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それは私が決めよう
柱のセキュリティ自体は違うシステムだったけど、セキュリティの解除と共に時間が動き出す可能性を考慮して、セキュリティを解除する前に中の人を回復することになった。
念のため、俺が巡礼で使っていた、定型魔法と組み合わせた時限式の治癒魔術陣で治癒をかける。
今回も、柱の脇に立てた木は派手な音と共に盛大に粉々になったけど、父さんとセリクが「おおーっ」と拍手をしてくれるので、なんだか妙なパフォーマンスみたいになってしまった。
俺の持っていた治癒魔術陣3枚では、ロイスもエストさん(仮)の分も治癒量が足りそうになかったので、今は父さんとセリクとシルヴィンがテントで時限式の治癒魔術陣を増産してくれている。
俺は今のうちに奥の結界柱に入ってみようかな、とテントを出たところで、ロイスの入った柱を見つめているクロイスとアンナに、付き添うヒアッカの姿があった。
「心配だよね……ごめんね」
俺が声をかけると、アンナが慌てて首を振った。
「いえいえっ、ただ不思議だなぁと思っていただけですっ」
「この方が私達のおじいさんなんですね。私達が生まれる前には亡くなっていた……と、聞いていたので……」
クロイスが慌てて言葉を足している。
そうだよな。
死んだとばっかり思っていた人がいきなり現れたら驚くよな。
……俺も正直、まだ驚いてる。
でも、ここから無事に出せるかどうかは……まだわからないんだよな……。
もし万が一セキュリティの解除に失敗して、目の前でロイスが粉々に砕けてしまったら……。
俺の治癒で、助けられるんだろうか。
「ああ圭斗、まだここにいたのか。ちょうど良かった。セキュリティの解除はどの人から挑戦するのが良いか、希望はあるかい?」
父さんに声をかけられて「ぇ」と言葉に詰まる。
「最初に挑戦する人が1番成功率は低くなるだろうが、何、2番でも3番でもしくじるときはしくじるだろうしな、あまり気負わず答えてくれたまえ」
「ぇえ……」
そんな風に言われてしまったら、俺はつい、縁のない魔法技師っぽい人を選んでしまいそうだよ……。
「蒼には聞いてみたの?」
「聞いてみたんだが『オレに聞くな!』と怒鳴られてしまったよ」
そうだろうなぁ……。
俺だって、正直選びたくないよ……。
でも、セキュリティの解除は父さんがやるって言ってるんだから、せめて俺も責任くらいは一緒に負う覚悟をするべきだよなぁ……。
そこへ、さらりと青く長い髪を揺らして現れたのはリヴァルド陛下だった。
「では、それは私が決めよう」
その言葉に、思わずホッとしてしまう。
そんな俺に気づいたのか、リヴァルド陛下は俺を見つめてニヤリと笑った。
「年老いた順に挑戦するがいい。残りの人生が長いものほど、我が国にはありがたい」
迷いのないリヴァルド陛下の言葉に、父が「ではそうさせてもらおう」と答えてテントに戻る。
そうしたら、ロイスは三番目だな……。
「安堵したか?」
尋ねられて、リヴァルド陛下を見上げる。
すぐ近くから、赤い瞳がまっすぐ俺を見下ろしていた。
「……はい。すみません……」
俺は、なんだかすごく情けない気分になって、俯いた。
この人だって、王様とはいえ、まだ20代の青年だ。
そんな人に、俺達の取るべき命の責任を押し付けてしまった……。
「ケイトが落ち込む事ではない。彼らは我が国の民だろう? 私は私のするべき事をしたまでだ」
そんなリヴァルド陛下の言葉に、情けないけれど、俺はどうしようもなく救われてしまう。
「できるならば、ケイトには、感謝をしてほしかったんだがな……」
寂し気な声色に、俺は慌てて顔を上げる。
赤い瞳は、思ったよりも至近距離にあった。
「っ」
瞬間、俺の腹にリンの腕が回って、一歩分後ろに引き寄せられる。
「あ、ありがとう、ございます……」
ドキドキいう心臓を必死で押さえながら、俺は何とかお礼の言葉を絞り出した。
いきなり至近距離にあんなイイ顔があったらドキッとするよ……。
あんまり驚かせないでほしい。
「なぁケイト、手はダメでも、髪なら良いだろう……?」
「え……、ぇ……?」
「良いな……?」
えっ、何が!?
混乱している間に、長い俺のピンク色の髪がほんのひと房、するりとリヴァルド陛下の手に包まれる。
リンが、俺を抱えたまま後ろに跳ぶ。
リヴァルド陛下はニヤリと笑んだままの唇に、俺の髪の端を押し当てた。
「っ!?」
次の瞬間には、俺の髪はリヴァルド陛下の手から零れ落ちていた。
ああそうか、背が伸びた分、これまでより髪も伸びていたのか……。
俺の背後でドッと殺意のような物が溢れる。
それと同時にテントの方からも刺すような殺気がリヴァルド陛下に飛び掛かった。
「兄ちゃんに何してんだッ!」
瞬時に、リヴァルド陛下と蒼の間に陛下の護衛が飛び込む。
護衛の剣に添えられた手には、力がこめられている。
「蒼、大丈夫だよ。ちょっとした挨拶だから……」
「……兄ちゃん……」
蒼から殺気が消えると、護衛が剣の柄を掴む手が緩む。
だけど、蒼にそう伝えた俺の声は、自分でもはっきりわかるほどに、しょんぼりしていた。
はぁ……。
またしても、やられてしまった……。
がっくりと肩を落とす俺に、リヴァルド陛下の小さな笑い声が届く。
「まさか、髪でもそこまでしょんぼりされるとはな。私を嫌う様子はないというのに、実に不可解だ。いや、残念を通り越して、なんだか面白くなってきた」
俺の反応を面白がるのはやめてください……。
俺を背後からギュッと抱き締めていたリンが、耳元で「申し訳ありません……」と苦しげに謝る。
そっか、リンとしてはギリギリまで待ったけど、それでも防げるつもりだったんだな。
大丈夫だよ。俺は痛くも痒くもないから。
俺こそ、リンに辛い思いをさせちゃってごめんね……。
ギリギリまで耐えてくれてありがとう。
苦しかったよね……?
「リン、ありがとう……。ごめんね」
俺の言葉に、リンは自分を責めているような瞳のままで小さく首を振った。
「それも不可解だな。なぜ主を守り切れなかった護衛に礼と謝罪をする必要がある?」
首を傾げるリヴァルド陛下に、蒼が噛みつく。
「そんなん兄ちゃんとディアが想い合ってるからに決まってんだろーが、見てわかんねーのかよっ。オレの兄ちゃんに横からくだらねーちょっかいかけんじゃねーよっ!」
ずかずかとリヴァルド陛下に近付く蒼に、またもや陛下の護衛が剣の柄を強く握る。
俺は慌てて蒼を止めた。
「こら、蒼! 流石に不敬だよ、この国の王様だよ!?」
「はぁ? んなこと知るかよ。オレはこの国の人間じゃねーし」
いやまあ、それはそうなんだけどさ……。
でもほら、今はここでご厄介になってるんだし……。
「こんくらいで会話できねーよーな奴なら、もう放っといて帰ればいいだろ!?」
「ふむ、確かに口と態度が悪いようだ」
「んだよ、文句があんならハッキリ言えよ」
蒼がギロリとリヴァルド陛下を睨みつける。
護衛が一歩蒼に詰めようとしたところを、リヴァルド陛下が手で制する。
リヴァルド陛下は余裕を浮かべた表情のままで言った。
「だが『良い子』なのだろう?」
言われて、蒼は一瞬ぽかんとした顔をしてから、恥ずかしそうに顔を顰める。
「……っ、だからっ、あーゆー紹介はやめろっつっただろ……っ!?」
「えっと……ごめん……」
俺は謝るしかなかった。
本当にごめん、蒼……。
蒼は「くそっ」と毒づいてから、リヴァルド陛下を睨むように見据えて言う。
「……お前、元聖女を6人連れてきたんだってな?」
「私の事はルドと呼んでくれて構わない」
「ふぅん。ルド、な。元聖女からの聞き取りはオレがやる」
蒼の言葉に、リヴァルド陛下が俺を見る。
構わないのか? と尋ねるような眼差しだ。
「蒼に任せちゃっていいの? いつも蒼ばっかり、無理してない?」
「こーゆーのは適材適所だろ。兄ちゃんは教会でやること山積みなんじゃねーの?」
う……っ。
確かに、また聖球ノルマもたっぷりもらっちゃってるし、新しい聖女用のマニュアルも作りたいしなぁ……。
それに、蒼は尋問だとか、そういうのがやたらと上手い。
蒼に任せれば間違いはないだろうけど……。
「ごめんね、頼ってばっかりで。……お願いしてもいいかな」
「おう、任せとけ。兄ちゃんこそ、たまには休めよ?」
「うん、ありがとう」
「っつーわけだ。ルド、元聖女の身柄はオレんとこに回してくれ」
えっ、蒼はリヴァルド陛下に『様』すらつけない気なのか……。
俺の弟、度胸あり過ぎない……?
見てるこっちがヒヤヒヤしちゃうんだけど?
「分かった、こちらの拠点に彼女達を連れてこよう。6人一度でも構わないか?」
「全員歩けんのか」
「ああ、元聖女達は心も体も不自由なく暮らしていた」
リヴァルド陛下の言葉に、蒼の瞳が鋭く尖る。
「どーだかな」
蒼が小さく指を動かした。
その瞬間、リヴァルド陛下の後ろにいつもいる補佐官と、前にいた護衛が動いた。
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