俺、最近また成長したんだよ。今は身長165センチくらいあるよ」 「マジかよ。男の俺より5センチ高ぇとかどういうことだよ」 「今回フロウリアに入った時点で、前に聖女をした時より5センチくらい伸びてて160センチくらいだったからなぁ……」 「兄ちゃんの心、成長しすぎだろ……」  蒼は、俺の姿をわずかに悲しみを宿した瞳で見た。  え、いや、俺は別に、そんな辛い思いをしたわけじゃないよ?  …………うん、多分。 「っ、じゃねーや、兄ちゃん、こっち来てくれ」  そう言って蒼が俺の手を引く。 「ディアもお疲れさん、兄ちゃんの事ありがとうな」 「はい。アオイ様もご無事で何よりです」 「ああ。ディアはやっぱ、その青い髪がいいな」  蒼が僅かに目を細めて言うと、リンが「ありがとうございます」と答えた。  俺はなんとなく親しげに話す2人から目を逸らしてしまう。  すると、俺の後ろから来る騎士達の何人かが怪訝な顔をしていた。 「皆、歩きながらで悪いけど紹介するね、俺の弟で元聖女の蒼。口と態度は悪いんだけど、良い子だから仲良くしてあげてね」  俺の紹介に、蒼が「そーゆー紹介の仕方はやめろ」と文句を言う。 「あ、あの、アオイ様……って、まさか、あの、式典の動員数で伝説の……?」  ドルーグの震える声に、クロイスとアンナが「「そうですよっ」」と声を揃える。  クロイスとアンナの2人は親から俺と蒼が兄弟だという話を聞いていたようで、俺が蒼と電話でやり取りするようになってからは、いつ本人に会えるのかと楽しみにしていたようだ。  ……というか俺も00年に死者なしの聖女で『伝説の』って言われてたけど、蒼も別の意味で『伝説』になってるんだね……。  そもそも、40年~50年前の出来事を伝説にしちゃうのは、ちょっと早過ぎるんじゃないかな?  んー……、そうでもないか。  スポーツ業界でも音楽業界でも新記録が出る度に伝説的記録がとか言われてるか。  俺は小さく傾げた首を戻して、視線を前に向ける。  すると、セリクの姿が目に入った。 「あっ、ケイ様っ、ご無沙汰しております。お変わりありませんか?」  セリクが嬉しそうに俺に駆け寄ってくる。  セリクはさらにもう少し背が伸びただろうか?  俺が聖女姿になってるのでわかりにくいけど、以前よりもリンの背に近づいている気がする。 「俺は元気だよ、セリクは無理してない? 父さんが迷惑かけてないかな?」 「ふふ、僕は大丈夫です、アオイが助けてくれるので……」  そう言ってポッと頬を染める様は相変わらずで、二人が変わらず仲睦まじい事を嬉しく思う。 「ケイ様、こちらが地中に埋まっていた柱です」  言われてそっちを見ると、土の中から掘りだしたと思われる4本の柱が並べられていた。  地に転がる柱は、普段地中に埋まっている底の部分までもが見えるようになっていて、いつもなら近くまで行ってよく覗き込まなくては見えない中の人の姿が、紫がかったピンク色の向こうに透けて目に入った。  そこに見覚えのある姿を見つけて、俺は走り出した。 「……まさか……ロイス!? それに、モンドベル司祭も!?」 「ああ……、そうなんだよ……」  蒼の声は酷く苦しげだった。  蒼の様子がおかしかったのは地中から知った顔が出て来たからか……。  いや……でも……、ロイスは遺体が回収されたって……。  けど、戻ったのは翌々年って言ってたよな。  それは……、ああ……甲冑と、骨程度だったのか。  この世界じゃDNA鑑定なんてしないもんな……。  後の2人は見覚えがないけど、片方は魔法研究所の人がよく着てる感じのローブを纏った、頭の良さそうな雰囲気の中年男性だ。  もう片方は、まだ若そうな青年だけど、筋肉がしっかりついてるので騎士さんかな……?  紫がかったピンク色が邪魔して髪色はよく分からないけど、髪は後ろで少しだけ結ばれている。  ……うん……?  これって、エストさんじゃ……? 「しかもロイスすげー怪我してんだよ、苦しそうな顔でさ……」  ロイスの入った結界柱へと近づくと、確かに蒼の言った通りの姿でロイスは動きを止めていた。  モンドベル司祭と中年男性は見た感じ怪我はなさそうだけど、もう一人の青年は、こちらも大きく背中を裂かれている。 「蒼、大丈夫だよ、結界柱の外から治癒して、それから出せばいいから」  ゆっくりと蒼の背を撫でて言うと「ああ……」と、小さく答える。  うん? まだ何かあるのかな? 「じゃあ僕、治癒をかけたらいい?」  尋ねたセリクが手を伸ばすのを、俺は慌てて止める。 「待って! セキュリティは外してあるの!?」  俺の言葉にセリクが手を引っ込める。  答えたのは蒼だった。 「攻撃だけじゃなく、治癒も弾かれんのか?」 「セリクの治癒だと麻酔から入るから危ないよ。怪我の箇所をリストアップするのに鑑定も併用するでしょ? それに、外に立ってる結界は、たとえ治癒魔法でも一定以上続けてかけてると弾かれたから」 「兄ちゃん、あれ食らったのか……」 「何度かね。今は別の方法で治癒をかけるようになったから大丈夫だよ」 「はぁ……相変わらず危ねー事してんな……」  額を押さえてため息を吐いた蒼の横で、セリクが困った顔で言う。 「セキュリティは、ミノル様が解いてくださる予定なんですが……」  そこへ、タイミングよく父がやってくる。 「ああ、圭斗か、しばらく見ないうちに大きくなったのか? 面白いな。いや、よく来てくれた」  一言余計だよ、父さん。  久々に会った息子を面白がるのはやめてほしい。 「おや、後ろの方は……」  リヴァルド陛下は、父の視線を受けると、父へと手を差し出してきた。 「貴方がミノル博士か。フロウリアへの技術協力、心から礼を言う」 「おやおや現地査察ですか? 精が出ますね。宰相様が仕事に忙殺されそうだとおっしゃっていましたよ?」  父はそう言って笑いながら手を握り返した。  名前は聞かないんだな……、なんか、大人ってすごい……。 「兄ちゃん、この柱にかかってるセキュリティは……さ……」  途切れた蒼の言葉を、セリクが引き継ぐ。 「解除に失敗した場合、柱が砕け散るようにできているんです」 「……それって、中の人ごと……?」  俺の言葉に父さんが答える。 「そうなんだよ、全く面倒な事をするね」  面倒な事……?  確かに、口を封じたいだけなら殺してから埋める方が良いはずなのに。  犯人はどうしてわざわざこんなことをしたんだろう。 「それだけ重要な何かを持つ人物なんだろう」  父の言葉に蒼が言う。 「モンドベル司祭の『何か』なら大体分かるぜ」 「俺は、ロイスとこっちの人の『何か』なら、何となくわかるかな……」  俺が言うと、父さんが首を傾げて言った。 「ふむ? ではこの人の『何か』は私が分かるべきなのかい?」  そういうわけじゃないけど……。 「まあ大方、国が秘匿したい情報を持っていて、けれど意志が強く弱点も少なく、なおかつ魔法技術の高い、何かこの人だけにしか使えない術を持った人物なのだろうね」  ……言われてみれば、なんだか、それで合ってると思う。  父さんは相変わらずすごいな……。 「これだけたくさんのヒントがあれば、このくらいは朝飯前だよ。考古学ではもっとずっとヒントの少ない中を手探りするような問題ばかりだからね」  そう言われるとそうなのかな。 「私には、こちらの彼の方が分からないね。まだ若く、身につけたものから家柄の良さを感じる事もできないし、かといってディアリンド君ほどの身体能力もなさそうだ」  確かに、俺はこの人が『国の結界を支える結界柱に入っている聖女』の想い人じゃないかと思ってるから納得してるんであって、父さんから見たら不思議かもしれない。 「無事に救い出せたら、話を聞いてみよう」  俺が言うと、父さんは「ふむ。答え合わせはそれからか」と頷いた。

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